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碁法の谷の庵にて

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2010年08月31日
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カテゴリ:法律いろいろ
 刑事裁判で必須なのが、法廷に立ってもらう証人の存在です。
 証人の目撃証言、医者の鑑定証言などがなければ、立証不可能に陥る犯罪は少なくありません。
 また憲法では、被告人の権利として、強制的手続でもって証人を呼び出し尋問する権利も保障されています(憲法37条2項後段)。例えば被告人のアリバイを知っている証人がトンズラをしようとしている場合であっても、被告人としては裁判所の力を借りて、偽証罪の脅しまで使って、彼の認識に従い、自分のアリバイを証言するように迫ることができると言う訳です。
 また、一旦裁判所から「お前証人やれ」と言われたら、強制的に裁判所に連れ出されます。嘘をつきませんと言う宣誓も処罰を用いて強制されます。証言拒否も処罰の対象です。さらに嘘をついたら偽証罪です。
 
 ちなみに、警察や検察段階で質問され、調書を取られることも少なくないですが、そんな調書も被告人・弁護人が同意しなければ証拠に採用することが原則として許されていません。




 しかし、実際の刑事裁判では、その手の事実関係の立証をするために証人を呼び出すケースはそんなには多くはありません。
 残念ながら統計を知らないので断言を避けなければいけない部分はありますが、私が何十件と傍聴した限りで、証人として多いのは事実関係の立証に呼び出されるのではなく、「被告人については私が監督するので刑を軽くしてもらいたい」というような、いわゆる情状証人が多いのです




 さて、そういった情状証人を呼び出す場合について少し語ってみましょう。

 日本の刑事裁判では、事実関係について、被告人自身争う意思がない場合がかなり多いです。やったやってないに限らず、例えば殺意等の故意があったなかったという点まで争わない、と言うことも別におかしな話ではありません。
 そうすると、弁護人の主な活動は情状面で被告人を弁護することに移ります。
 また、仮に殺意等がなかったと一部否認する場合でも、傷害致死や重過失致死などに落ちたとしても犯罪であることには変わりない以上、被告人のその後を考えれば、情状に関する弁護活動は並行して行わなければならないことが多いです。

 そのような場合、弁護人が取る弁護活動の「一つ」が、情状証人を呼び出すやり方です。

 大多数は、被告人の家族(親、配偶者や婚約者、高齢なら子ということも)、場合によっては仲の良い友人や被告人の雇主、地域の有力者などに頼んで、「今後私の方で監督しますから、処罰を寛大にしてあげてください」と供述してもらうと言うことです。
 昨年の社会を明るくする運動などでも、「人は変われる、一緒なら。」と高名な歌手の谷村新司氏のでかでか写っているポスターで書いてあったりします(今年は文章は変えてありますが谷村新司氏が起用されており、この運動に造詣が深い方です)が、支えてくれる人がいるかどうかで、おのずと彼の再犯への可能性も減っていく、という意識がある訳ですね。
 また、平成21年の犯罪白書では、聞き取り調査で窃盗や覚せい剤(累犯が多い犯罪です)での更生意欲のかきたてに、家族とのつながりを失いたくない、なんて解答があり、保護司の多くが、犯罪者の改善更生には家族関係の改善が重要だと指摘していたりしています。
 実際この辺りは量刑にある程度は影響すると言われていますし、裁判官も情状証人がたてばまずは判決の量刑理由では一言触れますし、弁護人だって、罪を軽くするという任務に限らず、自分の弁護した被告人が本当に罪を犯したのならば、今後罪を犯すことのないように願うのは人間的な感情は普通のものでしょうね。(もちろん、その「~ならば」までたどり着くのは大変ですが)

 普通、弁護人は被告人と会って(会いすらしないのは弁護過誤か懈怠を疑われる可能性が高いです)、家族がいるかどうか聞きますが、それにはこんな狙いもあると思っていてよいでしょう。




 さて、ここからシミュレーションを開始します。

「あなたの配偶者Aは、ちょっとした気の緩みで飲酒運転をしてしまい、それで被害者(B)をはね、全治4カ月の重傷を負わせてしまいました。
検察の方は、酒酔い運転&自動車運転過失致傷の二つの罪でAを起訴しました(危険運転致傷までは検察は踏み込んでこなかったとします)。Aも飲酒運転で事故を起こしてけがをさせたことを争う気はないようです。
弁護人Cは、Aからあなたのことを教えてもらい、「実刑の可能性もある事件だし、情状証人で法廷に立ってくれないか」と頼んでいます。」


 最初に証人を強制するような話をしましたが、情状証人と言うのは本人に支えてくれる気がなければ全く無意味である以上、強制的手続を用いて呼び出されることはちょっと考えにくいでしょうね。

 さて、あなたは配偶者には刑務所に入ってほしくないと思ったし、今後飲酒運転をしないように監督しますと言うことを法廷で話すことを決め、弁護人に伝え、公判の当日に出席することにしました。(どうしても公判当日に行けない場合、文章で上申書を書く例もあるようですが、公判には行くのが原則だと思っているべきでしょう)

 こういった証人は、公判当日は、普通は弁護人と待ち合わせて法廷に行き、裁判の最中は傍聴席で待っていることが多いです。
 当日の格好ですが、正装をする必要まではないと思いますが、かと言ってあまりにだらしない恰好、過度に華美な格好ではこの人は犯罪の重大さを認識してないんじゃないか、そんな人は監督者として大丈夫なのだろうかと疑われても文句は言えない可能性が出てきます。
 個人的意見ですが、被告人のためを思うならば一応人前に出られる格好で行くに越したことはないでしょう。

 さて、傍聴席に行くと、証人になる予定の人が書くカードが置いてあります。そこに、あなたの名前と住所・生年月日を書いて、それにハンコをついて待っていましょう。ハンコがない場合は指紋を押します。

 手続が進むと、あなたは裁判官から呼ばれるので、そうしたら法廷に入って行き、あなたのプロフィールが証人カードに書いた通りで間違いないかどうか確認された上で、宣誓文を読み上げて宣誓をすることになります。その上で、偽証罪の告知を受けた上で、証言に入ります。
 本当は証言拒絶権などの告知もするのですが、実務上は特に証言拒絶の可能性があるような証人を除けばやっていないことが多いです(それでいいのか、と言われるとちょっと困りますが)。
 また、この手の情状証人を偽証罪で・・・と言うことはまずないと思いますが、弁護人としても嘘をついてでも有利に証言しろとは言わないでしょう(それこそ弁護士倫理違反の恐れ)し、当然ながら嘘はつかないようにすべきですし、もし被告人に有利に証言したいなら、嘘を言わずに被告人に有利なことを言えるように、自分や被告人の環境を整えておくのが吉です。

 証言は、まず弁護人の方から質問がなされるので、それに一問一答で答えていけばよいでしょう。裁判官の方を向いて、できる限り大きな声で話すようにしてください、と弁護人の方から声がかけられることが多いです。
その上で弁護人の質問が終わったら検察官が質問をしてきます。
最後に裁判官が質問をします。
 その後追加で質問がされる場合もあるのですが、情状証人で、どこかのゲームみたいに「異議あり!」等と言うようなぎちぎちとせめぎ合うことは少ないと思っていてよいと思います。


 さて答え方にどうすればよい、と言うのをあれこれと指示すると、一歩間違えると偽証教唆にもなりかねないのですが、一つやっておくべきことは、被告人と事件のこと、そして今後の生活について話し合っておくことでしょう。弁護人や検察官から聞かれるのも、そう言うことが多いですし、今後の見通しが立っているかどうかは重大問題です。裁判前に見通しを立てている人の方が、「この人になら任せられる」と安心できますよね。
 被告人が逮捕勾留されていて保釈もされていない、接見も禁止で手の打ちようがないと言うのでは仕方ありませんが、被告人が在宅ならその時間を取っておくべきですし、勾留されていても接見禁止でないのなら会いに行くことは可能なはずです。

 今回の事件なら、何故Aさんが飲酒の上運転し、挙句に事故を起こしてしまったのか一緒に振り返ってみるとよいでしょう。
 また、飲酒運転であれば、飲酒運転を引き起こす要素は酒と車です。今後の生活でAをどうやって監督し、酒、あるいは車から引き離すか、と言うのを話し合うに越したことはありません。
 こうしたことを被告人交えて話し合っておいた上で裁判所で語るのは、単に裁判所で裁判官や裁判員の心証云々の問題に限らず、裁判を一つのきっかけとした被告人の更生意欲のかきたてにも役立つはずです。


 ちなみに、証人には日当がおります(!)。義務として呼びつけた以上、日当を払うのが当然、と言う訳ですね。
 ただし、実際にはこれは放棄される場合が多いようです。と言うのも、日当は訴訟費用として基本的には被告人の負担になるので、一歩間違えると被告人の負担を増やしてしまうことになる可能性が高いためです。





 私も何件も裁判を傍聴してきて、色々な被告人&情状証人を見ています。
 この人大丈夫かなぁ、と思う人も、この人になら任せてもいいんじゃないか、と思う人も何人か見ています。
 しかし、裁判の後、人が付き添って生活を見ることが、彼の更生を助けます。更生は決してきれいごとではなく、無期懲役や死刑のような罪を濫発できない刑事司法のもとでは重要な犯罪抑止の一翼です。
 情状証人として立つことがもしあったならば、そうした重要な役割の第一歩であるということを自覚した上で、誠実に証言していただき、今後に向けて決意するきっかけにしていただければなあ、と思います。





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最終更新日  2010年08月31日 19時47分20秒
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