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碁法の谷の庵にて

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事件・裁判から法制度を考える

2021年10月19日
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弁護士ドットコムニュースで、「すべての中学校で、裁判を傍聴する機会を設けてください。」という署名運動を知りました。
詳細はリンク先に飛んで確認していただくとして,要約すれば

「裁判という場を知ることで、正しく知らないことから生じる差別や偏見をなくすことができるのではないか」


というものでした。



 私としては、この呼び掛け人の方は金目当てや売名目当てでなく、100%善意でこうした運動を行っていることには疑いを持っていません。

 しかし、意外にも?刑事弁護をそこそこやっている私はこの運動を素直に応援する気にならなかったのです。
 多分弁護士になる前の私だったら、素直に応援していたと思います。
 なぜでしょうか。


 それは、「裁判の傍聴に来てほしくない」という被告人含む関係者が決して少なくないことにあります。

 現行制度上、裁判は原則として公開である(憲法82条)。これは揺るがすことはできません。
 裁判の適正を監視するための仕組みとして、それは仕方のないことだと考えています。
 裁判官・検察官・弁護人法曹三者は見られていようが見られていまいがやることは同じです。(まあ個人的には見られてる方がより緊張はしますけどね)


 ただ一方でそれは「裁判に出てくる関係者が衆目のさらし者になってしまう」ということにもなってしまうのです。
 特に自身の罪を自覚している被告人にとっては、罪を犯したというのはこれ以上ないほど恥ずかしいことです。それを衆人環視の前で見られる…というのはある意味晒し者に近いことになります。
 衆人環視の前で己の罪を告白させてその尊厳を粉々に破壊する…これ、カルト宗教がその後に新たな価値観を植え付けることで信者を取り込む有名な手口です。

 薬物犯罪などになると、傍聴人の中には、薬物の売人の類が来ていることさえあります。要は「余計な事抜かすんじゃねえぞ」という監視ですね。
 売人であるという証拠もないので追い出すこともできず、売人にジロジロ見られながら言いたいことが言えず、優等生的なことしか言えない被告人・・・そういったケースもあるのです。
 関係者の人が応援や励ましに来てくれるような傍聴ならいいでしょう。けれども、不特定多数に傍聴される事態を好む被告人は決して多くありません。



 傍聴を好まないのは被告人だけではありません。被害者だってそうです。
 誰かも分からない傍聴人多数の前で生々しい被害体験を語らなければならないというのがどれほどの苦痛なのか。
 傍聴人がいない、あるいはいるにしても知り合いだけであれば…ということにはなるかもしれませんが、不特定多数の人がやってきて聞き耳を立てる中で話さなければならないというのは非常に辛いことになります。
 そうした衆人環視でものが言えなくなる事態を避けるべく、ビデオリンクでの尋問や遮蔽物での尋問という尋問手法の選択肢が用意されていますが、それでも傍聴人に内容がバレることは避けられません。
 そうしたリスクを恐れ、告訴を取り下げて裁判を諦めてしまう。取り下げなくとも検察官にそれは嫌だと伝えざるを得ず、検察官もそれでは公判が維持できないので泣く泣く不起訴…そういうことだってあるのです。

 また、リテラシーの問題も生じます。
 無邪気に傍聴に行ってきてその内容をSNS等に書いてしまったりすると、最悪の場合実名報道同様に被告人の更生を阻害することすらも考えられてしまう訳です。

 裁判の公開そのものは動かないにしても、「傍聴に来ないでもらいたいな…」という切実な願いを抱く、法曹三者以外の裁判関係者は決して少なくないのです。

 成人の刑事裁判ではなく少年審判は非公開です。
 これは扱う情報にデリケートなものや関係者のプライバシーにまでかかわるものが成人以上に多く、プライバシー保護しないと少年や関係者が口を噤んでしまうという配慮もあるからです。



 刑事裁判の実態や生身の人間を知ってもらうことで、差別や偏見をなくしたいという心構えそのものは立派なものだと思います。
 傍聴について無制限なのは現行法制度そのものの問題とも言え、この運動だけに異を唱えるのはいかがなものか、と言われればそうかなとも思います。

 ただ、「裁判を傍聴しないでほしい、不特定多数が見ないでほしい」という希望もまた生身の人間の持つ考えだということを忘れないでもらいたいと思います。
 傍聴を広めるに当たっては、関係者の方にこうした感情があることを踏まえ、被告人や被害者その他関係者の方を傷つけずかつ裁判の公正を阻害しないようなやり方を同時に考えていってほしいと思います。






最終更新日  2021年10月19日 11時29分57秒
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2021年06月30日
神奈川県弁護士会の弁護士が、当該弁護士が当事者のパワハラ裁判(被害者も弁護士)で証拠の捏造を行ったとして退会命令と報じられました。
 神奈川県弁護士会から会長談話が出ています。


 報道によれば、捏造された証拠は司法修習生(法律家の卵)からのメールの文面で、パワハラ被害者に当たる弁護士が酷いことをしたから当然だという主張をするための証拠として司法修習生から送られた挨拶のメールを加工・捏造したということです。
  なお,当事者が弁護士複数でこんがらがるので、これ以降は今回懲戒された弁護士をX、パワハラ被害者に当たる弁護士をAと記載します。


 退会命令と言うのは,弁護士の懲戒の中でも非常に重い処分です。
 弁護士の懲戒は「戒告」「最大3か月2年の業務停止」「退会命令」「除名」の4種類があります。(弁護士法57条1項。一時業務停止の期間に誤記がありました。訂正いたします。)
 退会命令は所属弁護士会から追放するというもので、新たな弁護士会に登録されなければそれまで弁護士として活動することは許されません。
 登録されないまま弁護士として活動すればいわゆる非弁活動として最悪刑務所行きになります。


 きちっと統計を取っている訳ではありませんが、退会命令は

「職務に関して悪意があるレベルの重大問題行為」
「何度も懲戒処分を受けている」
「行方が分からないなどでもはや弁護士として当人が活動する気がなさそう」


と言ったケースに使われることが多いように思っています。

 問題行為と言っても,「ついやってしまった勇み足」「弁護士も脇が甘い点があったが騙されていて生じた事態」ということであれば、基本戒告,悪くて業務停止でまず退会命令にはならないというのが私の認識です。(脇も甘くなく不可避的に騙されたならそもそも懲戒にならないと思われる。ある程度依頼者を信じることが許されなければ弁護士の職務が成り立たない)
 その弁護士に依頼していた無関係の人も突然依頼していた弁護士を奪われるので、弁護士会としてもあまりやりたくないし、やるときにはそれで焼け出された依頼者を追加料金なしで各弁護士に引き受けてもらう(当然実質無償仕事)ケースも多いはずです(本件でも神奈川県弁護士会は対応に追われていますし、私のいる弁護士会でも見たことがあります)。
 そんなの弁護士を見る目がなかった依頼者の責任なので新しい弁護士にちゃんと着手金から払って依頼したらどうですか?というような対応も違法ではないと思いますが、それでは弁護士業界全体の信頼に関わるし場合によっては弁護士自治の問題に波及することも考えられるので、泣く泣くボランティアをするという訳です。

 それだけに、退会命令を受けた弁護士はよほどであり新たに登録させる弁護士会はそうあるものではありません。
 弁護士の登録に当たって当該弁護士の思想調査とかをしたりはせず、司法修習を終えた有資格者なら多少手続は面倒でも申請すればほぼフリーパスに登録される所が多い(でないと司法修習終了後1年目の新人弁護士とかは登録に困る)ですが、「退会命令や除名を受けた弁護士の再登録」となると話が一気に変わります。
 弁護士会もそういう弁護士の登録は例え法律上許されていても原則として認めない、認めるとしてもある程度の例外的措置と言う方針で臨むことが多いようです。(私自身弁護士の登録審査などしたことないので、風聞です。違うなら教えてください。)
 弁護士会が登録することすら許されない除名と比べればマシと言えばマシですが、実質は「即死」と「致命傷」程度の差しかありません。


 今回のX弁護士は実名を報じられていましたが、氏名で検索してみたところ懲戒を過去に受けたという記録は見当たらないようです。
 そうすると、X弁護士の行為は上記の私の感覚に照らせば悪意があるレベルの問題行為とみなされたということになります。

 今回は「証拠の捏造」、今回なら司法修習生から送付されたメール文面をA弁護士を非難する内容に捏造したものと言うことになりますが、具体的にどう認定されたかまでは分かりません。
 メール文面等を裁判等で提出する場合はプリントアウトして提出するのが通例ですが、送信されたメールは通常編集できませんから、それをプリントアウトするにあたって捏造と言うのはそう簡単にはできないと思います。
 それでも「複数枚にわたる印刷の中で中身が抜けちゃった」とか、「文字が小さく区別がつけにくいので補記したら間違えた」とか、「事務員や別の弁護士が勝手にやったのに気づかなかった」などであれば「問題ではあるが懲戒理由には当たらない」か、「懲戒されたとして戒告レベル」と言う感覚です。
 「意味が大分変わってしまって判決にも大きな影響を及ぼした」という事態が生じれば業務停止位まで行くことはあるかもしれませんが、それでも退会命令までは行かないと思います。

 そうすると、今回の捏造はそれを越える相当に悪質なタイプであった…というのが現在の報道からの推測になります。
 一昔前の脅迫状みたいに切って貼ってを繰り返して文面を捏造したとか、元の文面はせいぜい送信日時と送信アドレス位で文面は完全に新規とか…そういうレベルの捏造を認定したのではないかと推測します。


 おそらく,弁護士会も単に懲戒請求者側が「これは捏造に決まってる!」騒いだとか、送信者が「こんなメール送った記憶ありません」だけでは捏造とは基本的に認めないはずです。
 送信されたメールは下書きなどと異なり被送信者側で簡単に編集ができないものなので、それを編集すること自体簡単ではないからです。被懲戒弁護士も捏造はしていないと主張しているそうなので,おそらく,弁護士会側も捏造については相当な確認をしないとここまで踏み切れないはずです。
 本来のメール送信者が当時司法修習生と言うことなので,現在どこかで弁護士をしている可能性が高く、協力を得てメールサーバーに残っている送信済みアイテムと照らし合わせたのかもしれません。(報じられている限り捏造されたとされたメールは修習生が送るには恐ろしく攻撃的で、元修習生もとんだとばっちりです)

 もちろんほかの方法かもしれませんが、なんにせよ相当な確認はしないと裁判所に懲戒を取り消されかねません。
 それすらしていないで退会命令・全国紙報道レベルの記者会見なら弁護士会の方が不当懲戒と名誉毀損でアウトになるだろうと思います。


 民事裁判などでメール文面などがプリントアウトされたものが提出された場合、メールは編集が困難であり「このメールがこのアドレスの持ち主からこの日時に送信された」と言う事実については非常に客観性の高く、単に捏造だといっても覆すのは困難な証拠になります。(書いてある内容が真実かどうかは別の話です)
 例え、依頼者が「こんなメールある訳がない!!」と言ったとしてもです。
 送信者と連絡が取れる状態なら連絡を取ってみる可能性もありますが、敵対的な関係にある可能性もあり連絡自体簡単にできません。
 メールがあることを前提に、「メールの趣旨が違うのではないか」とか、送信者が何か誤解をしているとか、そういう路線での弁護活動を組み立てる弁護士も多く、メール自体が虚構と言う可能性を深く検討する弁護士は少ないはずです。
 それだけに、電子メール文面を捏造して堂々と証拠として提出するような行為がまかり通れば、今後同種の裁判でメール文面が提出された場合、一々全部疑って送信者に確認を取ったりしなければならず、訴訟に無用な紛糾、送信者に余計な負担をかけることになります。
 送信者側がメールボックス容量の問題で削除してしまったような場合には復元にも費用と手間をかけざるを得ません。復元不能と言う事態もあり得ます。

 もちろん、「依頼者等に騙された」なら仕方ないこともあると思います。
 しかし、弁護士自ら(あるいは誰かに指示して)このような行為をするのは論外であり、捏造が事実なら今後の裁判実務への影響と言う視点からも処分は妥当、例え除名処分だったとしても重きに失するとは言えないと感じます。





 最後に、もとになった事件が今回はパワハラ事件ということで、弁護士とパワハラについても一言。
 既に民事裁判が一審判決が出ていてパワハラが認定されている(担当した弁護士のブログに記述アリ)そうで,パワハラとしても懲戒相当なのではないかと言う意見も見ますが、この辺りの詳細には踏み込まないでおきます。

 弁護士事務所内でパワハラ…というのは、もちろんあってはならないことですし私はその手の被害に遭ったことも見たこともない、その意味では幸せな弁護士業務を送らせてもらっていますが、弁護士によってはありそうな気もします。
 別の弁護士はもちろん、事務所の事務員、司法修習生、場合によっては依頼者などに対してパワハラ、それも指導や叱責の勇み足と言ったレベルではない正当化不能レベルのパワハラを働く弁護士、おそらくいると思います。
 それは「弁護士だからパワハラ」という訳ではなく、ある程度の人数がいればパワハラ上司はある程度不可避的に出てきてしまうもので、それは弁護士や裁判官でも例外とは思えません。
 弁護士である以上人並よりパワハラには詳しいと思いますが、皆が皆パワハラに非常に詳しいという訳でもないでしょうし、知識があっても知識を実践できるかは別のことになりますから、弁護士だけ例外的にパワハラが少ないとも思えないのです。

 私自身、刑事の法廷で追起訴の予定を破って追起訴をせず身柄拘束を伸長させて、理由の説明を求めても答えず、それで次回期日を…と押し通そうとする検察官を「既に約束を破っている嘘つき検事が、具体的な理由も言わず、令状も取らずに次回期日までにやるなんて信じる価値はない。累犯者に「反省の弁は信じられない」とか検察官は論告で言うが、その理屈なら既に嘘ついた検察官の弁など信じられるわけがない。この場で論告を言わせて言わないなら論告権の放棄とみなし、直ちに終わらせるべきです!」と裁判官に強く主張…と言っても実質は検察官への怒鳴りつけをしたことがあります。
 法廷で検察官と弁護人は対等で上下関係ではないですが、検察庁内で検事正や次席検事辺りが同じことを言ったら多分パワハラになるんだろうなぁと思います。(私が本気で怒っていたのも確かですが、怒って見せないとまたダラダラしてしまうのが目に見えたため弁護人として退けないと考えていました)

 上記の例の通り,私自身パワハラ体質なところもある気がするので,その意味では気を引き締める必要もあるのかなと思います。






最終更新日  2021年07月02日 09時52分54秒
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2021年05月20日
 故・木村花さんのインターネット誹謗中傷被害について,ご遺族が誹謗中傷者に起こしていた訴訟について、東京地裁が勝訴判決を言い渡したとの報がありました。
 ご遺族に認められたのは、慰謝料50万円,弁護士費用5万円,調査費用742,000円で合計1,292,000円ということです。
 ちなみにご遺族代理人弁護士の清水陽平弁護士は、こうしたネット中傷被害問題については第一人者の方と認識しています。
 ご遺族はこの訴訟について、

「足を骨折したときには数か月で直ると思うんですが、ひぼう中傷で心が病んでしまったら、一生直らない心の傷を抱えたり、追い詰められて命まで奪われることを思いましても額を高くするべきだと思う」

とコメントしています。

 これについて、私から補足説明をさせていただこうと思います。
 この件について、ご遺族の方はこれから判決に記載された金129万円余を手に入れられるでしょうか。
 ​実はこれは「分からない」のです。​
 確かに判決は出ましたから、加害者に判決に基づいて強制執行できる財産があれば、強制的に取り上げることはできます。
​ ところが、「加害者に強制執行できる財産があるかどうか」は結局不明です。​
 インターネットで誹謗中傷している人のプロフィールだけ見て彼に財産があるかどうかわかるケースや勤務先が分かるケースは犯人が有名人だったり個人的知己ならばありえますが、インターネット上の中傷ではまれなケースであり、「ない可能性もある」と考えざるを得ないのです。
 今回の判決で、調査費用については74万2千円が認められましたが、逆に言えば、もし74万2千円の調査費用を使って犯人が見つからなかったらどうなるでしょうか。
 実際、SNS等の運営に問い合わせてもデータの保管期限が切れてしまい、照会してもデータが残ってませんという回答がされてしまうケースも少なからずあるのが実情です。
 また、せっかく見つかった犯人に収入や財産がなく、強制執行しようにもただの空振りに終わるという可能性もあります。
​ この場合、被害者としてはただ単に賠償金が手に入らないだけではなく,74万円余りの調査費用までがただの丸損に終わってしまいます。​
 「裁判で勝訴判決を得た」というのは,「加害者から賠償を勝ち取る」という道筋の中では単なる通過点に過ぎないのです。
 加害者から金銭を取ろうとすれば、あまりにそれは不確定な賭けであると言わざるを得ません。
​ 結果として「諦めるという対応が最適解になってしまう」というつらい現実があります。​
 むろん、今回の件でもご遺族や清水弁護士がその可能性を分かっていないとは思えません。
 何らかの原因で加害男性に財産があることを把握できているとも考えられます。
 あるいは例え金銭が手に入らなくとも、加害者に対して一定の制裁を与え、被害者である木村花さんがあんな中傷を受けるいわれはないということを司法の場で示したい故に起こした訴訟であるのかもしれません。
 背景がいずれか、またはそれ以外であるにしても、現実に認められている裁判について後ろ指指されるいわれはありません。


 しかし、こうした調査費用を費用倒れに終わるリスク覚悟でも出すという強い意志と金銭がなければ、被害者は泣き寝入りを余儀なくされるのです。
​ 被害に遭って被害を回復するためだけに、そんなにも強い意志と70万円を超える金銭と、偶然加害者が金を持っていたという幸運がなければ、被害を被害のない状態に戻してもらうこともできないというのが、インターネット名誉毀損の過酷な現実です。​
 慰謝料50万円というのは旧来の相場からすれば破格なのは確かだろうと思いますが、そういうリスクを覚悟した上でなければ調査を依頼することすらできないという状況に見合うものではありません。





 また、最近はゲーム運営などに対して誹謗中傷を繰り返しすぎてゲーム運営が誹謗中傷者を提訴するというケースが見受けられます。
 私もその件が目についたので少々追っているのですが、そういうのを見ると、ゲームユーザーの一部(しかもヘビーユーザーで、ユーザーコミュニティでの発言力もそれなりにある)から
「ゲーム運営による集金である」

「ゲーム批判しているだけなのに言論の弾圧だ。批判を受け付けない組織は腐る」

「中傷対策してる暇があったらゲーム改良しろ」
などと裁判を受ける権利という国民の最も重要な基本的人権の行使を平気で罵倒し、それが周辺のユーザーと思われる人々に度々リツイートされる様子が見受けられました。
 中には、法実務に関するあまりにも浅薄な知識をひけらかして騒ぐ人もいました。
 むろん法的にはこんな輩の不見識に付き合う必要はなく粛々と裁きを受けてもらって全く問題ないのですが、それが原因でユーザーが減少するようなことになれば運営自体が難しくなっていくし、そこまでは法律的救済が難しいのも確かです。
​ かといって放置したりすべてを水面下で進めようとすれば繰り返される誹謗中傷に対しての抑止力となりません(警告されれば止める程度の良識がある人たちに止める動機を与えられない)し、積み重なれば従業員などのメンタルや対外的な評価にもかかわってしまうだけに、難しい対応を迫られてしまうことは容易に想定できます。​



​​
 現在は、被害者による照会の手間を少しでも省く法改正が成立し、施行待ちになっています。
​ しかし、不法行為法における慰謝料や損害賠償の在り方や算定方法が現在のままである限り、結局被害者としては泣き寝入りを強いられる可能性が極めて高い,金銭などに余裕があって、金銭より感情面に重きを置く被害者でなければ諦めるのが最適解という状況は変わらないと思います。
 慰謝料額の増額は、そのための一つの処方箋であると言えるでしょう。
 慰謝料という形でなくてもいいのかもしれません。アメリカにあるような懲罰的賠償制度もあります。
 また、捜査機関がバシバシ捜査・送検することで、金のある加害者が自主賠償をすることも期待できます。が、インターネット誹謗中傷被害における被害者の救済は、現在の不法行為をめぐる民事法の限界を表していると思います。​






最終更新日  2021年05月20日 18時27分14秒
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2021年02月09日
東京地裁で、わいせつ電磁的記録有償頒布目的所持罪(最高懲役2年)で、検察官が法定刑上限を超えた求刑をしてしまった挙句、裁判官が法定刑上限を超えた判決を言い渡してしまったと報じられました。


 事件の詳細は罪名以外不明ですが…
 この件で検察の不始末は言うまでもないことです。
 公判担当検事はもちろんのこと、決裁をした次席検事などの責任も免れないでしょう。

 しかし検察以上に責任が重いのは裁判所です。
 検察の失敗には例え弁護人が気付いていなくともしっかりダメ出しをするのが裁判所なのに、検察の法定刑上限越えをそのままスルーするなど検察の言いなりにしか裁判をしていないことの証拠です。
 ただ単に証拠評価を誤ったとか法令解釈が判例と合わなかったと言うレベルの問題ではなく、「刑事裁判の公正を疑われる」ミスの形であり、裁判官の責任は極めて重いと言わなければならないでしょう。
 求刑を参考にするのはある意味当然ですが、求刑の吟味すらしていませんというのでは裁判所の職務放棄です。



 では弁護人はどうでしょうか。
 今回の事件で弁護人側としては求刑の法定刑越えに気づいていたのかどうかは報道からでは分かりません。

 現実に裁判官&検察官が気付いていなかった以上、弁護人が気付かないなんてありえない!と断言できないのも辛い所ですが、流石に気づいていなかったとすれば弁護人として仕事をしているのかと言われてもやむを得ないでしょう。
(なお、受任時点で確認しますが、罰金刑が可能かとか、罰金があるとしてその額は、みたいな所だと私も割と不正確です。)


 自白事件の場合、弁護人は弁論を事前準備してもっていって、裁判のトリにそのまま読み上げる、と言うケースが多いでしょう。
 その時に、裁判員裁判でなければ具体的に懲役〇年程度がいい、ということは少なく「執行猶予が妥当」くらいで済ませているケースが大半だと思われます。
 執行猶予さえ取れていれば、どっちみち被告人は再犯はしないことを信じるのが通例でしょうし、あまり具体的に書くと場合によっては検察求刑より重い求刑になってしまうような事態さえあり得ますから、年数はさほど細かく突っ込まない…という弁論を準備する弁護士が多いのではないでしょうか。

 ただし、です。
 弁論を事前準備するにしても、検察官が論告などであからさまにおかしなことを言ったとなれば、その場で口頭ででも弁論を追加することはできるはずです。

「なお、検察官は懲役〇年を求刑しているが、かかる求刑は法定刑〇年を越えたものであり違法である」


と弁論に一言追加しておけば、裁判官もこの求刑年数はやばいのでは?と気づくことはできた可能性が高いです。
 もちろんそれも押し切られちゃったという可能性もゼロではないですが、大分可能性は下がるはずです。
 というより、流石にそこさえ押し切るほど裁判官のレベルが低いとは思いたくない所です。


 では、判決が言い渡されて初めて法定刑越え判決に気づいてしまった場合はどうでしょうか。
 この場合には、その場で「裁判官法定刑越えてませんか!」と事実上声を出すことも考えられます。
 判決言渡手続きが終わっていなければ、裁判官は「ごめんなさい!今のなし!」と言うこともできます。
 裁判官的には非常に恥ずかしい事態ですが、流石に裁判官としてはそこは我慢しなければなりません。
 ちなみに、修習時代に見た検察官向けの問題だとそういう風に事実上声出して、裁判官の顔をつぶさないように指摘して訂正させるべきだという答えでした。(執行猶予付けられない件で執行猶予付けるのを想定していましたが)


 判決が言い渡されて裁判官も出てってしまった後に気づいたとなるとどうでしょうか。
 この場合は一応判決としての体裁が整ってしまったので、誤りを直させるには控訴するしかありません。
 ただ、特に執行猶予が取れている場合には、被告人側でも「どうせ執行猶予だしまあいっか。これ以上裁判に付き合いたくない」となってしまうケースも少なくありません。
 しかも控訴は被告人の明示の意思に反することができないので、弁護人としては気づいたのにスルーするしかないと言う事態が生じる可能性はあるでしょう。
 検察にタレこめば検察は控訴するでしょうが、それで裁判に付き合わされるのが嫌、と言う被告人の希望を積極的に無碍にするような行為が弁護人として適切なのかは難しい問題と言わざるを得ません。
 そうすると、弁護人としては、勝負は判決言渡しの最中までにつけなければならないという訳です。


 日本の刑罰の運用上、法定刑上限を巡って本格的に争うような件自体が少なめなので、弁護人としてはどうしてもこのあたりぬるくなりがちになってしまうところかもしれません。
 むしろ弁護人としては前科などの関係上執行猶予を法律上付けられない件で執行猶予付を求めてしまうという方面での「恥ずかしい事態」の方が多くなりがち(私も修習中の起案でやらかしました)です。
 この辺気が緩むとこんなアホな事態に弁護人も一役買ってしまうのだなぁということで、気を引き締めようと思います。






最終更新日  2021年02月09日 16時24分16秒
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2020年10月21日
大阪地検で,担当検察官がコロナウイルスに感染したために、裁判員裁判の日程が延期されたというニュースが入りました。

 これで被告人はさらに身柄拘束を長期化させられることになります。
 被告人側の準備のためやむを得ず伸ばして…という件ならともかく,ようやく裁判が進むとなった時に膝カックンをかけられた被告人の落胆は察するに余りあります。
 この事件の被告人が事実関係を認めるのか否認するのかは分かりませんが,どちらにしても好ましくない事態であることは明らかです。


 
 今の時代,コロナウイルスに誰がかかるか分からない以上,感染の一事をもって担当の検察官個人を責めるつもりは私にはありません。
 私だっていつコロナウイルスに罹患するか,分かったものではないからです。

 この件は,検察庁の不始末と考えます。
 そもそも裁判員裁判案件なら検察官が2人で担当するのが当地では通例なのですが,残されたもう一人ではできなかったのか。
 検察官という組織体で,コロナに限らず検察官個人が事故に見舞われた時に備え,代りが務まる検察官が準備できなかったのか。
 コロナウイルス感染判明は4日前だったそうですが,4日の間に二人目を対応させることもできなかったのか。

 もちろん,代打役も準備してたのにそちらの検察官までコロナに罹患して…ということになってくれば,組織的対応にも限度があるでしょう。
 しかし,誰一人代打ができなかったのか,と思うと,大阪地検のコロナ関連の危機管理は甘すぎたのではないか,と思わずにはいられません。


 ちなみに,私は裁判員裁判で裁判官が当日にインフルエンザにかかってしまい,裁判が延期するというトラブルに見舞われたことがありました。
 ただ,別の部から代打の裁判官が出て来たので、延期は半日で終わりました。
 幸い,特段事実に争いのない件だったので,多少日程を詰めざるを得ない所はありましたが,何とか影響が少なく終わったと思います。
 裁判所は、裁判官のコロナやインフル感染にはある程度は対応できるようにしているということです。





 とまあ上記のように、裁判所も対処できてるのに対処できない検察庁は…と偉そうに検察庁を指弾するのは簡単ですが、実のところ法曹三者で一番コロナ対策ができていないのは検察官(検察庁)ではなく,弁護人(弁護士・弁護士会)であろうと思います。
 裁判員裁判では国選弁護人を複数つけることが認められることが多いですが,準備の便宜を考えると,複数弁護士がいる事務所なら同じ事務所の弁護士に頼むケースが多いのではないでしょうか。(私もそうする場合が多いです)
 そのとき,担当弁護人がコロナウイルスなりインフルエンザなり,交通事故に遭った,なんてことでも倒れることも考えられます。
 コロナウイルスが事務所内で蔓延してしまって、二人ともアウト…という可能性だって否定できるわけではありません。

 そのときに,残されたもう一人の弁護人だけ、時には実働可能な弁護人がゼロ人になってしまって、代打となる弁護人などを派遣する体制などはできているでしょうか。
 一応コロナなどで実働不可能となれば国選弁護人の交代が認められる可能性はありますが,交代すれば結局は準備期間をそれなりに与えざるを得ず,結局今回の検察官と同じ結果が待っていることになります。

 予備の弁護人を準備して、記録を読み込むくらいの準備をさせておけばよいと思うでしょうか?
 残念ながら、現在は正式に弁護人として選任されなければ,報酬も出ません。
 検察官や裁判官のように公務員として事件の数に関係なく報酬が保障されている立場とは訳が違います。

 従って,「予備役の弁護士」は結果的に本来の弁護人が倒れる事態にならなければ,何の報酬もないまま予備として待つために準備をし、当日判明するであろうコロナ感染から1週間、場合によっては1か月以上も集中的な裁判に対応できるよう日程を空けておけ(当然その間仕事の予定はまるで入れられない)ということになります。
 いくらなんでもそこまで無報酬で対応できる弁護士はいないでしょう。私もお断りです。

 結局、弁護人側のコロナ対策というものはほぼ弁護士個々人の感染しない努力に丸投げされているというのが実情であろうと思います。
 そうすると,今回の件で弁護士・弁護士会側は偉そうに今回の件で「身柄拘束を伸ばして準備体制に問題がある!!」などと検察庁に文句は言えるだろうか、というと「言えば10倍返しされてしまいそう」だと感じてしまうのです。






最終更新日  2020年10月21日 18時32分27秒
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2020年06月02日
テーマ:ニュース(97536)
まずはこちらの記事を。

ベトナム人殺人事件 裁判所が勾留却下

先月5日、富山市の側溝でベトナム人技能実習生のグエン・ヴァン・ドゥックさんが遺体で見つかった事件では、同居していたベトナム国籍の技能実習生、ゴ・コン・ミン被告(20)が死体遺棄の罪で起訴されました。

 ミン被告の弁護士によりますと死体遺棄容疑の逮捕前、6夜にわたってミン被告を県警が手配したホテルに宿泊させ、長時間の取り調べをした違法な捜査だったとして準抗告し、富山地裁が勾留を取り消したということです。

 県警はその後、殺人容疑でミン被告を再逮捕・送検し、地検が勾留請求をしましたが、富山簡裁は再び却下しました。地検の準抗告も棄却されたということです。殺人容疑に関しては今後、任意で捜査を続けます。




 読んでみた感想は、
「富山県警ってバカなの?
これを指揮した警察官はどうやって警察官の採用試験受かったの?
捜査担当した警察官はせめてヒラ巡査くらいには降格処分して今後の捜査から外さないとダメだろ?」

です。

 「任意」と称して被疑者を宿泊させて帰さず連日連夜取り調べる。
 これは、逮捕や勾留の厳格な期間制限を潜脱するばかりか、被疑者は逮捕されていないので国選弁護人を依頼することもできず、下手をすれば自分が何の罪で取り調べられているかすらもわからず、孤立無援の状態に置かれます。
 
 皆さんは氷見事件と呼ばれる事件を知っているでしょうか。(wikipediaはこちら
 連続性犯罪を犯したとして無実の男性が有罪判決を受け刑務所に服役した件ですが、実はこの事件の冤罪の構図も、「任意捜査」と称して逮捕せずに連日取り調べ(流石に宿泊はさせていませんでしたが)、結局男性は虚偽の自白に追い込まれ、後日偶然真犯人が見つかったことで冤罪が明らかになりました。
 富山県警は、逮捕前の任意捜査で自白するまで取り調べるという捜査手法が冤罪を招くということはこの事件で嫌と言うほど学習しなければならなかったはずです。

 司法試験の受験生なら任意捜査の適法性と言うことで高輪グリーンマンション事件を思い浮かべる方も多い(実際私も真っ先に高輪グリーンマンション事件を思い出しました)と思いますが、当事者が富山県警であるという点で、あえてこの事件については氷見事件から切り込みたいと思います。

 つまり、氷見事件と同じ富山県警が、同事件で無実の男性を虚偽の自白に追い込んだ捜査手法をもっと危険・悪質な形で導入しているという事態には驚愕の一語です。
 まして、今回の被疑者はベトナム人です。どれだけ日本の法令に詳しいか、日本語ペラペラかはわかりませんが、年齢からすれば到底自分で適切に弁解することは望めないとみるべきでしょう。
 しかし形式的には逮捕も勾留もされていないため、彼は捜査対象の殺人事件について国選弁護人を依頼することすらできず、金がなければ私選弁護人も頼めず、殺人事件に関して適切な弁解など出しようもありません
 実は無実なのか、正当防衛の類など適切な弁解がある案件でも(死体遺棄では起訴されているそうですが、正当防衛の類だとしても死体を見れば怖くなって遺棄してしまうことは別におかしくない)、日本語もわからず日本の法律もわからない被疑者は出しようがなく、孤立無援に追い込まれます。

 日本生まれ日本育ちの氷見事件の男性ですら虚偽の自白に追い込まれたというのに、日本語すらわからないベトナム人の被疑者がこれで真実を話すと考えているのならば、ただのバカと断じてもいいでしょう。(県警がどうやって通訳を確保しているのかもそれはそれで興味がありますが…)



 こうした警察の「任意捜査を利用して国選弁護人もつかないままに先行して自白を取る捜査方法」に対しては、今回の富山簡裁に限らず、日本中の裁判所が断固たる措置をとるべきと考えます。
 重大な事件だからなどと言って許してしまうと、なし崩し的に捜査の原則が骨抜きになってしまいます。


※※追記(6/5)※※

県警幹部曰く(​こちら​参照)
「殺害現場となった自宅のアパートにゴ被告を戻すことはできず、県民の安全のために今回の措置を取った」

 見苦しい弁解にもほどがありますね。
 もしかしたらこの県警幹部は直接は関与しておらず、士気維持などを踏まえて「現場の暴走」に必死に理由をつけているのかもしれませんが、まったく理由になっていないと思います。
 せめて裁判所の認定は事実誤認だとかいうならまだ話も変わったのでしょうが…
 私がこの件で今の所検察官に矛先を向けていないのも警察の暴走を尻拭いさせられている可能性を考えているため(警察が暴走したからと言って勾留の必要性が消滅するわけではないと思われます)ですし、検察官もまさか特別抗告状に「県民の安全のため」なんて書いてはいないと思いますが…

 刑事訴訟法に定められた逮捕要件が整っていないなら、県民の安全でも被害者の安全でも被疑者当人の安全でも逮捕してはいけません。
 しかし、住所に戻れず固定住居が用意できないなら刑事訴訟法60条1号に当てはまりますし、6日も延々調べ続ける程度の嫌疑があるなら、それで十分逮捕状も取れるでしょう。
 たったそれだけの簡単な結論なのです。
 なお、被疑者当人が自殺しかねないなら警察官職務執行法上の「保護」の手続を使います。

 しかも、「どうしても住む場所がないから住居を準備してあげた」ならその間取り調べをしなければよかった訳ですが(普通なら役所の福祉課や国際課にでも連れて行くのが限界だと思いますが)、実際にはずっと監視下で取り調べを行ったと認められています。
 
 現在最高裁に特別抗告ということですし、最高裁は「これらの取り調べは違法」とは考えつつも「事案の重大性や必要性」などと理屈をつけて「取調べは違法だが勾留は認める」というような結論を出す可能性も正直あると思います(要は私が最高裁を信用していないということです)。
 
 重大な事件で事件が重大だとかで勇み足に緩い対応をとってしまう。
 私が弁護人なら「絶対許さん!!」と噛みつきます。
 しかし、私が裁判官だったら、「ちょっとした勇み足、事案も重大だし、当人も抗議してないし別にいいじゃん?」というような対応を取りたくなる可能性はあると思います。

 しかし、「本当はダメなんだけど今回だけだよ…?」という対応をとった結果、そういった例外的な対応が「標準」になってしまい、なし崩し的にさらに踏み込もうとする事例が現れ、原則が歪められることはよくあることです。
 前記した​高輪グリーンマンション事件​も、「本来よくないんだけど、重大事件で必要があったから見逃す」という判決で、それが今回のようなより強烈な事態、しかもそれで社会的に注目を集めた冤罪を出した県警が性懲りもなく繰り返し、弁解にもなっていない弁解をマスコミに堂々とコメントするという救いようのない事態を招いたと思います。
 高輪グリーンマンション事件​では、二人の裁判官が「違法である」と反対意見を書き、その理由に「捜査官が、事実の性質等により、そのような取調方法も一般的に許容されるものと解し、常態化させることを深く危惧する」と書いていました。
 反対意見の示した懸念が的中してはいないでしょうか。


※※追記(6/10)※※

最高裁も特別抗告を棄却したと報じられました。
第1次追記のような懸念が当たらなかったことは何よりです。
富山県警もこんなくだらない手法を使わず堂々と逮捕状を請求していればこんな問題にはならなかったでしょうに…

ただ、公判になった別件死体遺棄での勾留はされているそうなので、そこで被告人の恐怖心などに付け込み、「任意」と称する取り調べを延々と継続してくる可能性はあります。
そして,公判裁判所が任意捜査で殺人の追起訴を待つために公判を延々と開き続け、いつまでも追起訴を待っているようなことが許されると、結局こうした違法捜査と同じ結果を出来させることになりかねません。

その場合、下手をすると「殺人について逮捕・勾留されていた方が国選弁護人がついて期間制限もある分マシだった」という事態になるリスクさえもあります。
特別抗告まで棄却されたような状態でなおも「任意捜査」など怖くてやれないのではないか…と思いたいですが、そんなのにビビる神経があるなら最初からこんな取り調べ自体やらないと思われますので、やはり今後は予断を許さないことには変わりないと思います。

こういった捜査手法に対して裁判所が本当に厳格な対処をするかどうかについて、特別抗告の棄却は通過点に過ぎず公判裁判所の審理まで含めて判断する必要があると思います。






最終更新日  2020年06月10日 18時38分51秒
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2020年06月01日
テーマ:ニュース(97536)
朝日新聞で、2年で時効なのに、14年分の債権を請求し、それが裁判所で通ってしまった例を扱っていました。


 時効には、「当事者の援用」が必要とされています。(民法145条
 当事者が「この件時効です!」と言わないと裁判所としては例え時効期間が経過しても時効と扱うことができないのです。
 裁判官が内心「主張すれば時効で請求の大半を認めないのになぁ…」と思っていたとしても、当事者の主張がなければ時効だから債権が消えた!と言うことにはできません。


 裁判所から当事者に主張立証を促す「求釈明」もあります(民事訴訟法149条)が、中立性を維持する要請上時効のように一発で勝敗が決まってしまいかねない事項を求釈明するのは問題があるという意見もあります。
「弁護士に相談した方がいいよ、弁護士会とか法テラスの連絡先はここだから」くらいに匂わせるのがおそらく裁判所の限界であり、それでもなお「お金かかるので弁護士は頼まない」で押し切られれば裁判所もお手上げでしょう。

 私個人として、この自治体の対応には正直かなりの違和感があります。
 ただ、これはあくまで個人的な違和感に過ぎず、町側があえて教えてあげる義務があると言えるかと言うと…少なくとも私には義務があるとは思えません。
 なぜ相手に自分の権利を捨ててまで有利な方法をあえて積極的に教えてあげなければいけないのかとなればそうした義務を裏付ける根拠は必要でしょう。
 私には、その根拠が見つからないし、記事の弁護士も具体的にそういう根拠を持っているわけではなさそうです。


 もちろん、請求側が相手からの回収のためなら何をやってもいいという訳ではないと思います。

「弁護士などに相談したら強硬手段に出ると申し向けて孤独に追い込み、時効について知る機会を妨害した」
「即答以外認めない!即答しなければ即座に裁判申し立てて強制執行、払えなければ家屋敷追い出して家財道具全没収!!と申し向けて相談の機会さえ奪った」
「時効期間について嘘を教えて時効主張そのものを断念させた」


 とかなら裁判を受ける権利や弁護士を依頼する権利の侵害などを根拠に違法と評価できると思います。
 実際、夜中に相手方に突然ファミリーレストランでの直談判に連れ出してその場で判をつかせた弁護士は業務停止の懲戒処分になっています。(以前の記事参照

 しかし、淡々と裁判手続を使って請求しただけである限り、特に権利を侵害したという訳ではなく自治体の対応に問題があるとは言えません。




 個人的に、「時効には援用が必要である」という法律の規定が一番問題であるようにも思います悪徳業者に使われている面も否定できません。

 例えば、知識に乏しい人たちなどは請求されても「援用」などと言うことに思いが至らないばかりか、弁護士に「請求されたら援用しなさい」と言われていてもいざ請求された時にはすっぱり忘れてしまい、業者の言いなりに払ってしまうこともあります。


時効には援用が必要である
→時効を援用しないという期待を抱かせることがあるなら時効援用は信義則違反
時効でも一部払ったら時効援用権は喪失!


なんて解釈はその最たるもので、一部の金融業者はこの解釈をしばしば悪用します。
債務者宅に突如押し掛け、弁護士や消費生活センターなどに相談する暇も与えずとにかく一部でもいいから払って!!と迫り、帰ってもらうために払った数千円の小金を盾に時効援用権を喪失したという主張を平気で出してきます。(一応これには裁判所も救済するケースがありますが)

 時効に援用を必要とする趣旨は、債務者の時効に頼らない意思の尊重などとしばしばいわれます。
 しかし、現実には債務者の意思の尊重としてではなく、単純に無知、あるいはパニックに陥った人たちが適切に対処できないことにつけこむことに使われているというのが実情ではないでしょうか。
 少なくとも、時効に頼るくらいなら払った方がマシだ!なんて債務者は私の知る範囲で見たことがありません。



 


 最後に、請求を受けたならば例え身に覚えがあって払う必要がありそうだと思ったとしても、一度は弁護士に相談に来てください。
 生活が苦しいようなら法テラスの援助制度で無料相談になる可能性もありますし、自治体などが無料の弁護士相談をやっている例は多いです。
 結果的に状況が好転しない可能性はありますが、せっかくの権利を放り出すよりはずっといいはずです。






最終更新日  2020年06月01日 21時03分20秒
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2020年05月05日
ダウンタウンで有名な松本人志氏が、後輩芸人に100万円を無利子で貸し付けることを表明しているそうです。

お笑いコンビ「トレンディエンジェル」の斎藤司(41)が4日、ブログを更新し、同日付スポニチが報じた「ダウンタウン」松本人志(56)の後輩への計最大10億円貸し付けプランに「ほんとにすげぇぜ松本さん。器がデカすぎる」と感謝をつづった。所属の吉本興業にも「めちゃくちゃサポートしてくれてます」と、休業補償など十分な対応を受けているとした。

 松本はツイッターで「善意にケチを付ける人たちがいます」と切り出し「それは寄付や義援金をしたい人たちの心を削ります。そして回り回って自分や自分の大切な人たちをも救えなくなるのです」と警鐘を鳴らした。



 しかし、私はこのニュースを聞いた瞬間「これ、貸金業法大丈夫なのか?」と感じました。
 

 本件で松本氏がどこまで考えているか、どんなスキームを考えているのか、実情は不明です。手法によっては違法であるとは限りません。
 松本氏もそこまで踏まえ、見通しがついた上で話した可能性もあると思います。
 ただ、似たようなことを考えた篤志家の皆さんもいるかもしれず、気を付けてほしいので松本氏が今回特に何も考えずに貸付をしていたらどうなるか、と言う視点からこの先を書き記します。

 貸金業法2条では
この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(中略)で業として行うものをいう。(後略)


更に、3条では
貸金業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては内閣総理大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。


となり、11条1項で
第三条第一項の登録を受けない者は、貸金業を営んではならない。


とされます。
そしてこれに違反すると47条2号によって

次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
二 第十一条第一項の規定に違反した者


重い刑罰が設定されています。

 「業として」に当たるか否かは個別の事案に応じて非常に難しい所で、裁判で弁護するということになれば当然そこが最大の争点になる可能性が高いと思います。
 ただ、少なくとも無利子であれば業に当たらない、とは解釈されておりません。
 こちらのHPに詳しい所ですが反復継続の意思と事業的規模の2つが必要と解釈されています。
 単なる個人間の一回的な貸付に貸金業法は出てきません。
 たまたま金持ちが付き合いのある友人や労働者などに金を貸すというのがいくつか積み重なった程度では業には当たらないことになります。

 しかし、松本氏の貸付を例にとると貸付総額が想定10億、貸付が最大100万円と言うことになりますと、1000人以上を相手にすることが想定されていることになります。
 貸金業法上、資本面で言えば資本金が5000万円あれば貸金業の登録は受けられる(6条1項14号、同条3項)訳です。
 そうすると、松本氏の貸付を例にとった場合「業でない」と言う主張を通すのは正直なところかなり厳しい、少なくとも「業に当たる」と判断されてもおかしくないように思われるのです。


 実際、闇金融に限らず、諸々の業法に要求される登録を受けずに営業する悪徳業者の類はしばしば「私たちは単なる個人間の取引をしているだけだ、業として行っているのではない」などと弁解してきます。
 大体、怪しすぎるので国民生活センターに照会をかけると日本のあちこちで似たようなことをやっているのがバレるので、流石にそうなれば裁判所も「業に当たる」と判断しますが…

 個人で免許を取ることがないまま10億円を1000人に貸し付けるのに踏み切り、それが業ではない個人的貸付とされると、悪徳未登録金融業者が大規模な貸付を行い、業法を守らない取立て行為や貸付を行った挙句、追及に「俺のやっていることは業としてのそれではない、特定の目標を持つ者に対する個人間の情誼による貸付だ」とかわす余地を与えてしまうことになりかねません。
 そうした未登録業者は、貸付の総量規制(貸金業法13条の2)や取立規制(貸金業法21条)などなど債務者保護の諸規制も及ばないため、債務者が危険にさらされることになります。

 貸し付ける側が個人的には善意であっても、悪徳業者が同じ手を使えば多くの被害者が生まれるという結果になりかねないのです。
 そして、そういうことを許さないために善意かつ内容的にも適法にやっている人にも形式的な免許を要求するのが免許制度と言うものです。





 今回のコロナ禍で多方面への貸付を考えている篤志家の方々は、法的にグレーゾーンを突っ切るのではなくぜひ貸金業の登録を行うとか、登録を受けた貸金業者の協力を仰ぐなどの形で真っ白な形で進めてほしいと思います。






最終更新日  2020年05月05日 08時13分53秒
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2020年04月22日
広島県知事が、政府の一律給付金を供出してもらって財源にするということを検討中と表明しました。


 広島県の湯崎英彦知事は21日、新型コロナウイルス感染拡大の緊急経済対策として国が行う現金10万円の一律給付について、県職員が受け取る分を感染防止対策などの財源として活用する可能性に言及した。

 県は21日、休業要請に応じる事業者向けの協力金について記者会見を開いた。湯崎知事は会見で「休業する事業者の支援だけでなく、感染拡大を防ぐために必要な事業もある」と指摘。「圧倒的に財源が足りない。どう捻出するかについて、給付される10万円を含めて聖域なく活用したい」とした。

県内の他の市町に同様の考えを呼びかけることについては「ない」と話した。
(日経新聞令和2年4月21日、リンク先)


 見た瞬間、私は「こいつどういう思考回路してるんだ」と思いました。
 脳内で閃くくらいならまだしも、公に表明することに問題を感じないという発想に驚きです。知事の周囲に止める人はいなかったのでしょうか?

 しかし少したつと、「こういう思考回路の人って、偉い人にも多いよな」ということに思い至りました。

 財源が足りないので何とかしたいという考え自体は知事として真っ当ですし、他の報道と照らし合わせる限り、一応は供出は任意と言うつもりのようです。
 しかし、国や地方自治体が金銭や財産権を受け取ることについては、強制とならないようにすることに非常に慎重な配慮が必要です。
 そうでなければ財産権を侵害することになってしまうからです。特に、役所のおひざ元で勤務する者も多い公務員に、財源まで指名して「そこから出して」と要求するのは、極めて強制の度合いが高い行為だと言えるでしょう。昇進や査定、職場環境に響くことを恐れざるを得ません。

 もとより国民から金銭をとるなら租税という制度があります。
 もちろん,その分租税法律主義の厳格な規制に服する(憲法84条)ことになりますが、その厳格な規制の下で正当化された課税である以上やむを得ないということになる訳です。


 ただし、これに近い発想で「いろいろ圧力はかけてるけど、本人が選択したんだ、あくまで自分たちが行ったことは説得にすぎないのだからあくまで自主的な選択だ」という思考は、実は法律家界隈でも公務所界隈でも珍しくもなんともない思考だったりします。

 例えば捜査機関や刑事の裁判官。
 逮捕された被疑者に対して行うのは大概が「任意捜査」です。
 被疑者は「捜査に応じなければ裁判にされるのでは?前科一犯になるのでは?刑務所に叩き込まれるのでは?」という恐怖に襲われた状態になっている場合が多いです。
 しかし警察も検察も裁判所も「そんな不安があったにせよあくまで捜査機関が行ったのは説得。この証拠は任意捜査の結果であり令状なんかなくたって構わない」という判断をしばしば行います。
 以前裁判所での身柄をとっている事件で追起訴の予定を破って裁判の進行を遅らせる検察官の話を書きましたが、これも「被疑者は閉じ込められ、捜査されてる件での弁護人がついてなくても捜査に応じていれば任意」という「任意」観が反映されています。「そんなの任意とはいえない」と裁判所が言うなら、検察だって怖くてそんな捜査はできず、毎度令状を取ってくるはずです。
 
 例えば貸金業者。
 法的手続に入ってとっくに消滅時効になっている財産を差し押さえますと通知してきます。
 債務者は驚き、家屋敷を追い出され家財道具も全部売り払われて場合によっては家族もろとも野垂れ死にするのではないかと思って工面できた僅かな金銭を支払います。
 そうすると、貸金業者は「一部払って返す姿勢を示した以上、後から時効不成立を主張するなんて言うことをころころ変える不誠実な野郎だ、そんな不誠実通るもんか、全額返せ!!」と主張してきます。
 一応裁判所も時効の援用は認めてくれる場合はそれなりにありますが、一部でも返した金を返しなさいとはまず言ってくれません。
 時効であることを知らずにわずかな金銭を支払ったのは「任意」という感覚でいるという訳です。

 例えばブラック企業。
 労働者を労基法(就業規則)上定められた労働時間をはるかに超えて拘束します。
 当然残業代が発生してしかるべきところですが、ブラック企業は「これは彼らがスキルアップのためにやっていた任意な仕事の結果であって拘束してないよ」と主張してきます。
「むしろ電気代などを払って場所を開放してやってるんだからその費用を払ってほしいくらいだ」とホワイト面することさえあります。
 「残らなければ懲戒処分するぞ」「規則に残れと書いてある」くらいでなければ「任意」だという感覚なのです。

 北九州で生活保護受給者が「オニギリ食いたい」と書き残して餓死した事件。
 この受給者は生活保護を途中で辞退しており,市の担当者は検証委員会の聴取に「受給者が自分から生活保護辞退届を書いたんだ」と言い張りましたが、受給者が死んでから見つかった当の受給者の日記には
「せっかく頑張ろうと思った矢先切りやがった。生活困窮者は、はよ死ねってことか」
「小倉北のエセ福祉の職員ども、これで満足か。貴様たちは人を信じる事を知っているのか。3 月家で聞いた言葉忘れんど。市民のために仕事せんか。法律はかざりか。書かされ印まで押させ、自立指導したんか」

 と書いてありました。
 少なくとも、彼は「餓死するような状態なのに、生活保護を辞退するような何か」があったことは確かですが、担当者はこれも「自分から書いた」という認識なのです。(受給者がうつ状態だったので気づかなかった可能性があるのは確かですが…)



 裁判官や検察官、その他公権力の上位にある者は相応に努力ができる人、知識のある人なので、上記程度なら「嫌なら断る程度のものだから任意だ」という感覚の人が多いのかもしれません。
 こうした広島県知事の「現実に10万円を供出しても、それはあくまでも任意なんだから問題はない」という見解も日本のあちこちにある「任意」の感覚と照らし合わせると、「ある意味普通の言動」とも思えてきます。

 公権力が絡めば全て強制だということで統制することも流石に現実的とは思えず、どこかで線を引くこと自体はどうしても必要になります。
 私が広島県知事の思考回路を疑っていることは今でも同じであり、財源確保が必要であるにしてもこの方法はダメだという主張は全く変更はありません
 ただし、権力側の考える「任意」の線引きとして、この知事の感覚は意外と一般的な感覚に近いということは、知っておいた方がいいのではないでしょうか。






最終更新日  2020年04月22日 12時21分57秒
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2020年03月04日
田代まさし氏が、またしても覚せい剤で有罪判決を受けました。(こちら参照
 ここで一部執行猶予と言う判決が使われたので,ちょっとだけこの制度について解説したいと思います。
 


 まず,通常の執行猶予について。

 例えば,懲役2年,執行猶予3年の判決を言い渡されたとしましょう。
 この場合,判決が確定した後被告人はすぐに服役をする必要はありません。
 判決が確定したあと3年間罪を犯さなければ,懲役2年の部分はなかったことになります。
 しかし,3年間の間に罪を犯すと、懲役2年+新たに犯した罪で服役をしなければならない可能性が高いことになります。
(もっと細かい場合分けも色々ありますが,本記事では割愛いたします)


 では一部執行猶予はどうでしょうか。

 田代まさし氏の判決は「懲役2年6月、うち懲役6月を保護観察付き執行猶予2年」ということだったのでこの判決をベースに説明します。
 この場合,判決が確定すると田代氏は2年間服役をすることになります。
 そして2年の服役が終わると釈放されて2年間保護観察付きの執行猶予ということになります。
 そして釈放後2年間のうちに罪を犯すと懲役6月+新たに犯した罪で服役をしなければならないことになります。




 田代まさし氏が覚せい剤を繰り返してしまっているのは有名な話です。
 執行猶予判決も,一度服役したら刑を終えて5年間は言渡すことができないのが刑法の原則です。(刑法25条1項2号。田代氏の場合、最後の刑期を終えてから5年以上経っているのではないかと思われますが,この先は解説用という事でご理解願います)
 一部執行猶予でも,本来その例外ではありません。


 ところが,覚せい剤などの薬物を自ら使用する犯罪の一部執行猶予についてはこの5年間は言渡すことができない原則が緩められています。
薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律、以下「薬物犯執行猶予法」と呼ばせていただきます」)


 何でそんな規定になっているのか,薬物犯執行猶予法の第1条にはこう書いてあります。(下線筆者)


この法律は、薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため、刑事施設における処遇に引き続き社会内においてその者の特性に応じた処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑み、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関し、その言渡しをすることができる者の範囲及び猶予の期間中の保護観察その他の事項について、刑法(明治四十年法律第四十五号)の特則を定めるものとする。



 今の日本の刑法においては,実は実刑になったとしても、釈放後について被告人を監督する仕組みがありません。
 例えば覚せい剤から足を現わせるカウンセリングなどを強制的に受けさせることはできません。
 被告人の自助努力に丸投げ状態なのです。
 家族や勤務先などが支援してくれればいいですが、家族の行方が分からない・見放された,勤務先なんてない,手持ちの資金もないという被告人の方が多数派です。

 行き先がない被告人の場合には更生緊急保護と言うような制度もありますが、これも「行き先がない人にとりあえず住居や生活を提供する」仕組みであって「薬物から足を洗わせる」仕組みではありません。


 そして、覚せい剤を大量輸入したとか売人組織のボスだったとでもいうのならともかく、覚せい剤を自分で使っただけで未来永劫刑務所に入れておくのは現実的とは言えません。
 一方で、刑務所に入れたら覚せい剤がやめられるか,2年服役でやめられないなら3年服役すればやめられるかと言えば答えはノーです。
 むしろ服役期間をむやみやたらに伸ばすよりもいったん社会に出した上で、社会に出た後に国家の監督の下で覚せい剤から足を洗わせるための治療やカウンセリングを受けさせた方が効果があるのではないかと言う考え方が登場しました。

 そこで、薬物犯罪についてはむやみやたらに服役期間を延ばすよりも、本人のために覚せい剤から足を洗わせるプログラムを受けさせるのがよいのではないかという考え方が強くなり、薬物犯執行猶予法が平成25年から施行されました。

 一部執行猶予期間中には保護観察がつけられ、逃げたりすれば執行猶予取消・刑務所に逆戻りになります。
 少なくとも社会に出たとたんに本人の自助努力に丸投げと言う事態にはなりません。
 この期間を使って社会の中でいかに覚せい剤から足を洗うかを専門家のカウンセリングの下で身につけさせるというのが、この一部執行猶予制度の趣旨であると言えるでしょう。



 私も薬物犯執行猶予法施行以前なら旧来ならば全て実刑不可避な被告人に対して一部執行猶予を取った件はいくつかあります。
 裁判官によって使う使わないに温度差を感じることもあります。
 平成25年から始まった制度であることを考えると、どのくらいの成果が出ているのかはまだ分からないのではないでしょうか。(刑務所の釈放後5年以内再入率が目安になると思いますが制度が始まってから一部猶予になった被告人が5年経った件数が多くないと思われる)



 田代氏は薬物の啓発活動でも有名でした。
 田代氏の今回の再逮捕時には単に田代氏を貶すばかりでなく「覚せい剤ってここまで怖いものなんだ」と言うネットの意見も多かったように思いましたし、個人的にそのことを広めたいと言う田代氏の気持ち自体には嘘はなかったと考えます。
 その気持ちが嘘でなくとも負けるのが覚せい剤の誘惑なのです。

 こういう制度が何のために導入されたかと言う点でも田代氏の件が良い題材であったと思いますので,題材として使用させていただきました。
 更生は大変であろうとは思いますが、「どうせ更生しないに決まっている」と決めてかかれば更生できる人の更生すらも阻害してしまいます。
 一部執行猶予で得られた機会を有効に活用して更生して頂きたいと思います。






最終更新日  2020年03月04日 23時23分43秒
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