腹囲は役に立たない
今回もつくば市で行われた日本農村医学会発表演題についての話題である。私は同学会で臨床検査関係の演題5題の座長をした。その中に鹿児島県厚生連の「内蔵脂肪面積を基準とした体脂肪率、BMIの検討」との演題があった。若松裕三氏が発表したが、抄録には腹囲との関係が書いてなかったので、そのことを質問してやろうと思っていたら、本番ではCT所見と腹囲との関係も示してくれた。CTで測定した内臓脂肪面積100平方センチに対してBMI,体脂肪率、腹囲との関係を検討した研究で、内蔵脂肪と最も密接に関係していたのはBMIで、腹囲はもっともだめで、男性85センチ、女性90センチで比べてみると、男性では特異度がきわめて低く、女性では感度が極端に低くて使い物にならなかった。つまり、男性ではほとんどがメタボと診断されてしまい、女性ではメタボの人を殆ど拾い上げることができない極めてずさんなスケールであることがわかったとのことである。共同演者の草野健氏が、追加発言して、メタボの基本検査項目として腹囲が挙げられているが、それはメタボ診断には不適切で、むしろBMIの方が適していると述べていた。腹囲を基準としたメタボ健診を強引にスタートさせた厚生労働省に正しい意見を言う学者や研究者はいなかったのであろうか?このような間違いだらけの健診をスタートさせた医学関係の為政者がいることを悲しく思った。腹囲測定は面倒である。健診会場で一人選任の腹囲測定担当者を雇わなければならない。もし厚生労働省が言うように絶対に必要なもので、正しいものなら人件費がかかっても文句は言わないが、草野氏が言うように、年齢も関係するし、身長も関係する内蔵脂肪に関して、ただ一律に男85、女90センチは全くナンセンスである。草野氏が提案していたように、現在メタボの第一の診断基準は腹囲だが、これはナンセンスなので即刻改める必要がある。メタボを診断する上での一つの要素とするならまだ許されるが、その診断の基本項目にするのは誤りである。今度の研究はCTで内蔵脂肪が調べらるソフトを持ってる施設が内蔵脂肪を測定して、それと、体脂肪率、BMI, 腹囲との関係を調べた研究だが、他にも同様のソフトを持っている施設は少なくないと思う。きちんとしたデータをそろえて厚生労働省につきつけてもらいたい。