源氏物語〔22帖 玉鬘8〕
源氏物語〔22帖 玉鬘8〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語22帖 玉鬘 (たまかずら) の研鑽」を公開してます。姫君のことを片時も忘れずに恋しがっていた右近が、今また現れた。この女は、年月が過ぎるごとに、姫君への思いが深くなり、女房として仕えることに気が滅入り、心の慰めにこの寺に度々詣でていたのだ。右近は、長い間徒歩での旅に疲れた様子で、横になっているのが見受けられた。豊後介は幕の所に来て、食事の用意をしていた。「これを姫君に差し上げてください。膳や食器は寄せ集めのもので、まったく失礼なものです」と、彼は言った。右近はその言葉を聞いて、隣にいる人物が自分たちと同じ階級の人ではないと思った。幕の所に寄って、その男の顔をのぞき見たが、どこかで見覚えのある顔だという気がした。誰なのかはまだ分からない。右近は豊後介の若い頃を知っていたが、今の彼はすっかり太って色も黒くなっており、すぐには思い出せなかった。「三条、お召しですよ」と呼ばれた女が出てくると、それもまた昔見たことがある人物だった。かつて夕顔夫人の下の女房だったが、長く使われていて、五条の隠れ家にも来たことがある女だと右近は気づいた。右近はその時、まるで夢の中にいるような気持ちになった。主人の顔を見たくても、自由に覗き見ることができる状況ではなかったので、どうしようかと悩んだ末、右近は三条に尋ねてみることに決めた。「兵藤太と首言われた人も、この男だろうか。姫君はここにおいでになるのだろうか」と、右近は急ぎながらも不安な気持ちを抱えた。幕のところから三条を呼ばせたが、熱心に食事をしている女はすぐには出てこなかった。右近はそれに苛立ちを覚えたが、それは自分が勝手すぎたことだと後で思い直すことになった。ようやく三条が出てきた。「どうもわかりません。九州に二十年も行っていた卑しい私たちを知っている京のお方様がいるとは、お人違いではありませんか」と、三条は答えた。真赤な掻練を下に着て、身体も太くなっていた。右近はその姿を見て、自分の年齢を感じ、恥ずかしさを覚えた。