inatoraの投資日記

2005/01/12(水)05:10

ROEについて(前編:資本コストとの比較)

ROEに関する話を殆どしていなかったことに気づいたので、今回はその話をしたいと思います。ROE(Return On Equity)は「株主資本純利益率」と訳されることが多く、その定義は以下のとおりです。 ROE = 純利益 ÷ 株主資本簿価 ROEは「株主から拠出された資金に対してどの程度の株主利益を上げたか」を表す指標です。(実際に良い投資リターンとなるかどうかは別として)ROEが継続的に高い企業は株主から拠出された資本を効率よく利用している企業であるといえます。 財務論の概念的な話をしますと、ROEは資本コスト(株主が要求するリターン)と比較されます。すなわち、投資家はROEと資本コストを比較することでその企業に投資するだけの価値があるかどうかを判断することが出来ます。(実際には、将来の利益成長の見込みも考慮されるべきですが、それについては最後に簡単に触れます。) *新規事業への出資について 「資本コストに見合わないROEしか稼げない企業には出資する意味がない」と解釈できます。 *既に上場している企業の評価について 「ROEが資本コストよりも高い企業の市場価格は株主資本簿価よりも高くなるはずだし、そうでなければ市場価格は株主資本簿価よりも低くなるはずだ」と解釈できます。 財務論を一通り勉強して実際に株式市場を見た人にとっては、「資本コスト」という概念は極めて曖昧なものであり、現実の世界では「要求する資本コストの水準は、企業によって違うし市場参加者によっても違う」ということを知っています。 様々な欠点があることを承知の上で、ここでは話を分かりやすくするために、資本コストとして「国債の利回り」を考えます。(事業リスクが存在するので、理論的には資本コストは国債の利回りよりも高くなるはずです。もちろん、現実の市場でそうなっているかどうかは別問題ですが。) *問題1(新規事業への出資について) ある事業に1億円出資しようと考えます。その事業から得られる予想純利益は500万円であると仮定します。国債の利回りが5%であるとき、この事業に出資したいと思いますか?(話を簡単にするために、投資期間は1年であるとします。) 株主資本簿価が1億円、予想純利益が500万円、ROEが5%、資本コストが5%です。常識的な感覚をもってすれば「投資したくない」という判断に至るはずです。なぜならば、事業から得られるであろう予想純利益には多くの不確実性が伴うことに対して、国債の利回りは確実だからです。 たとえ、その事業から得られる純利益が500万円を上回る可能性があるとしても、それを期待できる何か(事業素質の改善の可能性など)がなければ、普通は出資したいと思わないでしょう。 *問題2(既に上場している企業への投資について) 上場しているある企業について、ROE3%が期待できるとします。国債の利回りは5%であるとします。このとき、この企業に投資したいと思いますか? このような企業に対して、合理的な市場参加者が期待するのは以下の2つです。 (1)事業を即座に精算して株主資本を全て国債で運用すること 事業を継続したところで、国債の利回り以下の利益率しか稼げないのですから、事業を精算して株主資本を国債で運用するほうが株主利益のためになります。場合によっては、事業を精算して株主に資本を返還するほうが良いかもしれません。 (2)国債の利回りに見合う程度に株価が下がること このような企業が何らかの理由で事業が継続している場合、国債の利回りに見合う程度に株価が下がらなければ投資妙味がありません。すなわち、将来の利益成長や事業素質の変化に対する期待が伴わなければ、国債の利回り以下のROEしか稼げない企業が株主資本簿価以上の価格で取引されていることを合理的に説明することはできません。 もちろん、現実には「種々の社会的制約から事業を簡単に精算できないこと」や「経営者の非合理な意思決定」などから、ROEと資本コストを考慮した合理的な資本政策が常にとられるとは限らないでしょう。 さらに「市場参加者による価値判断のミス」からROEと資本コストの関係を考慮した価格付けが正確になされる可能性はもっと低いでしょう。 そうはいっても、「出来るだけ資本効率の高い企業に投資したい」と多くの市場参加者は思っているでしょうし、実際に市場を観察していても「資本効率が高い企業は市場での評価が高く、資本効率が低い企業は市場での評価は低い」という傾向は概ね認められます。 すなわち、「高ROE=高PBR、低ROE=低PBR」という構図が浮かび上がります。 最後に、将来の利益成長を加味した場合のROEとPBRについてです。「事業の永続性」を前提とした場合を考えます。この場合、以前の日記で述べたように「定率成長モデル」のPBRバージョンから以下のことが言えます。 V = E(1)÷(R-G) ⇔ PBR = V÷B(0) = [E(1)÷B(0)]÷(R-G) = ROE÷(R-G) すなわち、PBRは「ROE」「資本コスト」「利益成長率」に依存します。定率成長モデルは「他の2要素(資本コストと利益成長率)が同じであれば、ROEが高ければ(低ければ)、PBRも高い(低い)はずだ」ということを示唆しています。 ROEの高い企業は資本効率の高さという点ではいい企業ですが、株価がそれを織り込んでいる可能性がある(PBRが高い)ことを考えると、必ずしもいい投資対象になるとは限りません。 実際にどうなっているのかについては、次回に述べたいと思います。 今日の言葉: 「成長株志向の投資家が陥りやすいのは、自分の資本効率よりも企業の資本効率を重視して株式投資に臨むことである。」

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