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テーマ:ラテンな車と困った英国車(3)
カテゴリ:車、鉄道、システム、オタクネタ
車検が切れと財政難もあり、愛車のプジョー309を廃車することにした。プジョーのトレードマークであるライオンのせいかどうか解らないが、ネコ足といわれる、しなやかな足回りの車である。山道も軽く飛ばすと、なぜか安定してくる感覚は、同じクラスの国産車には、まず望めない。だが、何軒もの買取店では、買取はせずに、有償で解体・廃車手続きをすると言われた。それではあまりにも、この車がかわいそうだと思い、埼玉県北部にある深谷市の古いシトロエン専門のお店キャロルに、何十キロの最後のドライブをしながら、持っていく事にした。
まず、本当に、引き取ってくれるかどうかを確認するために、電話を入れてみた。そうすると、車種を聞いただけで、無料で引き取ってくれると言ってくれた。ラッキー。 また、私の住んでいる所から、陸運局まで歩いていける所なので、手続きも自分でできるので、これは幸いだ。ちなみに、他のお店は、廃車手数料を払って、でしか受け付けてくれないというお店が多かった。 中仙道(国道17号線)をひた走り、深谷市内に入る。古い木造校舎の商業高校の前を通り、消防署の次の交差点を左に曲がり、住宅地を抜けてしばらくすると、シトロエンやプジョーや小さな欧州車が並んでいる店が見えた。ここが目的地だ。 店自体は、今年で11年目だそうだが、ここの店舗は、今年の夏にオープンしたばかりで、噂に聞いていた、古いシトロエンが山積みされ、そこはまるで「シトロエンの墓場」と揶揄されていた印象と全く違って、ちゃんとした自動車の展示場になっていた。 今回は見に行けなかったが、近くに2箇所ある工場は、おそらく、噂どおりの様相を呈していると思われる。 駐車場に入ると、2CV、DS、CX、BX、AXなどなど、古いシトロエンを中心に、プジョー、フィアット、サーブなど欧州車のオンパレードだ。 受付に行くと、少し乱雑に椅子や机が並べられた待合室に通された。 そこから、シトロエンだらけの駐車場を眺め、このプジョー309も、ここに並ぶのか、それとも、墓場に行って、他の車の修理の部品になるのかと思いながら待っていると。黒いジャンパーを着た、店長さんがやってきた。 私は、今朝電話した者で、以前からこの店の事を知っていたが、始めてこの店に来て、とても感動している旨を、店長に伝えた。 少し、軽く世間話をしてから、ナンバープレートを外し、鞄に入れた。そして、陸運局の手続きについて簡単な説明を受けた。これで、プジョー君ともお別れだ。 作業も一段落したので、再び、待合室に戻って軽くお茶をした。どうも、待合室が散らかっているのは、雑誌の取材で撮影をしたからだそうだ。その取材が実に面白い企画なのだ。 それは、出版社が、車を企画して販売しようというものなのだ。しかも、その車は、設計が古く、エンジンの構造上、クーラーの付かない車、オートマチックミッションが付かない車、パワーステアリングの付かない車に、新しいエンジンなどを入れる「リビルド」という手法により、車を蘇らせるのだ。それを、出版社が企画し、製作し、販売するという。 たとえば、シトロエン2CVとか、フィアット500など、エアコンやオートマチックが付くように設計されていない車に、スバルの軽自動車のエンジンを積み替える事で、エアコンもつくし、オートマにもなるというのだ。 いままで、スタイリングが好きなので欲しいと思っていた車なのに、オートマ専用免許しかなかったり、マニュアル車を運転したことがなかったり、夏場はエアコンなしでは辛いなど、阻害要因が多すぎて、手を出せなかった人に対し、オーナーになれるチャンスを与えようと言う企画である。 これは、二次的な効果もある。それは、環境にもやさしくなるという事だ。 まず、車を廃棄するのでなく、永く使おうという省資源性。一度潰して、再生させるというリサイクル方法もあるが、分別の問題や、リサイクルにかかる電力や燃料の事を考えると、潰してから再生する方法は、環境に対する負荷が大きいと考える事ができる。 次に、新しいエンジンを積むことにより、低公害に対応する事が可能となる。日本に輸入されたシトロエンHトラックは、全て設計の古いディーゼル車なので、既に東京都内で走れない。さらに、平成17年には、規制値をクリアしないと日本国内では走れなくなる。 そこで、ガソリンエンジンに積み替えたり、同じディーゼルエンジンでも、DPFなどをつけた低公害なものに積み替える事もできる。平成17年規制クリアというステッカーの貼ってある、シトロエンHトラックを見たらぶったまげるだろうなぁ。 さらに、運転ストレスを軽減することで、事故等を減らすなど、交通環境に貢献する。パワーステアリングにする事で、業務用として使うときに、オペレータの疲労を軽減する事が可能となる。加速や、ブレーキも強くできるので、日本の交通環境に適合できる。 リサイクル、大気汚染、交通・作業環境など、様々な環境への貢献ができるのだ。 だが、企画は面白いが、実際作ろうと思うと、かなりの技術力を必要とし、設計や製作を誰がやるのかという問題がある。 しかし、その問題も、クリアされているのだ。不況が続く中、自動車メーカーも、技術者の早期退職を奨めている。そこで、その人材を活用して、リビルドの設計、製作をするという。 さらに、追い風は、規制緩和である。その昔、本田技研工業が、2輪車から、4輪車に進出しようとするとき、政府から、強い反発を受け、後発メーカーが、4輪車の製造にこぎつけるのは、困難を極めたという。これは、今は昔の話になってしまった。 今、規制が緩和され、リビルドという形で、出版社が、自動車を製造、販売をする。メディア先行でのマーケティングや商品開発というビジネスモデルは、他の商品については、多少試みられているが、ついに自動車までたどり着いたか。という印象派隠せない。 古い車を、大切に乗り、先人たちの知恵を、そのままではないが、今の状況にあわせて、動く状態で体験できる。確かに少し特殊な世界かもしれないが、確実に顧客が存在し、小さいながらも、一カテゴリーとしてのマーケットが確立するのではと感じた。 古い車も、自動車会社を辞めた技術者も、知恵と技術で再生し、永く勤めることができる。これが、21世紀型のビジネスプランの一つのキーワードではないかと、私は思う。 私の愛車だったプジョー309も、この店になら、任せておけば、きっと誰かの役に立つだろう。 そんな想いで店を後にした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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