205073 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

ウチューのトチュー ~ 池田モノリス

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2008年08月31日
XML

-------------------------------------
■ 空のもう半分 ~ 池田モノリス ■
第4章 キはキンギョのキ (4)
★第1節:ウズマキナツ-4
-------------------------------------

(1-4-1)
ロックはプロペラ飛行機みたいに、
びゅんびゅん飛んでいる。



2008.08.13-01-04-01.jpg


「モノリスさん、そろそろ起きてた方がいいんじゃない?
もう本番始まっちゃうから」
ベースのハヤシが肩を突っつく。

「あ、僕、寝てた?」
楽屋でチューニングしているうちに
何だか目まいがして、そのまま寝てしまったみたい。
このところ時々、立ちくらみがある。
多分、酒の飲み過ぎと煙草の吸い過ぎだ。

ギターケースにくっつけていた砂時計が
コンクリートの床に落っこちたまま。
そっと拾って、窓の外の太陽にかざして見ると
今日もサラサラ、昨日と同じように
砂粒みたいな時間がこぼれ落ちる。

ドドッストッ、ドドッ。壁越しにバスドラのにぶい衝撃音がして
ブブ~ン、ブブブ~ン。ベースが腹あたりでうねって
キュイ~ン、キュキュイ~ン。ジコチューギターが舞い飛んで…

ステージではもうロックの時間が動き出している。

1973年(昭和48年)6月3日(日)
トーキョーの大きな原っぱ、日比谷野外音楽堂で
正午の時報を過ぎた頃「聖ロック祭」ていう
99円コンサートがスタートするところだ。

「モノリスさん、燃え尽きるの早過ぎ」
寝ぼけまなこの僕を見て、ピアノのオオムラがケラケラ笑う。

「あしたのジョーも先月、灰になって終わっちゃったしさ」
僕は、部屋に積んである法律の教科書は開いたことはないけど
少年サンデー、マガジン、ジャンプだけは毎週読み続けている。

「そうだよ。俺たちって、まだ何にも始まってないのに」
スティックをクルクル回しながら
ドラムのマツザワがぼそっとつぶやく。

キースがドラッグをどうしたこうしたやらで
日本武道館でのストーンズショーをお預けにしたばかり、
チケットは、とっくに SOLD OUT!! してたのに。

僕は3月に早稲田の法学部を卒業したけれど就職もせず、
まだ訳の分からないままバンドを演って毎日、転がっている。


2008.08.13-01-04-03.jpg


「うちってさ、一見フォークみたいなスタイルじゃない。
こんなハードっぽいイベントに出ても平気なの?」
とハヤシが心配そう。

「たしか2年前の春だっけ、日比谷ロックフェスに
ジュリーとショーケンのPYGが出演してさ
客席から”GS、帰れ”コールがばんばんとんだっけなぁ」

へぇ、マツザワも見に行ったんだ。

「ロックだの、ブルースだの、GSだとかアイドルだとか
カッコ良ければいいんじゃない?」

と、カッコ良くなりたくて仕方がない僕は思う。

僕の銀河は、ハイライトや、缶ビールや、少年マガジンや、
日活ロマンポルノや、エレキギターのノイズで出来ていて、
ロックはプロペラ飛行機みたいに、その渦巻きの空を
びゅんびゅん飛んでいる。

「生ギターだけで、リードのエレキがないっていうのは
ロックフェスじゃ絶対キツイよね」
マツザワは元々このスタイルに不満を持っている。

「デビッド・ボウイだって、生ギターでロックしてるし、
T.レックスなんか最初は完全なアコースティックだよ」と僕。

バンドのメンバーには内緒だが、正直に言えば…。
ロックの空がうらやましかった僕は、段ボールの紙飛行機を作り
手元にあったゴムを巻いて四畳半の窓から放り投げただけだ。
本当に飛べるかどうか!?なんて考えもしなかった。

知らないうちに出演が決まった
今日の「聖ロック祭」、僕の出番は10組中の5番目だ。

「池田さん、そろそろスタンバイ。よろしく」

僕のバンドは「メローフルーツ」って名前なのに、
チラシには僕の本名がそのまま載っかっている。
多分、ヤマハ銀座店経由でブッキングされたんだと思うけれど、
チラシ見たら、絶対ロックバンドには思えないよ。

「池田**」。まるで抒情派フォーク歌手か、
新宿駅の構内で「私の志集」を売る文学青年みたい。

「出番、お願いします」

ドキドキしながらステージに出て行くと
一つ前のハードロックバンドがまき散らしたノイズに
9cmのハイヒールがひっかかってころびそうになる。

だけど何とかごまかしてマイクの高さとか
カッコつけて意味もなく調節してみたりする。

フォークギター・ヤマハFG-140に
ガムテープでくっつけたアコギ・ピックアップから
5mのシールドをずるずる引っ張って
二段重ねのマーシャルに突っ込むと
スピーカーのはったり壁もブチブチッと不機嫌だ。

回りは何も見えない。
頭の中は真っ白な霧の中。

頼りは、ドラムとエレキベースと生ピアノだけ。
とびたくてうずうずうねる客席に向かって
オモチャみたいなエレキと
ドノヴァンもどきとか言われる細っこい声で戦うなんて
もういいから逃げ出そうと、本気で思う。

ガクガクと膝が小刻みに震えるけれど
もう勢いと成り行きに任せるだけだ。


2008.08.13-01-04-02.jpg


ジャーン。

試しにオープンコードのEを思い切り弾いてみたら
アコギ・ピックアップ特有の、ちょっと割れてくすんで、
エッジのない音が大音量で響き渡ったので
僕は驚いて、そして少しだけ冷静になった。

ステージから見渡すと
まだ午後3時前の太陽は、斜め上空であっけらかん。
吹っとぶ時間にまだ少し早過ぎて、客の入りは6~7分。

だけど、世界の果てに立ち並ぶ数十億人の壁みたいに
ありったけの僕の勇気を塞ぐ。

僕の左肩、ストラップの上でアグラをかいてるやつは…
銀河から墜落してきた、僕より一つ歳上、
150cmちょっとのマーク・ボラン。
去年は日本にもやって来て、演奏の最中に本物の地震まで起こした。

僕の右手、ピックの上で羽を広げて立っているのは
火星から落ちてきたデビッド・ボウイ、僕より二つ歳上。
宇宙人のくせに飛行機が怖くて、春には船で日本にやって来た。

二人の変ちくりんな電波と
ヤマハのアコギ・ピックアップの偽物エレキを
僕は信じているから
Gのオープンコードを発射する。

あ、チューニングがやっぱりヤバい。
僕の人生はいつも、ちょっとずれてるし。

でも、きっと大丈夫。

ずっとずっと練習してたから
でたらめ歌詞とメロディは喉の奥で覚えているし
コードは指が勝手にでっちあげてくれるはず。


♪G ~♪神様がふわり指先に降る夜は

スルスルと僕の時間が、スケートボードみたいに滑り出して
スネアが不意に心臓の裏側から頭のてっぺんへ吹き抜けて

♪A# ~♪三日月ナイフで空を一刺し

夏のかたまりが蒸し蒸しからみついて
僕が僕の前から行方不明になっていく。

くそっ、1弦が又ぶっ切れる。

♪C ~♪クルクル 

♪D ~♪くすぐったい 

♪E ~♪渦巻きの夏

気がついたら、エンディングのキメのドラム。
パラパラッと拍手。
ひゅひゅーっと練習みたいな口笛二つほど。

どうにか今日も逃げ出さずに30分、ステージをエンド。


いつも、こうだ。


2008.08.13-01-04-05.jpg


この日のトリは日産スカイラインのCM曲
「ケンとメリー~愛と風のように~」が
大ヒットの BUZZ~バズの二人組だ。

その一つ前が、Bad Scene ~バッドシーンていう
ブルースっぽいハードロックバンド。

ギターはチャーとかいう高校生で
もうスタジオミュージシャンやってるとか。
スゲー上手い。

背中にフェンダーのソフトケースをしょって
バイクを飛ばして
僕を一気に抜き去るように駆けて行く。


「ねぇ、ハヤシさ。ちょっとカネ貸してくんない?」
ギターとかシールドとか片付けながら
僕は、なるべくさり気なく話しを切り出す。

「モノリスさん見てると、バイトの一人暮らしって本当にキツそう。
ウチは親元だから何とかなるけどさ」
ハヤシはまだ大学3年だ。学校にはほとんど行ってないらしいけど。

「アパートの家賃二ヶ月ためちゃってさ」
…だから、貸してくれるの、くれないの、どっちだよ…

「バンマスに金貸すってのも何だし。そうだ、
モノリスさんのセミアコ買ってあげようか?2万で。
どうせ今使ってないんだし」

東京に来てすぐ月賦で買ったヤマハの65000円の赤いギター。
使ってなくても大切だってば!…だけど
アパートの家賃は、もっと大切な気もする切ない決断。

次のライブは6月9日の三越・銀座テレサで、
これは、ほんの少しだけ出演料が入るし、食事付き。
で15日の田町のコンサートと16日の玉川区民会館はノーギャラ。
早めに冷凍庫の出荷作業か製本工場か、
何かバイト捜しておこないとマズイ状況だ。

25歳の僕の夏。

6月は、どきどき心臓が汗ばむ行方不明の国、
入り口も、出口も、どこにでもある。


「今日の他のバンド見て思ったんだけど、ウチのバンドって
何か…薄過ぎない?」
帰り際に、ドラムのマツザワがぼそって言った。

「そうかもなぁ、インパクト足りないし。このまま演ってたんじゃ、
多分、何にも起こらないような気もしたり」
と、ハヤシが遠慮がちに同調する。

僕はうすうす気づいてはいたけれど、やっぱりうろたえる。
…モノリスの歌は、ハートがないんじゃない?…
ってはっきり言えばいいじゃん。


2008.08.13-01-04-04.jpg


ああ、やっぱり僕はキンギョのままだ。
丸く閉じたキンギョ鉢の中をくるくる回っているだけ。

赤い尾ひれを自慢げに揺らせてみても
本当は泳ぐ力もないくせに。

きっと、ぶくぶくおぼれ
キッチンの排水口からこぼれ落ちて
下水道を流されて川の底に沈んでお終い。


野音の楽屋口を出て5、6歩行ったところで、
突然ガクっと景色が傾く。

ハイヒールが石ころを踏んづけただけ?
それとも、ただの立ちくらみ…?

あ、夕暮れの日比谷公園が…
キンギョ鉢が落っこちたみたいに…

粉々に、、、

こ・わ・れ・て・い・く・・・・






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2009年11月29日 15時32分01秒
コメント(3) | コメントを書く
[第4章-1990~キはキンギョのキ] カテゴリの最新記事


PR

プロフィール

池田モノリス

池田モノリス

バックナンバー

2024年10月

カレンダー

カテゴリ

コメント新着

池田モノリス@ 月のひかり★さん 最近は楽天の方はあまり更新してなくて …

© Rakuten Group, Inc.
X