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碁法の谷の庵にて

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2020年06月22日
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裁判所らしき組織から届いた謎の封書。本物か偽物か、はっきりとは分からない。


ここで、


身に覚えのない書類は特殊詐欺や架空請求だから無視しろ!!



というのがよく言われる話です。警察や役所もそういうポスターや標語を準備しているところが少なくありません。
書類に書いてある電話番号に連絡するな、詐欺師に丸め込まれるぞ!!なんてものもあります。



 しかし、弁護士としてこれは言わせていただきます。

 こんな危険な啓発活動は即座に中止し、新たな啓発活動で既存の啓発活動を上書きすべきです。
 本当になすべき啓発活動は

「封書が届いたら公的機関に相談を!!」


です。
 警察でも役所でも弁護士など裁判関係士業でも構いません。とにかく相談してほしいのです。

 それは、「本物の裁判書類を架空請求と間違える危険性がある」からです。
 私自身、「これ架空請求ですか?」と相談に来た人の中に何人か「本物」が来ている例を見てす。
 その方々は相談に来てくれてましたからアドバイスできましたが、もし彼らが「架空請求だ」と判断して無視を決め込んでいたら最悪の事態になってしまっている可能性があるのです。


 架空請求と本物の裁判所からの書類を取り違えるリスクがないのであれば,「架空請求は無視」という啓発活動に問題はないと思います。
 架空請求をしている連中も,はがき一枚ポストに入れたりする連中も多いですが,裁判所からの本物の書類であれば「はがき1枚」いつの間にかポストに、というのはあり得ません
 SMSやメールなどを使った請求も「裁判所が紙で書類を送らなければ裁判は始まらない」以上、裁判書類であることはありえないのでセーフです。

 しかし,架空請求業者も込んだ手口や書類を使う例も報告されてきており、本物の裁判書類との判別は難しくなってきています。
 特に封書となると裁判手続によほど慣れていない限り素人が正確に見分けることを期待するのは困難です。
 「裁判所からの書類は特別送達で送られる」という情報は検索すれば簡単に出てきますが、「書留郵便」と「特別送達」の区別がしっかりつく人は決して多くありません。
 裁判所が裁判所の公式な書式を公開したらマネを招く可能性もありますし、極端な話、裁判所の書式を手に入れればそれをマネして書類を作ることだってできてしまいます(私が架空請求詐欺師なら絶対やります)。
 印鑑もそれっぽく作ってあれば弁護士でも判別は困難です。少なくとも私は印影の見た目だけでは判別できません。地元裁判所の印影ならもしかするかもしれませんが、日本各地の裁判所の印影はどうしようもありません。
 持ち込まれた書類見て「へ―あそこ簡裁あったんだ」という簡易裁判所だってあるところです。



 その上で、日本の民事訴訟法上絶対的に動かないのは,「本当に裁判所から送達されてきた書類を無視する」行為が極めて危険であるということです。
 無視するということはそのあと放置するということになり,放置すると、相手方の言い分を全て認めたことになってしまうのです。

 そして、「無視した理由が何か」を裁判所は考慮してくれません。
 裁判中であれば,「間違って捨ててしまった」のに「気づけば」裁判所に相談すれば書類を閲覧させてくれるのでリカバリは効きます。
 しかし,判決が出て判決の送達も「放置」し、控訴の期限も過ぎてしまい裁判が終わってしまえばすべては手遅れです。


「受け取った家族が子どもで、意味が分からず何も言わずに捨ててしまったので気づかなかった」
「重要な書類だと思わないで捨ててしまった」
「架空請求と間違えた」


というような事情を裁判所に証明しても、裁判所の回答は「民事訴訟法がそうなっていますので、裁判のやり直しは認められません。あなたに払えという判決は有効です。実際払う義務がなかったとしても手遅れです。」の一言で終わりです。
(子供の受け取りでも、10歳児の受け取りが有効とされた判例があります。ごく一部の例外はなくはないですが、当てにはできません。)

 債務整理をやっていると、相談に来て「書類を見る限り、あなた裁判所からの書類をスルーしてしまったんですね?もう手遅れとしか回答しようがないです…」と通知せざるを得ない人のなんと多いことか。
(債務整理系の相談者が多いので、その債務以外でも破産直行なケースが多いですが…)


 しかも、最近は記載してある電話番号に電話をかけるのも危険だと広報されています。
 確かに書類が本当に架空請求ならば、言葉巧みに支払いに誘導されかねず危険なのは確かですが、区別を間違えると本物だった場合に裁判所の電話番号にもかけないことになってしまうので、裁判所から「確かにあなた訴えられてますね」と確認することもできず、いよいよ気づく方法は信頼すべき誰かに「これ本物ですか?」と問い合わせるしかないのです。



 ところが,役所などが架空請求かどうかを見分ける手法として書いているのが


「身に覚えのない請求は無視」



というものをしばしば見かけます。
 実は、「身に覚えがあるかどうか」は判断基準として役に立たないのです。

 「身に覚えはないのだが放置したら裁判所から請求が来る」場合として、「裁判所を使った架空請求」というパターンも法務省が広報していますしそれも警戒すべきですが、架空請求とは限りません。
 私に思いつくパターンは以下のものがあります。

①相続が絡んでいる場合



 この場合、当人には100%身に覚えのない(死んだ被相続人にしか覚えがない)請求が来るのはむしろ当然のことです。被相続人も忘れてしまったり、自分の死期が近いと思っておらず伝える前に亡くなったり、恥ずかしかったりして債務の存在を隠してしまうこともあるでしょう。
 それが被相続人の死亡に伴って相続人に請求するのは、債権者としてあまりにも当たり前のこと。架空請求でも何でもないのです。

 例え相続放棄をしていても安心できません。現に裁判になった場合、相続放棄したから引き継いでいないと主張するには,「相続放棄しました」と裁判所で主張・立証しないといけないからです。

 裁判所から書類が届いた時点で弁護士に相談に行っていれば,

「裁判でこの件は相続放棄しましたと言えば大丈夫です。同封されている定型書式のこの欄に相続放棄しましたと書いて、家庭裁判所からもらった申述受理証明書のコピーでも同封しておきなさい。なくしたなら家庭裁判所に発行してもらいなさい。再発行までの間はとりあえず定型書式だけ送れば時間は稼げます。」


のアドバイスがもらえるでしょう。
 あるいは、「今からでも相続放棄しなさい!」というようなアドバイスになるかもしれませんが,請求を正当にはねつける方法がありえます。

 それを怠り、無視を決め込めば、後ではすべてが手遅れ。
 被相続人の債務の額によっては、これまで築き上げてきた人生を台無しにするような責任を負わされることになるのです。


②当人の知的能力に問題が生じてしまっている場合



 金を借りたこと自体忘れてしまう。(債務整理系の依頼者だとどこから借りたかすら正確に言えない人も多い)
 漢字ばっかり書いてある裁判書類は読むのすら苦痛(そういう人も多いです)なので無視。
 債権譲渡されていることが読み取れず、「私はこんな連中からは金を借りてないから架空請求!」と即断してしまう。(譲渡が読み取れず「架空請求ですよね?」というニュアンスで相談に来た方はいました)
 家族が受け取った場合,状況が分からず本人は認知症だから、「またうちのおばあちゃんに架空請求か、ひどい連中だ、ぽい」

 結果として、せっかく時効などが主張できた場合であっても、放り出すという結末になることもあります。


③何者かが氏名などを冒用している場合



 連帯保証人の欄に百均で買ってきた勝手な印鑑を持ち出したり一時盗用した家族の判をついたりする主債務者というトラブルはしばしばです。
 ひどくなると、替え玉連帯保証人を連れてきて署名捺印させるというゲス野郎の事例もそれなりにあります。

 もちろん、勝手に名前を書いた主債務者や替え玉は有印私文書偽造罪&債権者に対する詐欺罪(保証人がいるとだまして金を借りたことになる)で刑務所直行でもおかしくない犯罪ですが、債権者としては主債務者がそんなことをしているとは分からず,本当に連帯保証人だと信じて請求してきている場合も多いでしょう。

 もちろんこの場合、当人としては連帯保証人になったわけではないのですから、裁判で連帯保証人にはなっていない、ついてある印影も誰かが百均で買った偽物だ、実印のそれとも全然違う、筆跡全然違うじゃないかなどと戦うことができます。
 しかし、「身に覚えがないから架空請求」と決めつけて無視してしまうと、裁判所はあなたの名前とあなたの名前と同じ印影がある以上、「あなたにも責任ありますよ」という判決を出してしまいます。
 裁判所は言い分を出してこない当事者については、「佐藤」の印影があるべきところに「鈴木」とでも印影があるような事態でなければ「おかしいな」とすら思ってくれないのです。

 一応,この場合は勝手に名前を書いた主債務者が文書偽造などで刑事処罰されれば救済される可能性はあります(民訴法338条6号)。
 しかし,刑事処罰なので「疑わしきは罰せず」。なんとか処罰を逃れようと「実は許可を取っていた」等と弁解されればその言い分を完全に突き崩すのは難しい場合も多いでしょう。
証拠不十分になればやっぱり責任を負わされることになります。





 こんな風に、「身に覚えがない請求」でも「対処すれば何とかなったのに、架空請求と決めつけて対処しなければ責任を負わされる」というような事例はごく当然にあるのです。

 そのときに、「身に覚えがない」などというような粗雑な判断基準は百害あって一利なし、本来避けられた破滅に人を突き落とすものです。
 しかもこの場合、別に債権者も裁判所も悪いわけではない,というケースも十分考えられます。
 裁判所の手続を悪用する詐欺の手口も最近は広報されていますが、「請求者は悪人でも何でもなく,債務者の状況が分からないまま単に請求しているだけ」というケースもあるので、「誰の責任にもできず最後は民事訴訟法が当然想定している自己責任として扱われてしまう可能性」は考える必要があります。

 そして、「封書の場合は…」「裁判所名義の場合は…」「はがき一枚の場合は…」などと細々場合分けして対応策を広めると混同が生じます。
 「無視!!」が広まると、例え隅っこに「裁判所と思われる組織からの場合は相談!!」と書いてあっても「無視!!」だけが印象に残ることになりかねません。

 その意味でも、架空請求かな?と思ったとしても,封筒に入った書面であるならば近くの交番でも役所でも相談に行くことを原則にしてください。

 そして交番も役所も、対照用の書式のサンプルを用意するなり、別途用意した本物の裁判所の電話番号に架電するなどして確認した上で「これは偽物」「これは本物」と教えてあげ、本物であれば弁護士その他への相談を勧めるようにすべきでしょう。

 もちろん最初から弁護士のいる法律事務所に相談に来ていただいても構いません。
 法テラスの援助対象の方なら実質無償で相談を受けられる法律事務所も多いと思われます。
 私個人は本物かどうかの見極めだけなら無料でやってあげてもいいと思っています。(これは弁護士によりますが)



 また、特に「裁判所・公的機関を騙る書類を送り付ける」のは刑法上公文書偽造罪にあたります。
 例え実在しない役所を騙っても公的機関と誤解させうる名義なら公文書偽造にあたるというのが判例ですから、警察が把握すれば刑事事件として動くべき案件でもあります(金払えと書いていないから詐欺ではない,実行の着手がなく未遂でもないと弁解される可能性はありますが、詐欺でなくとも十分公文書偽造です)。
 その意味でも、本物の裁判書類なら法律家に回せばよいし、架空請求ならそれを警察が把握することは摘発のために重要なことのはずです。




 どうしても誰かに相談するのが嫌なら、せめて送付されている書類に書いてある電話番号ではなく、自分で別途インターネットなどで調べた裁判所の電話番号に架電し、本物かどうかを確認するという手も一応あります(私のところに相談に来たら対応はそれになります)。
 しかし,よほど自信があるのでなければ「架空請求だと決めつける」ことだけはせず,相談に来てほしいのです。





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最終更新日  2020年06月22日 22時30分06秒
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