Angel

2008/12/21(日)06:42

指先から溢れる旋律パート40

小説(259)

朝練が終わると、廊下がざわめいていた。なんだろうと顔を覗かせれば、いたのは、穂乃香だった。 彼女がいることに気付くと、許しているはずの心が彼女を拒否していた。 今更、なんて、話せば良いか?分からない。話すことを躊躇い、足が動かなかった。  「...錦?あのさ...」 滝さんに話し掛けられて、ハッとした。 「...雛菊。話があるんだけど...」 穂乃香の声は、不安な心。なんとか顔を上げると以前より痩せたような気がして、更に窶れたように感じられた。この変わりように驚いた。 「?!」 「...錦。」 逃げてはいけないと解っているのに、声を出すこと、足を動かすことすら出来ない。 「雛菊...。私、貴女に言わなければならいことがあるの?」 周囲は明らかに穂乃香をよく思っていない。ヒソヒソと陰険な態度。彼女を護れるのは私だけなのに、声が出ない。 「...悪いが、錦は体調不良だから、また別の機会にしてくれ。」 滝さんが、そう言い放ち、私の腕を掴み、そのまま、保健室へと連れて行かれた。 抵抗しようとしたが、頭が回らない。嫌悪感を感じて、体がダルかった。熱に浮かされているようにフワフワしていた。  ーIN保健室 「...熱、計れよ!」 丁度、保健の先生がいないので、勝手に体温計をどこかから取り出し、手渡された。 「...穂乃香。窶れて、痩せ細ってしまったのは、私のせい...」 涙がポロリと落ちると、体温計が鳴り、彼に渡した。 「...少し熱ぽっいな。頭を冷やそう。...錦。お前は優し過ぎる。裏切った奴を心配するなんて、バカが付くほどお人好しだな!」 「酷いです!」 「...ごめん、ごめん!そんな優しい奴だから、皆が惹かれるんだ。優しい歌が歌えるんだ。そんなところが好きだ...。」 「えっ?ええ?!!」 驚いた。 「...いや、深い意味はない!錦の魅力はその優しいところだ!だから、自分を責めるなよ!」 慌てて否定し、誤魔化す。 “ビックリした。滝さんに好きって言われているみたいで驚いたわ。私は、滝さんが好きかもしれない...。” 頭を冷やさないと言うことで、冷えピタを取りに行き、戻って来て、貼ろうとしていた。 「...ちょっと、じっとしてろよ!」 「うん...。//////」 「...雛菊!大丈夫?!」 勢い良く戸を開けた和紗はこの場面を勘違いした。 「...ごめん!邪魔したね!//////」 顔を赤らめ、逃走してしまったのだ。 「...あっ、和紗!!ちょっと...」 呼び止めたが、遅かった。 「絶対に勘違いしてるわ!ごめんなさい...。」 「謝るなよ!しかし、そそっかしい子だね!」 「和紗。絶対、江戸っ子の血が混じっているのよ!」 そう言うとツボだったらしく声を漏らさないように笑っていた。  ー一限目終了直後の休み時間 「和紗!!あのさ、さっきの勘違いしてるみたいだけど、滝さんは冷えピタを貼ろうとしただけよ!」 「まあ、それだけ!随分、親しくなったじゃない!」 和紗はからかうのだった。弁解を聞く気はないようだった。  昼休み、練習をする約束をしていたから、一緒に人のいない場所で食べていた。 「...ごめんなさい。弁解を聞いてくれなくて...」 「君が謝ることじゃないだろ。それより、次の大会は皆が完成度が高いと評価してくれるようなものにしよう。」 彼は話を変えた。穂乃香のことについて、何も触れない。それは興味がないからか、敢えて、振らないようにしているんだと思うが、今の私にはありがたかった。 お昼を食べた後、練習室で、稽古をした。 彼が奏でるピアノの旋律に乗せて、私が歌う。歌う度に世界が広がり、もっと工夫をすることを考えたり、想いを込めて、のびのびと歌う。  放課後、穂乃香にまた逢った。 「...話があるんだけど...」 「...分かった。」 この後、部活が急に休みなったので、自主練をしようと滝さんと話していたのだが、目で合図を送った。 「...待ってるから、後で、逢おう。」 彼は先に行き、私達は人気のない場所に移り、話すことにした。  「...ごめんなさい。解っていたのに、千種君と話す度に惹かれて、好きになってしまったの。」 彼の名を発せられるだけで、胸が痛くなった。 「...貴女が練習が増えて来た頃、彼は寂しいと言っていたわ。そして、想いが溢れ出してしまった。...悪いのは、私だから彼を怒らないで...」 彼女は自分が悪いんだと、責めながら謝罪した。

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