2020/03/09(月)11:31
怒りを鎮める方法
又吉直樹さんの小説に「火花」という作品がある。内容は漫才芸人を目指す僕(徳永)と憧れている先輩芸人の神谷さんとの交遊と芸道修行の物語である。僕から見ると神谷さんは自分とは比べ物にならない位才能があり、理想が高く、自分の信念を貫いているが生活力はない。風俗に勤めていた女性と一時同棲するがその女性に男が出来て追い出される。
僕も含めて後輩達が次第に売れてきて時々テレビに出るようになるが神谷さんにはお呼びがかからない。才能はあるが聴衆を喜ばす術を知らない。芸術は演じる自分達と観客が一体になって作り上げるものだが神谷さんはどうやら観客を喜ばせようとするのは観客に媚びることで潔く思っていなかったようだ。後輩に抜かれ借金も重ねて落ちぶれて最後にはそれが面白いことだと思って胸にシリコンを入れて女性乳房を作り本人も恥じて後悔し、僕と一緒に熱海の温泉宿に行き、公衆浴場には入れないので特別な個室露天風呂で花火を見て感激する。翌日素人参加型の「熱海お笑い大会」に参加すると言い出し、露店風呂で焼酎片手に漫才のネタを作っている所で終わっている。
才能ありながら社会的にみると悲運な漫才芸人の半生だが、ここに至って神谷さんはまだ全身全霊で生きており「僕たちはまだ途中だ、これから続きをやるのだ」と作者は落ちぶれてはいるが愛すべき神谷先輩と一緒に挑戦していくことを誓っている。
ここで取り上げるのは僕と相方の山下との喧嘩の場面である。高円寺の自宅に近い公園に相方を呼び出してネタ合わせの練習をすることになった。相方が練習に身を入れていないので注意したら、「ネタ合わせ大事なん分かるけど俺にも予定はあるし急はやめてや」と言われた。漫才をやるために上京してきて漫才より優先するものはないと思っていた僕は頭にきて、「ほな来る前に言えや!」と怒声を上げて立ち上がった。怒りで興奮していたので感情的には後2-3日寝かせなければならないと思ったが先輩の神谷さんに喧嘩の一部始終を報告して「殴ってやろうかと思っているのです」と言った。神谷さんは「殴ったら解散やで。だから手を出したらあかん」と言われその後しばらく話して電話を切り相方の所に戻った。神谷さんと話したことで気持ちは十分すぎるほど落ち着いており、冷静に話し合いができると思っていたら相方の方から突然「三つ謝るわ」と言いだしてくれてその場で仲直り出来た。
興奮して殴ったら相手も殴り返し大げんかになり即座にコンビ解消になったかも知れない。夫婦喧嘩などでもかっとなったらすぐ殴る人がいるがその後の夫婦関係はうまく行かないと思う。離婚に発展するかも知れない。このケースでは途中でトイレに行くふりをして先輩に電話をかけて大事にならないで済んだ。喧嘩の途中で抜け出すのは難しいかもしれないが、「ちょっとトイレ」と言って抜け出して誰かに電話するのがよいと思う。生憎その人が電話に出てくれないとさらにイライラが高じて感情的バランスを失うかも知れないが、別の知人、それも通じなかったら別の知人にとかけてみるのがいいと思う。これは喧嘩の途中での話だが喧嘩が終わってから2-3日は寝かしておくと書いてあったが、何もしなかったら2-3日で収まることは少ないと思う。一般的には数日かも知れないが数週間、数か月と続くこともある。この場合も信頼する誰かに話すことが解消の近道だと思う。いずれの場合も一人で抱えているととんでもない方向に発展するかもしれない。信頼する友人を持つことが怒りを鎮める要点と思われた。