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噂があった。
ここから遥か南には、ひとたび食せば天に昇り、売れば一生遊んで暮らせる宝があると言う。 そんな眉唾、と大人たちは鼻で哂う。 なにしろ、証明したものは誰も居ないのだ。 信じろというのが無理だった。 だから、気づかなかったのだ。 たった一人だけ、それを本気にしたことに。 かつて少年だった彼は、反対を押し切り村を飛び出す。 目指すは、遥か南の方。 かつて聞いた話を頼りに、ひたすら南へ。 砂漠を越え、山を登り、海を渡った。 そして、三年かけて彼は遂に見つけたのだ。 白いそれは、冷えた水より冷たかった。 彼は、こんなものは今まで見たことがなかった。 口にする。決して美味いとは思わないが、これが天にも昇る味なのだろう、と彼は思った。 ――きっとこれが『宝』に違いないと彼は思い、喜んだ。 そして、冷たいそれを、この日の為にと村から持ってきた、ラクダの皮袋いっぱいに詰め込んだ。 行きは辛いが、帰りはとても楽だった。 この皮袋を見て、驚くであろう村人達を想像すると、楽しみで仕方ないからだ。 行きよりも、帰りは驚くほど早く、二年も経たずに帰ってきた。 村人達は彼の帰りを何よりも喜んだが、それ以上に、あのくだらない噂が本当だったことに驚きを隠せなかった。 彼らは興味津々といった風に、彼の自慢話に聴きふける。 それは白くて、どんなものよりも冷たいと聞き、それが彼らの経験には知る由もないことであったことも働いて、彼らの好奇心は更に火が強まる。 もう辛抱ならん、見せてはくれんのか。 村人の一人は言う。 彼は喜んでそれを聞き入れ、固く固く口を閉ざした、皮袋の紐を解いた。 ――袋の口から、何の変哲もない、ただの水が溢れ出した。 -------------------------------------------- 『宝物』とは氷のこと。 ちなみに彼の出身は赤道付近の小さな集落。 子供の頃の噂をいつまでも信じ、大人になった彼は南を目指しその宝を手に入れる。 彼は喜び、その宝を持ってきた皮袋に詰めて村に帰るが……という流れ。 本当は違うものを書きたかった気がするんだけど、いまいち思い出せない。 ……ムシャクシャして書いた(、と思う)。後悔はしていない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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