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「……」
ほ、誉められてるのかな? なんか顔が引き攣る、じゃなくて、照れるなぁ。あはは。でも、きっとそれだって気のせいだよ、真久部さん。そうに決まってる。怪しのものなんてさ、ただの想像の産物なんだ、足元の自分の影に怯えるみたいなもので──。 「想像力は、時に人を殺すほどの力を持つ」 「へ?」 微笑んだままの唇から、ひょいっとそんな言葉が飛び出してきて、俺は変な声を上げていた。頭の中で捏ねくり回している誰に対してかわからない言い訳に、思わぬところから返事が返ってきたみたいで、虚を衝かれたような気持ちになる。 「──好奇心は猫をも殺す、じゃなくて?」 注意しないとわからないレベルの、黒褐色と榛色不思議なオッドアイをまじまじと見つめると、真久部さんはちょっとだけ苦笑をしたようだった。 「そうと信じる気持ちが、ときにそういう力を持つ、と言い換えてもいいよ」 「信じる気持ち、ですか……」 「催眠術のショーで、見たことがないですか? ──あなたはだんだん眠くなる~」 急に真顔でそんなこと言うから、うっかり笑ってしまう。 「あれって本当に眠くなるそうですね、かかってしまうと」 「そう。身体がひとりでに揺れる、と言われれば勝手に揺れるし、芋虫みたいに転がる、と言われれば、本当に転がってしまう」 「そうそう!」 大学時代、一般教養の心理学、第一回めの講義。担当教授が最初の掴みとばかりに、最前列にいた学生を相手に、催眠術を披露してくれことを思い出した。ちょっとパリピな感じの学生が、教授の言うまま片足立ちをしたり、後ろ歩きしたり、その場に金縛りになったり、歌ったりしてた。 本人も、その場の全員大ウケで、みんな俄然心理学に興味を持ったけど、催眠術はその一回だけで、あとはどんなに学生が頼んでも、二度と見せてはもらえなかったっけ。だから、つまらないと顔を見せなくなった学生や、出て来ても寝てる学生がほとんどになってしまったけど、熱心に講義を聴く学生たちもいた。俺? 俺はまあ、ちゃんと聴いてたよ。単位を落とすわけにいかなかったし。 「暗示とは、想像力を刺激するもの……ある意味、増幅させるようなものです。身体が揺れたら? 転んだら? そう考えた時点で既に術中にはまっている。『これは灼けた鉄の棒だ、とても熱い。それを今からあなたの背中に押し付ける』と言われ、実際背中に当てられたのはただのスプーン。なのに、その部分の皮膚が火傷をしたように赤くなる、ということまである。暗示を掛けられた本人の想像力がそれをするんだよ、自分で自分を火傷させる」 「……」 暗示と想像力の関係は、ある意味、火と油のようなもの──。そんな言葉を聞きながら、俺はあのちょっと退屈だけど、興味深いと言えば興味深かった講義のことを考えていた。教授は、専門家だからこそそういう危険物の取り扱いについて慎重だったんじゃないだろうか。 もう内容はすっかり忘れてしまったけど、「心というものに、形は無い。その形の無いものが身体を支配している。その意味について考えてほしい」という、最後の講義の最後の言葉が頭を過った。 12に、つづく……。 台風19号の残して行った爪痕が酷すぎて、言葉もありません。すべての被災地の方々が、一刻も早く平穏な日々を取り戻されますよう、そして、今回不幸にも犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げます……。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年10月16日 07時28分20秒
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