すれ違い夫婦-結局は尽くす人は幸せ
芝桜(シバザクラ)ある所に与太一と良子の夫婦が住んでいた。職場の上司の紹介でお見合い結婚したが意見が異なることが多い。与太一は勿体ないからと中々物を捨てたがらない。良子は古いものやいらないものは捨てて、良いものを買って、折角の人生なのだから楽しく暮らした方がよいと考えている。良子は老人二人暮らしなのに毎食ご馳走を食べきれないほどいっぱい作る。与太一は残しては勿体ないから「もっと量を少なく作るようにしてくれ」といつも言う。「良子は残せばいいのよ」と毎回同じことを言いあっている。床屋は自宅で良子がしてくれるというので50年以上してもらっていたが、やれ、刈り上げ過ぎたとか、カットしてないところがあるとか、染まっていないところがあるなどと文句を言うことが多い。でもよく考えてみると毎回、毎回背中を丸めながら一生懸命食べきれないほどご馳走を作ってくれる人はあまりいないのではないか。与太一にだけでなく自分の兄や夫を亡くした人や夫が施設に入っている友人等にも与太一に対すると同じように真心の料理を作って届けてやっている。良子は誰に対しても親切な人なのだと思う。背中にかゆみ止めの薬を塗ったり、目やにのための目薬だってさしてくれる。それなのに与太一は細かいことに拘っていろいろ文句ばかり言っていたのだと思う。二人とも年とってこれから来る死について話し合う時は、良子はいつも「貴方は何もできない人なので私が一分、一秒でも後に残って面倒見てやらなくてはね」と言っていた。でも現実はままならないもので、良子の方が先に逝ってしまった。与太一はよたよたしながら杖をついてセブンイレブンからおにぎりやパンを買ってきてひっそりと暮らしていたが、時々「しっかり食べていますか」という良子の声が聞こえてきた。この夫婦は妻が夫のために真心で尽くしていたが夫はよくわかっていなかったケースだと思われるが、これと反対に、はるかかなたの西の方に夫が妻のために全力で尽くしているカップルがあることが知られていた。良子も、その西方に住む夫君も尽くすだけで報われなくて気の毒のように思われたが、お天道様はしっかり見てくれていたのでその二人は実は幸せだったのだ。