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碁法の谷の庵にて

2019年03月22日
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破産者マップ事件については,私も少し追っていました。

 適法性に関していえば,私も風の噂に耳にしてサイトを一通り見た瞬間,判例調査する前から

「これって弁護士ならほぼ争いないレベルでプライバシー侵害,個人情報保護法違反。名誉毀損などの問題もあるだろう。こんなことにGOサインを出す弁護士がいるとは思えない。」


と感じました。
 その後,法令判例調査をしても私の上記の直感は裏付けられる一方でしたし,弁護士の中でこれは適法だと主張している人を私は知りません。(公認会計士や税理士の中にはいるようですが…)



 このサイトの運営者の真意については,今のところは

「法的なリスクについて素人考えのまま弁護士などに相談せず,無邪気に新事業を起こそうとした結果,超巨大地雷を踏んだ」


「悪意ある反社が削除のために個人情報を送付させることで,更なる個人情報の収集を狙ったり,場合によっては金銭集めに使おうとした」


という二つの説が有力です。※1
 後者の意見は,削除要請フォームで官報にも非掲載の情報(破産の背景事情は官報では分からない)を集めようとした所が怪しいという点に着目していると思います。
 他方,それならあえて運営者がtwitterに出てくる理由も乏しいと思われるため,前者の可能性も個人的には捨てきれないように思っています。

 現状は両方の可能性を想定すべきと思います。


 そして,この件で気になるのが,この問題を論じるに際して情報を取り扱う自称エンジニアの皆さんの倫理観について,欠けたものが多数見られる点です。

 この問題について「何が悪いの?」を連発し,運営者支持を表明してしまう自称エンジニアのtwitterアカウントがあります。
 中には批判者に対して「お前破産者?」と煽って憚らないほぼ実名アカウントもあります。(個人的に晒したいのは山々ですが,法律家としての良識でこらえます)
 弁護士などによる違法性の指摘の前に「何が悪いの?」と思ってしまううちはともかく,弁護士などが騒ぎだしてからも批判者に噛みつき続ける人たちには寒気を覚えました。

「お前,そんな感覚で情報エンジニアやったら自分が破産者マップに載るぞ?」

「こうも個人情報についての意識が甘い者が大規模な情報を扱うとか法務上は超巨大なリスクなので,こいつらエンジニアとして雇っていいかと相談されたら顧問辞任賭けてでも止めよう」

と思ったことも一度や二度ではありません。


 寺林智栄弁護士がこちらで詳論しているのですが,情報は例え客観的真実であろうと,決してニュートラルな存在ではありません。「凶器にできる」ものです。
 オウム真理教は,「たかだか弁護士の住所を知っただけ」で,坂本堤弁護士は家に上がりこまれて奥様と幼いお子さんまでが殺されてしまいました。一番悪いのがオウム真理教であることは争う余地もありませんが,情報を開示した者がオウムを助けてしまったという側面は否定できないのです(日弁連もこの事を知って弁護士の個人住所の名簿を頒布することを止めました)。
 破産者マップだって,私が反社なら「欲しい情報」です。模倣犯を避けるために開示しませんが,破産者マップを悪用して一儲けする方法はあっという間に浮かびました。


 だからこそ情報を扱う者には高い倫理観や責任が求められます。

 私のような弁護士も秘密の情報を扱いますが,秘密を漏らそうものなら刑法の秘密漏示罪により処罰されます。公務員や多数の士業・裁判員においても,職務上の秘密を漏らせば,刑務所に入れられてもおかしくない罰則が制定されているのです。
 例え法律に守秘義務の規定がない仕事であるとしても,どこまでの情報を広く共有すべきで,どこまでの情報がダメなのか。開示するにあたって相応しい媒体は何か。情報はどんな風に悪用できるのか。反社がこの情報を手に入れたら何を始めかねないか。
 この事については常に悩み,考え方を身につけ,怪しいと思ったら周囲に相談していかなければいけません。微妙すぎる事案もありえ,最終的な判断は裁判の結果待ちになることもあり得るジャンルです。
 まして,破産者マップのように一人二人レベルではなく情報を大規模に扱うともなれば,要求される倫理観や責任は極めて高度なものになるでしょう。例え個人的に問題ないと思ってもリーガルチェックをし,疑わしきは手を出さないと言う姿勢は必須です。自分の利益だけをベットしてるならともかく,他人の利益をベットするに当たってやっちゃえやっちゃえなどという精神では困るのです。
 運悪く勇み足をしてしまったならまだしも、違法性があることを裁判の判決で言い渡されても開き直るようなケースは問題外と言えましょう。



 むろん、情報エンジニアの中にも彼らを非難する意見も決して少なくはありません。
 検索していた所,何かするに当たって毎度毎度リーガルチェックしていたという情報エンジニアの方もいました。情報エンジニアの持つ倫理性の必要性から,上記のような発言をたしなめる向きもあり,その点についてはほっとしている面もあります。
 また,インターネットのない時代にできていた破産情報を官報に掲載すると言う破産法の在り方が,官報の頒布性の低さ※2に助けられて問題になっていなかったことがこの事態を招いた側面もあるように思われ,これを機会に破産法の公示の在り方を見直すことを検討してもらいたいと思います。
(もっとも,「破産者マップが違法なら官報も違法」という見解は,弁護士が裁判所で言ったら「こいつ、弁護士に泣く泣く言わせてるな」と裁判官に見抜かれるレベルの間違いですので注意しましょう)


 そして,「破産者マップの何が悪いの?」と騒動初期ならともかく今になって言っている自称エンジニアの方は,すぐにもエンジニアの看板を下ろして下さい。(現行法を認めた上で法改正の主張とセットで主張するならばまあありと思います)
 真っ当なエンジニアの方も、そういったエンジニアに対して再教育(0から教育?)をし、それに従わない者をエンジニア業界から放逐するといった動きはした方が良いと思います。(現実には困難かもしれませんが…)
 そういう自称エンジニアの方々の言動は,倫理観と責任感を備えた真っ当なエンジニアの方に対して,「技術のためなら倫理すら無視するマッドサイエンティスト的存在」という偏見を植え付けかねません。
 そうなれば、エンジニア業界に新しい技術について理解がなく,融通も利かない国家の法律が規制をかける、厳しい資格制となるといったように、業界全体の首を絞めなければならないという議論が沸き起こることになるでしょう。
 弁護士業界も、常にその点を意識しながら業界の自律に気を配り、それですらも「自浄能力が足りない」と干されているのです。

 この件には様々な問題点があり法律家目線からすれば破産法の在り方なども問われていますが,情報エンジニアの皆さんの倫理が辛辣に問われている件でもあると思います。







※1 当初は、「破産者はクズ!」というような歪んだ正義感が原因の可能性も考えましたが,現状では主たる原因ではないと考えます。
※2 官報販売所は東京に2カ所、他の道府県は1か所です。北海道など地裁本庁の数より官報販売所の方が少ないのです。






最終更新日  2019年03月22日 17時00分30秒
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