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今が生死

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2022.02.08
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カテゴリ:読書
石原慎太郎氏の「老いてこそ生き甲斐」を読んだ。87歳の時書いた本で7年前に脳梗塞を患い老いと死に直面して老いても生きがいはあるのかを思索した内容だった。
前半は老いや死について友人だった有名な人達が実名で何人も登場して自殺の詳細なども書いてあるのでプライバシー侵害にならないのか心配した。
身内については父親が大きな汽船会社に勤めていたが51歳の時会社の会議中脳卒中で急死してしまった。非常に多忙だったので周囲の人はお疲れになってちょっとお休みにななっているのだろうと思っていたら死亡していたとのことである。つい最近、極親しい医師が診察後薬屋さんと話をしている途中で居眠りしてしまったと思ったら亡くなっていたというショッキングな例を体験したが慎太郎さんのお父さんもそのような死に方だったので昔からそういう死に方があったのだなと思った。
弟の裕次郎さんは肝臓がんで52歳で亡くなったが、病名や余命について慎太郎さんは本人に正確に告げた方がよいと思っていた。しかし奥さんの北原三枝さんやマネージャーがそんなことをしたら裕次郎さんがショックで自殺する可能性があるとのことで病名を伏せていたので裕次郎さんは「どうして少しもよくならないでどんどん悪くなっていくのだろうか」という精神的苦悩と激しい痛みや言いようのないだるさで最後まで苦しみながら亡くなったとのことである。
私も最近二人の膵臓がん末期の患者さんを受け持ったが一人は病名と余命をはっきり伝えられていたがもう一人は病名は伝えられていたが、余命は伝えらえていなかった。病気の進行状態にも個人差があるので一概にどちらがよいかは言えないが、入院期間中明るく楽しそうに暮らしていたのは余命まで伝えられていた人で、余命を伝えられていなかった人は精神的にも肉体的にも苦しそうで本当にお気の毒な状態だった。裕次郎さんも病名と余命を伝えられていたらもう少し平穏で有意義な余生が送れたのではないかと思った。
自殺については慎太郎氏と同じ脳梗塞を苦にして「脳梗塞になり自分は元の○○ではない」という遺書を残して自殺した非常に有名な評論家について書いていた。奥さんの死という悲しいことが重なったとはいえ、慎太郎氏だって今この病気に挑戦し闘っているのだから○○君も戦って欲しかったと述べ、自殺する人は忍耐力がなく、先を冷静に見る力を失い、責任放棄で残念でならないと述べていた。
慎太郎氏は脳梗塞で字が書けなくなってしまったがワープロ打ちは出来たので入院中短編小説を書きベストセラーになった。退院後は毎日散歩を欠かさずスクワットやロングブレスの呼吸法を実践して麻痺の克服と筋力をつける努力を重ねてそれが生きがいになってきたとのことである。
毎日1時間ほど決まった道を歩いているが途中で娘さんと思われる女性に介助されながら散歩している老婦人に出会うようになった。行き会うたびに互いに声を掛け合う仲になったがいつも晴れやかに笑いかけてくれるので不思議な勇気を頂いた。時間がずれて行き会えない時には寂しい気がして相手の身が心配になった。これも一つの生きがいだったろうなと思った。
慎太郎氏には多くの有名人の知己がいたが評論家の渡辺昇一氏もその一人で晩年いくつかの病魔にとりつかれていたが、いつも泰然としており、さらに晩年転んで腕を折って治療に通っている時も会うたびに「痛いというのは有難いことですね。私はまだこうして生きている証ですからね」と淡々としており、老いを迎えた者にとっての理想であり、人生の達人であると称賛していた。
人は必ず死ぬ。老いの中でそれにどう向き合うかが問題だ。それが老いてからの人生を満たしもするし損ないもする。
精神分析学者ジャック・ラカンは「死への意識は人間にとって新しい現実への認識を促進する」と述べているがこれは真の生きがいへの道筋を示したものだと思う。ラカンのいう新しい現実への認識とは老齢になり、日々誰も見たことがない未知の経験を積んでいくのだから新しくて冷静な物の考え方であり、促進するとはその考え方をしやすくなるということだと思う。
長い人生を歩んできた老いたる者達こそ、その経験を生かして後からやって来る者たちのために常に新しい生きがいを見出し、人生を見事に全うすることが老いたるものの責任でではなかろうかと結んでいた。
老いたる者達よ!軽挙に自殺などしないで生きがいを見つけて最後の人生を飾ろうと言うのが本書の趣旨だが、その間に様々なエピソードが挿入されていて大変面白くて読みやすい本だった。





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Last updated  2022.02.09 09:58:30
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