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碁法の谷の庵にて

2006年06月23日
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 私が、山口光市の妻子殺人事件に、最も本格的に興味を持ち出したのはやはり最高裁になってからだろう。


 そう、ここでしつこいほど扱ってきた、弁護人である安田好弘・足立修一両弁護士への欠席事件や殺意なし、ちょうちょ結び云々の弁護活動に対するバッシング活動を見てからである。
 もともと、「タテマエの法 ホンネの法」を愛読(この話もどうぞ)したりもしていたので、まだ実務家になってないそばから世論・マスコミと弁護士の弁護活動の犬猿の対立は気になっていた(あの本では隣人訴訟や黙秘権を巡る世論と法の軋轢も扱っていた)ところであるが、今回は、その争いがとても尖鋭的な形で現れたように思える。
 私自身、この手の問題に興味を持ったのは2年半ほど前。ちょうど刑事弁護人論に興味を持った頃と共通する。そしてそれ以降初めて起こった大規模かつえげつないバッシングかもしれず、それだけに世論の動きには注目していた



 最近有名な弁護士バッシング事件と言えば和歌山の砒素カレー事件だが、そもそも砒素カレー事件は弁護テクニックの一つが非難されただけ(決して些細な問題ではないが)地裁で裁判所が黙秘権の必要性を訴え、さらに高裁に入って黙秘がやむと弁護団への非難も衰退していったような印象を受けた。

 だが、今回は最初から悪人を弁護する弁護人は許せないという感情が露骨に現れ、もっと弁護活動の根幹を揺るがすような非難が相次いだ。
 不出廷批判で済んでいるうちはむしろよかったのかもしれない。不出廷と言う事態が非難されただけで、不出廷しなければ大丈夫とも言えたからだ。(もっとも、不出廷の時点で安田弁護士の事務所にかかってきた抗議電話は最初から弁護するなと言う趣旨のものが大半だったようだが)

 不出廷事件に限れば、弁護士会の方に懲戒請求がされているし、今後動きがあるかもしれない。弁護士と被告人の間関係は例え裁判所であっても本当のところを見ることはできないので、よそから見えた情報だけで正不正を断定することはとても難しい。この問題を考えるなら、5月8日の東京新聞特報や「現代」に掲載中の安田弁護士側の言い分には一応当事者の言い分として目を通す必要があるだろう。(全面信用しろというわけではない)
 懲戒委員会の方で何か分かることがあればそれに越したことはないが、過度の期待はしない方が無難である。



 それにしても、判決を受けて、「ほら見ろ」タッチで弁護人を非難する人々ひどい短絡思考である。

 判決の通りに弁護人が主張しなければならないとでも言うのだろうか?弁護人は最大限被告人に有利な観点から観察判断しなければならない。こいつはくさいなと言うので処罰するのではなく、真の意味で「疑わしきは罰せず」を担保するためには、弁護側にはある程度無茶に見える理屈だって主張していく義務があるといってもよい。死刑判決が下されれば、弁護士が提出する上訴趣意書の99%には、わずか数行の文章でつっぱねられることは百も承知で「死刑は憲法違反」と書かれる。
 主張して、後は裁判所が判断すればよいことで、裁判における主張自体を擁護することと、裁判所の出した主張を退ける結論を支持することは何の矛盾もない。もっといい理屈はなかったか、と言う批判はできても、主張するなとはむちゃくちゃだ。

 私には、手続的正義と言う考え方が「全く」理解できない人たちが今回の騒動の原動力になったと思える。(こちらの話もどうぞ)
 普通に暮らしている分には理解しないで全く問題ない考え方なので、理解できないなら仕方ないが、それで刑事弁護に文句を言うのは、囲碁・将棋のルールを知らないのにプロ棋士の着手に文句を言うようなものである。



 さて、弁護活動の根幹を揺るがす非難は誇張抜きで弁護活動にとっては危機的状況だと感じる。

 今はインターネット全盛の情報化社会。大規模な事件であればあるほど、弁護士への非難は全国から殺到するようになる。このままでは今後、死刑が考えられるような有名な事件は、誰も扱おうとしなくなるのではと思えるのだ。
 ただでさえこのような事件は仕事量が多くて精神的にもきついし、と言って金にならないし、他の仕事に支障が出ると私の知る法律関係者は口を揃える。「法廷で大論陣張って冤罪を暴く」なんてのに憧れる人も多いが、実際には滅多に起こらない。
 元々、国選弁護人の場合、弁護士会が弁護士を推薦してその人を裁判所が選任するという形式でやっているそうだが、その手の事件ではなり手がおらず、歴代の会長・役職者や刑事弁護関連の委員会の人が引き受けてきたという。弁護を強制しているわけでもないのに、弁護人不在と言う事態を回避してきた関係者の労と使命感には心から敬服する。
 今回は私選のようだが、それでも死刑事件の弁護は赤字ではないか。(弁護士の方が書いたこの記事を見てね)この手の被告人が金を持っていると思えないし、金があって罪を軽くしたいなら弁護士費用以前に被害者への賠償に使うだろう。
 その上、これからは法科大学院制度発足で弁護士増員、競争が激しくなることが予想されるご時勢金にならない刑事弁護、ましてや他に響く重大事件の弁護は絶対嫌という人は増えかねない。嫌なら強制選任すればよいというものではない。手抜き弁護から冤罪と言う最悪の事態もありうる。


 こんな状況の上で、ましてや今度のようなバッシングが起こっては、誰も怖くて引き受けられない
 不出廷しなければとかそんなものではかわしようがないのである。苦しくても理屈を作ってともかくも主張するという弁護の基本を守れば、それだけで非難されることが明らかになってしまったためだ。実際にそれをしないで手抜き弁護と見られれば逆に弁護士会に懲戒されても文句は言えないし、まさしく進退窮まってしまう
 激務に追われながら嫌がらせ電話に耐えるのは辛いし、弁護士の家族が巻き添えになりかねない。他の仕事がなくなれば家族を食べさせられない可能性もある。まだ依頼を受けていない被告人より自分や家族を守る方が大事なのは当たり前である。弁護士は公共奉仕せよみたいな精神論を説いたってどうにかなるものではない。

 

 はっきり言って、今の世に蔓延る弁護団への感情主体で理屈はオマケの非難(そうでない批判もあるのはもちろんだが)を言い負かすなど、まともな法律家ならアリ一匹ヒネり潰すも同然であろう。そこには大衆vs知識人の階級対立はなく、「勉強した人間の言うことは論理的で重厚、勉強なしでは論理も通らず薄っぺら」と言う、世の発言力に関する当然の原則があるだけである。

 だが、どれだけケチョンケチョンに言い負かしたところで、何の問題解決にもならない。対立が深まっただけである。

 効果がありそうなのは情を理で抑え込む事ではなく、国民に弁護活動にまつわる基本的な事実を伝えて、その上で考えてもらうことである。
 評論家やマスメディア、論客には北風一般の方々には太陽で臨む。この記事に出した判例の判決文を一度本気で読み、考えてもらう。それだけでと言っても慣れない人には一苦労だが、天地の差があると思う。(判決文を用意したのでこちらをどうぞ)


 だが、本来そのために働いてもらわなければならないマスコミ、特にテレビ関連メディアは、情緒的日本社会で視聴率を稼ぐべく、感情をあおることしか能がない。
 この問題に関して、討論形式を取って出させた弁護士を、相手のハチャメチャな剣幕とタレント加勢でリンチ同然にして、返答しにくい状態にして、その状態を晒し者にするような番組が、関西を中心に放映されたという。
 この番組、関東では放送されてないので詳しくないが、関東でも関係者を出演させてみのもんたが正義の味方気取って関係者に説教をするような番組は放送されている。みのもんたやそういう番組を作るプロデューサーは何様だと思う。そして、出させてさらし者、という番組の質は同じである。
 この手の人を貶す番組に対しては、俗悪・愚劣・傲慢・悪辣陰険というような負の評価以外は私にはできない

 差戻し判決当日の報道ステーションは興味深く見させていただいたが、あいかわらず弁護士が死刑廃止論者である旨をばっちり強調。死刑廃止論者の立場からああいう行動をもたらしたと言いたげである。死刑は憲法違反とでも大演説をぶったのならともかく、現実にはそうではない。


 こうしてみると、マスメディアの支援は当分期待できない。法律家は法実務に追われざるを得ず、根本的啓発もできない。国民自身が何とかするのを待つのも、現状を見る限り「百年河清を待つ」だろう。カレー事件の弁護士叩きから7年余、河清の気配はない。




 だが、この事件が突きつけた弁護活動叩きのでかさは、もはや警戒体制MAXが弁護士たちにとって必要であるということさえ突きつけているようにも思われる。



 そういう意味では、この事件は隣人訴訟事件のように、日本の近代裁判制度の歴史に残ってもおかしくないくらいの事件だったのではあるまいか。
 
 ちなみに、現在人道に対する罪で死刑求刑されているサダム・フセイン前イラク大統領の弁護人は、3人ほども殺されているという。
 弁護士の悪口のことわざも多い(ここも見てね)。こうしてみると、ほとほと弁護士と言うのは因果な商売である。





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最終更新日  2006年06月23日 12時52分24秒
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