さまざまないのちを思う(1)
それは仕事で長崎県の鷹島に向かっている時だった。茶色い物体が道路の真ん中に落ちているのが見えた。10m、5m...近付いてくとその物体が少し動いているように見えた。「大きな鳥だ!」大きくよけて通り過ぎた時、横目に見て確信した。慌てて引き返した。路肩に車を駐めてその鳥(どうやらワシ・タカ系)の側に近寄ると、翼が風にあおられてあらぬ方向に折れ曲がり、パタパタとなびいている。翼が折れているようだ。それなのにヨロヨロと逃げようとする。脚もやられているのか。上空を見上げると仲間か敵か、鳥がこちらの様子を窺っているかのように周回している。視線を目の前に突っ伏している鳥に戻す。この鳥は何かに襲われたか、ケンカでもしたのだろう。どうしていいのか分からずしばらく立ったり座ったり、あたふたした。野生の鳥にとって人間に助けられることはきっと屈辱だろう。でも放っておいたら車にひかれてしまうかもしれない。意を決してその鳥を抱え、歩道の片隅に移動させた。大きな濃い茶色の瞳が私を見つめている。とてもきれいな、かわいい目だ。こみ上げてくるいとおしさを振り切り、その場を後にした。用事が済み、あの場所へ急いだ。あの後雨が降り始めていた。雨に打ち付けられているあの鳥の姿が浮かんできて胸が締め付けられる。雨が傷に沁みないだろうか。どうかまだ無事で...祈りながらゆっくり、注意深く歩道を目で追いながら進んだ。しかしながらあの鳥はもういなかった。誰の目にもつかない場所に自ら身を隠したのか、それとも...鷹島への行きは多久インターで降りて唐津経由で行くルートで、帰りは福岡都市高→太宰府を通るルートで帰ることにしていた。「喫茶ネムの木」に寄り道するために。お忙しい中時間を作って下さったねむさんのお宅でアイスコーヒーとゼリーをいただきながらしばし歓談。横のソファにはメタボ気味な猫のルディちゃんがなんとも幸せそうにとぐろを巻いている。その後ねむさんがご近所の家にご用があったので一緒について行ってちょっと海を眺めて、ふたたびねむさんの家に帰る途中...今度は灰色の物体が道端に落ちていた。子猫!車にひかれたのだろうか?でも傷はなさそうだ。目をこらして見るとガリガリに痩せた胸が上下している。「生きてる!」ねむさんと二人、車から飛び降りた。飢えているのだろう。息だけが荒く、グッタリして顔をあげることもできず、鳴こうとしているのだろうが口だけが開いて声にならない。目を見開く力すらないようだ。「病院に連れて行く!」敢然と立ち上がり、車からタオルケットを取り出し、ネムさんが子猫をタオルケットにくるむ。それを私が受け取り車の助手席に乗り込む。「病院に行くからね!頑張ってね!」と励ますものの、わずかに開いた子猫の目は白く濁り、だんだんと閉じていく。体はぐんにゃりとして首はカクカクして据わらない。ああ、もうダメだ...正直そう思った。ねむさんの家に着き、ねむさんが大きな声で呼びかけると子猫はわずかに目を動かした。風前のともしびそんな感じがした。それからねむさんは病院へ急ぎ、私は帰路についた。(2)に続く※(2)は一つ前にUPしています