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「ほら、デジタルのやつじゃなくて、アナログの、つまみを回して周波数を合わせるやつ。そこにも置いてますけど」 「ああ……」 俺は帳場の隅に鎮座している古いラジオを見た。店番のときも滅多に使わないから、その存在をすっかり忘れていた。──いや、 「上手く合うと音がクリアに聞こえるけど、合わないと雑音だらけだし、音が大きくなったり小さくなったりするでしょう」 あるいは、遠くなったり、近くなったり、と真久部さんはつけ加える。 「アリス症候群の正体は、これだと僕は思うんです。産まれ出たこの世界で生きていくために、幼子は無意識に周波数帯を探っていて、その過程で認知が揺らぐ。目の前のものが唐突に大きくなったり、小さくなったり、音が逃げたかと思えば追いかけてくる。──時折、違う世界と周波数が合って、そちらの認識でこの世界を測ってしまい、大人にとっては大したものではないものが、とても怖いものに見えてしまう。あるいは全く別のものに」 「小さい子供って、素で不思議な世界に住んでるんですね……」 幼子・イン・ワンダーランド。枯れ尾花が、きっと幽霊よりもっと奇妙なものに見える世界。 「そんな頃に体験した、大人でも怖いような出来事が、幼かった水無瀬さんにはどんなふうに感じられたかと考えてみると、トラウマにもなって当然というか……」 怖かっただろうな。そりゃその大元の蔵になんか、近づきたくもないだろう──。独り納得していると、真久部さんが何ともいえない表情で唇の端を微妙に上げる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年06月16日 12時20分36秒
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