テーマ:機動戦士ガンダム(4136)
カテゴリ:サブカル全般
富野由悠季みずから制作する久しぶりのガンダム『Gのレコンギスタ(通称Gレコ)』。賛否両論でモメるのは放送前からわかっていたが、案の定ネットで激しい論争が繰り広げられている。
しかし今回はSNSが発達したせいもあってか様々な角度からの意見が入り乱れて白熱しており面白い。言い争いの経緯と形跡を追跡しやすくなったのは読む方にとっては便利だ。 論争の根っ子は大概「わかりにくいストーリー」と「心理がわかりにくいキャラクター」から派生する批判と擁護。わかりにくさ自体はほとんどの視聴者が否定しないだろう。現にそれが原因で一定数の離脱者とアンチを生んでいる。 自分は富野信者というわけではないが、御大にしか生み出せない言葉の組み合わせや展開の飛躍が存在することを信じているし、単純に自分に出来ないことをやれる人としてリスペクトしてもいる。ただしそれが優れているかどうかはまた別の話なので、批判する人の意見もなるほどと思うことが多い。 今回のGレコ論争は本職のクリエイターと一般視聴者が混在しているようで視点はバラバラ。twitterのつぶやきをまとめたTogetterをいくつか読んだが、Gレコの失敗原因をわかりやすく分析・指摘しているものはなかなか説得力があった。 曰くGレコのわかりにくさは(かつての富野由悠季は出来ていたはずの)脚本のイロハを忘れ、小道具や舞台装置の設置自体にかまけて物事の優先順位や扱い方を誤った、というようなもの。 ブツ切りの連続ツイートなので文章としては読みにくかったが指摘そのものは尤もで、旧作アニメから喩え(いちいちネタが古いが)を提示して説明しておりわかりやすい分析だったと思う。 上記のTogetterは視聴者がGレコにスムーズに入り込めなかった原因の分析としてはおおよそ同意できるし納得もできるが、それだけでは「面白い」と感じて視聴し続けているファンの動機の説明にはならない。 擁護派に「富野信者」というレッテルを貼って切り捨てるのは簡単だし、ガンダムというブランドに依存する期待感があることも否定できないが、正しい作劇手順に従えば売れるというわけでもない。面白いかどうかの基準はわかりやすさとは別だ。 自分はGレコの取っ付きにくさは意図的なものだと感じている。インタビューや対談(※作品について語るときはリップサービスを差し引くべきだが)を読む限り、あれだけ内省的で自分の得手不得手をはっきり認識している人間が創作活動で他人の視点を意識しないはずがない。 トワサンガでもビーナス・グロゥブでも「戦争慣れしていない」「文化の違い」という土地柄による感覚のズレが描かれていたし、アイーダの知識がアメリアの立場を「刷り込」まれたものに基いているという描写もすでにあった。 本作では各陣営とも一枚岩ではなく、成り行きで海賊船メガファウナが各陣営の寄り合い所帯になっているのも「認識の共有」という共存の道を示す(あるいはのちに破綻させるための)装置なのは間違いないだろう。 主人公であるベルリに感情移入しにくいというのも、ベルリがスコード教信者で地球と宇宙を繋ぐキャピタル・テリトリィ出身という視聴者と違う文化と価値観を持っているからだと思うしかない。 彼は共感や憧れを誘うタイプの主人公ではなく、おそらく富野監督が想像する現代の若者像のディフォルメではなかろうか。状況と折り合える優等生ではあるけれど、確固たる自我の信念や欲が見えない奇妙な男子。監督自身もそれほど肯定的に捉えているキャラクターじゃないような気がする。 歴代のガンダムパイロットがそれぞれ当時の「時代に即した屈折とたくましさ」を備えていたように、そう考えると自我を状況にアジャストさせてうまく立ち回るベルリの性格と処世術もすでに「21世紀らしい屈折とたくましさ」とみるべきなのかもしれない。 キャラクター数やモビルスーツ数からもあと数話で完結するとはとても思えないので、ここから物語を畳むには相当なトンデモENDか全滅ENDくらいしか凡人の自分には想像できない。物語全体をちゃんと着地させるならやはり分割2クールか? 「Gレコのわかりにくさ」は作劇のセオリーを無視したことに起因するのはほぼ間違いないが、視聴者をいきなり状況のど真ん中に放り込んで混乱させる意図でセオリーをわざと無視したのであればそれはテクニックであり、批判にはあたらない。 ただし視聴継続が理解の前提条件になるので、富野由悠季という看板とガンダムブランドがなければ成立しない大御所ならではの手法ではある。 無名作家や中堅程度の監督では絶対ゴーサインが出ない裏ワザなので、クリエイターやアニメ批評家といった同業方面からやっかみ半分で叩かれやすいというのはあるかも。 まあこの程度で文句言っていたら監督のキャラ勝ちで逃げ切ったようなアレハンドロ・ホドロフスキーの映画『ホーリーマウンテン』なんて観たら憤死モノだ。悔しいだろうけど最低だけど最高な作品ってのは確かに存在するわけで。これが作家性というものか。 そんなわけでGレコの今後の展開にも引き続き期待したい。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[サブカル全般] カテゴリの最新記事
|
|