真犯人を目撃したAさんの証言を深く深く検証します
今回はFBSイチオシでもあります「八木山バイパスで目撃された真犯人説」に絞って検証してみます。それでは、以下が弁護団が真犯人を目撃したとされるAさんの証言について説明した内容です。 Aさんは当日、100万円の売掛金が回収できなかった帰途でイライラし、さらに前方をノロノロと走行していた軽自動車にイライラして「どんな奴が運転しているのか」と運転手を注視しており、「単なる追い越し時の目撃にとどまらなかった」とみる。平日の午前中にランドセルを背負った子どもが車に乗っている状況を不審に思い、「まさか誘拐ではないか」と直感したことも挙げて、「強い印象を抱いた、つまり強い記銘力が働いた」と分析している。 また、警察官の事情聴取を受けたり久間さんの初公判を傍聴したりと、Aさんが目撃内容を確認する機会がその後も反復しており、記憶が明確化されて維持されたと指摘している。 目撃した軽自動車が向かっていたのは遺体発見現場とは違う方向だったが、弁護団はゆっくり走行していたことなどと併せて、運転していた男性が犯行の場所を思い迷っていたためではないかと見立てている。正直言って突っ込みどころが満載なのですが、順を追って検証してみましょう。目撃された少女の人相について目撃してから28年経った時のAさんの証言に基づく弁護団の主張について考えてみます。さて、みなさんは28年前に何をやってらっしゃいましたか?まだ生まれてすらなかった方も多いと思います。28年というと、その頃20歳の方でもすでに48歳ですね。それではみなさんに考えてもらいたいのですが、28年前に一度だけ会ったことがある人で、しかし何らかの理由でとても強い印象を抱いた人の顔を思い浮かべてみてください。そうですね、自分も思い浮かべてみました。約25年前のことです。ある大阪のターミナル駅の近くを歩いていたときに、いきなり後ろから女性連れで歩いてきた50代くらいの男性に肩をぶつけられました。びっくりして後ろを振り向くと、その男性は私に向かっていきなり大きな声で「どこ向いて歩いとるんじゃ」と怒鳴りつけました。自分も若く血気盛んな頃でしたので、その男性に対して「お前の方がぶつかって来たんだろうが」(今ならばその場で「すみません」と謝ってしまうと思います)と言い返して、その場で数十秒ほどにらみ合いになったのです。このままだと殴り合いになりそうな雰囲気でもありましたが、相手の連れの女性の方が「もうやめなさい、君(私のこと)も別にいいでしょう、怪我したわけじゃないのだから」と言われて、ふと我に返りにらみ合いをやめたら、相手の男性は「気をつけろよ」と捨て台詞を吐いてその場を去っていきました。向こうからぶつかってきておいてなんだその捨てセリフは(怒)と、こちらも大概頭にきましたので、その男性がその先の交差点を曲がって見えなくなるまで視線はあとを追っておりましたが、そうですね、そのやり取りは25年たった今でもよく覚えています。しかし、正直これだけ年数が経ってしまうと、その男性の人相、例えばそうですね、芸能人で言えば誰に似ているかとか、顔の特徴を細かく思い出すのはちょっと無理ですね。顔以外のこと、例えば服装(水色っぽい色のシャツを着ていた)や髪型(パンチパーマ)、その男性に遭遇した場所(駅近くの鍵屋さんとパチンコ屋が並んでいた向かい合った交差点の前)のことはよく記憶しておりますが、どうも人相と違い、服の色やお店の見た目などは人の記憶に残りやすいみたいですね。実際に、ある大学の研究結果では人間が顔を覚えることができるのは平均で5,000人だとか。当然年齢を重ねる毎に、仕事などで新しい人との出会いが増えていきますので、過去に一度だけ見たことがある人の顔を細かく記憶しておくことは難しいのだと思います。ですのでAさんも、目撃した女児の人相ではなく、表情についての証言になっているのではないでしょうか。そこで改めて弁護団が語ったAさんが目撃した人の証言を見てみましょう。「運転していたのは、坊主頭で、細い体で、当時45歳だったAさんより少し若いくらいの男性でした。Aさんは追い抜きながら、後部座席におかっぱ頭をした小学校低学年の女の子がいるのに気が付きました。その子が寂しそうな恨めしそうな、今にも泣きだしそうな表情でAさんのほうを見つめていました。その子は、赤いランドセルを背負っていました。また、後部座席には、もう一人の女の子が横になっていました。その子の横にもランドセルが見えました。平日の午前中でした。家族でドライブしているようにはとても見えませんし、何よりも女の子の表情が異常だったので、異様な光景でした。一瞬、誘拐じゃないかと頭をよぎりましたが、2人も誘拐するなんてないだろうと思い返して、そのまま運転を続けました。」この通り細かな人相に関する証言はありません。形がある物、車やランドセルや髪型については具体的ですが、人相については表情のみです。それも「寂しそうな恨めしそうな、今にも泣きだしそうな表情」とのことです。それって果たしてどんな表情なのでしょうね?内容も異常だったとか異様だったとか、証人の感情が満載の証言になっています。以前ツイッターでも書きましたが、阪神タイガースのガンケル投手は、顔つきがいつも困ったような顔に見えるのですが、この証人Aさんが初めてガンケル選手を見たらきっと「なにか困ったような今にも泣き出しそうな表情でこちらを見ていた。異様だった。」と証言しちゃいそうですよね。白いワンボックスタイプの軽自動車が向かった場所Aさんの証言に対して弁護団は「目撃した軽自動車が向かっていたのは遺体発見現場とは違う方向だったが、弁護団はゆっくり走行していたことなどと併せて、運転していた男性が犯行の場所を思い迷っていたためではないかと見立てている。」これについては、この弁護団のみなさんはどれほどこの証言について検証を行ったのか、言い方がきついかもしれませんが「真面目に事件のことを考えているのか」と思うほどのレベルだと感じました。先ず被害者が行方不明となった場所と八木山バイパスに入るためのICの場所と目撃された場所の位置を認識すれば、この意見だと犯人は2時間以上も女児2名を連れ去った場所の近くで犯行場所を思い悩んでいたことになります。※それぞれの位置関係はこちらの図を見てください。ちなみに八木山バイパスは、一般道に降りることができる場所も限られています。目撃された場所から福岡方面に向かっていますので、向かった場所は大山積神社近くから国道201号線に降りたか、若しくは笹栗ICでやはり国道201号線に降りたか、そのまま福岡東バイパスに入ったかの何れかではないかと思われますね。もし真犯人の目的地が、八木山バイパスから国道201号線に降りた場所の近くだとすれば、女児2名を誘拐した犯人がわざわざ交通量が多い八木山バイパスを通ったのはなぜなのか疑問です。犯行現場からであればそのまま201号線を走った方がすれ違う車は絶対に少ないはずです。それについては、犯罪を犯している訳なので急いでいたからだろうと言った意見もありますが、それならなぜ犯人は2時間も犯行現場付近でウロウロしたでしょうか?2時間あれば、犯行現場から結構遠い場所まで移動することができたはずです。もし、犯行現場付近で目立たないように隠れていたりしていた、つまり用心深い犯人だったとすれば、交通量も201号線の方が八木山バイパスよりはるかに少ないですし、この方面だと県道60号線から435号線を通れば、この県道は山間部を走る交通量の少ない道路ですので、すれ違う車もバイパスと比べると雲泥の差です。真犯人の目的地がもっと遠い場所と仮定すると、八木山バイパスから福岡東バイパスに入ると、その先は九州の大動脈、九州自動車道の福岡ICと繋がっていますので、真犯人が向かった場所については福岡県南部から熊本方面、また西九州自動車道の範囲まで考慮すれば佐賀県あたりまで対象範囲を考える必要があるかと思います。確かに真犯人は、福岡県南部に住んでいたと仮定すると、自宅から小郡・甘木を経由して八丁峠まで遺留品などを遺棄することもそんなに違和感はないですが、そう考えると、犯行現場からであれば八木山バイパスではなく、県道90号線から国道200号線を使うのではないかと思いますね。高速道路って一般道と比べ交通量も多いしカメラの設置場所も多いですし、何よりもこの頃はETCもなかった時代ですので当然通行時には通行券の発行を受けますから証拠が残りやすいわけです。つまり、真犯人は飯塚から離れた遠方に逃げたのか、それとも犯行現場から比較的近い場所に向かったのか?どちらも納得性が無い行動なのですよね。こうやって、地元の地理と犯行時間等の条件を当てはめていくと、この真犯人説が正しいものと判断できる根拠の少なさに気が付くかと思います。真犯人は、地方の中核都市でもある飯塚市内で、少女二人を外から丸見えの車に乗せた状態で2時間以上も身を潜めたにも関わらず、なぜか通行量が多い八木山バイパスを選び自宅へ移動。急いでいたのか慎重に行動していたのか、どちらにも当てはまらない行動を取っています。そのうえで一番の疑問は何と言っても死亡推定時刻と目撃された時間の2時間以上のズレ。他の記事でもしつこく何度も言っておりますが、被害者の死亡推定時刻は8時30分から9時の間。Aさんの目撃時間は午前11時。多少は死亡推定時間のずれもあるかもしれませんが、逃亡に費やした時間を考えると、11時に目撃されてから女児2名を殺害するまでに、最低でも1時間、移動した場所を遠方と考えるともっとそれよりも時間は掛かっていると思います。解剖により推定された死亡時刻との乖離の幅がどんどん広がっていきますね。となりますと、犯人は被害者に朝食の内容を聞き出して、ほぼ同じものを用意して食べさせたうえに、A子ちゃんにだけキャベツを食べさせたことになるのですが、もうほぼありえないですね。単純に「真犯人を見たと証言する人がいる。その証人は実名で顔も出しているから正しいはずだ。真犯人がいるとなれば飯塚事件は冤罪に違いない!」と声高に叫ぶことは簡単なのですけども、地理や時間など、細かな要素を一つ一つ検証していくと、「なぜ?」と思うことが多い訳でして、この真犯人説は客観的に考えた場合、地理的要素や時間を考えると到底無理があると言わざるを得ないのですよ。それでも犯行当時の11時に、真犯人は被害者二人を乗せて八木山バイパスを福岡方面に走っていったに違いないと思われる方がいらっしゃいましたら、ぜひその目撃された男が真犯人であると考えるに至った(ご自身の感性以外の)理由をご指摘ください。その件についても深く深く検証してみますので。