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碁法の谷の庵にて

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2015年10月09日
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 飲食店への補助犬の入店拒否がまたしても物議を醸していますね。
(記事はこちら


 盲導犬・介助犬をはじめとする補助犬がレストランなど不特定多数の人が出入りする公共の場所に入ることに対しての受け入れ拒否について、少し法律の条文を引きつつ考えてみました。

 なお、今回物議をかもした事件そのものについては情報不足の可能性がありますのでここでは論じません。あくまで一般論としてお読みください。


 補助犬については、身体障害者補助犬法という法律があります。(以下「補助犬法」と書きます)

 この法律には、下記の条文があります。 法令へのリンクも用意しますが、参照用にコピペしておきましょう。

第六条  身体障害者補助犬を使用する身体障害者は、自ら身体障害者補助犬の行動を適切に管理することができる者でなければならない。
第九条  前二条に定めるもののほか、不特定かつ多数の者が利用する施設を管理する者は、当該施設を身体障害者が利用する場合において身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならない。ただし、身体障害者補助犬の同伴により当該施設に著しい損害が発生し、又は当該施設を利用する者が著しい損害を受けるおそれがある場合その他のやむを得ない理由がある場合は、この限りでない。
第十二条  この章に規定する施設等(住宅を除く。)の利用等を行う場合において身体障害者補助犬を同伴し、又は使用する身体障害者は、厚生労働省令で定めるところにより、その身体障害者補助犬に、その者のために訓練された身体障害者補助犬である旨を明らかにするための表示をしなければならない。
2  この章に規定する施設等の利用等を行う場合において身体障害者補助犬を同伴し、又は使用する身体障害者は、その身体障害者補助犬が公衆衛生上の危害を生じさせるおそれがない旨を明らかにするため必要な厚生労働省令で定める書類を所持し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
第十三条  この章に規定する施設等の利用等を行う場合において身体障害者補助犬を同伴し、又は使用する身体障害者は、その身体障害者補助犬が他人に迷惑を及ぼすことがないようその行動を十分管理しなければならない。
第十六条  指定法人は、身体障害者補助犬とするために育成された犬(当該指定法人が訓練事業者として自ら育成した犬を含む。)であって当該指定法人に申請があったものについて、身体障害者がこれを同伴して不特定かつ多数の者が利用する施設等を利用する場合において他人に迷惑を及ぼさないことその他適切な行動をとる能力を有すると認める場合には、その旨の認定を行わなければならない。
2  指定法人は、前項の規定による認定をした身体障害者補助犬について、同項に規定する能力を欠くこととなったと認める場合には、当該認定を取り消さなければならない。
第二十二条  身体障害者補助犬を使用する身体障害者は、その身体障害者補助犬について、体を清潔に保つとともに、予防接種及び検診を受けさせることにより、公衆衛生上の危害を生じさせないよう努めなければならない。
第二十四条  国民は、身体障害者補助犬を使用する身体障害者に対し、必要な協力をするよう努めなければならない。


 これを前提に、9条によって入店拒否は原則許されず、入店拒否が許される場合とは、9条但書に書いてある「著しい損害」「やむを得ない理由」がある場合ということになりますが、これはどのような場合でしょうか。

 明確な判例があるわけでもない(「身体障害者補助犬法」で判例検索しましたがこの問題に触れた判例は見当たらず。ご存知の方いましたらご教授願います)ため、何をもって「著しい損害」「やむを得ない理由」とみなすかは感覚的な問題が多分にあります。


 以下は私見であることを予めご承知おき頂いた上でお読み願います。

 まず、補助犬の育成にあたってはきちんと基準が設けられており、補助犬利用者の指示にきちんと従うこと、更に育成において百貨店などの商業施設における訓練も可能な限りの訓練が必要となっています。
 つまり、補助犬法第16条と併せ、補助犬として認定されている時点で、「この補助犬は不特定多数の利用する施設に入ったとしても迷惑をかけない犬です」ということについては、予め公的保証がされていると言えます。

 実際、認定された補助犬が他人にケガをさせた、不衛生な行為をしたというような話は私は聞いたことがありませんし、ざっと検索しても見当たりませんでした(実は多発しています、というのならご教授願います)。


 その上で、補助犬法9条は「施設に著しい損害が発生し、又は当該施設を利用する者が著しい損害を受けるおそれがある場合その他のやむを得ない理由がある場合」としています。
 「著しい」と絞っている以上、ただ単に「店側が損害を受けると思い込んでいる、あるいは一部の客がヤダヤダと言っているというだけではダメ」なことはもちろんです。
また、「おそれ」についても単なる抽象的な危惧感などでは足りず、「公的保証のある補助犬といえども、その保証を覆すだけの具体的なおそれがあると判断できる状況が必要」と考えられるでしょう。
 「やむを得ない理由」もそれに類する程度のものが必要であると考えられます。

 それを踏まえて、「個別具体的な事例に基づかない、かもしれない論法」では、具体的な恐れと言えませんし、仮に損害が発生したとしても「著しい」とも言えないと考えられます。
 犬アレルギーの人だっているんだという主張はしばしば見かけますが、所詮は「かもしれない論法」です。
 何より、この点については「でしたら犬アレルギーの方こそ出て行かれては」という結論になると考えられます。
(個人的に、犬アレルギー論法の人たちがなぜ「犬アレルギーの人に出ていかせよう」という意見にならず補助犬使用者に我慢せよという説になるのか不思議です。守るべき利益としては、補助犬法抜きでも、補助犬使用者と差はないと思うのですが…)

 補助犬の存在によって逃げる客がいたとしても、その負担は店側が甘受すべきものというのが補助犬法の建前でしょう。


 他方で、店側にそういった負担が課されるのは、補助犬法の想定する補助犬が適切に認定され、適切に利用され、その負担も抑えられていることが大前提と考えます。
 そういった負担を最大限抑えられる犬でなければ補助犬として認められない、とも言えるのではないでしょうか。
 そこから考えると、拒否できる例としては、法令が想定している補助犬の質を覆しかねないような、具体的に問題のある状況が認められた場合が考えられるかと思われます。

例えば

一、理由なく吠えたり、トイレでない場所で排便したり、「待て」「吠えるな」「座れ」などといった利用者の明らかに正当な指示に従わない。

二、飼い主が指示が必要な状況であるのにそういった指示をしない(補助犬法13条により、補助犬の行動を適切に管理することは補助犬利用者の義務)。

三、法令(政令含む)で規定されている装備を付けていない(盲導犬のハーネスなど。規定された装備を付けない補助犬は補助犬法12条に反する)。

四、泥まみれ、病気にかかっているなど現に不衛生な状況が認められ、かつ飲食店等衛生が求められる場所である(補助犬法22条により、盲導犬利用者には衛生確保の努力義務がある)。

はこれに当たると考えます。



 また、客が事前に犬の入店拒否を願いたいと条件を明示した上で入店し、その客がいる時間帯について例外的に考えることはどうでしょうか。
 予約席自体、予約者と非予約者を差別するものですが、予約席自体が問題である、という見解は存在しないでしょう。

 しかし、一般国民にも身体障害者補助犬を使用する身体障害者への協力の努力義務が課せられている(補助犬法24条)事を踏まえると、補助犬を狙い撃ちするような条件自体、法的に見て問題のあることと考えます。
 個人的には、「単なる好き嫌いのレベルではなく現に犬アレルギーであり、店の許す範囲内で物理的に距離を置いても無意味」などといった、補助犬利用者の補助犬の必要性に匹敵しうる理由がない限り、こうした「犬禁止の予約」に拘束力は認められないのではないかと考えます(なお、そこまで強烈な犬アレルギーであれば、飲食店以前に外も歩けないのではないでしょうか?)。


 最後に、もし補助犬の存在を理由に入店を拒否し、それについて「著しい損害の恐れ」「やむを得ない理由」などなかったと判断された場合、店側に法的な責任が認められる可能性があるといえるでしょうか。

 正当な理由のない差別的な入店拒否に似た事例として思い起こされるのは外国人の公衆浴場への入浴拒否について、差別的取扱い・人格権侵害として慰謝料100万円の支払いを命じた判例として札幌地方裁判所平成14年11月11日判決、宝石店への入店後外国人であることを理由に退去を求め、警察を呼ぶなどした行為について慰謝料等150万円の支払いを命じた静岡地裁浜松支部平成11年10月12日判決などがあります。

 が、これらは「差別が人格権を傷つける」という判断が前提になっており(これらの裁判例の事案の詳細はここでは触れませんが、「外国人=犯罪者・マナー違反のおそれが強い者」という扱いを前提としたものでした)、補助犬の存在を理由とした入店拒否は補助犬利用者に不便には違いありませんが「人格的名誉を傷つける」とまで言えるかは微妙に思います。
 私見は補助犬を理由とした入店拒否は「犬が必要な人間は入れられない」という意味合いをも内包するものであり人格的名誉を2件の外国人差別案件ほどではないにせよ傷つけているのではないかと感じますが、この点は対応によってケースバイケースなところもあれば、見解が分かれそうにも思います。
 例えば、「補助犬は外において来てほしい、代わりに店員をつけて介助させます」という場合ならば、「人に着目した差別はしていない」という理屈も立ちえるところであり、例え慰謝料請求権が発生したとしても慰謝料額は抑えられ、場合によっては「違法だけれど損害はない」という形の判断がなされる可能性も出てくるように思います。
 一般的な飲食店の場合、店として受け入れられない、という結論に至ることが適法となる場合はほとんどないのではないかと考えていますが、仮にそのリスクを覚悟で受け入れられないという決断をする場合、具体的に受け入れられない「著しい損害の恐れ」「やむを得ない理由」ありと判断した理由を説明し、何らかの代替案を用意すべきであろうと思います。
 そうした説明を行わない場合、せっかく受け入れないだけのやむを得ない理由があったとしても問題になりえることと思われます。
 また、補助犬法の存在を指摘したにもかかわらず法令無視を宣言するような場合、法令について意図的に虚偽を述べて入店を断念させようとした場合、補助犬や利用者に対して単なる理由教示を超えた差別的言動をした場合などは、対応として悪質であり、違法性が認められたり慰謝料の増額要素とされる可能性が高いと考えます。


 補助犬利用者に対して礼を尽くした対応を行うことはお客様対応という視点だけではなく、法的に見ても最低限行うべきだとアドバイスいたします。






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最終更新日  2015年10月10日 23時21分54秒
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