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碁法の谷の庵にて

2006年01月23日
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 「あなたは無実の罪でつかまってしまいました。20年もの間、最高裁判所まで争い、あなたはその間ずっと身柄を拘束され続けました。
 おめでとう。あなたにはアリバイが見つかり、見事に無罪放免を勝ち取りました



 しかし、これでめでたしめでたしなど裁判小説としても三流である。


 あなたは20年以上閉じ込められ続けたのである。当然世間から隔絶されたところで、自由かつまともな社会生活は送れなかったわけだ。仕事だってなくしているだろう。誰かが養ってくれるというわけでもない。
 誰がその分埋め合わせてくれるんだ!!と悲鳴の一つも上げたくなるだろう。


 今の日本には、刑事補償法と言う法律がある。
 無実の罪にかけられて訴えられた人には、国が税金から補償金を払ってくれるのだ。この権利は憲法40条でも保障されている。司法試験にも今年関連問題が出ていた。


 免田事件と呼ばれる名高い死刑再審無罪事件で34年以上身柄拘束そのうち31年7ヶ月は死刑囚として身柄を拘束された免田栄さんには、刑事補償として9070万円あまりが支払われた。
 同じく死刑再審無罪事件の松山事件で再審無罪となった斉藤幸夫さんは、獄中生活28年余り、死刑囚生活23年半で7500万円あまりだ。


 けっこうな金額と思われるだろうか?ムーミンの彼女ですよ(古)。(昔はノンノンといったのだ) 
 死刑囚なら毎日朝起きるたびに死の恐怖とご対面である。再審を請求している間なら死刑が執行されないという確証などない。それで人生の半分近くを閉じ込められ、恐怖で過ごさせられた慰謝料や、外で働いていれば得られたであろう相応の社会的地位や収入、名誉も残らずひっくるめて考えてみれば、高いとは私には思えない。最近日弁連が問題視しているが、免田さんの場合、年金の加入・支払ができなかったため老後の今年金が受けられなかったりもするのである。
 というのも、刑事補償法は、「ある一定程度の金額」を支払うことしか約束していない。金銭の支払の計算方法には裁量の余地があるので、実際の損害を多少考慮に入れて計算されるだろうが、実際に起こった損害を全部賠償してくれるわけではないのだ



 全部賠償してもらおうと思ったら、公務員の不法行為に当たる、として別に国家賠償を請求するしかないことになる。

 だが、先週木曜日、窃盗容疑で逮捕・裁判されながら途中で真犯人が見つかり、検察が無罪判決を求めるするという異例の進行を遂げた事件で無罪になった元被告人の男性が、刑事補償とは別に国家賠償を請求した裁判で、訴えは斥けられてしまった
 他にも、先述した死刑再審無罪となった斉藤幸夫さんも、刑事補償のほかに国家賠償を求めて訴えたのだが、こちらも斥けられている

 それどころかこの手の国家賠償の裁判で、国への損害賠償請求が認められたことは一度もないと言う。



 間違った裁判をやったのにどうして全部支払ってくれないの?と言う意見はまあ一見すれば普通の思考だろう。
 しかし、裁判所はそんな考え方には立っていない。


 そもそも裁判と言うのは、「疑わしい人」を裁判にかけるのである。もしかしたら無実かもしれないけども、訴えて、有罪ではないですかと言う証拠を出して検討してみる。それが裁判の姿だ。もちろん無実の人間が起訴されないのは望ましいけれども、そうやって全部無実の人を起訴したら違法としてしまったら、処罰すべき人間が起訴できないおそれもある
 つまり、元々間違った人間を起訴してしまうことは、法律の想定の範囲内なのである。だから、例え判断ミスがあったとしても、それは法律が想定している範囲内。起訴を決定した検察官の判断が違法だ、と言うのは難しいのである。


 じゃあ再審で無罪の場合は?間違った有罪判決のせいでひどい精神的苦痛を蒙ったはずだ。
 しかし、これも裁判所は厳しい要件を課している。

 当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合にはじめて右責任が肯定されると解する
最判平成2年7月20日、原告は斉藤幸夫さん)

 というのだ。あまり判決に詳しい理由が書いていないのだが、私自身の見解としては、裁判官は元々自由に合理的な事実認定をし、その心証で判断をすることを保障されているので、そこに判断ミスと言うことが入るのも、法律の想定の範囲内。裁判官は何か違法なことをやったのですか?と言うツッコミには耐え切れないと考えられているのだ。
 それでも発生した犠牲者は国家賠償ではなく、刑事補償でなんとかしましょうよ、というのが、今の法の建前だというわけである。


 刑事補償が国家賠償のときと同じくらい厚く補償してくれればそれがいいのだが・・・。



 ただし、これまでしてきたのはあくまでも「間違った起訴」「間違った判決」の話。
 捜査をするために拷問をしたりすることは最初から問題外である。もちろん問答無用。例え容疑が真実であっても賠償金が取れる
 もっとも、密室で行われるそれは、現実には立証が大変である。実際、今回のそれは証拠が十分にそろわず、その点に賠償が認められなかったという。


 刑事裁判は、本来判決が終われば終了である。私の得意分野も刑事訴訟法であって、それ以降は耳学問に毛が生えたようなもの。刑事補償や国家賠償のあり方なんて、私にとってははっきり言ってただの司法試験用の勉強だ。
 でも、当事者にとっては刑事裁判が終わった後も、戦いは終わらないのである。






最終更新日  2006年01月23日 17時41分06秒
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