3409792 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

碁法の谷の庵にて

碁法の谷の庵にて

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2017年04月06日
XML
こんなニュースが話題になっていました。



 札幌高裁、刑事裁判の即日判決91% 他高裁は1割切る
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170405-00000069-asahi-soci


 即日判決,つまり裁判をしたその日に即座に判決を出してしまう,と言うことです。
 
 刑事裁判の第一審において,犯罪の成立は全く争わず,有罪になったとして実刑はほぼありえず執行猶予で弁護人も検察も織込み済と言うような事件の場合,裁判をした次の期日で判決を言い渡し,それで困らない,と言う例も珍しくはありません。
 しかし,更にそれを進めて,その日のうちに判決,ということも事件によっては十分可能になることがあります。
 
 第一審では,即日判決は弁護人から要求していくケースもあります。
 特に,判決の言い渡しまで無駄に期間が経過しそれまで拘置所暮らしと言うことになると社会復帰上困るケースは決して少なくありません。
 裁判をするにあたっては当日の進行予定を裁判官と打ち合わせるのですが,地裁簡裁の裁判官と,当日は一切争わないし,何とか即日でお願いできないか,と事前打ち合わせで弁護側からねじ込むこともあります。(これに応じるかどうかは裁判官の個性もあるところです)
 
 
 ただし,これは検察も弁護側もあえて有罪であることを争わないような事件の対処だからこそ許される世界です。
 刑事事件の控訴審の場合はそうはいきません。
 争いが全くないということで検察官も被告人もOKというような件ならば,そもそも控訴自体がレアケースになるからです。
 
 

 控訴すると言っても,検察官側の控訴は判決がひっくり返る見込みがあるかどうか事前に専門家目線でチェックしており,単なるダメもとで控訴する,と言うことは基本的にやりません。
 検察官控訴の場合,高裁で破棄されるケースは平成18年で全体の3分の2にもなっています(こちら参照)。不当判決と言う批判ももちろんあるでしょうが,最大の原因は検察内での控訴の絞り込みが行われているからでしょう。
 被害者や遺族がもっと厳罰をと上訴するよう申入れても控訴・上告は断念します,と言うこともしばしば聞きます。

 
 実際,刑事事件の控訴は,多くが第一審判決に不服があったりする被告人側からのものになります。やや古い統計ですが,平成18年,刑事の控訴事件は97%が被告人側からの控訴となっています。
 ときには,不服がある訳ではないのだけど,判決が未確定の間に執行猶予の期間が切れ,執行猶予になった前の罪の服役だけでもなしにするのを狙い,時間稼ぎとして形だけ量刑不当を繕って控訴する被告人もいます(いわゆる弁当切れ狙い)。

 弁護側の場合,第一審判決より有利になる見通しがあって控訴をする,と言う例は決して多くはなく,
「弁護人としては,職務上控訴手続を説明して控訴の意思を確認し,控訴したいと被告人が言うから軽くできるあてはないけれども控訴する」
と言う場合が多くなるのは,宿命的な所があるでしょう。
 私自身も,控訴した案件はそんな案件の方が多いです。
 それでも控訴をするのは被告人の権利であり,弁護人に握りつぶす権限はありません。

 もちろん,第一審判決が間違いとして破棄するとなれば,双方の意見を戦わせる必要が出てくる場合が多くなると思われます。
 そうすると,即日判決のおそらく大半は,「被告人側の控訴を棄却し一審判決のままにします」というものであろうと考えられます。

 


 被告人側から控訴する場合被告人は有罪判決になっていると考えられる訳ですが,同じ処罰ならば,被告人は更生しないよりも更生した方がずっといいに決まっています。

 そして,被告人の更生に重要なこととして,「裁判では最大限,自分の言いたいことを聞いてもらった」という納得感」というものがあると思います。
 被告人が処罰を受けて更生するには,「自分には過ちがあった」「自分に対する処罰は正しい」という認識が重要だと考えます。
 裁判所が被告人の言い分を全く聞いてくれないと感じられてしまえば,裁判所,ひいては公権力全体に対して拗ねた心情を抱く被告人も増え,自分に対する判決は誤判と言う認識を持ちやすくなり,更生を阻害する可能性が高くなります。
 「裁判所は自分の言うことを検討してくれた,それでダメなら自分のやったことや,自分の持っている不満の感情が間違っているのだろう,大人しく罪を償って立ち直っていこう」という心持ちでいてくれた方がずっといいはずです。

 有罪判決である以上,被告人が完全に納得する判決を常に言い渡さなければならないとすれば,それはないものねだりでしょう。
 しかし,こういったメリットを考えると,可能な限りで納得を得るための手段は,模索されるべきだと思います。
 
 そんな中で,即日判決で控訴が棄却されてしまったらどうでしょうか。
 もちろん控訴裁判所としては,事前に事件記録に精緻に目を通し,第一審判決が間違いないと考えた上で言い渡しているのでしょう。この記事ではそこは信用します。
 しかしながら,「裁判所が検討してくれたかどうか」というのは,被告人にとって目に見えるものではありません。
 ただでさえ一審判決に不服のある被告人からは,「裁判所は本当に自分たちの言い分を読んでくれたのだろうか」という疑問を持たれてしまいます。
 ニュースでは上訴はあまりされていないということですが,被告人に「どうせ裁判所は何も聞いてくれない」と拗ねられた結果という可能性もあるでしょう。
 もしそうだとすれば,これは被告人の更生にとってかなり危険な現象であると断言してよいと思います。



 もちろん,そうした配慮をしても皆納得する訳ではありません。納得してもらいたいとは言え,迅速な裁判の要請もある以上,結論が動かないのに何カ月も引き延ばしていいわけではないことは言うまでもありません。
 しかし,1回持ち帰ることすらもせず,その場ではいダメね,と思われかねない判決を言い渡すのは,果たして適切でしょうか。
 1回持ち帰らない代わりに事前に徹底的に読みこなしており,判決理由もしっかりとそれが反映されていて「読んでもらえた」と言うような期待よりはるかに効果のある被告人に胸にしみわたるような判決が既にあるとか,いわゆる弁当切れを防止するためなどで,速やかに進める要請が特に強い件でもない限り,個人的には即日判決はあまり感心できないように思われます。


 



 なお,裁判所がきちんと対応してくれれば当事者が納得してくれてこじれにくくなるのに,裁判所がいい加減に対応するためにこじれるというのは,刑事でなく民事でも言えることです。

 第一審で争点のある裁判なのに争点についてきちんと判決の理由を書かない。
 もちろん理由が全くない判決は違法ですが,争点になっていることについて「とりあえずこう認めたから!!」としか書かない。
 なぜ相手の主張を認めたのか,逆に何故こちらの主張を否定したのか正確に書かない。
 こちらの言い分を否定しただけで相手の主張を認められるとして判決を書く。
 逆に相手の主張は信用できるとだけ書き,これに反する主張はダメの一言でこちらの主張はバッサリ。

 争いのある事件でもよくある印象を持っていますが,これでは当事者は不満を抱きます。

 敗訴側に「自分が間違っていたから」ではなく「第一審裁判官が聞いてもくれないダメな裁判官だったから」と思われれば,控訴審なら聞いてくれるかもと言う期待を抱いてしまいます。
 結果として,「結論としては」本当に適切な判決に対しても,控訴されることが増えます。
 代理人弁護士だって,きちんとした理由が書いてあれば,「これは控訴しても費用と手間の無駄かも…」と説得はできますが,理由すら分からず主張を退けられた状態では,当事者を説得することもできません。

 下手をすると勝った側ですら,余計な控訴審・場合によっては上告審の応訴が必要になりかねず,弁護士費用などを無駄にするハメになりかねません。
 しかも勝ったとは言っても一審で自分の勝った理由がふにゃふにゃであるため,控訴審でも判決が妥当と言うような反論が難しくなり,例え勝てても不安な控訴審を過ごすことになります。

 負けた側の不満と言う点だけでなく,勝った側にも迷惑をかけかねないのが,「本当に裁判所はきちんと検討したの?」と思われる事態です。
 

 裁判官の立場になってみれば,よく言われる「時間がない中で書くのは面倒くさい」という話に限らず,争いのある件の場合どうしてもヤマカンや印象のような文章化が極めて困難なもので決めざるを得ない案件がそれ相応にあり,そういう件では理由なんて書こうにも書けない,下手に書くと逆におかしな判決になる・・・という配慮があるのかもしれません。
 しかし,そういうときのために挙証責任の原則があるとも言えます。
 



 裁判官は当事者に納得させるということを常に意識してほしいと思います。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017年04月06日 18時45分32秒
コメント(3) | コメントを書く
[事件・裁判から法制度を考える] カテゴリの最新記事


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

カテゴリ


© Rakuten Group, Inc.