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碁法の谷の庵にて

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弁護士としての経験から

2021年03月31日
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福岡で5歳児が母親から食事も与えられず餓死したされる保護責任者遺棄事件が起訴されました。
 報道によればですが、この事件は母親のママ友が母親を洗脳同然の精神状態に置いたことが一因とみられているようです。


 福岡の事件の真相解明は捜査・司法に任せるとしますが、報道されている「洗脳」には、個人的によく似ていることの心当たりがないでもないのです。
 特に宗教団体の偉い人やカウンセラー・地域の名士という訳でもない、「近所のママ友」「学生時代の友人」と言ったような人々に洗脳されて言いなりになっている・あるいはいたのかな?大丈夫かな?と考える件は、実は私自身も色々な相談や依頼・場合によっては訴訟の相手方についても何度か遭遇したことがあります。
 単に「騙されている」なら理解できるのですが、言われるがままに金銭を納付したり、どう考えても不合理な行動に走ったりというもはや崇拝の域に入っているとしか思えない例がたまに目に入るのです。

 そしてどんどん生活が苦しくなって債務整理の依頼に来たり、問題のある行為を指示の下にやらかして法的責任を追及されて弁護士も関わる…ということがあるのです。


 もちろん、その人の言っていることが本当なのか、という問題は常に残ります。
 自分がやらかしたことを覆い隠すために、第三者の洗脳行為をでっちあげて、そいつのせいにする…ということだって考えられます。
 しかしながら、でっち上げても何の意味もないケース、それどころか弁護士による救済を拒否してしまうレベルで第三者による洗脳の類が継続してしまうという根深いケースも見られます。





 洗脳が疑われる件は何件かありましたが、個人的に一番戦慄したのは、子連れで借金まみれ状態になってしまったAさんの件でした。

 Aさんは、相続が絡んでいてAさん自身だけでなくAさんの未成年のお子さんも借金の山という状態の上、相続放棄の熟慮期間も経過済みという厄介な状態です。
 しかも、返済の当てにしていた金銭はBさんに預け、Bさんがその金銭を返してくれないというのです。(もっと複雑なのですがこれ以上の詳細は守秘します)


 多額の請求書に困って債務整理のために相談に来て、お子さんともども破産するか、一か八か熟慮期間経過後の相続放棄をかけてみるか、Bさんから金を取り返すか、法的手段しかないという状態と思われ、受任すべく準備を進めていました。
 
 そこまではよかったのですが、本番の依頼に入る直前になって突然Aさんから「破産もその他の法的手続も一切やめる」と言い出したのです。
 法的手段以外に状況脱出の方法があるとは到底考えられない中どうしたのか聞くと、「Bさんからいいことないよって言われた」ということでした。
 無論、Bさんへの責任追及だって考えてはいた中だったので、Bさんが責任追及を逃れようとAさんに圧力をかけている可能性が疑われます。(金銭返還請求はもちろん、破産でもBさんの責任追及はありえる)
 なによりもAさんだけでなくお子さんの将来に関わることも考え、こちらもAさんをかなり強硬に説得しました。
 破産以外にもいろいろ手は考えられるし、依頼にも法テラスの援助制度を使えば金銭はほとんどかからない、まず依頼してほしいというプラス方面を示したのはもちろんです。
 「せめてお子さんだけでも。お子さんが借金まみれになるのを放置するのは児童虐待にもなりかねない。頼む弁護士は自分でなくてもいいから弁護士に頼むべきだ」と恫喝じみたことまで言いました。
(この言については、「言うべきではない」という批判的なご意見もあろうと思います。)


 しかし、結局Aさんは「Bさんが言うから子どもも含めて全部やめる」の一点張り。
 弁護士としても依頼すらしていただけないのではなす術がありません。
 いっそ児童虐待で児童相談所への通告さえ考えたのですが、児童虐待の定義に「児童の財産をきちんと管理しないこと(経済的虐待)」は含まれているとは言えず(児童虐待防止法2条)、下手な通告はこちらが守秘義務違反になりかねません。
 
 結局私は手を引かざるを得ず、それきりになってしまいました。

 私の説得がまずかったんだろうか。
 でも本人が弁護士である私の法的意見より完全なトーシロのBさん(しかも変な説明を弄するというより「いいことないよ」の一言で押し切ってしまう)を未だに信じ切る状態で、どうすればよかったんだろう。
 かなり前の件ですが今でも考えてしまう件です。






最終更新日  2021年03月31日 23時00分05秒
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2021年01月19日
国選であれ私選であれ、刑事弁護の依頼があれば,とにもかくにも弁護士はまず当該被疑者・被告人に接見(面会)をし、弁護人となります。
 面会して当人の言っていることを前提に、弁護活動を組み立てていくことになります。



 なのですが,面会の時に弁護人に嘘をついてしまう被疑者・被告人は後を絶ちません。
 弁護人側で聞きそびれたので言わなかった、聞き方が悪かったので答え間違えたというのであればそれは弁護人側に落ち度があるケースも多いのだと思います。
 財布を盗んだら「中にいくらお金が入っていたか」というように、盗んだ当人すらよくわからないこともあるでしょう。
 記憶違いをしていることもよくあることです。3日前の夕飯は何か聞かれて間違って4日前の夕飯を答えちゃった,くらいの記憶違いは仕方ないことだと思います。弁護人側も,ものによっては「これは記憶違いしてる可能性もない訳ではない」くらいには心の隅にとどめておきます。


 が,当人もはっきり覚えていることで,弁護人側で気にしてズバリ聞いたことについて嘘をついてしまい、裁判になって証拠が出てきて弁護人が愕然として聞いてみると、「すいません、実は…」というケースも少なからずあります。


 嘘をついてしまう動機もいろいろあるかと思います。
 弁護人と捜査機関の区別がつかず,突然現れた謎のスーツ姿の人物にいきなり全幅の信頼を置けと言われても無理で自己防衛を言ってしまった。
 逃げたくなってついた嘘について、実は警察が裏をしっかりとっていてアウトなのは悟ったが、引っ込みがつかなくなってしまった。
 重要なことだなどと全く思ってないので、ちょっと見栄を張りたくなった。

 こういう考えは,善悪を別にした人間の気持ちとしては分からないではありません。
 そして、そんなことで嘘をつかれた「程度の事」でいら立っていては弁護人としてはどうなんだ,そういうのを想定しながら弁護人をやるべきだ,と言う指摘もあります。
 弁護人の心構えとしてはごもっともだと思います。(私自身、精神的にあまりできているとは言えず、ちゃんとで自分でもちゃんとできているかどうか疑問がありますが…)

 しかし、嘘をついたことで弁護活動の方針がおかしくなってしまい,結果として効果的な弁護活動ができなくなってしまう、下手をすれば弁護活動が盛大な自爆を招いてしまうという事態は残念ながらどうしても起こってしまいます。
 こちらは、弁護人の心構えで片がつく問題ではないのです。

 特に,裁判になる前の被疑者段階では,弁護人は検察官がどんな手持ち証拠を握っているのか分かりません。こういう種類の証拠は考えられるな、と言う予測位はしますが、予測がつくのもせいぜい証拠の種類までで,その具体的な内容は裁判にならないと分からない場合も少なくない以上、証拠を被疑者の供述に関する説得の材料には使えないのです。
 それまで弁護人の手に入れられる事件について有意な情報は、被疑者自身の供述と,断片的な犯罪に関する事実の記載からでてくるものしかなく、現場に行ったり、各種照会をかけたりにするにしてもまずは被疑者自身の供述が起点になります。
 手元に証拠があれば,証拠と照らし合わせて弁護人として聞くべき事項も次々出てきますが、証拠がない以上、弁護人の方針決定も被疑者自身の供述に依存せざるを得ない状態です。
 その依存先である被疑者の供述が露骨に間違っているとなると、弁護方針は明後日の方向を向いてしまうことになります。


 例えば、「犯行現場にいたのは確かだが自分は加わってない」と言う件なのに、見栄を張ったり、余計に防衛線を上げようとして「自分は最初から犯行現場にいなかった!」と言ったりすると、後で何らかの証拠が出てきて犯行現場にいたのが確定的になった時に彼の弁解は一気に信用性がガタ落ちしてしまいます。
 被害弁償をするという手が考えられる件もありますが,嘘をついて否認すると被害弁償を考える余地もない(事件内容によりますが)ため、被害弁償方面の活動が全くできなくなります。


 被疑者は素人なんだから、そこはプロである弁護士がアドバイスしてやれよ…と思う人もいるでしょうか?
 弁護士は確かに法律にはプロですが、だからと言って犯行現場で何が起こったかを知っているわけではありません。あるのは警察や検察が「こういう件で疑っています」と言う情報だけで、時にはそれすらないこともあります。
 さらに、弁護人として被疑者の言ってることを何の根拠もなく信用しないというのは、基本的に無理としたものです。
 自分の言っていることを証拠もなく全て嘘と決めつけてくるような弁護人を信用する被疑者はそうそういないでしょう。
 宇宙人がどうだテレポートがどうだというようなオカルトな内容ならまだしも、一応物理的にありえなくもないような弁解について、調べもせずに確信を抱ける弁護人はいるものではありません。
 なので、仮に100%嘘だと思ったとしても、自分のその感覚が間違いである可能性を踏まえてその場では同調する弁護人が大多数でしょうし、そうすると,弁護人としては「とりあえず被疑者に従った活動をする」ことしかできません。

 結果として、明後日の方向を向いた弁護活動に効果などあるはずもなく、弁護活動に深刻な遅れが生じ、開幕から的確に動いていれば裁判にせずに済んだのに、正式裁判になってしまう…とか、何とか釈放させようと裁判所に準抗告を申し立てたら、認めてもらえなかっただけではすまず、既に動かない証拠を握っている検察に「こいつ,弁護人にまで故意の嘘ついてやがるな!?」と言うことまでバレかねないことになります。



 「弁護人に嘘をつくのはやめてほしい」というのは、弁護人サイドの心構えとは別に、被疑者サイドの心構えとしてぜひとも知っていてほしいのです。
 それは,単に嘘は良くないというような倫理的な問題ではなく、弁護活動が効果的に行えるかどうかの瀬戸際であるということを理解してほしいのです。






最終更新日  2021年01月19日 17時30分04秒
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2020年11月28日
探偵業界で、DV加害者やストーカーに探偵が使われてしまうという問題が報じられ、探偵業界が頭を痛めているという報がありました。

​ 2020年11月28日 09時07分 DV被害者、逃げたら「探偵に後をつけられるように…」加害者の依頼、見極めに苦慮する業界


 

 しかし、刑事弁護の世界でも、これに近い問題は起こります。

 刑事弁護は、国選弁護ならば依頼者は国ですので、別に何の問題もありません。

 警察に逮捕された本人から「弁護してください」と依頼が来ることもあります。
 本人からの依頼であればこれも問題は全くありません。

 問題は第三者から「〇〇が逮捕されたので弁護に行ってあげてほしい」と言うような依頼が来て逮捕された被疑者に面会に行く…というのです。
 別に逮捕された人以外が「〇〇の弁護を依頼してほしい」ということそれ自体は、特に問題はないのです。

 もちろん、頼みに来たのが事件そのものと無関係な家族や友人ならばさほどの問題はありません。
 ところが、中には逮捕された当人の未だに逮捕されていない共犯者、あるいは法律上共犯者とは言えないまでも事件について知っていたりする組織犯罪関係者などが友人を名乗って(友人であること自体は嘘でもなかったりする)依頼してくると言うこともあります。
 組織犯罪関係者の場合、被疑者当人が面会禁止になっていたり、面会は可能であるにしても横で警察官が立ち会うため、自由に話せません。
 一方、逮捕されている被疑者に圧力をかけて「黒幕のことを話すなよ」と言いたいケースもあったり、そこまでできなくとも被疑者が何と言っているのか知りたいケースも多いのです。
 そこで、事情を知らない弁護士に「友人」を名乗って弁護を依頼し、て何と言っているのか聞き出してしまう…ということは、残念ながらあり得るのです。

 事情を知らず使われた…だけならばともかく、中には事情を知ってて圧力をかけるようなことを言う弁護士もいるという黒い噂も聞きます。
 流石にばれたら一発で業務停止以上の懲戒どころか強要罪などで刑事処罰さえ考えられる行為だと思うのですが、弁護士に認められた秘密交通権でなかなかバレないのも確かです。

 私自身も、以前依頼者をロクに検証しなかった弁護士のせいでひどい目に遭ったことがあります。
 私が弁護を担当していた被疑者に誰に頼まれたかすら伝えず(詳細は伏せますが、状況からして依頼者が共犯者の類であることは間違いない)に面会に来ただけでなく、先に国選弁護で活動していた私の弁護活動を滅茶苦茶にかき回して去っていったことがありました。
 おそらく、彼とて私の弁護の邪魔をしようとか、弁護に名を借りて被疑者を困らせようと思ったのではなく、「逮捕されている人のために頑張ろう!」という職務熱心さ「依頼者はどんな人なんだ!?」と言う点に意識が向かない脇の甘さが合わさってとんでもないことをやってしまったのであろうと思います。
 とはいえ、刑事弁護で超有名な法律事務所の弁護士だったので「あの事務所は、依頼者を警戒する必要があることは教えていないのか?」と言う点では呆れかえりましたが…


 むろん、第三者からの弁護依頼を受けることそのものは別に禁止されていませんし、逮捕・勾留されている被疑者にとっては外にいる第三者からの助けがあると分かることは非常に心強いことでしょう。
 第三者からの弁護依頼を否定する必要は全くありませんし、依頼者が誰であれ被疑者のために最善を尽くすという姿勢は正しいことです。

 そして、依頼した第三者が何者なのかについて調査するのが難しいのは探偵業界に限らず弁護士も同様です。一刻を争う場合もある以上、調べるために時間を費やせず(費やしたところで調べる方法も少ないですし…)に騙されてしまったというケースもあるでしょう。
 しかしながら、弁護人業界が刑事弁護のために認められている権利を悪用されることに対して脇が甘ければ、せっかく刑事弁護のために認められた弁護人の諸権利が縮小し、本当の意味で困っている人の弁護活動にまで重大な枷がはめられてしまうという最悪の事態を招くことにもなるでしょう。


 例えばリンク先の記事では

「調査にあたり対象者の個人情報を書いてもらうと、「自分の妻」と言いながら名前以外の情報を書けなかったり」
「「彼女」としながら連絡先をLINEしか知らず、分かるのは下の名前だけだったりした」


というような例が分かりやすく怪しいケースとして紹介されています。


 第三者からの刑事弁護依頼を受けた弁護士も、限界はあるでしょうが、依頼者についてその場でも調査できる事情はいくつかあるはずです。

「依頼者と被疑者の関係はどんななの?(依頼料を出すだけの関係か?)」
「依頼者は身分証を見せるのを渋ったりしていないか?」
「家族を名乗るのに名字が違っていたりしないか?(結婚・養子などはきちんと説明させる)」
「フルネームや生年月日など、関係上知っていてしかるべき情報は適切に答えられるか?(確認できないのは仕方ないが露骨に不合理なら断る)」
「何故依頼者は被疑者が逮捕されたことを知っているのか言えるか?(「噂」などと言うような曖昧な答えは×)」
「被疑者には必ず依頼者の氏名や依頼者から聞いた情報などを伝え、被疑者自身にも判断してもらう」
「事件そのものの情報は少なくとも初動段階では依頼者に伝えないと通知した上で受任。それに噛みつく依頼者は危険」


と言ったように、悪質な依頼者に利用されないよう注意し、また見抜けなかった場合であっても被害を最小限にとどめるといった努力も、また必要であろうと考えます。






最終更新日  2020年11月28日 14時26分55秒
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2020年10月30日
佐々木亮・北周士弁護士らの懲戒請求に関する損害賠償請求訴訟で、懲戒請求者6人に合計396万円の賠償を命じた判決が確定したとの報が入りました。

 賠償額の点については一定の論争があり得る所で裁判によっても見解が分かれているようですし、今後判決が積み重なった場合に問題になる可能性はあるとも思われますが,少なくとも「懲戒請求について不法行為が成立する」ことについては全くその通りだったと言えるでしょう。


 一部に懲戒請求されても被害なんかない!!とか、記者会見では生き生きとした顔を見せてたくせに!!とか主張している弁護士も見ました。
 内心では慄然としましたが、懲戒請求者代理人弁護士もやっていたそうなので、代理人としての発言だったと思うことにしましょう。
 私だって懲戒請求者から「請求棄却判決とって!!」と言われたらきちんと依頼料を払い指示に従ってくれるなら依頼だって受けますし、ブログその他で大っぴらに公表するかはともかく裁判で被害がないなどと主張する可能性はあります。
 内心で別の弁護士に対して「この三百代言野郎!!」位に思うことは割とありますが,同じ弁護士としては信義を重んじるべきですし、自分でもそれに近い主張することもありえるのですから、胸にしまうべき感情です。



 私自身,訴訟という手続で不当な懲戒請求への対応がなされることは疑問なしとはしません。
 先日,私が国選弁護人を務める事件の弁護活動に横入りして、被告人との信頼関係をぐじゃぐじゃにしてきた+αをやってきた弁護士に懲戒請求をかけることを検討するところまで行ったことがありますが,結局相手方は自分の事情をだんまりしたため,調査検討義務の問題になりえること(あと関係者を巻き込むこと)を踏まえ,断念しました。

 問題行為をやらかした弁護士側にだんまりされてしまうと、結局調査検討ができず,懲戒請求に対して民事訴訟を起こされたら敗訴するリスクを意識せざるを得ません。
 結局,弁護士会の自浄を働かせるための懲戒請求についても、小さからぬハードルとして調査検討義務は立ちはだかるでしょう。
 真面目に懲戒請求する人にとっても障害になってしまうと感じます。

 そういう意味で、民事訴訟による対応は、懲戒請求制度の在り方として健康的ではないという気持ちはあります。

 しかしだからと言って意味不明な懲戒請求をいくら受けても我慢しろ、などと言う解釈ははるかに不健康な解釈であると思います。
 
 また、弁護士会も当の弁護士に聞かないと懲戒請求者の言い分だけでは真相解明も困難な場合も少なくないだけに、全件を当の弁護士に聞いた上でしっかり審理するという弁護士会の姿勢そのものは非常に真っ当なものです。
 簡易却下しろ、という言い分を主張する人はぜひその言い分を告訴状不受理をやらかす警察にも主張してあげてください。


 むしろ「民事訴訟という形でしか被害に遭った弁護士の被害を阻止・回復できない」現行制度の問題ともいえます。
 とはいえ、私ごときにこうした問題を解決できる制度が立案できるなら苦労はないのですが…






最終更新日  2020年10月30日 17時42分44秒
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2020年10月09日
法律相談に来るのに、本人が来てくれず、親族などが代わりに相談に来る・・・正直よくあることです。


パターンとしてはこんなものが考えられます。

一、本人が植物状態だったりひどい認知症だったりして、弁護士に何を聞かれても答えられる見込みがないので親族が来た。


流石にこれは仕方ないとみるべきでしょう。
移動ベッドに乗せて連れてこいなんて言ったら流石にひどすぎると思いますし、下手に本人から事情を聞こうとすると、言うことがころころ変わって逆に振り回されたり、本人の精神の安定を乱すリスクもあります。


二、本人が来る予定だったのだが、当日急病になるなどして来られず、枠がもったいないと思って家族などを寄越した。


弁護士サイドからしてみればうーん本人来てほしいなぁというところではあります。
しかし,すっぽかしをしたり、当日キャンセルするよりは本人なりに事件に対して誠実だという証拠だともいえます。
家族の協力も得られている件であるということもわかるので、そんなに悪い感情は抱きません。

三、未成年者の親権者が相談に来ている


未成年者もできる限り連れてきてほしいのですが、一応親権者は法定代理人として本人に近い立場ですし、学校などがあればまあしょうがないか…とも言えます。
あくまで前相談扱いで、最終的には本人と会って話を聞くというのも必要になりますが,その時は学校休んでもらうか土日祝に来てもらうか…などの手を打ちます。




しかし、体感として(きちんと数えてませんが),法律相談でよくある「本人以外が相談に来る」パターンは実はこればかりではありません。
一番多いパターンは表題にあるような

「うちの息子(娘)に請求書が来ている。本人に聞いても大丈夫だ大丈夫だというばかりだ。本当に大丈夫なんだろうか…」


と心配した親などが,その息子の意思に関係なく相談にやってくるという例が一番多いと感じています。
子が未成年者なら上記した相談3ですが、子も成人しているパターンが多いのです。

もちろん、これが親が(連帯)保証人になっているとか,悪徳金融が「親なんだから保証人になってなくても払え」と言ってきているとかであれば,これは親自身の相談として,親の対処を話すことは可能です。
しかし、話を聞いてみると親自身は法律的に利害関係があるというわけではなく、単に息子さんを心配しているだけということが多いのです。
時には、「息子は払うと言っているが反対だ、息子を何とかしてほしい」というように、本人の意思を聞いてないどころかもろに意思に反することの説得を頼まれるというケースもあります。


こうした相談は,相談を受けた弁護士としても困ってしまうことが多いです。

まず、家族などの代理人が本人並みに紛争を理解しているケースはほとんどありません。
従って弁護士が適切な回答を出そうと思って相談者に様々な質問をしても、「本人に聞かないと分からない」で開幕早々つまずきます。
よくて「本人はこう言っていた」という伝言ゲーム状態が連発されてしまいます。
本人が認知症だの植物状態だので覚えてないなら覚えてないで手の打ちようがあるケースもありますが、親の代理相談の場合「本人が覚えているのか覚えていないのかもわからない」ケースが多く、そこまで抽象的になるといよいよどうしようもないことになります。

また、時効などで一見してこちら側の勝てそうな事案であり、弁護士の受任が適切そうだというケースであったとしても、本人が来てくれなければ弁護士は依頼を受けることもできません。
本人と会わずに受任することは原則として禁止されていますし、本人の権利関係を扱うのに本人の許可を取らないのは無理です。
例え本人に意思能力などがない場合であっても、意思能力がないことを弁護士サイドできちんと確認しないまま「家族が言うから引き受けました」はできません。
本人の意思を確認する暇がない,一日を争うような緊急時であり本人にとってもリスクは非常に低い、というのであれば事案によって引き受ける可能性はありますが,逆に言えば緊急時でもなければ引き受けられないのです。
そもそも弁護士への依頼料だって安くない負担です。


こういう場合、親としても別にクレーマーやモンスターペアレントみたいに露骨に無茶な要求を通そうというのではなく,自分の息子が危ないのではないか,という親心としてはまことにごもっともな考えできているだけに、無下にも扱いづらいことが多いのです。

 事務所で相談予約をする際には「本人連れてきて!」と指示し,場合によっては「本人いないと相談はできても仕事の受任はできないよ」通知することで本人を来させるという手が打てますが,市民法律相談の類だとそうもいかず、親に対して相談の作法を教えてお引き取り願うというような対処になってしまうこともしばしばなのです。




 もう一つ。

「息子が言うことを聞かないので弁護士に説得を頼みたい!」というケースは、「親御さん、気を付けないと逆に家庭が崩壊するよ?」と感じることがあります。
そもそも法律的なトラブルを家族に知られたくない人は多いのです。「家族に知られず破産できますか?」と聞いてくる人の多いこと多いこと。

それが家族にばれているというだけでも当人にとっては決して小さくないストレスになることがあります。
弁護士を巻き込んで説得しようとする親御さんの場合,それ以前から強引な説得をしている場合も決して少なくありません。

そこでもし突然現れた謎の弁護士が親と一緒になってやろうやろうとあれこれ言ったら冗談でもなんでもなく,親子間の信頼関係は崩壊します。


自分の息子(娘)が法律トラブルに巻き込まれているようで気になる親御さんは、とりあえず弁護士に相談に行くことを言葉柔らかく、人によってはそれとなく勧めてみる所から始めてみましょう。
無理に弁護士を使って解決しようとするのは、本当に最終手段だと考えるようにしてください。






最終更新日  2020年10月09日 17時28分02秒
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2020年06月22日
裁判所らしき組織から届いた謎の封書。本物か偽物か、はっきりとは分からない。


ここで、


身に覚えのない書類は特殊詐欺や架空請求だから無視しろ!!



というのがよく言われる話です。警察や役所もそういうポスターや標語を準備しているところが少なくありません。
書類に書いてある電話番号に連絡するな、詐欺師に丸め込まれるぞ!!なんてものもあります。



 しかし、弁護士としてこれは言わせていただきます。

 こんな危険な啓発活動は即座に中止し、新たな啓発活動で既存の啓発活動を上書きすべきです。
 本当になすべき啓発活動は

「封書が届いたら公的機関に相談を!!」


です。
 警察でも役所でも弁護士など裁判関係士業でも構いません。とにかく相談してほしいのです。

 それは、「本物の裁判書類を架空請求と間違える危険性がある」からです。
 私自身、「これ架空請求ですか?」と相談に来た人の中に何人か「本物」が来ている例を見てす。
 その方々は相談に来てくれてましたからアドバイスできましたが、もし彼らが「架空請求だ」と判断して無視を決め込んでいたら最悪の事態になってしまっている可能性があるのです。


 架空請求と本物の裁判所からの書類を取り違えるリスクがないのであれば,「架空請求は無視」という啓発活動に問題はないと思います。
 架空請求をしている連中も,はがき一枚ポストに入れたりする連中も多いですが,裁判所からの本物の書類であれば「はがき1枚」いつの間にかポストに、というのはあり得ません
 SMSやメールなどを使った請求も「裁判所が紙で書類を送らなければ裁判は始まらない」以上、裁判書類であることはありえないのでセーフです。

 しかし,架空請求業者も込んだ手口や書類を使う例も報告されてきており、本物の裁判書類との判別は難しくなってきています。
 特に封書となると裁判手続によほど慣れていない限り素人が正確に見分けることを期待するのは困難です。
 「裁判所からの書類は特別送達で送られる」という情報は検索すれば簡単に出てきますが、「書留郵便」と「特別送達」の区別がしっかりつく人は決して多くありません。
 裁判所が裁判所の公式な書式を公開したらマネを招く可能性もありますし、極端な話、裁判所の書式を手に入れればそれをマネして書類を作ることだってできてしまいます(私が架空請求詐欺師なら絶対やります)。
 印鑑もそれっぽく作ってあれば弁護士でも判別は困難です。少なくとも私は印影の見た目だけでは判別できません。地元裁判所の印影ならもしかするかもしれませんが、日本各地の裁判所の印影はどうしようもありません。
 持ち込まれた書類見て「へ―あそこ簡裁あったんだ」という簡易裁判所だってあるところです。



 その上で、日本の民事訴訟法上絶対的に動かないのは,「本当に裁判所から送達されてきた書類を無視する」行為が極めて危険であるということです。
 無視するということはそのあと放置するということになり,放置すると、相手方の言い分を全て認めたことになってしまうのです。

 そして、「無視した理由が何か」を裁判所は考慮してくれません。
 裁判中であれば,「間違って捨ててしまった」のに「気づけば」裁判所に相談すれば書類を閲覧させてくれるのでリカバリは効きます。
 しかし,判決が出て判決の送達も「放置」し、控訴の期限も過ぎてしまい裁判が終わってしまえばすべては手遅れです。


「受け取った家族が子どもで、意味が分からず何も言わずに捨ててしまったので気づかなかった」
「重要な書類だと思わないで捨ててしまった」
「架空請求と間違えた」


というような事情を裁判所に証明しても、裁判所の回答は「民事訴訟法がそうなっていますので、裁判のやり直しは認められません。あなたに払えという判決は有効です。実際払う義務がなかったとしても手遅れです。」の一言で終わりです。
(子供の受け取りでも、10歳児の受け取りが有効とされた判例があります。ごく一部の例外はなくはないですが、当てにはできません。)

 債務整理をやっていると、相談に来て「書類を見る限り、あなた裁判所からの書類をスルーしてしまったんですね?もう手遅れとしか回答しようがないです…」と通知せざるを得ない人のなんと多いことか。
(債務整理系の相談者が多いので、その債務以外でも破産直行なケースが多いですが…)


 しかも、最近は記載してある電話番号に電話をかけるのも危険だと広報されています。
 確かに書類が本当に架空請求ならば、言葉巧みに支払いに誘導されかねず危険なのは確かですが、区別を間違えると本物だった場合に裁判所の電話番号にもかけないことになってしまうので、裁判所から「確かにあなた訴えられてますね」と確認することもできず、いよいよ気づく方法は信頼すべき誰かに「これ本物ですか?」と問い合わせるしかないのです。



 ところが,役所などが架空請求かどうかを見分ける手法として書いているのが


「身に覚えのない請求は無視」



というものをしばしば見かけます。
 実は、「身に覚えがあるかどうか」は判断基準として役に立たないのです。

 「身に覚えはないのだが放置したら裁判所から請求が来る」場合として、「裁判所を使った架空請求」というパターンも法務省が広報していますしそれも警戒すべきですが、架空請求とは限りません。
 私に思いつくパターンは以下のものがあります。

①相続が絡んでいる場合



 この場合、当人には100%身に覚えのない(死んだ被相続人にしか覚えがない)請求が来るのはむしろ当然のことです。被相続人も忘れてしまったり、自分の死期が近いと思っておらず伝える前に亡くなったり、恥ずかしかったりして債務の存在を隠してしまうこともあるでしょう。
 それが被相続人の死亡に伴って相続人に請求するのは、債権者としてあまりにも当たり前のこと。架空請求でも何でもないのです。

 例え相続放棄をしていても安心できません。現に裁判になった場合、相続放棄したから引き継いでいないと主張するには,「相続放棄しました」と裁判所で主張・立証しないといけないからです。

 裁判所から書類が届いた時点で弁護士に相談に行っていれば,

「裁判でこの件は相続放棄しましたと言えば大丈夫です。同封されている定型書式のこの欄に相続放棄しましたと書いて、家庭裁判所からもらった申述受理証明書のコピーでも同封しておきなさい。なくしたなら家庭裁判所に発行してもらいなさい。再発行までの間はとりあえず定型書式だけ送れば時間は稼げます。」


のアドバイスがもらえるでしょう。
 あるいは、「今からでも相続放棄しなさい!」というようなアドバイスになるかもしれませんが,請求を正当にはねつける方法がありえます。

 それを怠り、無視を決め込めば、後ではすべてが手遅れ。
 被相続人の債務の額によっては、これまで築き上げてきた人生を台無しにするような責任を負わされることになるのです。


②当人の知的能力に問題が生じてしまっている場合



 金を借りたこと自体忘れてしまう。(債務整理系の依頼者だとどこから借りたかすら正確に言えない人も多い)
 漢字ばっかり書いてある裁判書類は読むのすら苦痛(そういう人も多いです)なので無視。
 債権譲渡されていることが読み取れず、「私はこんな連中からは金を借りてないから架空請求!」と即断してしまう。(譲渡が読み取れず「架空請求ですよね?」というニュアンスで相談に来た方はいました)
 家族が受け取った場合,状況が分からず本人は認知症だから、「またうちのおばあちゃんに架空請求か、ひどい連中だ、ぽい」

 結果として、せっかく時効などが主張できた場合であっても、放り出すという結末になることもあります。


③何者かが氏名などを冒用している場合



 連帯保証人の欄に百均で買ってきた勝手な印鑑を持ち出したり一時盗用した家族の判をついたりする主債務者というトラブルはしばしばです。
 ひどくなると、替え玉連帯保証人を連れてきて署名捺印させるというゲス野郎の事例もそれなりにあります。

 もちろん、勝手に名前を書いた主債務者や替え玉は有印私文書偽造罪&債権者に対する詐欺罪(保証人がいるとだまして金を借りたことになる)で刑務所直行でもおかしくない犯罪ですが、債権者としては主債務者がそんなことをしているとは分からず,本当に連帯保証人だと信じて請求してきている場合も多いでしょう。

 もちろんこの場合、当人としては連帯保証人になったわけではないのですから、裁判で連帯保証人にはなっていない、ついてある印影も誰かが百均で買った偽物だ、実印のそれとも全然違う、筆跡全然違うじゃないかなどと戦うことができます。
 しかし、「身に覚えがないから架空請求」と決めつけて無視してしまうと、裁判所はあなたの名前とあなたの名前と同じ印影がある以上、「あなたにも責任ありますよ」という判決を出してしまいます。
 裁判所は言い分を出してこない当事者については、「佐藤」の印影があるべきところに「鈴木」とでも印影があるような事態でなければ「おかしいな」とすら思ってくれないのです。

 一応,この場合は勝手に名前を書いた主債務者が文書偽造などで刑事処罰されれば救済される可能性はあります(民訴法338条6号)。
 しかし,刑事処罰なので「疑わしきは罰せず」。なんとか処罰を逃れようと「実は許可を取っていた」等と弁解されればその言い分を完全に突き崩すのは難しい場合も多いでしょう。
証拠不十分になればやっぱり責任を負わされることになります。





 こんな風に、「身に覚えがない請求」でも「対処すれば何とかなったのに、架空請求と決めつけて対処しなければ責任を負わされる」というような事例はごく当然にあるのです。

 そのときに、「身に覚えがない」などというような粗雑な判断基準は百害あって一利なし、本来避けられた破滅に人を突き落とすものです。
 しかもこの場合、別に債権者も裁判所も悪いわけではない,というケースも十分考えられます。
 裁判所の手続を悪用する詐欺の手口も最近は広報されていますが、「請求者は悪人でも何でもなく,債務者の状況が分からないまま単に請求しているだけ」というケースもあるので、「誰の責任にもできず最後は民事訴訟法が当然想定している自己責任として扱われてしまう可能性」は考える必要があります。

 そして、「封書の場合は…」「裁判所名義の場合は…」「はがき一枚の場合は…」などと細々場合分けして対応策を広めると混同が生じます。
 「無視!!」が広まると、例え隅っこに「裁判所と思われる組織からの場合は相談!!」と書いてあっても「無視!!」だけが印象に残ることになりかねません。

 その意味でも、架空請求かな?と思ったとしても,封筒に入った書面であるならば近くの交番でも役所でも相談に行くことを原則にしてください。

 そして交番も役所も、対照用の書式のサンプルを用意するなり、別途用意した本物の裁判所の電話番号に架電するなどして確認した上で「これは偽物」「これは本物」と教えてあげ、本物であれば弁護士その他への相談を勧めるようにすべきでしょう。

 もちろん最初から弁護士のいる法律事務所に相談に来ていただいても構いません。
 法テラスの援助対象の方なら実質無償で相談を受けられる法律事務所も多いと思われます。
 私個人は本物かどうかの見極めだけなら無料でやってあげてもいいと思っています。(これは弁護士によりますが)



 また、特に「裁判所・公的機関を騙る書類を送り付ける」のは刑法上公文書偽造罪にあたります。
 例え実在しない役所を騙っても公的機関と誤解させうる名義なら公文書偽造にあたるというのが判例ですから、警察が把握すれば刑事事件として動くべき案件でもあります(金払えと書いていないから詐欺ではない,実行の着手がなく未遂でもないと弁解される可能性はありますが、詐欺でなくとも十分公文書偽造です)。
 その意味でも、本物の裁判書類なら法律家に回せばよいし、架空請求ならそれを警察が把握することは摘発のために重要なことのはずです。




 どうしても誰かに相談するのが嫌なら、せめて送付されている書類に書いてある電話番号ではなく、自分で別途インターネットなどで調べた裁判所の電話番号に架電し、本物かどうかを確認するという手も一応あります(私のところに相談に来たら対応はそれになります)。
 しかし,よほど自信があるのでなければ「架空請求だと決めつける」ことだけはせず,相談に来てほしいのです。






最終更新日  2020年06月22日 22時30分06秒
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2020年02月06日
裁判に関連する話ですが、まずピンと来る人の多そうな話題として漫画のネタを出しましょう。
 国民的漫画「ドラゴンボール」からです。


「ドラゴンボール」でなぜミスター・サタンは魔人ブウに挑もうとしたのでしょうか。


 サタンがセルゲームでセルに挑もうとしたのは、当時のサタンにはセルの力がほとんど分かっていなかったからです。
 しかし、魔人ブウ編の時点では、サタンは自分が魔人ブウ相手に勝負にならない、戦えば殺されることは分かっていたはずなのに、です。

 それは,サタンを救世主と信じる人々の期待です。
 サタンはセルゲームの時にセルと戦うと名乗りを上げ、更に戦後に自分がセルを倒したと名乗って人々を巻き込みました。
 結果、サタンは後に引けなくなり、魔人ブウに挑むことを余儀なくされたのです。
 
 ドラゴンボールの世界は色々物語補正が働いたのでサタンは死ななかったどころか本当に世界の救世主になりました。
 本当なら、さっさとチョコにでもされておしまいだったでしょう。



 現実の世界には,そうした周囲の期待に押されて破滅した人物として,ドナルド・クローハーストという人物がいました。

 彼は、ヨットの技術についてはほとんど素人同然であるにもかかわらず、世界一周無寄港ヨットレースに参加。
 この構図に人々は熱狂し、クローハーストを一躍時の人と祭り上げ、ヨット制作に大金を出資してくれた人まで現れました。
 しかし、クローハーストはヨットについては所詮素人でしかなく、レースに参加して自身の無謀を悟りました。
 クローハーストは、最初不正行為でヨットレースを完走したように見せかけようとしましたが、不正が到底無理であることに気づきます。
 そして、棄権することもできないまま、本部に嘘の連絡を重ね続けた挙句,ついには海に身を投げてしまいました。

 クローハーストのレース参加の見通しが甘すぎたことは確かですが、やっぱり無謀だった、すいませんでした、棄権します助けてと言えば、彼も命を失うことはなかったでしょう。

 なぜ彼にそれができなかったのか。
 それは地元で待っているスポンサーをはじめとする多くの人々の期待であったと言われています。
 クローハーストは、資金集めなどをする際に、ヨットの知識のない多くの人を巻き込んでしまいました。
 結果、自ら作り出したそう言った知識のない人の流れに自らが逆らうことが性分故かリンチ怖さかできなかったために、命まで捨てて逃げてしまった、というのです。
 周囲が祭り上げてしまったのも問題ではないか、という意見もありますが、ヨットレースについての知識がなかったのであればやむをえない面はあったでしょう。

 




 さて、裁判の話題です。

 私はいつか、裁判を舞台にしてこのクローハースト事件や魔人ブウに挑んだミスターサタンのように多くの人を巻き込んでしまい、酷い目にあう人が出てくるのではないかと危惧しています。
 たとえ自殺まで行かなくとも、裁判を棄権(取下げや請求の放棄)することができず、心に取り返しのつかない傷を負うまで戦い続けることを余儀なくされはしないか。
 そうした不安を抱くことがあります。


 裁判や紛争ごとになると、しばしば当事者が神輿やヒーローのように祭り上げられることがあります。
 当事者も、人にもよりますが最初のうちは気分も悪くないでしょうし、その動きに乗ってしまう人が現れます。
 そうすると、当人や身近な人、弁護士以外にも多くの人を巻き込んだうねりが出来上がります。

 しかし、裁判は疲れるものです。
 勝てる裁判であっても裁判をしている状態それ自体に疲れ果ててしまい、もう裁判自体やめたい、その覚悟すらできずに裁判自体諦めてしまうという方は決して少なくありません。
 裁判に疲れ果てて「負けたのは残念だが、判決が出たことでほっとした」程度なら、いくらでもいます。

 そして、当事者が裁判が進む中で形勢不利を悟らざるを得なくなることは常に視野に入れざるを得ません。
 ついつい針小棒大に言ってしまったが、相手の証拠から針小棒大が発覚した。
 全くの新論点であり弁護士も予想しきれない新たな法解釈が登場したなどというのが裁判の中で発覚することもあり、自分の見込み違いを悟らざるをえないことは起こり得ることです。
 勝敗が逆転するかはともかく、裁判で相手の言い分が出てきて見て「え?」という事件など珍しくもなんともありません。


 それでも、純粋に個人で起こしている裁判であれば、形勢不利を悟った当事者は訴えの取下げや請求の放棄という形で「矛を収める」ことができます。
 既に支出した弁護士費用や裁判費用は相応に無駄になりますし、費用がもったいなくて最後まで突っ走る(コンコルド効果)ケースもあるでしょうが、既に払った犠牲を諦めさえすればとりあえずそれ以上の費用の拡大は抑えられますし、関わり合う手間も抑えられます。
 あくまで裁判は個人のこと。自分の裁判をどうするかは自分で決められるのです。
 弁護士も、アドバイスはしますが当人のそうした意向を踏みにじることは基本的にしません。
 訴訟が明らかな無理筋になったなら,弁護士からのアドバイスをするもなじみやすい所です。

 ところが、多くの人を裁判に巻き込んで形勢不利を悟ったときに、当事者は金銭を捨象して「後に退ける」でしょうか。
 法律的には後に退けますが、周囲のうねりが出来ていると後に退くことはそれ自体に前進以上の度胸が必要になります。
 そうした度胸といった精神的な要素については、個人差が大きすぎて弁護士でも踏み込んだアドバイスは難しくなりますし、「あなたの精神が持たないから弁護士の方で勝手に裁判を引っ込めました」なんてことが許される理由はないのです。


 そうして後に退けなかった結果が棄権できずに自殺したクローハーストであり、魔人ブウに挑んだミスターサタンです。
 後に引けなくなって勝てる見込みがないままの裁判に控訴・上告をせざるをえなくなる。
 当然疲労困憊、時には経済的負担も追加されます。

 多くの人を巻き込んでしまった裁判がダメだったとなれば、当事者はいよいよ追い込まれます。
 たとえ99%から同情的に見られても、残り1%が口汚く当事者を「不利な事情を隠して俺たちの金を取ったな!詐欺師め!」などと罵れば、1%の罵声の方が響くものです。
 そうして後に引けなくなって逃げ場を失った当事者は最後には命を断つとか失踪するという形で「逃げる」のではないか。
 裁判が終わった後も裁判所が不当判決だと意気込む人もいるでしょうしもちろんそういう場合もあるでしょうが,裁判所のせいにすることで逃げているだけ…そういうケースもあるように思います。

 裁判に世論をはじめとする多数の人々を巻き込むのは,そういった精神に巨大な圧迫を受けるリスクと引き換えの行為だと考えます。



 最近、裁判の資金をクラウドファンディングで集める、と言う話題があり,それを使って裁判したい!!と言うような動きがあります。(クラウドファンディングでの集金は弁護士倫理上の問題も指摘されますが、そこは解決したものとします)
 弁護士の手弁当ではできることに限りがあり、当人に金銭がないならそういった手法があると言うのは「選択肢を広げる」と言う意味では決して悪いとは思いません。

 しかし、金さえあれば勝てると意気込んでいる当事者に、後になってとんでもない現実を突きつけることがあると言う裁判の性質からすると、個人的には裁判向けのクラウドファンディングは勧めない所です。
 裁判それ自体も覚悟のいる危険なことなのに、更にクラウドファンディングで多くの当事者を巻き込み、紛争の内実を大々的に公表することは、いよいよ「後に退けない」状況を作出します。
 そして、担当している弁護士も敗訴リスク前提にそれを説明しなければならず、そういった危険性から当事者を説得するのが難しい(勝てると意気込む本人に負ける危険を説くのは信頼関係を壊しやすい)所です。

 


 記者会見やクラウドファンディングで世論を巻き込もうとすることは危険であることをよく理解して頂きたいと思います。






最終更新日  2020年02月06日 17時44分40秒
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2018年12月07日
弁護士法72条は,弁護士・弁護士法人ではない者※1が報酬目的で法律事件について鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務の取り扱いをすることや、その周旋を業とすることを禁止しています。
 また,権利を譲り受けて自ら当事者となって権利の実行をすることも禁止しています。
弁護士法73条、※2)



 具体的に禁止されている行為はなかなかぴんと来ないかもしれませんが…具体例を挙げますと…

①法律相談などの法律的知識の提供
②代理人になること。裁判の代理人でなくとも、代理人と名乗らなくても実質代理人なら禁止
③仲裁(当事者双方の合意の下で裁判官的なことをする)をすること。
④お互いを取り持って和解させること
⑤弁済を受け取ること
⑥債権を取り立てること
⑦弁護士を紹介して紹介された弁護士から報酬を受け取ること

と言ったあたりが典型でしょうか。

 このように弁護士でなければやってはいけない行為を弁護士以外の者が業とすることを総称して「非弁」といいます。
 これらに反した場合は、最高懲役2年,罰金300万円の刑事処罰が待っていることになります。(弁護士法77条



 弁護士は,全員が弁護士会・日弁連に登録されていて、ある程度の監督があります。
 例えばおよそ取れもしない金銭を「取れるよ」といって依頼料を貪ったり、明らかにおかしな法律事務を行ったならば、その弁護士は依頼者から金返せと言われるだけではすみません。
 弁護士会から懲戒処分を受け,場合によっては弁護士ですらいられないと言うことにもなります。
 
 ところが、弁護士会や日弁連も弁護士でない者を懲戒処分する権限はありません。
 そうすると、非弁護士がどんなインチキで金を貪ったり、依頼者に大損をさせても、誰も監督しないと言うことになってしまいます。
 特に弁護士を必要とする人たちは社会的弱者が多く、例え質の低すぎる非弁による損害があった場合であっても社会的弱者側からの責任追及は非常に困難になりやすくなります。被害に遭ったことにも気付かないことすら珍しくありません。
 弁護士が公的資格であり,非弁が刑罰をもって禁止されるのは,そういうあまりにも質の低い弁護活動から一般の人々を守る必要があるためでもあります。
 

 これに対して、非弁規制は競争を妨げ、問題があるという批判的な意見も上がっています。
 実際,弁護士法以外の法律で司法書士や税理士などと言った隣接士業などに一部解放されている業務もあります。
 弁護士だって万能超人ではなく間違ったアドバイスをするケースもないとは言えませんし、弁護士であるかどうか,という形式的な点だけで区切ってよいのか、というのは「立法論としては一理くらいはあるかな」と私は思っています。
 
 しかし,現状において弁護士法の規定に従わずに非弁行為を行う者は、資格を持っていない以外の点でも問題がある場合が多いです。
 「仮に弁護士が全く同じことをやったら、こいつ本当に弁護士か?と言われて当たり前」というケースの方が圧倒的に多いです。


 私自身も、「弁護士らしき仕事をしている弁護士じゃない人の関連する相談」を受けることがありますが…

 
弁護士資格を持たない「●●コンサルタント」「××アドバイザー」から珍妙なアドバイスを受けてそれに従い,それでにっちもさっちもいかなくなってから弁護士の所に相談に来ても、「もう手遅れの可能性が高い」と回答せざるを得ない。


「自分たちに頼めばお金が取れます」という弁護士でない業者。案の定いつまでたってもお金は取れず,話が違うと詰め寄ると「私たち弁護士じゃないんで…」と開き直る。消費者被害と見て何とか責任追及しようと弁護士の側で国民生活センターに照会すると、そんな相談が日本中から殺到していたりする。


 
 正直こんな事態、珍しくもなんともないです。
 相談に来てくれている人は、「自分は被害者だ」という自覚がある場合が多いからまだ弁護士に相談に来てくれ,場合によっては法的に対応がとれますが,「それで仕方なかったのだろう」と思い、弁護士にも消費生活センターにも相談に来ていない人たちは目に入らないので,被害者の暗数は数えきれないほどになるでしょう。
 来ている人でさえ、家族に言われて渋々来ているような人もいるくらいです。

 そして彼らは資格がなく質が低い、でもその分安いか、というと別にそうでもありません。
 きちんとした有資格者も日本司法支援センター(法テラス)による月々5000~10000円程度の分割払いが使える弁護士も多い(弁護士費用が不安なら、法律事務所に問い合わせる際に「法テラス使えますか?」と聞いてみるとよいでしょう)のですが,非弁は法テラスが使えないので,「弁護士より高い非弁などごく普通」です。
 こと非弁に関しては、安物買いの銭失いどころか高物買いの銭失いさえ珍しいことではないのです。



 弁護士は,「自分たちに依頼すれば回収確実」なんて言葉を使いません。
 言って依頼するように言えば職務基本規程に反しますし,仮に弁護士会がそれを禁止しなかったとしても,消費者契約法上の断定的判断の提供(消費者契約法4条1項2号)で契約取消の理由にもなるでしょう。
 非弁はそんなルールなど最初から学ぶ気もなく,儲けるためなら何が悪いんだ程度の問題意識しか持っていない上、最悪一部負けたとしてもそんくらい必要経費感覚で臨んでいるため,ルールに忠実な弁護士と比べて広告や依頼者への訴求力という点でアドバンテージを取っています。
 弁護士は本来のルールで、非弁は全選手が手を使っていいサッカーで戦っているようなもので、「ルールに従っているために自信なさそうな弁護士」より、「ルール無視なので自信満々な非弁」が頼れるように見えてしまうのは、仕方のないことなのかもしれません。
 しかし,そんな自信満々さにつられる心こそが、非弁の狙う心の隙間なのです。
 

 皆さんは法律的に困ったら訳の分からない「コンサルタント」「アドバイザー」などに頼むのではなく,必ず弁護士を頼るようにしてください。
 とりあえず法律的な相談でなく弁護士以外に頼んだ方がいい相談であったとしても,それを見極めるためだけでも弁護士に相談に来ていただくのが一番安全です。
 非弁は犯罪ですが、非弁に頼んだ人は処罰の対象にはなりませんから,相談に来たからと言ってあなたが逮捕される可能性はありません(この点は最判昭和43年12月24日で明示されています)。
 むしろ、弁護士が入ると刑事処罰を恐れて自ら金銭を払う非弁業者もいるくらいですから,その意味でも「非弁被害に遭った?」と思うなら一度相談に行くことは無駄ではないはずです。



 また、周囲の御友人なども、どこかで仕入れた知識を与えるのではなく、「とりあえず弁護士に相談にいこうよ」と勧めるようにしてください。
 例え善意であっても、間違ったアドバイスをしてしまうと助けるつもりの本人を突き落とし、非弁と同じ被害に遭わせる結果になってしまいます。
 



 なお,非弁に関しては深澤諭史弁護士のこちらのブログが詳しいです。
 大体この記事に書いてあることの大半はこのブログ記事に書いてあることを一記事にまとめ直したものだと思って頂いて差支えありません。
 もっと詳しく知りたいとか、この記事本当なのかな?と疑問に思われた方は、深澤弁護士のブログをお読みになっていただければと思います。






最終更新日  2018年12月07日 15時16分07秒
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2018年07月05日
無言電話やいたずら電話。
ニセの出前注文。
脅迫文でなくとも,趣旨不明な謎の手紙などが送りつけられてくる。
プライバシーの暴露。(住所や電話番号やメアド,出身学校などを暴露するだけで十分です)
勤務先への解雇要求。
自営業者等の場合監督官庁等への処分要求や通報。



 よくある嫌がらせです。


 実際のところ、これらの加害行為は被害者自身が気にしなければ,加害行為としての色彩を有しなくなる(かなり薄まる)場合も少なくはありません。
 ニセの出前は断ればいい話です。いたずら電話や無言電話も1分にもならなければたいしたことないでしょう。
 プライバシーなんてバレたって構わないという豪胆な方が居ることも否定しません。
 第三者からの意味不明な解雇圧力に屈して解雇とか流石に不当解雇でしょう。
 処分要求や通報だって普段からしっかりやっていればきちんと説明できるはずでしょう。
 

 では気にしなければいいんだから損害はないのか。
 そんな訳はありません。

こちらのtogetterでまとめられた犯行予告の例をご覧いただきましょう。

 爆破や殺人をにおわせることを書いた犯人は,周囲にたしなめる方々がいたのに
「遊びだって言ってる」
「人を爆弾魔や殺人容疑者に仕立て上げるなら仕立て上げた人が責任を負うべき」
「業務妨害をするのは自分じゃなくて業務妨害だと騒いだ人たちだ」

などと「騒ぐ奴が悪いのだ」と正当化。
 しかし現場は警察官が出動する事態であり,自分がギルティであることを悟るハメになってしまいました。

 何といっても,平成20年6月8日の秋葉原通り魔事件において、犯人は「秋葉原で人を殺します」と書き込みを繰り返し,結果として本当に秋葉原で7人殺害,10人重軽傷ということをやりました。
 犯行予告の全体数の統計は分かりませんが,「万一」が実現した結果,取り返しのつかないことになってしまったのです。

 Togetterの件でも,もちろん,出動した警察も「ただの悪戯」の可能性は考えたことであろうと思います。
 しかし,「悪戯ですまなければ」,放火・激発物破裂や殺人といった取り返しのつかない犯罪が発生する可能性を視野に入れなければいけません。便乗犯などが現れ,関連して何らかの犯罪行為が起きる可能性もあります。
 手がかりとなる事態を知りながら放置して大損害になったとなれば,桶川ストーカー事件のように警察を含め,放置した者の責任や信頼が問題になる可能性もあります。
 警察としてはしっかり警備しないと危ない,空振りならそれでよかったと思おうという判断で出動したのでしょう。
 もちろん,そんなことが彼の責任を減じる理由や,不安がる関係者の方々を腐していい理由になる訳はありません。

 犯行予告を受けた側としても,自分自身の損害だけならばリスクを飲む決断もアリでしょうが,「家や勤務先に火をつける」などというように,家族・友人・同僚・従業員などの関係者に累が及んでしまうようなケースだって考える必要があります。
 それくらいなら,99.9%何もないと考えられるケースであろうと,犯行予告がなされたら警戒はある程度しておくべき。
 現代日本においては,そのような対処を過剰反応だなどとはとても言えないと思われます。

 そして,そうした不安から人を守るべきであるからこそ,刑法は害悪を告知すれば,実際に害悪を行うつもりかどうか,害悪の告知で何かをさせようとしているのかなど関係なく犯罪としているのです。


 犯行予告に限らず,前記した無言電話やいたずら電話のような攻撃は,「連続的な・エスカレートしていく不法行為の兆候」である可能性がかなりあるものです。
 桶川ストーカー殺人事件などは、根源的には痴情のもつれが原因だったようですが,金銭要求無言電話近隣徘徊被害者の名誉を毀損するビラ配りとエスカレートし,ついに被害者が殺害されるという最悪の事態に至ってしまいました。
 つまり,無言電話やいたずら電話のような人によっては無視しうる零細な不法行為であっても,連続的な不法行為が暴走して,いくところまで行ってしまう。
 我慢していればいつか飽きると言う可能性はもちろんありますが,残念ながら加害者も十人十色です。
 我慢した結果調子に乗ったり,「これでダメか,ならもっと強力な手段に出てやろう」とでてくる。
 その手の問題に知識があれば,否応なくそういう加害者がいる可能性に思いが至ってしまいます。



 今般問題になっている弁護士への大量懲戒請求も,これと同じことが言えるでしょう。
 殺到した懲戒請求は確かに一見すれば懲戒理由なし,そんなので自分が懲戒されることはないと言うのは分かり切っていることなのかもしれません(私は実際そんな見解に全く賛同できないのですが,今日の記事はその点目をつむります)。
 しかし,懲戒請求が連続的な不法行為の兆候であるとすれば,懲戒請求がうまくいかないなら脅迫状で,無言電話で,直接的な身体への加害とエスカレートしていく危険は簡単に浮かびます。
 弁護士としてある程度経験を積めば,特にストーカー被害や離婚などで,ハナから損得度外視な攻撃を仕掛けてくるタイプの人は見た・聞いたことがあるはずで,それが自分に向けられるのが不安になるのは当たり前です。

 攻撃方法も問題ですが,その攻撃対象(巻き添え含む)も,弁護士個人に限らず,同じ事務所の弁護士,弁護士の親族,事務所の事務員…そういったことまで警戒せざるを得ません。
 かつてオウム真理教信者の脱会などを支援していた坂本堤弁護士はオウム真理教信者に自宅に踏み入られ,坂本弁護士ご自身はもとより,奥様や幼いお子さんまでが殺されました。
 奥様が殺害されたことを契機とした犯罪被害者支援活動で有名な岡村勲弁護士ですが,岡村弁護士の奥様を殺害した加害者の動機は経済的損失を蒙った犯人が岡村弁護士を逆恨みし,岡村弁護士の家に行ったら岡村弁護士が不在なので奥様が標的になってしまったと言うものでした。
 また,応対に出た事務員が攻撃され,ときには殺害されてしまったケースもあります。

 こんな具合なので,弁護士はその職務上,安全確保にも神経質にならざるをえない職種です。(弁護士に限った話ではない気もしますが)
 もちろん安全確保策は経費が掛かったり職務への支障が生じる場合もあるのである程度開き直っている方もいますが,「警戒する弁護士が普通,開き直っている弁護士はやむを得ない措置」という認識は持たなければいけません。

 これが発端となる事件が分かっていて,懲戒理由に当たらないとしても一応の根拠のあるような懲戒請求なら,「正攻法で攻めてくる相手なのだから,正攻法の場所で戦える」という意味では一定の安心感があります。懲戒される危険性はある意味上がりますが,被害はある意味それで済むと言える面もあります。
 しかし,発端すら訳の分からない懲戒請求が何百人にもわたっている以上,桶川ストーカー事件のビラ配りと同質でこの後更に危険な行為に走り出すと言う危険も想定されうるのです。
 例え大半が無責任なノリで行っており,ダメならそれで終わりと考えるとしても,「誰か一人でも」そういう攻撃に走り出せば弁護士個人の人生は跡形もなく破壊され,時には巻き添えの被害が出てしまう。
 不安に鋼の精神力でもって打ち勝てる弁護士には敬意を持ちますが、自分以外の人が抱く不安に思いが至らないのだとすれば、それは鋼ではなくゾンビというべきでしょう。
 
 
 弁護士側としては簡単な反論書面出して終わりでは済まず、懲戒請求以外にもなにか攻撃されるのではないかと怯えなければならないのがコピペによる大量懲戒請求である。という認識をまずお持ちいただかなければなりません。






最終更新日  2018年07月05日 21時10分34秒
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2018年06月30日
刑事関係で弁護活動やってて,最近頭に来ることが多いのが,起訴後勾留中,別途逮捕・起訴前勾留するでもなく延々と任意捜査を行った上,それが終わらないことを理由に「公判をまた開いてくれ,それまで被告人を勾留せよ」という検察官です。
 法技術的な問題に関しては今日はここでは論じません。論じ始めるとただでさえ長ったらしいこの文章が楽勝で数倍になります。


 これに関しては,検察官との法解釈的な衝突もあります。そこに関してこちらが正しいという自信は持っていますし,その点問題意識のある裁判官もいますが,そこは今日は引き下がります。(一応,「捜査中の案件につき逮捕・勾留令状を取るべきである」という結論部分のみ開示しておきます)
 いくら弁護人でも追起訴自体をするなとは言えませんし,検察側で突然新件が発覚するなどの事情で,方針変更をせざるを得ないことがあり得ることも認める所です。

 ところが,そんなやむを得ない事情がどうとかは関係ありません。「いつ頃までに起訴する」と公判廷で言いながら,「公判廷で述べた予定すら守らず,裁判所を騙す検察官」がいるということです。
 今日の記事では「遅延検察官」と呼びましょう。

 裁判官から,「それは遅すぎる。ここまでにやりなさい」とぴしゃりと言われたり,自発的にいついつまでに終わると検察官から申し出て,それに従って次回までに追起訴をすることを前提に期日を設定。
 しかし,弁護人の公判準備が間に合わなくなりそうになって電話でまだかと言っても「まだでーす!!」。
 そして公判当日に「いやー間に合いませんでしたわー次はちゃんとやりますんでー(意訳)」
 上記のようなことをといけしゃあしゃあとほざく遅延検察官。

 身柄拘束がかかっていなければ,私も不愉快には思うでしょうが基本的に強い態度には出ません。弁護側の準備上「伸ばして…」ということもありえるところだからです。
 身柄拘束のかかっていない民事だったりすると依頼者の諸事情で準備が予定通りいかない…ということもあることで、準備が間に合わない相手方に遭遇した場合でも、ある程度はお互いさまと思って対応することにしています。
 ところが,遅延検察官は「身柄拘束を捜査機関の一方的な都合で伸ばす結果」を承知でそう言ってくるのです。
 
 私は,「追起訴するから待って…」という検察の主張に対して,「まあその方がスムーズに進む場合も…」とある程度大人な対応を取っていた時期もあります。そういう弁護士も多いでしょうし,今でも一概に間違った対応だとまでは考えません。
 が,叱られても性懲りもなく繰り返す遅延検察官に何度も当たった上,破られたことへの責任追及も困難であるため,逮捕・勾留などもされていない余罪起訴の「予定」については,もう一切合切配慮しない訴訟活動を心掛け,追起訴予定案件であっても当該案件で一回結審可能なら被告人質問も弁論も準備します。
 そもそも弁護人は公訴提起された事件の弁護人であり,検察が任意捜査中の案件については弁護人ですらありません。弁護人になってすらいない「謎の事件」に配慮して迅速な裁判の終了という当該事件の被告人の利益を目指す弁護活動を殊更手控えることは,本当に誠実な弁護活動と言えるのか?と考えます。




 さて,遅延検察官などという存在はなぜ現れるのでしょうか。

 以前追起訴が検察の予告より度々遅れ,私が勾留取消を申し立てたり,公判廷で散々抗議した件がありました。
 私が遅延検察官と行ったバトルでは最大のものだったと思いますが,その件で遅延検察官(見た目若手)が,勾留取消申立への反論書面に書いてきた言い訳の一つが,

「警察が送致してこない,警察曰く内々の決裁に時間が必要だ」


というものでした。

 ちなみに必要な期間として遅延検事が主張したのは捜査の端緒を捜査機関が得てから数か月後。
 起訴前勾留ならば令状取っていれば検察官送致前の決裁に数か月かけていたら釈放するしかなく(逮捕したら送致は2日以内),捜査怠慢で一大不祥事ですが,令状を取っていないのをいいことに本来一大不祥事になるようなことを押し通そうというのです。
 しかも,後日やっと追起訴され,公判で提出された証拠の作成日付を見ても,検察官がごねている時点で公判に提出された司法警察員作成の証拠はほぼ全て作成されていました(検察官が既に作成されたことを知っていたかは不明ですが)。
 「決裁が必要とか書いていたが,証拠書類はとっくに全部できていたじゃないか。何故起訴をこんなに遅らせたのだ」と追及しましたが,逃げるばかりでした。


 原因について色々と推測もしました。

 遅延検察官が遅延に関しての意識が救いようのないほど甘い。
 遅延検察官自身はまともでも,救いようのないほど甘い感覚の上の検事に迫られ泣く泣く書いている。
 裁判所が強く出られないことを見越し,対裁判所で叱られて押し通すことで,検事を育てるチキンゲームの一環なんて推測もしました。

 そんな中で,警察側の事情を書いてきたことで,もしかしてこれかな?と感じた最大の原因が,

「一番の問題は司法警察員で,遅延検察官はそれに対する指導力を全く発揮できていない」


という可能性です。


 司法警察員も多忙でしょうし,司法警察員は犯罪者に簡単に退かない意味ではタフでなければ困りますが,「タフ」が「鈍感」「増長」「傲慢」と化す場合があるのは警察に限った話ではありません。

「捜査の現場を知らない,司法試験に受かっただけの若造検察官が無茶を言って捜査現場を圧迫している。」
「捜査の現場に落ち度?落ち度はない。そこでもの知らずな裁判所を説得するのは検察官の仕事だ。」
 「令状とれ?何で必要なのか。令状なくたって起訴後勾留で身柄は拘束出来ているじゃないか。」
「みすみす身柄拘束に期限を設けて処罰を邪魔するとは,被害者の方に申し訳ないとは思わないのか。」
「被疑者国選弁護人のような鬱陶しい存在はつけられると困る。本人が任意捜査に応じると言ってるのに何が悪いのか」


 露骨にそうは言わないまでも、そういう考え方前提に司法警察員に強硬に出られてしまう。
 検察官は司法警察員に対して指揮権限は法律上ちゃんと準備されているのですが(刑訴法193条),「権限があるから躊躇なく行使できる」というのはある種の才能で,誰にもできることではありません。
 遅延検察官は司法警察員に強硬に出られず,現実に司法警察員から事件が「ある」と言われつつも送致されないものだから遅延検察官としては起訴・不起訴の判断もできない。
 不意打ち的にやっぱり追起訴ありますと言われるよりはまだマシだろうから,遅延検察官としても追起訴の予告はして,結果として公判廷で「追起訴を待って…」を繰り返して遅延検察官とならざるを得ない。
 弁護人に噛みつかれ,裁判官からも難色を示されるが,裁判所側としても,追起訴が遅れたから訴えを門前払いする訴訟指揮は難しく,仮に裁判所で公訴棄却という強硬手段を取ったとしても控訴審で破棄とか,別途起訴されると被告人にも迷惑がかかる。いわば被告人を人質にとられているので,結局裁判所もしょうがないなぁ…と思いつつも公訴提起を受け付ける。(私が初期に大人の対応を取っており,またそういった大人の対応を取る弁護人を批判するのが難しいと考えるのもその発想です)


その結果,司法警察員は更に

「こちらが正しかったではないか。現場どころか法律も知らない若造検事が余計な口出しをするな。」
「捜査のために現に通る手段すら選ばないようでは捜査担当として三流以下」
 
と増長し,「後回しにできる件」として身柄を取ったまま事件を塩漬けにし。更に検察官や裁判官,弁護人や被告人の胃袋を痛めつける。
 そういった悪循環が発生してしまっているのではないでしょうか?


 上記の私のストーリーは推測に過ぎず,検察官や司法警察員を事実に反してバカにした見解かもしれません。
 いかんせん遅延検察官への怒りが前提に形成された推測で,バイアスの可能性はあります。上記のようなストーリーと無縁な検察官・司法警察員の方が大半と信じたいので,その方々が気分を害されたならばお詫びいたします。
 しかし,遅延検察官が存在していること自体は残念ながら事実であり,少なくとも捜査機関の誰かがきちんと仕事をしていないと取らなければ,説明のつかない現象です。

 もちろん,上記の推測が的中していたとして遅延検察官の責任は重大です。
 検察官は指揮に従わない司法警察員に対して懲戒や罷免の訴追をすることだって可能です(刑訴法194条,正確には検察官の上層部たる検事正以上。地検のトップ位の方々が権限を行使することとなります)。司法警察員にはタフさが求められると言えど,「タフ」と「増長」「鈍感」「傲慢」を混同し,指揮に正当な理由なく従わない司法警察員は,罷免訴追にかけてでも黙らせることは検察官・検察庁の義務です。
 検察官も,犯罪者,時には弁護人に対してもタフであることも必要でしょう。私も検察官にカチンとくることはありますが,検察官たるものそういうタフさも必要なことはある,というのも分かるので,その意味では同時に敬意すら抱くこともあります。
 しかしながら,公益の代表者たる検察官は対犯罪者・対弁護人と同レベルで司法警察員に対してもタフでなければなりません。
 身柄拘束に関して上記の程度の感覚の上,指揮されてもしても直そうとしない者を司法警察員として捜査をさせることは,酔っぱらいに公道でブレーキの利きにくい車を運転させるのと同じです。飲酒運転は酒を出した飲食店すら処罰される時代に,そんな司法警察員と分かっていながら捜査をさせたことについて無責任でよいというようなあり方が検察でまかり通ってよいはずはありません。


 上記の私の推測が間違っているのならそれはそれで構わないのですが,せめて検察側で遅れの原因を徹底究明し,遅延に対しては問題ある者(組織体質か,個別の検事か,司法警察員か)に対して断固とした対応を取る。今検察庁にはそれが求められていると思います。
 それは,法形式こそ違えど普段検察庁が犯罪被疑者・被告人に取っている対応そのものではないでしょうか。






最終更新日  2018年06月30日 00時00分57秒
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