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碁法の谷の庵にて

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2020年01月07日
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カルロス・ゴーン氏のレバノン逃亡で一躍話題になった保釈中の被告人の逃亡。
 保釈中の被告人の行動が問題になった例としてはPC遠隔操作事件もありますが、あれは「逃亡」とは異なります。(証拠隠滅に近い)

 ちなみに、保釈金を取り上げることは法律上「没といいます。
 「没だと厳密にはペケですが、意味的には似たようなものだし、意味が分からないという事にはまずならないので間違えたからと言って気にするほどのことはありません。
 法律家でも割とその程度の間違いはしている認識です。




 その上で一般論を語ります。

 いくら弁護人であっても、被告人を「裁判から逃がす」ことは許されません。
 例えば、警察の留置管理の隙をついて逃げる方法を教えるのを「弁護人は被告人を守るのが仕事だから」では正当化できないでしょう。
 弁護人の権利義務の範囲について争いはあれど、積極的逃亡援助は正当化不能という結論は争いがないだろうと思われます。

 他方において、弁護人は被告人に最大限有利に観察判断して法律上用意されている身柄拘束に関して、被告人の意向に応じて諸々の申立てを行う責任があります。(弁護士職務基本規程47条参照)
 「逃げません証拠隠滅しません」と言っている被告人の言動が嘘か本当か弁護人が「完全に」見抜くなど不可能な話です。
 私は神ではないので先のことを見通せませんが、「逃げる可能性なんて100%ない」と考えるのは「信頼関係が強固」とか「神の目を持った弁護人」ではなく「単なるノー天気」だと考えています。
 逮捕~起訴後すぐの場合、検察が収集して提出予定の証拠すら弁護人の手元にはない可能性が高く、弁護人にも被告人にも想定外の証拠があるという可能性もありますし、その時は強固な意志があっても釈放されると弱い方向にフラフラと行ってしまう人は後を絶ちません。
 (善悪は脇において)そう言う人間の弱さなんてありえない!と言う考えの人はぶっちゃけ弁護人どころか検察官にも裁判官にも向いていないと思います。

 逃げも証拠隠滅もしないと言っている被告人に,被告人を守る立場の弁護人が「君は逃げる」と決めつけるなど、弁護人が神の目を持つことを前提にしなければなりたちません
 弁護士は真実を尊重して職務を行うべきである一方(弁護士職務基本規程5条)、弁護士の信じるものなど所詮は限られた証拠や供述から得られる主観的真実であり流動的なものにならざるを得ず(検察もそれは同じ)、そこで神の目から見た真実を要求していてはそもそも弁護が成り立ちません。
 そんな能力が弁護人にあるなら、弁護人にあって裁判官にはないとは思えませんし、裁判官にそういう能力があるなら検察官も弁護人もいらないでしょう。人手が足りないなら検察官も弁護人も廃業させて全員に裁判官をさせればよろしい。
 もちろん、こんな制度設計多分どこの国でも採用していないし、手放しで称賛する人はそういないでしょう。そんな能力は絵空事だからです。


 私も当然保釈の申立をしますが、「私の保釈請求の内容が認められるべきでないものなら、ストッパー役の検察や裁判所が止めるだろう」という認識で申立てをします。
 私や被告人が法律上認められた異議申立をしたり、内心、あるいは誰にも聞こえない所で文句を言うことはあれど、少なくとも「保釈を認めない」という「守られるべき結論」はそれで出ていることになるのです。
 本当に保釈が認められるべきでないなら、検察がそこを目指して保釈不相当であることを論証すべきですし、または裁判所が保釈を認めない、あるいは逃亡を阻止するに足る保釈金を課すのが適切ということになります。
 ちなみに、「自分が裁判官だったら保釈通さなかったんじゃないかな」と思う被告人の保釈を申請して通したことはあります。(彼は逃げずに最後まで裁判を受けました)

 「自分の主張が100%正しい」というノー天気ではなく、「当事者(&弁護人)に保釈を請求する権利を認める」現行法制度において、「自分が間違っていたなら止められるだろうから申し立てる」は普通の考え方だと思います。
 制度設計を現在のままに、「弁護人の責任」を声高に主張する見解には何の説得力もありません。
 現在の制度設計を前提に現在の制度設計で動いており、違う制度設計なら違う制度設計で動くまでの話なのです。(制度設計そのものへの賛否は別論として)

 保釈申立について弁護人に責任があるとすれば、保釈申立に関して証拠を捏造・背信的な悪意を持って虚偽の事実を記載した(「真偽未確認だが被告人の言うことを信じた」は背信的悪意とは言えない)とかそれくらいだと考えます。
 なお,弁護士職務基本規程上も「虚偽証拠の提出」は違反(75条)となり、露骨な虚偽主張をしたことが懲戒となった例もあります。







 最後に長い余談ですが保釈に限らず、ゴーン氏の件に関連しそうな件で、個人的に問題だと思っている・思っていたことは個人的にいくつかあります。

 日本は特に否認すると保釈がなかなか認められない、人質司法だと言う批判はもう今更という所です。
 ゴーン氏が逃亡したとは言っても、平成30年の司法統計では保釈が認められた人のうち保釈が取り消されたのは100人に1人を切っています。
 ゴーン氏のように海外に逃亡して裁判がほぼ不可能になった例に限らず、正当な理由なき不出頭や連絡途絶、被害者に連絡を取ってしまう(謝罪目的のつもりが被害者を怖がらせてしまうなど)ように「裁判そのものは行えている」例を考えるとさらに率は下がるものと思われます。
 しかし、取消原因が逃亡・行方不明なのか証拠隠滅なのか被害者との連絡なのか再犯なのかすら統計が見当たらないので、こういった統計も取り、まずは正確な実情を把握する必要があると思います。

 保釈金の額が横並びであり,逃亡防止のために適切な保釈金を積ませているのか、親族の出す保釈金と本人の出す保釈金、保釈保証協会の出す保釈金と保釈金を出す主体が異なる場合でも横並びな保釈金でいいのかと言う問題もあります。
 ゴーン氏の保釈金15億円は、確かに歴代でもトップクラスに高い保釈金ですが、「ゴーン氏の逃亡防止のために有効な金額なのか」と言われると首をかしげる所があります。
 日本は保釈が認められないというけど,認めてる国だと「形式的には保釈を認めるけど、そういう国だと端から準備しようがなく身柄解放につながらない保釈金要求してる」「保釈金を貸し付ける団体があるが、警察よりきつく追っかけてくるので裁判所が信頼している」なんていう話も聞いたことがあります。
 裁判所や検察官・弁護人としても精緻な財産調査が難しいため、やむを得ない面も一応ありますが、保釈金額の設定の在り方(実務運用の問題)や保釈金以外に逃亡を阻止する方策(法改正も必要)もこのままでよいのかは問題と言えます。

 他方、なんで保釈を認めるべきかと言えば,一つには「長期化する裁判と身柄拘束の負担が大きすぎる」こともあるかと思います。
 拘置所にせよ警察の留置場にせよ,「それでもボクはやってない」で見る通り雑魚寝を強いられ、自由がないどころか電話もメールもネットも使えない。
 医者にかかることもたまに医者が来た時だけ。薬など弁護人すら差し入れさせてくれません。必要なら入院させるからと言いますが,その必要性の判断も素人判断になっている。
 さらに関係者が面会に来てくれるとも限らず、来てくれたところで厳しい時間制限がある(休日は面会させてくれない)。
 弁護人の義務もあくまで公判廷の弁護活動とその準備に過ぎず,例えば企業経営者が逮捕されて経営者がやることを全部代わってくれと言われても別料金、国選弁護人ならNoと言う対応になるでしょう。
 それでいて厳しい取調べが待っている。
 こういった環境に被疑者や被告人を置きっぱなしにしておくことが「無罪推定原則」「供述の任意性の担保」と言う見地からまずいことくらい、裁判所も分かっているのではないかと思いますが、かといってそこに大鉈を振るうこともできない(大鉈を振るう行為は、例え法律上可能であろうとある種の才能がいります)まま、ずるずると現状を追認して現在に至っているようにも思います。
 保釈はされていないが、外との連絡は取れ中は外と変わらない程度には快適、有罪になったらその時にバシッと処罰。
 身柄拘束の本来の「筋」はこちらであり、そうなっているならそこまで頑張って保釈を認める必要もないという立論だって立ちえると思います。
 要は身柄拘束環境の改善も、一つ解決すべき問題点であると考えます。


 また、刑事司法の適正な運用を出入国管理が阻害する、きちんと連携が取れないと言う縦割りこれ極まれりな問題点も、実は昔からありました
 重要な証人ということで裁判所も証人として予定していたのに入管の方が強制送還してしまい、もう証言が取れない。
 「強制送還が原因で証人尋問ができず、通訳を介した検察官調書(その通訳のレベルすらこんな有様)が証拠としてほぼ素通り」などと言う問題は何十年も前から指摘されていました(最三判平成7・6・20刑集49巻6号741頁など参照)。
 一審で無罪になったので釈放…して検察官控訴したいが、釈放された途端に強制送還してしまい、控訴審が開けない。(勾留することになるが、「一審無罪なのに?」「入管法の穴を勾留で埋めるな」という批判が当然飛ぶ)
 これらについて調整する法令の規定が乏しいため、縦割り行政で入管に出られれば裁判所としては厳格に法律を運用する限りなす術がないことも、大きな問題でしょう。



 今回出入国管理とゴーン氏の逃亡との関係については今後の捜査や全容解明を待ちたいとは思いますが、今回の件を契機に保釈・出入国管理と刑事司法との関係全般の問題点を見直してほしいと思います。





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最終更新日  2020年01月07日 16時46分14秒
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