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Dog Photography and Essay

「蜻蛉(かげろう)日記」を研鑽-1


「今生(平成)天皇の直系の祖先にあたる」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



蜻蛉日記を書いた藤原道綱母は平安時代中期の歌人。藤原倫寧の娘。
藤原倫寧(ともやす)は今生(平成)明仁天皇の直系の祖先にあたる。

藤原兼家の妻の一人となり一子道綱を儲け蜻蛉日記に出てくる。
藤原兼家の旧妻である源兼忠女の娘を引き取り養女にしている。



蜻蛉日記では藤原兼家との結婚生活の様子などを詳細に綴った。
晩年は摂政になった夫に省みられる事も少なく寂しい生活を送った。

「かげろう」のような はかない身の上のことを書き綴った日記。
蜻蛉日記の女性の名は不明で藤原道綱母と呼ばれている。



19歳からの事が書かれ39歳の大晦日筆が途絶えている。
平安時代は一夫多妻で「通い婚」の時代で大正時代まで続く。

富裕層で男性は夕方女性の元を訪れ明け方早い内に帰宅していた。
豊臣秀吉の側室は15人で徳川家康は20人の側室が居たとされる。



女性は家で黙って通って来るのを只々待っている事しかできなかった。
藤原道綱母は小倉百人一首では右大将道綱母とされている。

「人知れず いまやいまやと 待つほどに かへりこぬこそ わびしかりけれ」
返事を今か今かと待っているのに返事が来ず私は寂しい思いをしてます。

平安女性の日記で女性の気持ちを推し量る事が難しいと思う。


「一人で寝て夜が明けるまで長く悲しいもの」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



私のように半生が虚しく過ぎて不安で生きて行くのが頼りなく辛い。
あれこれ身の振り方をはっきりしないでこの世に暮らしている女だ。

容貌といっても人並み優れている訳もなく思慮分別がある訳でもない。
こんな役に立たない女なのだから あの人が通って来ないのも当然なのか。



などと思いながらただ寝ては起きる虚しい日々を暮らしているだけだ。
世の中に沢山ある物語を見るとありふれた嘘の話でさえ面白がられる。

だったら人並でない私の身の上を日記にしたらもっと珍しい事だろう。
最上の身分の人との結婚生活はどんなふうなのか日記を書いてみよう。



後世の人はこの日記を前例にしたらいいと思うのだが記憶が薄れている。
結婚した頃の過ぎ去った記憶は薄れ不十分な記述が多くなってしまった。

「うたがわし ほかに渡せる ふみ見れば ここやとだえに ならむとすらむ」
他の女性への手紙を見てみると私の所に通う足は途絶えてしまうのかしら。



「なげきつつ ひとり寝る夜の あくるまは いかに久しき ものとかは知る」
嘆き続け一人で寝て夜が明けるまで如何に長く悲しいものか知ってますか。

「あらそへば 思ひにわぶる あまぐもに まづそる鷹ぞ 悲しかりける」
出家を巡り母子で言い争い私よりも先に我が子が大切な鷹を空へ放ち、
頭を剃って法師になる決意を示したのはいじらしくも悲しいことだ。


「藤原兼家様から求婚を伝えられた」

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愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



名門の藤原兼家さまとの恋歌のやりとりは呆気なく終わってしまった。
私の気持ちなどお構いなく兵衛佐、藤原兼家様から求婚を伝えられた。

一般の殿方ならばそれ相応の人を間に立てて取り次がせるのが普通である。
この方は直接私の父に使者を寄こして下品な門の叩き方をするので分かる。



どなただろうと聞くまでもないほど騒ぎようなので当惑してしまう。
当惑して手紙を受け取り手紙を見ると紙なども求婚に相応しい物ではない。

女性に出す優美な紙ではなく字までも見苦しくとても上手とは言えない。
噂を聞いているだけではせつなく直接お会いしてお話ししたいとあった。



何とも品のない手紙にも返事しないといけないのかしらと母に相談した。
昔かたぎの母はどのような殿方にも返事を書かないといけないと言われた。

貴方のお相手になる人は居ないので何度来られても無駄でしょうと書く。
これを初めとしてその後度々手紙を寄こすが返事はしないでいた。



何度も手紙が届き返事を書かないでいるとまた手紙が届いた。
よく分からない貴女は音無しの滝の水のよう返事もいただけず、
いつお逢いできるかも分からない逢瀬を捜し求めるばかりですとある。  

この手紙に後でお返事をと書くと返事を待ちきれないとまた文が届いた。


「貴女に逢えないので眠れないのです」

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愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



藤原兼家様は返事を待ちきれなかったのかこのように言ってきた。
密かに貴女からの返事を待っていても返事が来なく辛くてならないと。  

母は何と勿体ない事で早く返事を差し上げなさいと言う。
仕方なく返事の書ける侍女にそれなりに書かせて届けさせた。



兼家様は代筆の返事なのに心から喜んで頻繁に手紙を寄こすようになる。  
浜千鳥 あともなぎさに ふみ見ぬは われを越す波 うちや消つらむ

浜辺に浜千鳥の足跡がないように手紙がないのは、
わたしを越えるようなよい人がいらっしゃるからでしょうかと文が届く。  
今度も代筆の返事を書く侍女に文を書かせ届けたがまたも手紙が来る。



いづれとも わかぬ心は 添へたれど こたびはさきに 見ぬ人のがり
お返事を下さるのはありがたいのですが自筆の手紙でないのは残念です。  
代筆でも自筆でもどちらでも嬉しいけれどまだ筆跡を見た事のない人へ。

いつものように代筆ですませ形式的な応対で月日を過ごした。
秋の頃になり添え書きの手紙に貴女が利口なのが辛くても我慢してます。



鹿の音も 聞こえぬ里に 住みながら あやしくあはぬ 目をも見るかな
鹿の鳴き声に目を覚ます山里ではなく都に住んでいながら、
貴女に逢えないので不思議に眠れないのですと返事があった。

高砂の をのへわたりに 住まふとも しかさめぬべき 目とは聞かぬを
鹿で名高い高砂の山に住んでも目が覚めるとは聞いていませんがと書いた。


「私はその度に涙を流しているのに」

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逢坂の 関やなになり 近けれど 越えわびぬれば なげきてぞふる
逢坂の関とは何、近くにいて越えられないから嘆いて暮らしてます。

越えわぶる 逢坂よりも 音に聞く 勿来をかたき 関と知らなむ
越えるのに困っていらっしゃる大津の逢坂の関よりも噂に聞く、
福島の勿来(なこそ)の関を越えにくい守りの固い関と知ってください。



あの人が二晩姿を見せず手紙だけを寄こしたので返事を書いた。

消えかへり 露もまだ干ぬ 袖のうへに 今朝はしぐるる 空もわりなし
消え入るような思いで夜を泣いて明かして 袖の涙もまだ乾かない
というのに 今朝は空までしぐれて 辛くてならないと書いた。



その文に対して折り返し、文により返事が届いた。
思ひやる 心の空に なりぬれば 今朝はしぐると 見ゆるなるらむ

あなたを思っているわたしの気持ちが空に通じたから
今朝はわたしの涙でしぐれているように見えるのでしょうと書いてある。



その文に対して返事を書き出し書き終わらない内にあの人がやって来た。
来てくれたことは嬉しいが思っていた事を話せないまま帰って行く。

暫くの間あの方の訪れが途絶え寂しい思いでいる頃、
雨の音が聞こえてくる日の夕方には行くようにすると文が届いた。



記憶は曖昧だがその文に対して返事を書いたのだろう歌が残る。
柏木の 森の下草 くれごとに なほたのめとや もるを見る見る

貴方の庇護のもとにある私だから夕暮れには当てにして待っていろと、
訪れるという言葉もあてにならないで私はその度に涙を流しているのに。


「悲しく心細いことばかりを思ってしまう」

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愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



私の文への返事はあの方が来たので書いてはくれないままだった。
私が物忌なので待ち遠しいことを言い続けて帰って行き文を送った。

物忌を不浄と訳したが不浄とは生理の事ではないのだろうか?
物忌の風習は貴族の間で流行したが陰陽道の衰退に伴い衰えた。



なげきつつ かへす衣の 露けきに いとど空さへ しぐれ添ふらむ
逢えないのを嘆きながら せめて夢で逢いたいと 裏返しに着て寝た衣も
涙に濡れているのに どうして空までがしぐれて悲しみを添えるだろう。

思ひあらば 干なましものを いかでかは かへす衣の 誰も濡るらむ
わたしを思う火があれば濡れた衣も乾くでしょうに どうしてあなたの
裏返した衣が わたしの衣と同じように濡れているのでしょう。

 

間もなく頼りにしている父が、陸奥国へ出立することになった。
季節はしんみりとした寂しい時であの方とはまだ馴染んだと言えない。

逢うたびに私はただ涙ぐんでばかりいて本当に心細く悲しい。
あの方は決して忘れたりしないと心にもない事を言うから心細い。



返す歌は憎らしいほどだが、あの人の心は言葉通りにいくはずがない。
などと思い、ただひたすら悲しく心細いことばかりを思ってしまう。

父が東北へ出立する日になって旅立つ父も涙を抑えることができない。
陸奥国へ出立後に残る私はそれ以上に言いようもなく悲しくなってしまう。


「あの人の心は頼もしそうには見えない」

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私があまり泣くので父は陸奥国へ出立に予定が狂ってしまいますと。  
父は出て行く事ができず傍にあった硯箱に手紙を巻いて入れた。

父はまた泣きながら出て行ったがその手紙を見る気にもなれない。
姿が見えなくなるまで後ろ姿を見て気を取り直して手紙を見た。



君をのみ 頼むたびなる 心には ゆくすゑ遠く 思ほゆるかな
陸奥国ははるか遠く あなただけを頼りにして旅に出ます 
どうか行く末長く娘をお願いいたしますと書いてあった。

夫であるあの人に手紙を見てもらいたいのだと思うと悲しくなる。
手紙をもとの位置へ置き溜息をつくと暫くしてあの人がやって来た。



目も合わせず思い沈んでいると何をそんなに悲しんでいるのか。
このような親子の別れは世間ではよくある事なのに、
そんなに嘆いているのは私を信頼していないからだろうと言う。

夫は私を程良くとりなしてより硯箱の手紙を見つけて目を通していた。
こんなにも思われていたのかと言って父の思いを理解したのか。



われをのみ 頼むといへば ゆくすゑの 松の契りも 来てこそは見め
私だけが頼りだというお言葉 確かに承りました いつまでも変わらない、
わたしたち夫婦の仲を お帰りになったときごらんくださいと書き送る。  

こうして日が経つにつれて、旅先の父のことを思いやる私の気持ちは、
こんなに寂しいのに、あの人の心が頼もしそうには見えないから不思議。


「八月の末頃に無事に出産した」

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愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



「かげろう」のような はかない身の上のことを書き綴った日記。

十二月になり横川に用事があって登ったあの人から使いが来た。
横川は比叡山延暦寺北部を兼家の父が法華三昧院を寄進した地の事。

雪に閉じ込められ、しみじみとあなたを恋しく思うと言ってきた。



こほるらむ 横川の水に 降る雪も わがごと消えて ものは思はじ
横川の流れは凍りそこに降る雪も溶けることなく凍っているでしょう

雪に閉じ込められて寂しいとおっしゃるあなたも私のように、
消えてしまうほどの物思いはしていらっしゃらないでしょう。
などと言って、その年ははかなく暮れていった。



正月、二、三日あの人が来なかった時、よそへ出かけようと準備、
あの人が来たら、渡してと言って、文を書いておいた。

知られねば 身をうぐひすの ふりいでつつ なきてこそゆけ 野にも山にも
これからどうなるかわからないのが辛くて うぐいすのように声を、
ふりしぼって泣きながら 野にも山にも出ていきます。そして返事は。



うぐひすの あだにてゆかむ 山辺にも なく声聞かば たづぬばかりぞ
うぐいすのように気まぐれで山辺に出て行っても、
鳴く声を聞いたら その声を頼りに訪ねていくだけです。  

などと言っているうちに、私のお腹はどんどん大きくなくなって、
春、夏ずっと気分が悪く、八月の末頃に、どうにか無事に出産した。
その頃のあの人の心づかいは、心がこもっているようにも思えた。


「夜の明けるまで長く辛いもの」

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九月頃になって、あの人が朝出て行った後で、文箱の中を見てみた。
他の女に送ろうと書いた手紙が入れてあるので呆れてしまった。

私の住まいで他の女にわざわざ手紙を書かなくてもと思った。
私が見た証をあの人に知らせようと思いその手紙に歌を書きつける。



うたがはし ほかに渡せる ふみ見れば ここやとだえに ならむとすらむ

信じられないわ、よその女に送る手紙を見てみると
わたしの所にはもういらっしゃらいつもりなのでしょうか?
暫くして宮中でどうしてもしなければならないことがあるからと出て行く。



あの人の行動を疑わしく思い後をつけさせると宮中とは違う所で下りた。
報告にやっぱり宮中ではないと思うと辛く悲しい思いがこみ上げて来た。

あの人が三日ほどして夜明け前に門をたたく音がしたがやり切れない。
門を開けないでいると、あの人は文の相手の女の家に行ってしまった。



翌朝このままでは済ませないと手紙を書いて届けさせた。
なげきつつ ひとり寝る夜の あくるまは いかに久しき ものとかは知る

嘆きながら独り寝をして夜の明けるまでが どんなに長く辛いものか、
あなたには分からないでしょう 門を開けるまで待てないのですからと。


「今日手折ったところで何の甲斐もない」

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色変わりした菊に手紙をつけて届けたが、その返事の文が届いた。
夜が明け門が開くまで待てばよかったが急ぎの召使が来たからとあった。

げにやげに 冬の夜ならぬ 真木の戸も おそくあくるは わびしかりけり
ほんとうにおっしゃるとおり 冬の夜はなかなか明けないけれど 
冬の夜でもないのに真木の戸(戸の美称)を開けてもらえないのは辛いものだよ。  



それにしても本当に理解に苦しむほど、平然として女の所に通うとは、
せめて暫くは気づかれないように「宮中に」と言い訳するのが普通なのに、
そんなことも言わない無神経さが、ますます不愉快に思われてならない。

三月頃になり人形や桃の花を飾ったがあの人はいくら待っても来ない。
姉の所に通っている藤原為雅も、いつも来てるのに今日に限って見えない。



四日目の早朝になって二人とも現れたが待ちくたびれていた侍女たちは、
昨夜から用意した品々をわたしの所からも姉の所からも運んできた。

昨日飾ってあった桃の花や人形を奥のほうから持って来たのを見ると、
わたしは冷静ではいられなく、思い浮かぶままに無造作に書きしたためた。



待つほどの 昨日すぎにし 花の枝は 今日折ることぞ かひなかりける

せっかく用意して待っていたお酒は昨日わたしが飲んでしまったし、
昨日むなしく過ごした桃の花を今日手折ったところで何の甲斐もない。
と書いた歌を隠したのを見て、あの人は奪い取って、歌を返してきた。


「薄情な人の言葉と一緒にしないで下さい」

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みちとせを 見つべきみには 年ごとに すくにもあらぬ 花と知らせむ
三千年に一度実を結ぶという漢の武帝が西王母から頂いた不老長寿の桃。

桃の酒は年ごとに飲むけれど、わたしはあなたをそんなふうに年ごとに、
思っているわけではなく、いつも思っている事をどうか分かってほしい。
と言うのを、同居の姉の夫の藤原為雅さまも聞いて歌を送ってくる。



花により すくてふことの ゆゆしきに よそながらにて 暮らしてしなり
桃の酒を飲む三日に来たのなら、軽薄な色好みのように思われても、
困るからと、昨日はわざとよそで泊ったのですと言う。

言い訳をしたあの人は例の町の小路の女に公然と通って行くようになった。



私は、あの人との事さえも、後悔したくなるような気持ちになってしまう。
どうしようもなく辛いと思うけれども、どうすることもできない。

藤原為雅さまが姉の所に出入りするところを私が見ているので、
今はもう気がねのいらない所に移ろうと言いながら姉を連れて行く。



これからは姉の姿もなかなか見られなく後に残るわたしはいっそう心細い。
などと思うと心から悲しくなって牛車を寄せる時に、ため息交じりに言う。

などかかる なげきはしげさ まさりつつ 人のみかるる 宿となるらむ
どうして嘆きばかりが多くなり、人がみな遠のいて行く家になるのでしょう。



返事は、あの人ではなく姉の藤原為雅さまから返って来た。

思ふてふ わがことのはを あだ人の しげきなげきに 添へて恨むな
あなたのことを忘れないというわたしの言葉を、あなたが嘆いている。
薄情な人のいい加減で当てにならない言葉と一緒にして恨まないで下さい。

などと言い残して、二人とも行ってしまった。


「物思いに沈んでいるうちに衰えてしまう」

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覚悟はしてたが思っていたとおり、一人ぼっちで暮らすことになった。
私たち夫婦は世間的には問題ないが、あの人の心を意のままにできない。

意のままにできないのは私だけではなく他の妻たちもも同じで、
長年通っていた所にもすっかり途絶えてしまったようだと聞いた。



手紙などもやり取りした事があり五月四日頃に、手紙で聞いてみた。

そこにさへ かるといふなる まこもぐさ いかなる沢に ねをとどむらむ
あなたの所まで訪れなくなったそうですが一体何処に居続けてるのでしょう。  

手紙を出した他の妻の時姫より返歌があった。



まこもぐさ かるとはよどの 沢なれや ねをとどむてふ 沢はそことか
あの人が寄りつかないのは私の所、居ついているのは貴女の所だと聞いてます。

世間は面白がって無責任に嫉妬心を掻き立てる噂話が独り歩きするようだ。
六月になり長雨がひどく降り続き、外を眺めながら、独り言を呟く。



わが宿の なげきの下葉 色ふかく うつろひにけり ながめふるまに

私の家の木の下葉は長雨で濃く色変わりしてしまったけれど、
わたしも物思いに沈んでいるうちにすっかり衰えてしまった。
などと言っているうちに、早いもので七月になった。


「益々よそよそしくなってしまう」

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仲が絶えたとわかったなら、たまに来るよりはましだろうに  
などと思い続けている時に、あの人が訪ねてきた。

わたしが何も言わないので、あの人は物足りなさそうだった。
前にいた侍女が先日の「下葉」の歌を言い出したので、こう言う。



をりならで 色づきにける 紅葉葉は 時にあひてぞ 色まさりける

その季節でもないのに色づいた紅葉は、秋になってますます美しくなり
あなたも美しい盛りになって益々魅力的になったと言うので筆を執った。



あきにあふ 色こそまして わびしけれ 下葉をだにも なげきしものを

秋になって美しくなるどころか貴方に飽きられていっそう侘びしいのです。
下葉が色褪せるように衰えていくのを嘆いていましたからと書いた。  



このようにほかの妻の所へ通いながらも、絶えることなくやって来るけれど、
心が打ち解けることもなく、益々よそよそしくなってしまう。

訪ねて来ても私の機嫌が悪いので、倒れても山は立山などと洒落を言って、
帰って行く時もあるが私たちの事情を知っている人は陰から見ているようだ。


「襲われないようにするまじない」

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早朝あの人が出て行くのを見て、近所の人はこのように言ってきた。
もしおやく けぶりの空に 立ちぬるは ふすべやしつる くゆる思ひに

塩を焼く煙が空に立ち昇るように、ご主人が帰って行かれたのは、
あなたの嫉妬の火がよほど煙たかったからでしょうねなどと。



隣からおせっかいされるまでお互いに、すねあっていたように思う。
あの人はこの頃はとりわけ長い間訪れがない。

普段はそうでもなかったのに、ぼおっと魂が抜けたようになって、
いつも置いてある物も、どんな物とも目に入らないようになってしまった。



このようにして二人の仲は終わってしまうだろうか。
これが形見と思い出す事のできる物さえないと思いながら過ごしていた。

十日ばかりして手紙が来たが寝所の柱に結んでおいた小弓の矢を取って、
と書いてあるので思い出といえばこれかと思って紐を解いて矢をはずした。



思ひ出づる ときもあらじと 思へども やといふにこそ 驚かれぬれ

あなたを思い出す時もないと思っていたけれど、矢を取ってという言葉に、
はっと気づかされましたという歌をつけて手紙を返した。
遊具の矢とは睡眠中に魔物(夫)に襲われないようにするまじない。


「人の心は移ろいやすいもの」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



あの人の訪れが途絶えたままだが私の家はあの人の通り道にある。
あの人が宮中に参内や退出するときの通り道にあたっている。

夜中や明け方に咳払いしながら通って行くが嫌でもつい耳に入ってくる。
安らかに眠る事もできず、正に夜長クシテ眠ルコト無ケレバ天モ明ケズだ。



あの人らしいと気配を察する気持ちは、何に例えることができるだろう。
今はなんとかしてあの人を見たり聞いたりしないでいたいと思っている。

以前は熱心に通っているお方も今はいらっしゃらなくなったとかなど。
あの人の事を聞こえよがしに話しているのを聞くと不愉快でならない。



日暮れになると辛い事ばかり考え、子どもが何人もいると聞いている所も、
訪れがすっかり途絶えてしまったと聞き、私以上に辛い思いをされている。

などと思いながら手紙を送ったのは九月のことであった。
道綱母が時姫に同情して、お気の毒になどとたくさん書いて送った。



吹く風に つけてもとはむ ささがにの 通ひし道は 空に絶ゆとも
吹く風にことづけて便りをさし上げましたが、その風で兼家の訪れが、
途絶えているとしても女同士辛い思いを慰めあってまいりましょうね。

時姫からの返事は、こまやかに書いてあった。

色変はる 心と見れば つけてとふ 風ゆゆしくも 思ほゆるかな
秋の風にことづけてお便りを下さるなんて、人の心は移ろいやすいもの、
秋(飽き)風に託しての好意だと思うと不吉な予感がしますと歌があった。


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