2933442 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Dog Photography and Essay

「蜻蛉(かげろう)日記」を研鑽-10


「ごらん頂くことが出来なかった」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



殿はなにかおっしゃいましたかとお尋ねになったので、現状を
申し上げると、吉日に、お手紙をさし上げようと話されていた。

まだ恋をするには幼すぎるのにと思いながら寝てしまった。
長官から手紙が来たが、とても返事を気楽に書けそうもない内容である。



手紙の文面は、何か月も前から心に思うことがあって、殿に人を介して
お伝えしましたところ、殿はお話の内容だけはお聞きになりました。

今は直接お話するようにと承りましたが、身のほどをわきまえない
大それた望みを話すと、不審に思われるのではないかと、遠慮していた。



それに、良い機会もないと思っていたところ、このたびの司召の結果を
拝見すると、道綱の君が同じ役所に来られましたので、伺ってしまいました。

そして、手紙の端に、武蔵と呼ばれている人のお部屋に、なんとかして
伺いたいのですがと書いてある。武蔵は作者の侍女のこと。



返事をさし上げなければならないが、これはどういうことでしょうと
あの人に聞いてからにしようと思って連絡をとったところ
都合が悪いと、ごらん頂くことが出来なかったと道綱が手紙を
持って帰って来たが、それから二十五、六日になった。

武蔵の部屋に伺いたいとは、作者に直接対面することを遠慮した言い方。


「雨などに妨げられるものか」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



右馬寮(うめりょう)の長官である右馬頭は心配になったのだろうか
道綱のところへ、ぜひ申し上げたいことがと言ってお呼びになる。
すぐにお伺いしますと答えて、とりあえず使いは帰した。



そのうちに、にわか雨が降り出し、道綱は、お待たせしたら気の毒だと
出て行ったが、途中で使いに出会い、手紙を受け取ってもどって来た。
その手紙は、紅色の薄紙を重ねたもので、紅梅の枝につけてある。



いそのかみ ふるとも雨に 障らめや 逢はむと妹に いひてしものを

たとえ雨が降ったとしても雨などに妨げられるものか 愛しいあの子に
逢おうと言ったのだから。古今六帖・第一という歌はご存じでしょうね。

石上(いそのかみ)は、奈良の石上神宮周辺から西の方角で万葉集に詠まれる。



春雨に ぬれたる花の 枝よりも 人知れぬ身の 袖ぞわりなき

春雨に濡れたこの鮮やかな紅梅よりも 人知れず嘆くわたしの袖のほうが
血の涙に染まって真っ赤です。愛しい人、やはりお越し下さいと書いてある。


「世間では誰も知らないはずなのに」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



私の訳し方が曖昧でしたが、愛おしい人と言うのは道綱の母のことで
元々、兼家へ右馬頭が道綱の母の養女へ差出した手紙だと思う。
兼家が道綱を介して道綱の母へ右馬頭の思いを託した手紙だと感じた。

どういうわけか、愛しい人と書いてある部分は上から墨で消してある。



道綱が、どうしたらよいのでしょうと言うので、厄介だわねと思った。
途中で使いに会ったということにして、お伺いしなさいと送り出した。
道綱は帰って来て、どうして殿にご連絡なさっている合間の時間にでも
お返事をいただけなかったのでしょうと恨んでいたようでしたと話した。



二、三日ほどして、やっと父上にお手紙をお見せることができましたと。
父上がおっしゃるには、なに、かまわない。そのうち考えを決めてからと
右馬頭には話しておいたので、返事は、推し量って出しておきなさいと。
まだ子どもなのに、誰かが通ってくるのでは、具合が悪いだろう。



そちらに娘がいることは、世間では誰も知らないことだ。
娘でなく母親に通っているなどと、変な噂を立てられたらまずいと。
そんなことを道綱から聞いて、なんともいい気分はしなかった。
誰も知らない娘を、長官が知っているのは、あの人が漏らしたのだろう。


「長官はひどく遠慮していたように感じた」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



右馬頭の長官への返事は、その日のうちに書いて届けた。
この思いがけないお手紙は、今回の除目のおかげかと思いましたので
すぐにお返事をさし上げなければならなかったのですが遅くなりました。



殿になどとおっしゃったことが、とても不思議で気になりましたので
尋ねていましたところ、唐土に問い合わせたほど時間がかかってしまい
でも、やはり納得がいかない事は、なんとも申し上げようがなくと書いた。



手紙の端に、武蔵と呼ばれている人のお部屋にとおっしゃる武蔵は

白河の 滝のいと見ま ほしけれど みだりに人は 寄せじものをや

白河の滝をとても見たいけれど むやみに人を寄せつけてはいけないと
申しているようです。村上天皇の下命によって編纂された勅撰和歌集より



その後も、同じような手紙が何度もくる。返事は、手紙が来るたびに
出したわけではないので、長官はひどく遠慮していたように感じた。

三月になり、右馬頭は、あの人にも、侍女にも言付けて頼んでいたので
その侍女の返事を見せに使いをよこす。長官の手紙を見てみたところ。


「裾が丸見えですっかり慌てている」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



長官の手紙を見てみると、いったい誰と結婚させる気なのか分からない。
さらに殿は、今月は、日が悪い、来月になってからと暦をごらんになって
たった今もおっしゃっていますなどと書いてあるが変な話だ。
結婚の日を暦を見て決めるなんて早過ぎて変な話で、どういう事と思う。



まさかあの人がこんなこと言うはずがないと思った。
おそらく、この手紙を書いた侍女の作り話ではないのだろうかと思う。

四月になって、月初めの七日の昼に、右馬頭さまがいらっしゃいましたと
侍女が言うが、侍女に結婚の話だろうから、私はいないと言ってと。



侍女に言うが早いか右馬頭の長官は入って来て、垣根の前にたたずんでいる。
竹などで目を粗く編んで作った垣根なので、私の姿がはっきり見える。
いつもさっぱりときれいな人が、艶のある袿に、しなやかな直衣を着て
太刀を腰につけ、赤色の扇の要が少しゆるんだのを手でもてあそんでいる。



風が強いので、被った冠の纓を吹き上げられながら立っている様子は
絵に描いたようであるが、気品のある人がいると侍女が言うと皆が出て来る。

侍女たちが、打衣と表着の上に裳など無造作にくつろいだ姿で出て来た所へ
風がひどく吹き簾を外へ内へと揺らし、裾が丸見えですっかり慌てている。


「娘はまだ結婚にはふさわしくない年齢」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



風が強く吹く中で、スダレを頼りにしていた侍女たちが、簾を押さえたり
引っ張ったりして騒いでいる間に、今更どうしようもないが、侍女たちの
見苦しい袖口も長官の目に留まっただろうと思うと、死ぬほど情けなく辛い。



道綱は弓の練習場から夜遅く帰って来て、まだ寝ていて起こしている間に
こんな事になってしまったが、道綱はやっとのことで起きて出て来て
ここには誰もいないことを長官に言うが、恥ずかしい所を見られてしまった。



風がひどく気分も落ち着かないので、前もって格子を全部下ろしていた時で
どう言いつくろってもおかしくなかったが、長官は強引にスノコに上がって
今日は吉日なので、座り初めの為、円座をお貸し下さいと話しただけで
長官は、今日は全く来た甲斐がないと、ため息をついて帰って行った。



二日ほどしてより口頭で、留守の間にお越し下さったとの事で、お詫び
申し上げますという挨拶を道綱に申し上げさせたところ、長官は、その後
とても不安になって帰ったものの、ぜひお会いしたくてと、言ってくる。

娘はまだ結婚にはふさわしくない年齢だから、長官との結婚は許可できない。


「扇のあたる音だけが時々していた」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



長官は何とか娘と結婚したいと通って来るが、私の老けた聞き苦しい声を
お聞かせするわけにはと言ったのは、結婚は許さないということなのに
道綱に、お話しがしたいと言うついでに、長官は日暮れにやって来た。



私はしかたがないと思って、格子を二間だけ上げて、スノコに灯りをともし
ヒサシの間に招き入れ、まず道綱が会って、長官は縁に上がって来た。
道綱が両開きの妻戸を引き開けて、こちらへの声がして歩いてくる気配がする。
まず母上に取り次いで下さいと小声で言い、道綱が私の所に入って来た。



道綱は長官の意向を伝えるので、お望みの所でお話ししなさいと言うと
長官は少し笑って、程良く衣擦れの音をさせて廂(ひさし)の間に入って来た。
道綱と密やかに話をして、笏(しゃく)に扇のあたる音だけが時々していた。



私のいる奥の部屋からは、何も言わないまま、やや時が経ったので
長官は道綱に、先日はお訪ねした甲斐もなく帰ったので、なんとなく
落ち着かなくてと申し上げて下さいと取り次がせた。道綱が、どうぞと言うと
長官は様子を伺いながらにじり寄ってきたが、すぐには何も言わないでいた。


「ぎこちない話をするうちに夜も更けて」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



長官は暫し何も言わないが、まして私からは声もかけれない。しばらくして
不安に感じているかも知れないと思い、私が軽く咳払いをきっかけに
先日は、あいにくお留守の時にお伺いしましてと話し出してから
娘を思い始めてからのことを、いろいろと話し出す。



私は、結婚など不吉に感じるほどですので、そのようにおっしゃいますのも
夢のような気がしますし、娘は小さいどころか、世間で言うところの鼠生い
生まれたばかりの鼠のように小さく幼いので、とても無理なお話と答えた。
長官の声がひどく取り澄ましたように聞こえるので、なんとも答えづらい。



雨が乱れ降っている夕暮れで、蛙の声がとても大きく聞こえて来る。
夜がどんどん更けていくので、わたしから、こんな気味の悪い所では
家の中にいるものでも気分が落ち着きませんのにと話しかけてみた。



長官は、こちらにお伺いして皆さんが居るので、恐ろしいことはありませんと
ぎこちない話をしているうちに、夜もすっかり更けて、長官より道綱の君が
賀茂神社の使者になるので、その準備も近くなったようですが、その時の
雑用でも勤めさせていただきますから、殿にもお伝えくださいなどと言う。


「吉日があると責め立てられる」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



道綱が賀茂神社の使者になり、長官はその準備の雑用でも勤めたいと
殿のお考えを伺い、また殿のお言葉をご報告に伺いますと言うので
長官はここへ泊まらずに帰るようだと思い、間仕切りの几帳の
縫い合わせてない帷子(かたびら)をかき分けて外を見てみた。



簀子(すのこ)に灯してあった火は、とっくに消えていた。几帳の内には
物陰に灯りをともしていたので、明るくて、外の火が消えているのも
気づかなかったが、こちらの姿も見えたかもしれないと思うと呆れた。



火が消えたともおっしゃらないで意地が悪いのねと言うと、いえ、別に
不自由はしなかったのでと、控えている供人も答えて長官は帰って行ったが
右馬寮の長官は、一度来始めると、度々やって来て、同じことばかり話す。



こちらでは、お許しの出る殿から、話がありましたら、辛くてもそのように
するでしょうと言うと、長官は、その大切なお許しは頂いていますのにと
言って、うるさく責め立てる。そして、この四月にと、殿のお言葉もあり
二十日過ぎの頃に、吉日があるようですと言って責め立てられる。


「とても腹立たしい事を申し上げに」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



道綱が、右馬寮の使者として、賀茂祭に奉仕しなければならないので
そのことばかり思っていたから、長官はその準備の終わるのを待っていた。
祭に先立つ斎院御禊の日に、道綱は犬の死んでいるのを見て穢に触れたと
残念ながら使者の役は取り止めになってしまった。



私の方ではひどく気の早い感じがするので、本気で考えてもいないのに
長官が道綱を通して、殿よりのお言葉がありましたと責め立てられ
母上に申し上げてくださいとばかり言うので、わずらわしく感じた。



あの人に、今までの色々な事柄を文に認めて、使いの者に届けさせた。
あの人から、結婚は四月とは思ったが、道綱の支度をしている最中で
ずいぶん延び延びになってしまったから、もし長官の心が変わらなければ
八月頃にしたらと言ってきたので、後になりほっとした気持ちになる。



殿は初めから娘を長官の嫁にと考えていたのだろうかと思う。
暦で決めるのは、あてにならないし、早過ぎると、だからこそ長官へ
申し上げたではありませんかと書いて送ると、返事もなくて、暫くして
本人がやって来て、とても腹立たしい事を申し上げに来ましたと言う。


「姫君に会わせていただきたいのです」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



長官が、腹立たしい事を申し上げに来ましたとは、一体何ごとでしょう。
ひどく興奮していらっしゃるのね。では、こちらへと招く言葉を掛けると
まあ、いいでしょう。こんなに夜も昼も伺っては、うるさく思われて
ますます先のことになるでしょうと言って、中には入らないでいる。



しばらく道綱と話をして、帰る時に、硯と紙を要求したので、出してやると
書いて、両端をひねって、こちらにさし入れて帰って行った。文を見ると

ちぎりおきし 卯月はいかに ほととぎす わがみのうきに かけはなれつつ

お約束の四月はどうなったのでしょう ほととぎすが卯の花の木陰を離れる
季節で 私も姫君との結婚が遠のくとは なんと辛い身なのでしょう。



どうしたらいいのでしょう。ひどく気がふさいで。夕方にまたと書いてある。
筆跡もこちらが恥ずかしくなるほど達筆である。返事はすぐに書く。

なほしのべ 花たちばなの 枝やなき あふひすぎぬる 四月なれども

やはり辛抱してください 卯の花はなくても 花橘の枝があるように
逢うという葵祭のある四月が過ぎても また逢う機会があるのですから。



右馬寮の長官は、かねて暦を見て選んでおいた二十二日の夜、訪れて来た。

今回は、今までの態度とは違って、とても慎重にしてはいるものの、
その責め方は、まったく耐え難く、殿のお許しは、だめになりましたと言い
八月までは遠い気がしますので、あなたのご配慮で、なんとか
姫君に会わせていただきたいのですと言うので困ってしまった。


「暦も残り少ないほど日が経ちました」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



姫君に会わせていただきたいとは、どのようなお考えで、そのように
おっしゃるのでしょう。あまりにも遠いお方とおっしゃる間に
初めて言葉を交わすことになるかもしれませんと言うと
いくら幼い子どもでも話ぐらいはしますよと言う。



この子は、本当にそうではありません。あいにく人見知りする年頃ですから
と言っても、納得がいかないようで、とても気落ちしているように見える。
姫君に会えないのは、胸が張り裂けるほどに思われますが、せめてこの
御簾(ぎょれん)の中だけでも入れていただけたら退出しましょう。



姫君に会わせていただけるか、御簾の中に入れていただけるか、そのどちらか
一つでも、叶えていただきたいのです。ご配慮をと言って、簾に手を掛ける。
とても薄気味悪いけれども、聞かなかったふりをして、夜も更けたようですが
いつもならどこかの女君に逢いたくなるような夜ですねと、そっけなく言う。



まったくこれほど薄情だとは思いませんでしたが、思いがけなくこうして
お話ができただけでも、この上もなく嬉しいことだと思います。
暦も残り少ないほど日が経ちました。失礼なことを申し上げ、ご機嫌を
損ねましてなどと、心から辛く思っているので、親しみをおぼえて話した。


「お帰りの道はどんなに暗かったことでしょう」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



夜に娘に会わせよとおっしゃいましても、やはり無理なご要望です。
院や宮中に仕えていらっしゃる昼間のような気持ちになって下さいと言うと
そのように表向きの付き合いしかしていただけないのは、耐えられませんと。



辛がって答えるので、まったくどうしようもない。わたしが返事に困って
最後にはなにも言わないでいると、ご機嫌もすぐれないようで恐縮ですと。
あなたからお言葉がない限り、なにも申し上げない事にします。
そして、ひどく恐縮していますと言って、爪弾きをして、立ち上がった。



出て行く時に、松明をどうぞなどと召使いに言わせたが、受け取らないで
お帰りになられたと聞くと、気の毒になって、翌朝早く、あいにくなことに
松明をとも言わずお帰りになり、ご無事でしたかと申し上げたくて。



ほととぎす またとふべくも 語らはで かへる山路の こぐらかりけむ

また訪ねるともおっしゃらないでお帰りになりましたが、お帰りの道は 
どんなに暗かったことでしょう、それがお気の毒でと書いて届けた。


「同じ牛車に乗って出かけていった」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



松明をも灯さずに、お帰りの道は、どんなに暗かったことでしょう。
使いはその手紙を置いて帰って来たので、あちらから、

とふこえは いつとなけれど ほととぎす あけてくやしき ものをこそ思へ

いつということなく いつでもお伺いしたいのですが 道が暗かったことより
一夜明けて昨夜の失礼を後悔していますと、とても恐縮して
お手紙を受け取りましたとだけ書いてある。



そのように恨み言を言っても、次の日、道綱の君、今日はあちこちへ
訪問するつもりですが、役所まではご一緒にと門の所まで来た。
先日のように長官は硯を要求するので、紙を添えてさし出した。
こちらに入れたのを見ると、妙にふるえた筆跡で書かれてあった。



前世でどんな罪を犯したせいで、こんなにあなたから妨げられる身に
なったのでしょうか。ますます変なふうになっていくばかりですが、
これでは結婚も、とても難しい。もうこれ以上は何も申し上げません。
今は高い峰にでも登るしかありませんなどと、たくさん書いてある。



返事は、恐ろしい。どうしてそんなことをおっしゃるのでしょう。
お恨みになる人は、わたしではなく別の人ではないですか。
峰のことはわかりませんが、谷に下りるご案内ならと書いて
差し出すと道綱は長官と同じ牛車に乗って出かけていった。


「寝殿造りの釣殿の高欄に寄りかり」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



道綱と長官は同じ牛車に乗り出かけたが、道綱は美しい賜り物の馬を
もらって帰って来たが、その日の夕暮れに、また長官がやって来た。
先日の夜に恐縮するほど申し上げた事を思い出すと、一層恐縮するので
今は、ただ、殿からお言葉あるまで、待っていますと言いに来ていた。



長官は今夜は生まれ変わってお伺いしましたと言い、千年の寿命があっても
この恋の苦しみには耐えられない気がし、指折り数えて、指三本、三ヶ月は
なんとか過ごせましたが、考えてみると、随分先が長いので、することもなく
寂しく過ごす月日の間、護衛のための宿直だけでも、屋敷の隅でと言う。



こちらの考えていることと反対のことをはっきり言うので、仕方なく調子を
合わせて返事などしていると、長官は、今夜はとても早く帰って行った。
長官は道綱を毎日のように、呼び寄せるので、道綱はいつも出かけて行く。
女性たちに喜ばれる描き方の絵が長官の家にあり道綱が持って帰って来た。



道綱は懐に入れて持って来たので見ると、寝殿造りの釣殿の高欄に寄りかり
池の中島の松をじっと見つめている女が描いてあり、歌を書き貼り付けた。

いかにせむ 池の水なみ 騒ぎては 心のうちの まつにかからば

どうしよう 池の水波が騒いで中島の松にかかるようなことになったらと。
どうしよう あの人がほかの女に心を移し 私を裏切る事になったらとも。


「たくさん恋文を書いているようだ」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



独り暮らしの男が、手紙を書きかけ始めて途中でやめて、頬杖をついて
物思いにふけっている所に

ささがにの いづこともなく ふく風は かくてあまたに なりぞすらしも

蜘蛛の糸を 風があてもなく吹き散らすように この人はあちこちの女に
たくさん恋文を書いているようだと書き道綱が長官の家に持って行った。



こうして、長官からはやはり同じ事ばかりで、殿に結婚を催促して下さいと
いつも言ってくるので、あの人の返事を見せようと思って、こんなことばかり
言ってくるので、こちらでは返事に困っていますと話しておいた。



時期は言ってあるのに、どうしてそのようにあせるのだろう。
八月になるのを待つ間に、そちらでは華やかにもてなしていらっしゃるとか
世間で噂しているようだ。長官の事より貴女の事で、ため息が出るよと返事。
冗談だろうと思っているうちに、何度もそう言ってくるので、不思議に思う。



私が結婚を催促しているのではありません。ひどくうるさく言ってくるので
すべて、私に頼む事ではありませんと言っていますのに、相変わらず
同じことを言ってくるようなので、目に余って相談しているのです。


「立てもふすも飼葉桶を置くという縁語」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



ところで、私が華やかにもてなしているとは、どういう事なのでしょう。

いまさらに いかなる駒か なつくべき すさめぬ草と のがれにし身を

今さらだれが寄りつくでしょう 馬でさえ喜んで食べない枯れ草のように
世を逃れてしまった年寄りの私なんかに、あぁ、憎らしいと書いて送った。



長官は、やはりこの四月のうちに望みをかけて、責める。
この頃、例年と違って、ほととぎすが邸宅を突き通すように鋭く鳴くので
不吉な前兆だと、世間では騒いでいる。長官への手紙の端に例年とは違った
ほととぎすの鳴き声にも、世間では不安に思っているようですと書いた。



長官へ、酷く恐縮しているように書いたので、長官も艶っぽい事は書いて
来なかったが、道綱が、馬の飼葉桶(かいばおけ)を暫く貸して下さいと
言って借りようとしたところ、長官は、例の手紙の端に、道綱に事が
成就しなければ、飼葉桶も貸せないと申し上げて下さいと書いてある。



こちらからも、飼葉桶(かいばおけ)は、立てたる所があるようですから
お貸し頂くと、かえって面倒な事になるでしょうと書いて送ると、折り返し
立てたる所があるようにおっしゃっている飼葉桶は、今日明日にも、うちふす
べき所がほしそうです。私もそちらで臥すべき所がほしいですと書いてくる。

立ても、ふすも飼葉桶を置くという縁語になるが臥すと掛け遊んでいるよう。


「着物の下前に歌を書いて縫い付けた」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



四月が終わると、長官との結婚は遠い先の事になってしまったので
長官はすっかり気落ちしたのか、連絡もなくなり五月になった。
四日に、雨がひどく激しく降っている頃に、道綱へ晴れ間があったら
申し上げなければならない事がありますので立ち寄ってくださいと。



母上には、私の前世の宿縁が思い知らされて、何も申し上げませんと
お取り次ぎ下さいと言ってきたので、このように道綱を呼び寄せながら
長官は、特に話す事もなくて、とりとめもないことを言って帰す。



今日、こんな激しく降る雨にもかかわらず、私と同じ所に住んでいる人が
ある神社にお参りに出かけたが、差し支える事もないからと思って私も
出かけようとしたところ、侍女が、女神さまには、着物を縫って奉納するのが
よいそうなので、そうなさったらと、そばに寄って来てささやいてきた。



では、試してみようと言って、糸を固くしめて織った無地の絹の雛人形の着物を
三枚縫い、なぜか、それぞれの着物の下前に、歌を書いて縫い付けた。

しろたへの 衣は神に ゆづりてむ へだてぬ仲に かへしなすべく

この白い着物は神さまにお供えします 私たち夫婦の仲を 昔のように
隔てのない仲に戻して下さいますようにと言う歌を縫い付け、他の歌も。


「侍女も起きて格子を上げたりする」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



雛人形の着物を三枚縫い、その着物の下前に、歌を書いて縫い付けた。
殿の愛が薄れた嘆きを書き込んだが、神はお知りになったであろうか。

しろたへの 衣は神に ゆづりてむ へだてぬ仲に かへしなすべく

白妙の羽衣は神様にお返しいたします、そうですから兼家さまと
私の仲を昔のように中睦まじくしてくださいませ



唐衣 なれにしつまを うちかへし わがしたがひに なすよしもがな

着古した唐衣のようになってしまった我が夫を 衣の褄を返すように
我が夫を私の言うままになるような方法がないものでしょうか



夏衣 たつやとぞみる ちはやぶる 神をひとへに 頼む身なれば

女神様のために夏衣を裁って参りました、その神様の単衣にすがって
ひとえに頼む我が身でありますから

日が暮れたので急ぎ帰る事にした。



夜が明けて、五月五日の夜明け前に、兄の長能(ながよし)がやって来て
今日の菖蒲は、どうしてまだ葺(ふ)いてさし上げないのですかとか
夜のうちにしておくのがいいのになどと言うので、召使が目を覚まし
菖蒲を葺いているようなので、侍女も起きて、格子を上げたりする。


「騎射の見物へ一緒にと言ってくる」

「Dog photography and Essay」では、
愛犬ホープと歩いた道と「愛犬もも」との物語を公開してます。



端午の節句に、軒に菖蒲を葺くのは、邪気を払い火災を防ぐ習わし。
しばらく格子は上げないで、ゆっくり工夫して菖蒲を葺こうと言う。

その方がご覧になるにも良いと言うが、みな起きてしまったので、
あれこれ指図して菖蒲を葺かせるが、風が吹いているので
あやめの香りが、すぐに漂ってきて、とても趣がある。



簀子(すのこ)に道綱と二人で座って、ありとあらゆる木や草を集めて
珍しい薬玉を作りましょうなどと言って、せっせと手を動かしていると
この頃では珍しくもないけれど、ほととぎすが群れをなして
厠の屋根にとまっているなどと、人々が騒いでいる声がする。



ほととぎすが、空を飛びながら二声、三声鳴くのが聞こえ心安らぐ感じた。

あしひきの 山ほととぎす 今日とてや あやめの草の ねにたててなく

山ほととぎすは今日五月五日と決めて 菖蒲草の根にあやかって高く声たて
鳴いているのかなどと言わない人がいないほど、歌って遊んでいる。



少し日が高くなる頃、長官が、騎射の見物へ一緒にと言ってくる。
道綱が、お供しましょうと言ったところ、しきりに、早くなどと言って
使いが来るので、道綱は急ぎ出かけて行った。


「BACK」へ 「Dog photography and Essay」へ 「NEXT」へ


Copyright (c) 1997-2020 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.