|
カテゴリ:[いいんかい!国]史実
片翼の解式。の巻
魔法式。 それは掛ける式と解く式の二種類があります。 掛ける式を魔法掛式、解く式を魔法解式といいます。 相反する二通りの式は必ず双方あってこそで、掛ける式も解く式も一方だけでは有り得ない。 お互いの存在は必然的です。 それはまるで、片翼では飛べない鳥のように。 * 宿る魂÷体=宿る魂の等分 宿る魂の等分の要素から自分が掛けてしまった魔法を引き出して見ればどうか。 しかし、そうなると彼女の魂の一部が開放されたことになって、更にバランスが悪くなってゾンビ状態になるかも知れない。 だが、とりあえずこの式だったら魔法を一部分でも解けるかも知れない。 そう思うと、魔法使いゆりこは魔法式が書いてある紙を片手に立ち上がって、外に出て真っ赤な薔薇の花を一本手折りました。 この花はあの時代償にするはずだった薔薇。 時を止めてずっと咲かせている。 だから、実験にはいつもゆりこはこの薔薇を使います。 片手に紙、片手に薔薇の花を持って魔法使いゆりこは文面の式を呟き始めます。 「Release=from inside body≒spirit gotten by magical÷magical=sprit…magical: myθ‐power(⊇blood∧the foundation of myself) /leave from one: (0.8)(23.3)=Rose 故に全ては還る」 その途端、薔薇が光り始めました。 ずどーーーーーん 花は跡形もなく焼き尽くされ、周辺は爆風で吹っ飛びます。 呪文を唱えた本人も、無事であるはずがありません。 ゆりこは少々黒焦げた草原の上に吹っ飛んで倒れました。 体全身の激痛で動けそうもありません。 薄れ行く意識の中で、ゆりこはぼんやりと空を見上げます。 またダメだった。 どこが悪かったのだろう。 魔法使いゆりこは魔法式を頭の中で反芻します。 Release=from inside body≒spirit gotten by magical÷magical=sprit…magical: myθ・・・ そうか。 そもそも÷は成り立たない。 等分にして解いてしまうとバランスが悪くなって魂が耐え切れない。 そうすると、やはり一挙に自分の魔法を解くしか無いのだ。 また振り出しだ・・・ 誰かが自分の名前を呼びながら駆け寄るのを薄っすらと聞きながら、魔法使いゆりこは意識を手放しました。 * 「―――全く、あんな大怪我負って。もう少し自分のことを大切にして頂きたい。」 「うーん。ゆりこもきっと必死だったんだよう。」 「必死でもゆりこさんが死んじゃったら元も子もないじゃん。もうちょっと考えて欲しいよ。まあ、なっちゃったもんはしょうがないけど。」 「ひどい怪我だよね。」 「うん、でもとりあえずヤマは越えて良かった。一時はどうなるかと思ったよ。」 「まじ、うちもどうなるかと思った。ゆりこもう大丈夫だよね?」 「正直わかんない。あれ、魔法の怪我だから。後で魔女呼んで看てもらって、薬でも煎じて貰って。うち魔法の怪我は範囲外だから。」 「魔法の怪我・・・うん、解かった。後で魔女を呼ぼう。」 「じゃ、これ薬だから。普通のだから効き方に限りがあるだろうけど、無いよりかはマシだと思う。」 「うん解かった。わざわざ遠くまでありがとうね。」 「いや、問題ない。じゃ、また様子見に来るから。」 ゆりこはぼんやりと天井を見つめながら、一連の会話を聞いていました。 どうやら自宅のベッドに寝かされているようです。全身が熱く痛みますが、手当てもきちんとされています。 先程の会話は、しほクイーンと女医よしこの声だと思い当たります。 「おお、ゆりこ起きたか。大丈夫?」 しほクイーンが薬ビン片手に部屋に入ってきました。 魔法使いゆりこは相変わらずぼんやりと天井を見上げます。 「まじびっくりしたし。ゆりこマンガ貸してくれるって言ってたから昨日借りようと思って近くまで来たら、すっごい音がして。行ったらゆりこが倒れてて」 「昨日?うち、どれくらい寝てたの?」 「えっとねぇ~昨日の午後四時位だから・・・二十六時間位かな。よく解からなかったから、よしこ呼んで手当てしてもらったけど、大怪我でひどい熱で、一晩中危なかったんだからなー。」 そうか、全身だるいのはそのせいか。 ゆりこは昨日の記憶を辿りながら、大怪我を負った経緯を思い出します。 ボツになった数式が頭の中を埋め尽くします。 しほクイーンがベッド脇に座る気配を感じて、ゆりこは口を開きました。 「しほ」 「ん?」 「またダメだった」 しほクイーンは口を噤みます。 「また、失敗だった。」 魔法使いゆりこは、呆然とした様子で天井を虚ろに眺めるのでした。 前前前前世の頃から、魔法使いゆりこは試行錯誤しながら魔法解式を編み出そうと研究に研究を重ねてきました。 魔法を掛ける式があるなら、魔法を解く式があるのは条理。 技術も魔力も充分あるゆりこには、解式を必ず見つける自信がありました。 しかし 前前前前世が死に、そしてまた生まれ変わって死に、生まれ変わって死に、生まれ変わって死に。 そしてまた生まれ変わって、研究し続けて今日まで。 失敗し続けたのは一体何百、何千回か。 大怪我だけでも今回だけではありません。 そして、昨日のように魔法解式を失敗したせいで、前前前前世の流れの中で死んでしまったことが二回あります。 これだけ世代を越えて研究しているのに、解式をまだ見つけられないなんて。 普通の魔法解式と違って、森の賢者まゆみに関しては魂が絡んでいる為にかなり複雑化して積年の知識でも補え切れないものがあります。 もともと魂の条理は人間が手を出せる範疇じゃありません。 でも、止めるわけにはいかないのです。 この世で自分以上の魔法使いは、まず、いない。自分がやらなくては、誰がやるのでしょう。 失敗が重なる度、ゆりこの中の不安は広がり、焦ってきます。 魔法使いゆりこは生まれ変わる度、森の賢者まゆみと出会い、変わらないその姿を見て懐かしさを覚えると同時に、胸の内に重く鈍いものを感じます。 ゆりこには見えるのです。 元気な表情をしてくれる親友の魂が、こちらが気が遠くなるほどボロボロなのが。 「・・・本当にうち、まゆみの魔法を解くことができるのかな」 ゆりこは呟きました。大怪我もしているせいか、弱気な発言になってしまいます。 しほクイーンは難しい表情をして、首を傾げて、それからゆりこに話し掛けます。 「いやー、誰だって調子悪いときはあるよ」 「・・・は?」 「苦手なことだってあるしさー。でもある映画の主人公はさ、すーごい奇跡的に感激的に、何度も失敗しながら克服していくんだよー。そんであの俳優さんカッコ良くてさー。ふふふふふふ」 「・・・・」 「だからさ、成功に時間が掛かっても、何回失敗してもさ。何回生まれ変わってもさ」 何回でも何回でも失敗して。 失敗し続けて、そしてきっといつか。 絶対に。 鳥は両翼が揃っているからこそ空を飛べる。 片翼では鳥は飛べない。 両翼があるからこそ空に自分の領域を見い出します。 魔法も同じ、魔法掛式は魔法解式が無ければ魔法として発動しないのです。 だから、今は片翼だけの魔法にも、添うように片翼はある。 空へ臨むものに在るべきもの。 それがその存在の前提だから。 だから彼女という存在に欠けた魂の条理も、きっといつか片翼の対が有り得るのです。 魔法使いゆりこは自分の部屋をベッドから見回します。 膨大な書類、本、奇妙な用具や標本や珍品が所狭しと置かれています。 この隣国寄りの森の中にある小屋は前前前前世の頃からずっと使っているもので、今までの研究資料が全て残されています。 うちには、これだけの積み重ねがある。失敗がある。 もしかしたら、もうすぐかも知れないじゃないか。 魔法使いゆりこは、少し微笑みました。 「まぁうち、しほよりは努力してるつもりだしね」 「えぇ!命の恩人にそういう感謝の仕方?!」 ゆりこは痛む体で爆笑しました。 嘘、結構感謝してる。 うん、笑っていよう。 まだまだ、うちは頑張れる。 また、空へと臨もう。 「まあまゆみも気が長いから、もう千年は森の賢者できるよ」 「魂が傷付かないように、ちゃんと森に住んでいるしね」 その頃、森の賢者が草を刈りながらくしゃみをしてたとか、してないとか。 * 次の日、しほクイーンに看病されて休んでいたゆりこに訪問者がぞろぞろとやって来ました。 「やっほ~ゆりこさん、お見舞に来たよーw」 「お薬も煎じてきたよー」 「あかねクッキー焼いてきた!!」 「・・・・無事か?」(←あかね姫の荷物持ち) 「往診に来たよー」 「大丈夫です。人間そう簡単には死にません。マナミ教教典にも書いてあります。」 「俺一曲歌います。(ボソッ)ギター無いけど」 「散歩するなら言って下さい、僕が乗せてあげますから」 「ゆりこー、うちの家庭菜園で作った人参持ってきた!二股だよ笑」 「どうせ僕は荷物持ちですよ・・・」 「ゆりこ、たくさん見舞い来てくれたじゃん。」 「だねぇ」 起こせるようになった体で、ゆりこはニコニコ顔。 皆楽しいなーなんて思って。 きっとうちは皆の笑顔のために魔法を使う。 足りない片翼を届けるために。 必ず彼女の魔法を解き、魂の条理を立て直す。 彼女に両翼を届けてみせる。 * * * 久しぶりに更新。 ちょっと良い話。 よろしくね。 from魔女えい お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[[いいんかい!国]史実] カテゴリの最新記事
あかねさん
>みんなとゆっくり話したり遊んだりしたいなぁ… >近々サーティワン行こ? >2月限定のはなかなかおいしそうよ!:) ----- 魔女です。 最近集まりまばらだよね。。 サーティーワン行きたいっ(≧∀≦) (2007年02月10日 16時05分24秒) |