八ツ場ダムは利根川を決壊から救ったか?
【台風19号】自民が対策本部会合 「八ッ場ダムが氾濫防止に」の報告も自民党は15日午前、台風19号の影響で広範囲にわたり被害が出ていることを受け、災害対策本部の会合を党本部で開いた。出席者からは、早期の激甚災害への指定や被災地のライフライン復旧を求める声が相次いだ。二階俊博幹事長は会合で「一日も早く(被災者が)元の生活ができるよう、全国各地から情報収集すると同時に的確な対応をしてもらいたい」と語った。群馬県長野原町の「八ッ場ダム」が川の氾濫防止に役立ったとの報告もあった。群馬県選出の国会議員は「民主党政権のときに(ダム建設が)ストップされて本当にひどい目にあった。われわれが目指してきた方向は正しかった」と述べた。---この種の話はネット上でも出ているようですが、「八ッ場ダムが氾濫防止に役立った」というのは、眉につばをつけて聞いたほうがよいという類の話のように思われます。そもそもの前提条件として、ダムは建設に際して巨額の費用がかかることは言うまでもありませんが加えて多くの家が水の底に沈みます。八ッ場ダムの場合は、総工費5000億円以上かかり、340世帯、川湯原温泉の18の旅館と約50の土産物店など、それに48ヘクタールの農地が水の底に沈んでいます。治水のためのダムは、言い換えれば「みんなの家が洪水で水に浸からないように、おまえの家を湖底に沈めろ」と、簡単に言えばそういう理屈になります。であれば、ダムに求められる治水効果は、「ないよりあった方がマシ」程度の曖昧なものであってはならないでしょう。「340世帯の家を湖の底に沈めることと引き替えにしても必要」なほどの明白で大きな効果のあるものなのかどうか、が問われるはずです。国交省関東地方整備局の発表によると、台風19号の降雨により、八ッ場ダムにおいては、総貯留量約7,500万立方メートル、最大流入量約2,500立方メートル/秒を貯め込み、ダムの貯水池は518.8メートルから573.2メートルまで、約54メートル水位が上昇した、とのことです。確かに、一見すごい効果のように見えますが、この間の利根川の流量は、栗橋において毎秒1万1700立方メートルだったと推定されるようです。つまり、八ッ場ダムによって、利根川の流量の2割強がカットできた、ということになります。しかし、いくつかの資料を見ると、利根川の治水計画による最大流量の計画は毎秒2万1千立方メールとのようです。ということは、実はまだ全然余裕がある、ということになります。しかも、先の八ッ場ダムな最大流入量毎秒2500立方メートルというのは、瞬間最大値です。7500万立方メートルの水が貯まるのに要した時間は、11日2時から13日5時までというので、51時間かかっています。割返すと、この間の平均流入量は、毎秒408立方メートルに過ぎません。先に見た今回の台風での利根川の最大水量の5%にも満たない割合、となります。それを明白な効果と言えるのかは大いに疑問です。加えて、全くの偶然ながら、今回八ッ場ダムが一挙に7500万立方メートルもの水をため込むことが出来がのは、たまたまダムの工事は完成し、水の貯留試験が始まったばかり、というタイミングで台風が来たからです。ダムが通常の稼働を始めていたら、貯水量は満水に近い状況であったことが予想されます。(今年、関東の各ダムでは水不足に陥ったことはなく、いずれも台風の直前に充分な貯水量がありました)その場合は、あっという間にダムは満水となり、緊急放流を余儀なくされたはずです。つまり、民主党政権が八ッ場ダムの建設をストップして完成が遅れたことが功を奏した、とも言えるでしょう。もちろん、たまたまの偶然にすぎませんが。これらを考え合わせると、八ッ場ダムの治水効果は、もちろん皆無ではなかったでしょうが、5000億円の工費と340世帯を湖底に沈めることと引き替えにできるだけの明白で大きな効果があった、とは言い難いように思います。ダムの存在価値は治水だけではない、という意見もあるかもしれません。しかし、利根川水系には、すでに8つもダムがあるのです。これからの人口減、経済の下り坂傾向を考え合わせれば、水の需要が右肩上がりで上昇していくなど想定し難いことと言うしかありません。