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碁法の谷の庵にて

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2015年03月20日
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 弁護士と被害者の示談交渉が、最近しばしば問題になっています。
 



 まず、被害者には示談交渉に「応じる義務がある」わけではそもそもありません。
 交渉なんか一切合切突っぱねたい、法的に出るとこ出て解決します、あるいは、加害者からの金なんか一切受けとりたくないというのは被害者の自己決定として尊重されるべきことであり、それ自体は特に非難されるようなことではありません。
 このことをまず大前提として確認しておきます。

 その上で、びた一文貰いたくない、それで生活が苦しくなろうと、被害回復が遅れようと構わない(あるいは保険などの別口でもう回復されている)というのであれば、一切合切拒否するというのは一つの手でしょう。
 それを加害者やその弁護人が非難する資格はありません。



 しかし、「やはり金銭は欲しい」という結論の場合もありえます。治療代や当座の生活費に追われてしまうケースだって少なくないはずです。
 例え最初はいらないと思っていても後からそうした費用に追われ出してしまい、やはり欲しいという結論になる場合もあるでしょう。
 その場合には、示談交渉に応じないという選択肢はリスキーな場合が多いです。

 損害賠償の請求権は、示談に応じる応じないにかかわらず存在するでしょう。
 しかし、請求権を現実の金銭に代えるのは一苦労です。
 債権回収のプロでさえ不良債権に苦しんでいる昨今ですが、交通事故のような保険が整っているものを除けば、犯罪被害に伴う債権は不良債権の筆頭とも言うべきもので、金銭に代えるには並々ならぬ負担が必要なのが現状である、という認識は持っておく必要があります。
 



 その上で、示談に応じるかどうかを考えるにあたっては、下記の事実を知っておくと良いと思います。
 下記の事実を踏まえた上で、示談交渉に応じるかどうかは決めるのがよいでしょう。
 加害者弁護人としての立場ではなく、被害者側として相談に乗るケースであっても、私は下記のことを伝えて判断するように言います。(経験もあります)

一、手続は面倒orお金が掛かる!!
 示談交渉を使わない場合、相手から金銭を回収するためには、民事訴訟手続などの法的手続を使用しなければなりません。
 別途弁護士を頼むのでなければ、その手続は面倒なことになります。
 手続の面倒については弁護士を別途頼むということは考えられますが、弁護士も無償では仕事は受けられませんし、法テラスの支援による弁護士の依頼も全くの無償ではない(減免制度はありますが)ので、ケースによっては「素直にもらっておいた方が弁護士費用がかからない分得策」ということもあります。
 なお、かかった弁護士費用を相手方から全額取り立てることは現行実務上は難しいと言わざるを得ません。

二、例え裁判に勝っても回収できない!!
 仮に、民事訴訟や損害賠償命令等の制度を使って勝ったとしても、それで強制的に財産にできるのは、加害者個人の財産だけです。
 未成年者で親権者に監督責任などが問えるケースでなければ、「加害者の親族等の財産は取れない」のです。加害者自身に金銭や不動産などの換金可能な財産がなければ、どんな判決も紙切れです(一部自治体では、その辺支援する条例もあるようですが...)。
 仮に預貯金があったとしても、加害者自身の口座を調べるのも一苦労です(個人が心当たりのある銀行に照会しても、「個人情報」の一言で突っぱねられますし、弁護士会照会でも応じない銀行は多いです)し、調べたところでそもそも財産がある保証はどこにもないのです。

三、家族のお金を受け取れるのは示談交渉だけ!!
 二と重なりますが、示談交渉の際には流石に弁護士は原資を準備した上で交渉に臨み確実に受け取れるようにしますが、その金銭の出処は加害者自身というケースは少なく(ありえないわけではありませんが)、「家族が処罰されるのは忍びないから」という理由で家族などが出しているのが通例です(私が過去に持った被害弁償で加害者自身のお金から出した、というのは万引き事件だけでした)。
 当然、刑事裁判が終われば家族の処罰を軽くするという目的は達した、あるいは達しないことはもう確定してしまった以上、家族は原資を引き上げてしまう可能性は高くなります。道義的責任を感じているとかで原資を引き上げない家族もいるかもしれませんが、引き上げない義務があるわけではない以上、期待はできません。
 二で書いた通り家族の財産は強制執行できないので、もらえるものをもらっておかなかったばかりに手遅れということは普通に考えられるのです。
 なお、いくら被害者でも、監督責任を問える可能性があるケースでもない限り、「家族だから払ってもらいたい」などという交渉をすることは許されないでしょう。金融業者がやれば貸金業法違反、弁護士がそんな交渉をすれば懲戒です。

四、弁護士が間に入るのも示談交渉だけ!!
 裁判が終わってしまうと、弁護人は権限を失ってしまいます。
 弁護人が裁判をやっている間示談交渉の窓口に立つことができたのは、弁護人としての権限があったからです。
 権限をなくして元弁護人になってしまえば、「元弁護人には勝手に示談に応じる権限はない」のです。
 勝手に代理権があるかのように振舞って、結局払うのは嫌だね、と言われてしまえば空振り。
 そうさせてしまえば、弁護士は懲戒を食らっても文句は言えませんから、当然もう応じられませんというにべもない対応しかできないことになります。
 そもそも示談金の準備には弁護士も家族と交渉してなんとかもう少し出せませんか?という対応をしていることも少なくありません。弁護士から権限がなくなった状態にするのは危険なのです。

五、示談に応じなくても加害者の量刑上酌量される!!
 示談に応じなければ、犯人の処分が軽くなると言えるか。
 受け取らなければ量刑は重いまま、という理解をしている方は多いようですが、実際は微妙です。
 というのも、加害者が適正な金額で被害弁償や示談の申し入れをしているのであれば、おそらく加害者の代理人は預かった金銭を法務局に供託するか、少なくとも裁判所に示談交渉の経緯を報告するはずです(私もやっています)。
 そうすると、裁判所は「示談交渉のための基本的な努力をした」ということで、被告人にとって酌むべき量刑の事情として解釈するのが通例です。
 現に受け取るに至るのと比べれば多少の差はあるかもしれませんが、量刑が劇的に変わるようなことはとても望めません。効果はあったとしても「裁判官が迷った時に重い方に振れやすくなる」程度だと考えておくべきところです。





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最終更新日  2015年03月20日 20時11分53秒
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