今が生死

2021/09/13(月)16:04

病気で年老いてもリモート恋愛の花は開く

感動したこと(172)

今77歳のパーキンソン病の女性患者さんを受け持っている。10年位前から背中が曲がり前のめりに歩くようになり7-8年前にパーキンソン病と診断された。3-4年前位から殆ど寝たきりになり、夫はJRの運転手をしていたが定年になった後JR関連職場やその他の仕事をしており半日勤務をしながら在宅で奥さんの介護をしていた。介護で大変なのは食事と排泄と入浴だと思う。病気であまり食べなくなり介助で食べさせるが思うように食べたり飲んだりしてくれない。排便は便秘が頻回でお腹をさすって何とか出してやっていたとのことである。入浴はシャワーが中心だと思うがほぼ毎日綺麗にしてやっていたとのことである。 周囲が見かねて「そんなことをしていたらあんたが参ってしまうから施設なり病院に入れてもらったら」と言うが「本人が家がいいと言うので」と自分一人で腰痛を抱えながら抱っこして世話をしていた。 パーキンソン病に認知症も加わり、「入り口に変な人がいる」とか「虫がいる」とかの幻覚に本人及び介護者も悩まされていた。 昨年10月呼吸が止まったということで救急病院に搬送され、その後落ち着いたということで11月からはリハビリ目的で当院に入院してきた。最初に受け持ち医として救急病院からの紹介状などから「これから良くなるということはなく、だんだん悪くなり寿命も近いと思われます」という話をした。しかし当院にきてから食事が少し食べられるようになり、幻覚も少なくなり少し落ちついてきた。でも人の認識などはあまりできなくて意味のある言葉は殆ど言えない状況だった。コロナで無ければご主人は毎日お見舞いに来ただろうがコロナでそれも出来ず認知症の症状はだんだん進むばかりであった。数か月前からご主人が毎週手紙を書いてきたが読んで理解できるのか分からなかった。ご主人は返事を期待したがとてもそれが書ける状態ではなかった。それでも毎週手紙は届いた。そこで私がリモート面会を提案して毎週リモートで面会することにして手紙は今まで通り継続することにした。 リモート面会ではタブレットを使っての面会なので最初の内は意味が良く分からず夫の姿も現実のものとは分からなかったみたいである。でも回数を重ねるごとにリモートの相手が夫だと分かるようになり、それを楽しみにするようになってきた。夫も病妻がほんのわずかながら自分を認識してくれたみたいだと喜び、週一回のその面会が夫にとって楽しみになってきた。妻はどのくらい感じているか本当の所はまだ分からないが遠距離恋愛のように周囲には映っている。 リモート面会をするようになって患者さんの表情が違ってきて活気が出てきた。直接会うに越したことはないがリモートでも回数を重ねることによって愛情が深まっていくように思える。医療者側からすると旦那さんのお蔭で患者さんが明るくなり元気になった印象があり、嬉しく思っている。

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