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碁法の谷の庵にて

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2014年08月12日
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カテゴリ:その他雑考

金田一少年の事件簿「剣持警部の殺人」。
少年法批判の作品として有名な作品ですが、私に言わせれば

「リアル少年法批判の作品としては0点である」

 

これ以上の評価はできません。


作者に少年法批判の趣旨がなく、作中世界の法律とリアル法律は全然違うんだ、というのであれば、それはそれで物語の演出としてアリだろう、とも思っています。
バトルロワイヤル法がリアル法律と違うわい!!と騒いだら滑稽ですよね。


それでも、現実に同作をリアル少年法への批判作と位置づける人は多くいます。
実際、リアル少年法への批判が主題であるとなれば、それでは済まされません

現実に、本作は少年法への批判が主眼であると言われる作品です。(一例としてこちら
もしそれが作者の意図であるとするならば、同作も少年法をはじめとする法的考証は不可欠なものであるはずです。
ところが、少年法をはじめとする諸法令に対する理解が全くお粗末で、もしこれが少年法批判を主題にしているのだとすれば「意図して少年法を悪い法律にして叩いている」だけの作品という評価しかできないので、それを上げていこうかと考えています。

なお、「推理モノ」としての評価や、冤罪を生み出しながら処分どころか目立った反省の素振りも見せない剣持警部については、思うところもありますがここでは触れません。
また、最近も少年法改正(有期懲役の上限を上げるなどの厳罰化を含む改正です)が行われていますが、連載されていた平成21年(2009年)当時の法令をベースに記載していくこととし、法改正は個別に言及するにとどめます。
もうひとつ、この作品は近々アニメ版が放送されるようですが、これはあくまで原作単行本ベースであることをご了承願います。アニメでもしかしたらこの辺の問題点は改善されているかもしれませんので念のため。



一、軽すぎる少年たちへの処分

これが一番ひどくて目立ちますね。

少年たちが十神まりなを死に追いやった最初の事件。
元の事件は殺人まで行くのは難しいでしょうが、監禁致死罪にはなります。監禁から逃げようとした結果窓から転落死、という経緯が真実と認定されている限り、監禁致死罪が成立するでしょう。
被害者が執拗な暴行を受けて逃げ出し、10分後に800m離れた高速道路上に出てしまい、高速道路の車にひかれて死んでしまったという事例でも、「あれは交通事故だ!」などという被告人の主張は認められず、最高裁で致死罪の成立が認められています(最決平成15年7月16日で、連載中の時点でも既にこの判例は出ています)。

初犯であろうと思われる(いろいろ別の非行を押し付けられていたようですが、それでも少年院などに入った経験はないと思われます)毒島が懲役3年の実刑になったことも、それを裏付けています。
単純な監禁や暴行・死体遺棄で初犯に3年の実刑は考えにくいと言わざるを得ません。

作中で多間木は「死亡は事故だ」とか言っていますが、そんなんで致死の成立を逃れられるほど日本の刑法は甘くはありません。(事故的な要素もあったということで刑を軽くしてくれ、と主張するくらいは弁護・付添側としてはやるでしょうが…)
監禁致死罪が成立するとなれば、「命令されてやったんだ」というそれだけのことを理由に1ヶ月で少年鑑別所から出てきて保護観察とか不処分で終了、なんてまず考えられません
監禁致死罪なら原則検察官送致とする規定に引っかかります(少年法18条2項、ご丁寧に犯行当時全員16歳以上です)。仮に原則逆送の規定の例外として逆送せずであったと仮定しても、少年審判で少年院送致は必至と言えます。
命令されたから…というだけで、こんな死亡事件が保護観察に落ちるなんてことは到底考えられないのです。
それこそ、毒島に24時間つきっきりでずーっと殺すぞと脅されてやむを得ずやっていたというくらいで、それでも少年院であろうと思われます。毒島がずーっと側にいたのでない限り、警察に駆け込めばよかったからです。

仮に、何らかの原因で事実関係が曲がってしまい、致死が問われず、監禁のみで済んでいたと仮定しても、主犯が初犯で懲役3年になるレベルの監禁は認定されているわけです(毒島だけ監禁致死で他は単純な監禁では話が合わない)。
監禁の犯行態様も、作中で見る限り、放っておけば死の結果さえもたらしかねない酷い内容であったことが記録にはっきり残っていたことは描写されているのです。
それだけ認定されて、命令されていたからと言って検察官送致される事も少年院送致されることもなくさっさと出てくる、というのも、やはり考えられない措置です。
私が付添して、少年院に行った少年たちも何人かいますが、彼らが保護観察で済むなら私が付き添った少年は皆保護観察どころか不処分でしょう。

本件のもとになったとネット上では噂される女子高生コンクリート詰め殺人事件とて、主犯でなくとも5年以上7~10年以下の実刑になった少年が何人もいるのです。
監禁致死、あるいは相当ひどい態様の監禁を主犯の立場でやらかしたと認定されながら3年ですこっと出てきたり、そうかと思えばほか2名は保護観察や不処分で終了だなんて、どこの国の少年法なんだ?という感じです。

なお、このあたりについては近時法改正が行われ、少年に対するさらなる有期刑の厳罰が可能になりました。


二、事件を知らない父親?

多間木の父親は、多間木が猫をかぶっていたから何も知らなかったように描写されています。
しかし、これもはっきり言ってありえない現象と言えるでしょう。

少年審判は、成人の刑事事件と比べて家庭環境が格段に重視されるといえます。
当然、大病院の院長であるという父親本人にも家庭裁判所の調査官からの聴取が行くはずで、その過程で父親は多間木の行為について知るはずですし、少年審判にも保護者は呼び出され、原則として少年の隣に座ります(少年審判規則25条)。
警察も、おそらく被疑者段階から親に対して聴取をするはずです。行方不明ならともかく、大病院の院長として行方が丸わかりの父親なわけですし、私が過去に行った付添でも、大体連絡の取れる少年の親には家裁送致以前に警察段階で聴取が行っています。
湖森がどれほど握り潰しを目指して頑張ったところで、その全てを阻止することが可能であるはずはないのです。
もしどうあっても調査に協力したくないんだと父親が騒いでいかなかったとか、文字通り全く審判に関心を示さないまま本当に何も話さなかったとすれば、上記したとおりただでさえ皆無に等しい保護観察以下の可能性がますますゼロになっていくことも然りです。
万億にひとつでも、保護観察にしようとかいうことがあったならば、当然裁判所は親の監督について徹底的にチェックし、親がしっかり面倒を見られることを大前提にします。
ただ単に金があるとか社会的地位があるというだけで面倒を見られると判断するほど裁判所は甘くありません。
その意味でも、多間木の父親が事件を知らないのはありえないのです。(事件の詳細な背景は知らず、息子は命令されて巻き込まれただけなんだ、という認識でいることはありえなくはないですが…)


まあ、もし多間木の父親を庇って湖森弁護士があの場で何も知らなかったのだと嘘をついたのだというのなら、それはそれで見上げたものですが。


三、湖森弁護士の何が問題なのか

3人の弁護(少年審判の場合は「付添」)をした湖森弁護士は、毒島の告発の手紙を握りつぶした、という点が非難されています
しかし、湖森は多間木や魚崎の付添もやった身です。
作中では自分の娘の病気を治したいという動機が強調されていましたが、そんな動機以前の問題として、自身付添人をやった立場で、当該少年を告発するような行為は完全な弁護士倫理違反です。
無罪判決を受け、確定した、自分の弁護した被告人に対して「有罪だと思っていた」とメディア上で語った弁護士は懲戒処分を受けています。

しかし、湖森の弁護、少年審判なら付添になりますが、これはそもそも3人セットで引き受けたことが問題といえます。各人の言い分が全く同じなら良い、という考えもありますが、共犯者同士言い分が食い違うことは珍しくもなく、引き受ける段階でそこまで考えるべきであるし、そもそも論として非常に危険です。優秀な弁護士のやることではありません。

まして、さあ現実に言い分が違ってしまったぞ、となればその時点で付添の立場を辞し、別の弁護士にバトンタッチすることが必要だったはずなのです。

湖森弁護士は、告発の手紙を剣持に送ることは立場上出来ないと伝えることは必要であったでしょうし、そもそも共犯者3人の弁護を一人で受け持つなどということをすべきでなかったと言え、それでも受け持ってリスクが顕在化した場合の処理をきちんと行わなかったと言えます。
その意味での湖森弁護士の責任は重いと言わざるを得ず、その点に関して毒島に対する誠実義務を果たさなかった湖森弁護士が非難され、懲戒されることは当然とも考えられます(もっとも、裁判が終わってしまうと湖森弁護士に弁護人としての地位はないので、終わっていたとすればわざわざ送付する義務はなかったのですが)。
しかし、手紙を剣持に送付しなかったことそれ自体については、湖森に落ち度は全くない(そればかりか、やれば懲戒処分になること)のです。







一がメインで後の二つはおまけのようなものですが、同作の背景事情に過ぎないはずの少年法や刑事法・弁護士倫理の考証について、やはり見過ごすことはできないな、と思いました。

何より問題なのは、作中で「罪を犯すなら20歳未満」とか言うセリフを、20歳未満がたくさん読むであろう作品で言わせておいて(私自身も、金田一少年の事件簿は20になる前頃には見てました)、それでいて法的考証がこの程度、というよりやったのかどうか疑われるレベルであるという点。

 

少年法を実際以上に舐めるように印象づける運動は、少年法改悪と変わりません。


金田一世界の少年法はリアル少年法とは全然違います、というのなら、一部の評価は読者側の評価の暴走に過ぎず、作者個人を非難するのは酷というものかもしれません。
ただし、同作をリアル少年法への批判が主題の作品として捉えてしまうと、ろくな法的考証もないまま大きな問題を扱ったという意味で、ここまで評価の低い作品はない、と言えるのです。





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最終更新日  2014年08月23日 15時07分29秒
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Re:金田一少年の事件簿「剣持警部の殺人」は少年法批判の作品ではない(08/12)   はたは さん
少年法はただの悪い法じゃん。何言ってんの? (2016年05月02日 23時28分59秒)

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