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朝からずっとそわそわしていた。いや、何日も何日も前から楽しみにしていたこの日。
熊川哲也率いるK-BALLET COMPANY公演・『ドン・キホーテ』。 恥ずかしながら、バレエというものをまだ全く理解していない私がこの公演を見るに至るまでには、こんなことがあった。 今年の3月、友達とデパートをぶらぶらしていた時、幸運にも一枚の広告を見つけた。それはグランディーバ・バレエ団の公演のチラシ。飛び跳ねるほど嬉しくて、すぐに母にメールを送った。母も私も、「グランディーバのバレエを生で見てみたい!!」とずっと思っていたから。 私が中学生の頃だっただろうか、とある番組で芸能人がバレエを体験するコーナーがあった。そこにグランディーババレエ団が一度出演したのを見て、私たちは初めてこのバレエ団の存在を知ったのだ。(確かアメリカに基点を置いている)男性のみのバレエ団ということも驚きだったけど、それ以上にメンバーのダンスが綺麗で、おしとやかで、勇ましくて…。非常にユニークな踊りを披露してくれた。 グランディーバの公演チケットを母が必死になって二枚取ってくれた。観に行ったのは8月。どんなメンバーがいてどんな役をこなすのか、公演の項目などなど、何の知識もないまま会場に向かったが、そこで受けた衝撃は私の予想以上だった。 すっごく面白い!!楽しい!!でも彼らはただのウケ狙いでふざけてやっている訳ではない。実力があって初めてできる技の数々。男性がプリマの格好をして踊るというのも、なんだか新鮮に感じた。 一番盛り上がったのは、グランディーバのマーク(マスコット?)ともなっている『瀕死の白鳥』だろう。筋骨隆々の男性が一人で白鳥の湖を踊るのだが、白鳥の羽が骨折したり、もうとにかく面白い。ここまで魅せるのに、相当努力をしてきてるんだろうなぁ、そう思うほど素晴らしいテクニック。 グランディーバによってすっかりバレエに魅了された私たちは、またグランディーバもみたいけど、今度は違うダンサーのも観てみたいと思うようになった。 そして8月末か9月の初め、母が新聞の広告に「熊川哲也、ドン・キホーテ」の記事を見つけ、今日に至る。 今回取れた席は三階だったため、オーケストラの姿は見えず、ダンサーの表情も見えないだろうなぁと思っていたが、始まってみるとそんなこともない。生き生きとした表情も、怒った表情も、切ない表情も、全部見えた、いや感じることができたのだ。体の隅々に神経を走らせ、体全体で感情を表現し、見ている人に伝えることの素晴らしさを改めて実感。私は日舞を習ってきたから、踊る側の楽しさは十分理解しているつもりだ。だが見ていて心躍らせたり、食い入るように見入ったり、なんてことは今までなかった。ダンスを見ていてこんなにうっとりしたのは初めてだ(うっとりなんていったら気持ち悪いかしら?) 今回の項目となっている『ドン・キホーテ』はセルバンテス著「ドン・キホーテ」をかいつまんだもの。 スペインのラマンチャ地方にくらす紳士、ドン・キホーテは騎士道物語を読みふけり、あるとき理想の恋人ドルシネア姫の幻想を追って、百姓のサンチョ・パンサを従え、旅に出る。地中海の港町バルセロナに住む旅籠のキトリと床屋のバジルは恋人同士。広場ではキトリやバジル、闘牛士エスパーダを筆頭とする若者たちがにぎやかに踊っている。そこに現れたドン・キホーテはキトリを一目見て、彼女こそドルシネア姫と信じ込む。一方キトリとバジルは、娘を金持ち貴族のガマーシュと結婚させようと目論む父ロレンツォの目を盗み、手を取り合って駆け落ちする。 バジル役演じる熊川哲也の跳躍は、聞きしに勝る素晴らしさだった。高くしなやかにふわっと飛んでみせると、客席からはほうっとため息が漏れる。自然と拍手が沸き起こる。跳躍だけにとどまらず、彼の動き一つ一つに、誰もが釘付けになった。 キトリのダンスの柔らかさも見ていてすごく心地よかった。エスパーダ率いる闘牛士たちがムレタと呼ばれる布を翻し踊る姿も、目を見張るほど格好よかったし、ガマーシュの滑稽な役どころも面白かった。バジルがロレンツォやガマーシュなど、みなの前で自殺を図る場面や、バジルは死んだ振りをしていて、ロレンツォたちが背を向けている間にキトリの頬にキスをする場面なども面白かった。バレエに詳しい人も、私みたいにそうでない人も、どの人にとっても、今日の公演は心地よい余韻を残すものであったにちがいない。 グランディーババレエ団、そしてKバレエカンパニーによってすっかりバレエに魅了された私たちは、来年のグランディーバのチケットをきっと迷わず取るだろう。そして熊川哲也も。全くバレエを知らないからといって、公演を観に行くのに臆する必要は全然ない。バレエに限らず、何に関しても自分が立ち会ってみることから始まっていくのだ。 「何でも実際に見て、それから善し悪しや好き嫌いを言いなさい。まだ自分の目で見たこともないのに、嫌いだなんて決め付けてはいけない」、かねてからそう言っていた母の言葉に私は心から深く頷いた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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