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Dog Photography and Essay

「蜻蛉(かげろう)日記」を研鑽-2


「浜千鳥が浦から離れないように」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



あの人はいつも私を無視するわけではなく時々訪ねて来て冬になった。
ふだんの生活ではただ幼い我が子の道綱を可愛がっているだけだ。

いかでなほ あじろのひお にこととはむ 何によりてか われをとはぬと
何とかして網代(あじろ)の氷魚(ひお)に聞きたい、どういうわけであの人は、
わたしを訪れてくれないのかと拾遺集雑秋の古歌が、思わず出てくる。



時が経つのは早いもので、また明けて春が巡って来た。
あの人は最近読もうと持ち歩いている書物をわたしの所に忘れていった。
やはり使いの者を取りに寄こしたので書物を包んだ紙に歌を書いた。



ふみおきし うらも心も あれたれば 跡をとどめぬ  千鳥なりけり

これまでは書物を置いていかれたのに、二人の心がお互いに、
冷めてしまったのか、浜千鳥が荒れた浦に足跡を残さないように、
あなたばかりか書物さえも私の家に残しておかれないのですね。



心あると ふみかへすとも 浜千鳥 うらにのみこそ 跡はとどめめ

私の心が冷たくなったと書物を返しても浜千鳥が浦から離れないように、
わたしは貴女の所に留まっているよ、ほかに行く所などないからさ。
わたしは、あの人へ恨みを表すような和歌を返した。


「男のお子さまと聞き胸がつまる」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



浜千鳥 跡のとまりを 尋ぬとて ゆくへも知らぬ うらみをやせむ

浜千鳥がどこへ行ったのかわからないように、あなたの行き先を探しても、
行き先が多くてどこかわからず、恨むことになるでしょう。

あの町の小路の女の所では出産する時は吉の方角の家を選んでいる。



あの人も一つの牛車に乗り込み、辺りに響くくらいの音を立てて通る。
聞くに耐えないほど騒ぎ立てて、わたしの家の前を通って行く。

わたしはただ茫然として、なにも言えないでいるしかなかった。
私の様子を見る人は胸が張り裂けるようななさりようですねと言う。



近所の人は、道はほかにいくらでもあるのになどと勝手に騒ぎ立てている。
そんな話を聞くと、いっそ死んでしまいたいくらいになる。

辛くてならないから、せめて今後は私の家の前を通らないでほしい。
などと思いながら暮らしていると、あの人から手紙が来た。



この頃、こちらで体調のすぐれない人がいて、伺えなかったけれど、昨日、
無事に出産されたようだ。穢れの身で伺っては迷惑と思ってと書いてある。

呆れるほど非常識な事、この上なく、只お手紙頂きましたとだけ送った。
使いの者に家の者が男か女か尋ねると男のお子さまと聞き胸がつまる。


「仕立てる事ができないのでしょう」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



蜻蛉日記は、藤原道綱母が19才で当時の貴族の中でもトップクラスの、
エリートだった兼家と結婚し21年間の結婚生活を書いた日記である。

当時の兼家は26才で時姫という妻があり、長男の道隆も生まれていた。
結局、藤原兼家は9人の妻を持つことになり嫉妬が渦巻く事になる。



三、四日ほどして、夫である当の本人がいとも平然とやって来た。
何の用で来たのかしらと思い相手にしなかったら帰る事が何度もあった。

七月にななり相撲の節会の頃に、古い仕立直しの衣と新しく仕立てる衣を、
私のところへ、一組ずつ包んできて、これを仕立てて下さいと寄こす。



町の小路の女は一体どういうつもりなのか、それを見ると怒りがこみ上げる。
昔気質の母は、お気の毒に仕立てる事ができないのでしょうと言う。

侍女たちは、あそこはいい加減な女が集まっていて、気にくわないようだ。
裁縫もできないくせに、このまま返すと、きっと悪口を言われるでしょう。



その悪口だけでも聞きましょうと話し合って、そのまま送り返した。
案の定、あちらこちらに頼んで別々に仕立てると聞くが、あの人も、
ずいぶん思いやりがないと思ったのか二十日以上便りも寄こさない。

二十日以上便りも寄こさず忘れかけた頃、やっとあの人から手紙が来た。


「冷たくされてばかりいるわたし」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



あの人は伺いたいけれど、なんとなく気が引けて足が遠のいていると。
貴女がはっきり来いと言ってくれたら、恐々でも行けるのだがとある。  

もう気が抜けて返事もしたくないと思うけれど、情が無いような気がした。
使いの者は返事を持って帰りたいようすなので急ぎ返事をしたためた。



穂に出でて いはじやさらに おほよその なびく尾花に まかせても見む

言葉に出して来て下さいとは言えなく、尾花(ススキ)が風になびくように、
いらっしゃるかどうかは、貴方のお気持ちにまかせて見ています。  

折り返し返事を使いの者が持ってきた。



穂に出でば まづなびきなむ 花薄 こちてふ風の 吹かむまにまに

東風(こち)が吹けば花薄〔尾花〕がなびくように、はっきりこちらへ来いと、
言われるなら、わたしはすぐにも伺いましょう。 

使いが待っているので急ぎ返事を書きしたためた。



あらしのみ 吹くめる宿に 花薄 穂に出でたりと かひやなからむ

嵐ばかりが吹く家に尾花が穂を出しても、吹き散らされるだけ、
あなたに冷たくされてばかりいるわたしが、来てくださいと、
言ってもなんにもならないでしょうなどと適当に書いたら、姿を見せた。


「月の影が水面に留まるように」

「Dog photography and Essay」では、
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庭に植えてある花が色とりどりに咲き乱れているのを見て、
横になり歌を交わしたがお互いに不満に思うことがあったのだろう。

ももくさに 乱れて見ゆる 花の色は ただ白露の おくにやあるらむ
いろいろと乱れて見えている花の色は、白露が落ち始めたせいだろうか。



あなたがいろいろと悩んでいるように見えるのは、あなたがわたしに、
打ち解けないからだろうと、ふとつぶやいたので歌を詠んだ。

みのあきを 思ひ乱るる 花のうへの 露の心は いへばさらなり
あなたに飽きられて思い乱れるわたしは花の上の露のように、
はかない心の中という事は言うまでもないでしょう。



などと言って例のごとく、またお互いによそよそしくなった。
十九日の寝待ち月が山の端(は)から出る頃に出て行くそぶりが見えた。

今夜くらい出て行かなくてもと思っている気持ちが顔色に出たのだろうか、
留まらなければならないことがあるならと言うのでよい気がしない。



いかがせむ 山の端にだに とどまらで 心も空に 出でむ月をば
どうしたらいいのでしょう 山の端(は)にさえ留まらないで、
空に出てゆく月のように、うわの空で出てゆくあなたを。

ひさかたの 空に心の 出づといへば 影はそこにも とまるべきかな
空に月が出れば、その月の影が水面に留まるように、
わたしもあなたの家に留まるしかないね。と言って留まった。


「どこにでも吹くいい加減な風」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



野分は台風の古称。二百十日の頃で野の草を吹き分ける強い風のこと。
あの人は野分のような強い風が吹いて、二日ばかりしてやって来た。

台風のような風が吹いた後なら普通はどうですかと聞くでしょうに。
などと言うと何を思ったのだろうか、何気ないふりをして歌を詠む。



ことのはは 散りもやすると とめ置きて 今日はみからも とふにやはあらぬ

風で木の葉が散るように、言葉も散るのではないかと黙っていたけれど、
今日はわたし自身でお見舞いに来たではないかと言う。ので、



散りきても とひぞしてまし ことのはを こちはさばかり 吹きしたよりに

もし手紙をくださったなら、風に吹き散らされても、わたしのところへ、
届いたでしょうに、東風(こち)があんなに吹いて葉を吹き届けたように。



こちといへば おほぞふなりし 風にいかが つけてはとはむ あたら名だてに

東風(こち)といえば、どこにでも吹くいい加減な風、そんな風に、
言葉なんか託せない、誰かに噂を立てられるだけだ。
わたしも負けたくないので、また歌を詠んだ。


「自分に惚れた男の滑稽さを静かに笑う」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



東風(こち)は、どこにでも吹くいい加減な風、そんな風に言葉なんか、
託せないし、誰かに見つかり噂を立てられるだけだとの歌に対して、

散らさじと 惜しみおきける ことのはを きながらだにぞ 今朝はとはまし

よそに散らさないと大切になさっている言葉なら今朝来たときすぐに、
手紙だと吹き飛ぶからと手渡して頂ければよかったのにと話した。



この歌には、あの人も、ごもっともと納得したようだ。
十月頃に、大切な用事があると言って出て行こうとした時に、土砂降りの雨。
あいにく酷く降ってきたのに出て行こうとするので呆れてこう口ずさんだ。



ことわりの をりとは見れど 小夜更けて かくや時雨の ふりは出づべき

当然の理由があるとはいえ、夜更けに、しかもこんな雨の中を、
わたしを振りきって出かけなくてもと言ったのに、
あの人は無理に出て行った。こんな人ってほかにいるだろうか。



藤原道綱母は文才と歌才に優れているだけでなく、才色兼備で、
男性からの人気も高く自分に惚れた男の滑稽さを静かに笑いながらも、
そのなかでもっとも熱心でスーパーエリートだった藤原兼家と結婚した。


「自分に惚れた男の滑稽さを静かに笑う」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



東風(こち)は、どこにでも吹くいい加減な風、そんな風に言葉なんか、
託せないし、誰かに見つかり噂を立てられるだけだとの歌に対して、

散らさじと 惜しみおきける ことのはを きながらだにぞ 今朝はとはまし

よそに散らさないと大切になさっている言葉なら今朝来たときすぐに、
手紙だと吹き飛ぶからと手渡して頂ければよかったのにと話した。



この歌には、あの人も、ごもっともと納得したようだ。
十月頃に、大切な用事があると言って出て行こうとした時に、土砂降りの雨。
あいにく酷く降ってきたのに出て行こうとするので呆れてこう口ずさんだ。



ことわりの をりとは見れど 小夜更けて かくや時雨の ふりは出づべき

当然の理由があるとはいえ、夜更けに、しかもこんな雨の中を、
わたしを振りきって出かけなくてもと言ったのに、
あの人は無理に出て行った。こんな人ってほかにいるだろうか。



藤原道綱母は文才と歌才に優れているだけでなく、才色兼備で、
男性からの人気も高く自分に惚れた男の滑稽さを静かに笑いながらも、
そのなかでもっとも熱心でスーパーエリートだった藤原兼家と結婚した。


「急に疎遠になり虚ろな気持ちで過ごす」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



すぐに来るよと言う言葉を信じて待っても中々来ないと嘆いていると、
貴女は純粋で世間知らずねと、おせっかいなことを言う人がいる。

わたしが世慣れていないように言う人もあるけれど、何とも悔しい。
あの人は平然として、わたしは悪くないと悪びれる様子も見せない。



いつも罪がないように振舞うので、どうすればいいのだろうと思い悩む。
なんとかして私の悩みを詳しく知らせることはできないかと思い乱れる。

気にくわないことに心が動揺して、いつも言葉にすることができない。
それでもわたしの気持ちを書き続けて見せようと思って文のやり取りをする。



昔も今も私の心は穏やかな時はなく、このまま終わってしまうのでしょうか。
あなたとはじめてお逢いした秋には、木の葉のように愛ある言葉をいただいた。

それも色褪せて、あなたに飽きられるのではないかと一人で嘆いたことです。
冬には遠く旅立つ父との別れを惜しんで、初時雨が降り続けるように、
涙がとめどもなく流れて、とても心細かったのです。



父の置手紙に、娘を見捨てないで下さいと書かれていたとか聞きました。
まさか忘れたりはなさらないだろう思っていましたが疎遠は父だけで沢山よ。

父だけでなく貴方まで急に疎遠になり虚ろな気持ちで過ごしています。
霞がたなびくように仲が隔たり、お便りも絶えてしまいました。


「ああ思いこう思い思い乱れている」

「Dog photography and Essay」では、
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あなたは遠くへ行ってしまわれたのだろうか、でも、雁が故郷へ帰るように、
あなたがもどってくださると思いながら、待ち続けていたのです。

私は蝉の抜け殻のように虚しく、その蝉の羽のようなあなたの薄情さは、
今に始まった事ではなく、貴方の冷たい心のせいで流れる涙は絶える事がない。



私は前世でどんな重い罪を犯したというのか、あなたから離れる事ができない。
このように辛い憂き世に漂い耐えがたく水の泡が消えるように死んでしまいたい。

ですが、悲しいことに、陸奥にいる父の帰京を待たないで死ぬことはできない。
一目父に会ってからと思い続けていると、歎く涙で袖が濡れるばかりです。



出家して嘆かないで暮らす事もできるのに、どうしてと思うのですが、
貴方を恋しく思う時に、出家すると貴方と逢う事ができなくなってしまう。

あなたがお越しになって、打ち解けて馴染んだ昔の心を思い出したりすると、
折角、俗世を捨てた甲斐もなく、思い出しては泣いて貴方を思い切れないかも。



ああ思いこう思い、思い乱れているうちに、山のように積もる枕の塵の数も、
独り寝の夜の数には及ばなく、貴方との仲は旅してるように隔たっています。

お越しくださる事もなくなったと思っていましたのに、あの野分の後の一日、
来て下さり、お帰りの時、気休めに、すぐに来るよとおっしゃいました。


「貴女に会わず家に帰るしかない」

「Dog photography and Essay」では、
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直ぐに帰って来るという言葉を本気にして信じて待っている子ども。
いつも口真似するのを聞くたびに、辛いと思う涙が海のように溢れます。

あなたに逢う機会もなく待っているのは甲斐がないとは知りながら、
命のある限り捨てたりせず私を頼りにさせたお言葉が嘘ではない事を祈ります。



直ぐに来て下さるのは、本当のお気持ちかどうかは、わかりません。
お立ち寄り下さった折に、尋ねたいと思っていますと書き二階棚の中に置いた。

久しく時を経て、あの人はやって来たけれど、わたしが出て行かないでいると、
居辛くなって、質問のこの手紙だけを持って帰っていったが私も素直でない。



そして、あの人からこのような返歌があった。
秋の紅葉が時とともに色褪せるように、飽きがくると愛情も冷めるのは、
世間では普通のことだろうが、わたしは違うと書きしたためてある。

嘆きに沈んでいるあなたを頼むと言い残して旅立たれた父上のお言葉で、
愛情も一層深まってきたと言え、貴女を思う気持ちは絶える事はないとある。



私が来るのを待つ幼い子を早く見たいと、田子の浦に打ち寄せる波のように、
何度も訪ねて行くけれど貴女は富士山の煙のように、嫉妬の炎を燃やしてる。

空にある雲のようによそよそしく、私は貴女を絶えるどころか、白糸を、
繰るようにあなたを絶えず思って訪ねるのに、あなたの侍女たちが、
愛情が足りないと言って恨むので、私はきまりが悪くいたたまれない。
かといって馴染みの家もほかにないから、貴女に会わず家に帰るしかない。


「父恋しさにどんなに泣かせる事だろう」

「Dog photography and Essay」では、
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侍女たちが愛情が足りないと言って恨むので、私はきまりが悪かった。
そういう間に、あなたを訪ねて行ったことがあったけれど、
あなたは独り寝の床に目覚めていたのに、いくら真木の戸を叩いても、
月の光が漏れてくるばかりで、あなたは姿を見せなかった。



あの時からあなたを嫌だと思い始めた。誰があんな浮気な女と夜を、
明かしたりするものか。あなたは前世でどんな重い罪を犯したせいかと、
嘆いているが、そういうことを言うのが罪なのだろう。今はもうわたしに、
逢うことはやめて、嘆きを与えない人の世話になったらいいのではないか。



わたしだって木や石ではないから、あなたを思う気持ちは抑えられないが、
浜辺の浜木綿が何枚も重なったように、隔たってしまった衣を、
悲しみの涙で濡らすことがあっても、あなたのことを思い出したら、
わたしの思いの火で、わたしの目の涙は乾くだろう。



今さら言っても甲斐のない事だが、甲斐国(かいのくに)の速見(へみ)の牧場の、
荒馬のように離れていくあなたを、どうして繋ぎとめることができるだろう。

などと思うものの、わたしを父親と思っているあの子を、片親育ちにして、
父恋しさにどんなに泣かせる事だろうと思うと、可哀そうでならないと言う。


「貴女がずっと私を拒んでいるから」

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返事を持ち帰る使いが待っているので、急ぎこのように書いた。

なつくべき 人もはなてば 陸奥の むまやかぎりに ならむとすらむ
可愛がるはずの飼い主が手放すと陸奥の馬はそれっきりもどらないように、
あなたが見放したら、もうこれっきりになってしまうでしょうか。



どう思ったのか、使いの者が手紙を折り返し持ってきた。

われが名を おぶちの駒の あればこそ なつくにつかぬ 身とも知られめ
あなたが尾駮の馬のように荒れるから、いくら飼い慣らそうとしても、
わたしになついてくれない、あなた自身そのことを知ってほしい。



少し憤慨して返歌を、したため使いの者に手渡した。

こまうげに なりまさりつつ なつけぬを こなはたえずぞ 頼みきにける
あなたはだんだんわたしの所に来るのが嫌になり、優しくしてくださらなく、
なったのですが、わたしのほうはずっとあなたを頼りにしてきたのです。



あわただしく使いの者がまた返歌を届けに来た。

白河の 関のせけばや こまうくて あまたの日をば ひきわたりつる
白河の関のように、あなたがずっとわたしを拒んでいらっしゃるから、
あなたの所へ行きづらくて、何日も経ってしまったのです。


「前世の宿縁のつたなさだろうと思う」

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明後日頃は逢坂の関の辺りなので、貴女に逢いに行くと便りがあった。
時は七月五日のこと。わたしが長い物忌に籠もっていた頃なので、
こう言ってきた返事には、

天の川 なぬかを契る 心あらば 星あひばかりの かげを見よとや
天の川で牽牛と織女が逢う七月七日に逢うつもりなら、一年に一度の、
逢瀬で我慢しろとおっしゃるのですか。

 

わたしの言うことを、ごもっともと思ったのだろうか、
少しわたしのことを心にかけているようで、何か月かが過ぎてゆく。

あの気にくわないと思っていた町の小路の女の所では、今は、
ありとあらゆる手段を使って愛情を取り戻そうと騒いでいると聞いた。



わたしはそのことを聞いたので、少し気が楽になった。
昔からうまくいかないわたしたちの仲はいまさらどうしようもない、
いくら辛くても、それがわたしの前世の宿縁のつたなさだろうと思う。

さまざまに心を乱しながら暮らしているうちに、あの人は、
少納言を長年つとめて、四位になると、殿上の出仕をおりていた。



今度の司召(ツカサメシ)で、ひどくひねくれていると見られている。
なんとかの大輔(たいふ)などと言われるようになったので、世の中が、
ひどく面白くないらしく、あちこちの女の所に通うほかは外出を、
しなくなったので、たいそうのんびりとわたしの所に二、三日いたりした。


「どうして一人や二人の妻で暇がない」

「Dog photography and Essay」では、
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気の進まない役所の宮さま兵部卿宮章明親王の醍醐天皇の皇子から、
このようにおっしゃってきた。  

みだれ糸の つかさひとつに なりてしも くることのなど 絶えにたるらむ
乱れている糸が束ねられ一つになるように、折角貴女と同じ役所になったのに、
来ていただけなく、どうして絶えてしまっているのでしょうか。



返事の歌を詠んだ。
絶ゆといへば いとぞ悲しき 君により おなじつかさに くるかひもなく

絶えるなどとおっしゃると、とても悲しいです。
宮さまを頼りにしてせっかく同じ役所になったのに、その甲斐もないです。

 

折り返し歌が送られる。
なつびきの いとことわりや ふためみめ よりありくまに ほどのふるかも

催馬楽の夏引の糸のように、二人も三人もの方の所に歩きまわっているうちに、
こちらへ来る時間もなくなってしまったのだね。
催馬楽(さいばら)とは、平安時代に隆盛した古代歌謡のこと。

 

返事の歌を詠む。
七ばかり ありもこそすれ なつびきの いとまやはなき ひとめふために

夏引の糸は、七ばかり、それほど多くの妻がいるのに、
どうして一人や二人の妻で暇がないことがあるでしょうか。
夏引の糸とは、その年にできた繭(まゆ)から取った糸のことをいう。


「粗末な家なので雨漏りで騒いでいる」

「Dog photography and Essay」では、
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また、宮さまから歌を

きみとわれ なほしら糸の いかにして 憂きふしなくて 絶えむとぞ思ふ
あなたとわたしとは、やはり気まずくならないうちに、
つきあいをやめたほうがよさそうだね。



二人、三人の妻と言ったのは確かに少なすぎました。
これ以上は、差し障りがあるのでやめておきますとおっしゃった返事に、

世をふとも 契りおきてし 仲よりは いとどゆゆしき ことも見ゆらむ
契りを交わした夫婦の仲なら、長年連れ添っても、
別れ別れになる不吉なことも起こるでしょう。

 

でもわたしたち男同士は、そんなことは起きませんなどと申し上げられた。

その頃、五月二十日過ぎごろから、四十五日の忌を避けようと思って、
地方官を務めた父の所に行ったところ、宮さまが垣根を隔てて、
すぐ隣に来ていらっしゃったが、六月頃まで雨がひどく降り続いた。



あの人も宮さまも雨で外出できなかったのだろう。
ここは粗末な家なので、雨漏りで騒いでいると、宮さまがこのように、
おっしゃってきたのは、いっそう常識はずれのことだった。

つれづれの ながめのうちに そそくらむ ことのすぢこそ をかしけりけれ
長雨ですることもなくぼんやりしていると、あなたのほうでは雨漏りで、
忙しそうにしていらっしゃる様子、それも退屈がまぎれておもしろいですね。


「恋のせいで涙の乾く暇もないだろう」

「Dog photography and Essay」では、
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いづこにも ながめのそそく ころなれば 世にふる人は のどけからじを
どこでも長雨の降る忙しい季節ですから、
宮さまと違って、のんびりしてはいられないのです。

また、宮さまはこうおっしゃった。
あなたは、のんびりしていられないですって。



あめのした 騒ぐころしも 大水に 誰もこひぢに 濡れざらめやは

世の中は長雨で騒いでいるこの頃、誰もが恋しい人に逢えなくて涙で、
袖を濡らしているはず、わたしだってのんびりなんかしていられません。



わたしは宮さまへ返事を書いた。

世とともに かつ見る人の こひぢをも ほす世あらじと 思ひこそやれ
いつも次々と愛人と逢おうとしている人は、この長雨で逢えなく、
その恋のせいで涙の乾く暇もないだろうとお察しします。



また、宮さまから文が届いた。

しかもゐぬ 君ぞ濡るらむ 常にすむ ところにはまだ こひぢだになし
一人の女の所に落ち着いていないあなたこそ恋の涙に濡れているでしょうが、
一人の女の所にいつも住んでいるわたしは、恋で濡れることなどありません。


「私の手紙も宙に迷っているのだろうか」

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宮さまからの文を、あの人と一緒に読んで、
何ともまあひどいことをおっしゃるなどと思わず口をついて出た。

雨の晴れ間に、あの人がいつもの通っている所に行った日、
例によって宮さまからお手紙が届いた。



殿はご不在ですと言っても、それでもやはりとだけおっしゃって、
くださったのですと使いの者が言うので、持ってきたのを見てみた。

とこなつに 恋しきことや なぐさむと 君が垣ほに をると知らずや
あなたの家のなでしこを折って見ていたら、恋しさが慰められるかと思って、
いつまでもここにいるのですが、そんなわたしの気持ちはわからないでしょう。



それにしても、ここで待つその甲斐もないので、帰りますと書いてある。
それから二日ほど経って、あの人が来たので宮さまからの手紙を手に取り、
宮さまからこの手紙がこういう次第で届きましたと言ってみせた。

あの人は、日にちが経っているから今さら返事をするのもよくないなと言う。



この頃は、あなたから手紙もいただけませんと話してみた、その返事は。

水まさり うらもなぎさの ころなれば 千鳥の跡を ふみはまどふか
大雨で水嵩が増して浜辺もなく千鳥がおりる場所に迷っているように、
わたしの手紙も宙に迷っているのだろうかと思っていましたと言う。


「気分もよくなり京へ帰った」

「Dog photography and Essay」では、
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わたしのほうが、お訪ねしますと書いた手紙が届かなかったのだろうか。 
女文字〔平仮名〕で書いて、こちらは男文字〔漢字〕で心苦しかった。

うらがくれ 見ることかたき 跡ならば 潮干を待たむ からきわざかな
入江が水で隠れてしまい、千鳥の足跡がなくなるように手紙がなくなったなら、
潮が引くまで待っていましょう。それにしてもとても辛いことです。

 

そのような中、また、宮さまから文が届く。

うらもなく ふみやる跡を わたつうみの 潮の干るまも なににかはせむ
なんの下心もなくさし上げた手紙ですから、潮が引き探せるようになり、
手紙が出てくるのを待っていても、無駄でしょう。とある。  



こうしているうちに、六月祓(みなづきばらえ)の時期も過ぎたのだろう。
七夕は明日あたりと思う。四十五日の忌も四十日ほど過ぎた。

このところ気分が悪く、咳などもひどく出るので物の怪かもしれない。
加持でもしてみようと思い、暑い頃でもあり、いつも出かける山寺に登る。



七月も十五、六日になったので、お盆をする頃になってしまった。
見ていると、人々が奇妙な格好でお供えを担いだり頭にのせたりしている。

色々な支度をして集まってきて、あの人と一緒に、感心したり笑ったりもする。
忌も過ぎ、気分もよくなり京へ帰った。秋、冬はこれということもなく過ぎた。


「ほっそりとしなやかに見えた」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



年が改まったが、これといって変わったこともない。
あの人の心がいつもと違って優しい時は、すべてが平穏である。

正月の初めからあの人は南廂にある殿上の間に昇る事を許されている。  
賀茂神社の祭祀に奉仕の斎院の禊の日、宮さまから言葉があった。



見物に行かれるなら、そちらの牛車に乗せていただきたいとの事。  
迎えに行ったが、宮さまはいつもの邸にはいらっしゃらなかった。

町の小路あたりかもしれないと思って、お訪ねすると思ったとおりだった。
宮さまがいらっしゃるので、まず硯を借りて、このように書いてさし入れた。



きみがこの 町の南に とみにおそき 春にはいまぞ たづねまゐれる

宮さまがいらっしゃるこの町の南に、遅い春が訪れたように、
ようやくあなたのいらっしゃる所を捜して、やって来ました。  
というわけで、宮さまはわたしたちと一緒に見物に出かけられた。



その頃が過ぎてから、宮さまが町のお邸にいらっしゃる時に参上すると、
去年見た時にも花がきれいだったが、薄(すすき)が群がり繁っていた。

その薄の光景が、とてもほっそりとしなやかに見えたのを思い出して、
これを株分けなさるなら、少しいただきたいのですがと申し上げていた。


「掘ってさし上げるのは辛いこと」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



しばらくして賀茂川の河原へ、お祓(はらえ)に行った時に、
あの人も一緒だったので、ここが宮さまのお邸よなどと話した。

使いの者を邸に遣わし、お伺いしたいのですが機会がなくてと文を。
今日も連れがいますので、先日お願い致しました薄(すすき)の事を、
よろしくお願いしますと、おそばの人に言うようにと言って通り過ぎた。



簡単な祓だったので、すぐに帰ったところ、宮さまから薄が届いていた。
見ると、長櫃(ながびつ)に、掘り取った薄がきれいに並べてあった。

そして、青い色紙が結び文にしてあるので見ると、こう書いてある。



穂に出でば 道ゆく人も 招くべき 宿の薄を ほるがわりなさ
穂が出たならば、道行く人も招くにちがいない、
そんな大切な薄を掘ってさし上げるのは辛いことでと書いてある。 



とてもおもしろい歌で、この返事をどのようにしたのだろう。
忘れてしまうほどなので、大した歌ではなかったと思うから、
書かなくても良かったのではないかと思う。

でも、これまでの歌でも、出来ばえはどうなのだろうと、
考えてしまうものもあるとは思うけれど書き留めておいて残した。


「どちらが勝っているのでしょう」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



春が過ぎて夏の頃、あの人は宿直が多くなったような気がする。
そのうえに、突然朝に来て一日を過ごし、日が暮れると参内したりする。

その姿を不思議に思っていると、ひぐらしの初声が聞こえてきた。
しみじみと、ああ、もう秋かと気づかされて和歌を詠んだ。



あやしくも 夜のゆくへを 知らぬかな 今日ひぐらしの 声は聞けども

今日一日中あなたの声を聞いていても、不思議でならないの、
夜にどこへ行かれるかわからないからと詠んで聞かせた。



さすがに出て行き難かったのだろう。このように特別のこともなかったので、
あの人の心も、今のところわたしに熱心なように感じとれた。
 
月夜の頃、不吉な話をして、しみじみとした事を語り合った昔の、
ことが思い出されて、嫌な気分なので、こう言った。



曇り夜の 月とわが身の ゆくすゑの おぼつかなさは いづれまされり

曇っている夜の月と、わたしの将来とでは、
不安で頼りないのは、どちらが勝っているのでしょう。
返事は、冗談のように返って来た。


「思い通りにならないことばかり」

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曇っている夜の月と、わたしの将来とでは、
不安で頼りないのは、どちらが勝っているのでしょう。
返事は、冗談のように返って来た。



おしはかる 月は西へぞ ゆくさきは われのみこそは 知るべかりけれ

曇っている夜だって月は西へ行くとわかるように、
あなたの将来だってわたしだけが知っている。心配することはない。



などと、頼もしそうに思えるが、あの人が自分の家と思っている所は、
ほかにあるようだから、本当に思い通りにならないことばかりの夫婦仲だ。

幸運に恵まれたあの人のために、長い年月連れ添ってきたわたしなのに、
大勢の子どももいないので、このように頼りなくて思い悩むことばかりが多い。



このように寂しいながらも、母親が生きているうちはなんとか過ごしていた。
その母も長い間患って、秋の初めの頃亡くなってしまった。

まったくどうしようもなくわびしいことといったら、
世間の普通の人の悲しみも比べものにならないくらいに感じた。


「この先どうなさるのだろう」

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まったくどうしようもなく侘しい事といったら世間の普通の人の、
悲しみと比べ物にならない。大勢の子どもたちの中で、わたしは、
死に遅れたくない、わたしも一緒にと、取り乱していた。

そのせいか、どうしたのだろう、手足がただもう引きつって息も、
絶えそうになり、後のことを頼む事のできる、あの人は京にいた。



山寺でこんなことになったので、幼い道綱をそばに呼んで、やっとの事で、
言ったのは、わたしは、このまま虚しく死ぬでしょう。

父上に申し上げて頂きたいのは、私の事はどうなろうとも構わないで下さい。
亡くなった母上の法事を、他の方々の法事以上に弔って下さいと伝えた。



いったいどうすれば良いのか、長い月日患って亡くなった母のことは、
今ではどうしようもないと諦めて、わたしのほうに皆かかりっきりで、
どうしてこんなことにと、母の死を泣いてた上にますます取り乱した。

わたしは口はきけないが、まだ意識はあり、目も見えるころに、わたしを、
心配している父が寄って来て、親は母上一人だけではない。



どうしてと言って、薬湯を無理に口に注ぎ込み次第に回復していく。
やはりどう考えても、生きている気がしないのは、亡くなった母が、
患っていた間、ほかのことはなにも言わないで、ただ言うことといえば、

わたしがこのように頼りなく生活していることをいつも嘆いていたので、
あなたはこの先どうなさるのだろうと、何度も苦しい息の下から言われた。


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