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2025.05.12
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以前の記事で、ボリビアの映画制作集団ウカマウの映画特集上映について紹介しました。
で、私自身も3日間に分けて「女性ゲリラ・ファナの闘い」「地下の民」「30年後」の3本を見てきました。「地下の民」は、1989年制作で、多分以前に見たことがあったと思います。あとの2本は初めて見ました。
このうち、今回は「30年後-2人のボリビア兵」を紹介とします。
「30年後-2人のボリビア兵」は2022年の作品で、現時点でウカマウ(サンヒネス監督)の最新作です。1932年に勃発したボリビアとパラグアイの「チャコ戦争」の参加した二人の兵士とその後を描いています。
チャコ戦争は、ボリビアとパラグアイに(アルゼンチンとブラジルにも)またがるチャコ地方で石油が取れるのではないか、という推測に基づく領有権争いから起きた戦争です。石油が取れる(かも)ということで、ボリビアにはスタンダード、パラグアイにはシェルという石油メジャーが後ろに付いた石油代理戦争でもありました。
ボリビア側は戦死者6~8万人を出しています。当時ボリビアの人口は300万人程度だったので、50人に一人、人口比で言えば太平洋戦争における日本を上回る犠牲者を出しています。

パラグアイ軍よりボリビア軍の方が兵力が多く装備も優れていたと言われています。映画では特に触れられていませんが、ボリビアは歴史的にドイツとのつながりが強く、この戦争でもドイツから軍事顧問を招いています(余談ですが、軍事顧問の一人には、ナチス突撃隊の創設者であり、後にヒトラーに粛清されることになるエルンスト・レームがいます)。パラグアイ軍はもっていなかった戦車をボリビア軍は保有していました(これも映画には出てきませんが)。ただし、47mm砲装備のビッカース6t戦車3両と、カーデン・ロイド豆戦車2両の合計5両だけだったようですが。
ところが、装備と兵力に勝っているはずのボリビア軍はパラグアイ軍に敗北を重ねて、結局戦争に負けます。装備は前近代的ながら、ゲリラ戦に徹したパラグアイ軍の方が、作戦が上手だったようです。
また、両軍とも、ボリビア軍はケチュア、アイマラ、パラグアイ軍はグァラニと、いずれも先住民が歩兵の主力でしたが、ボリビアのケチュアやアイマラが冷涼なアンデス高原の住民なのに対して、パラグアイのグァラニは熱帯低地の住む人々で、チャコ地方も彼らの生活領域の一部だった、という点でもパラグアイに分があったようです。高温多湿だが水がなく、兵士たちは渇きに苦しみ、泥水をすすっさたことで様々な感染症によっても多くの命が失われたようです。

ただし、戦争に勝ったのはパラグアイでしたが、結局戦争目的だった石油は、チャコ地方ではほとんど産出しなかったのです。だから、多大な犠牲を払って戦争に勝ったパラグアイも、何一つ得るものはありませんでした。勝ったパラグアイも負けたボリビアも、ただただ悲惨な結果になったのが、このチャコ戦争です。
主人公の一人セバスチャンは、アイマラ族ですが、結婚式のお祝いのさなかに軍に襲われて、攫われて従軍させられます。戦闘中に足に銃弾を受け、歩けなくなりますが、偶然通りかかったもう一人の主人公、インテリの白人兵士ギジェルモに救われて命拾いします。
そのギジェルモは社会主義思想を抱いており、先住民兵士に対する軍上層部の不当な扱い、彼らの命を軽視する戦い方に義憤を抱き、司令官に反抗的態度を取ったことから軍法会議で死刑を宣告されます。しかし処刑の前夜、彼に同情する士官の手引きで営倉を抜け出して軍を脱走、その際にセバスチャンも同行して脱走し、故郷に逃げ帰ります。
飢えと渇きに苦しみながら、命からがら故郷のアンデス高地に逃げ延びたところから二人は別行動をとりますが、社会主義思想を抱いてセバスチャンを助けたギジェルモは、それ以上は政治の道に踏み込むことはなく、アイマラの先住民の多い地域の学校で教師となり、ついにはアイマラの村に住むようになります。
一方、セバスチャンの方は、いったんアイマラの村に帰ったのち、鉱夫となり、やがて鉱山労働組合の幹部として頭角を現します。

歴史的事実としても、ボリビアでは1950年代にMNR(民族革命運動)によるボリビア革命がおこりますが、チャコ戦争における無残な敗北と、その中で少なくない軍人が社会主義思想に感化されていったことが革命の遠因とされており、また総兵力25万人のボリビア軍からは1万人もの脱走兵が出たと言われていることを踏まえたストーリーになっています。
ただ、MNRは、当初こそ社会主義的な政策を掲げていたものの、10年後にはかなり無残なことになり、指導者であったパス・エステンソロは、晩年は完全に右旋回して新自由主義の権化の保守政治家になってしまいました。
タイトルの30年後、白人だったギジェルモはすっかりアイマラの村の一員となっており、一方アイマラ出身のセバスチャンは、鉱山労働組合の幹部として都会で忙しい日々を送り、立場が完全に逆転していました。そこから先は、ネタバレはやめておきましょう。

ただ、チャコ戦争が起きた1932年の30年後というと1962年のはずです。前述のMNRのパス・エステンソロ大統領が社会主義を放棄して、急激に右旋回しつつあった時期になります。更に、その2年後に当たる1964年には、クーデターによって極右軍人レネ・バリエントスの軍事政権ができ、鉱山労働組合も大弾圧を受け、セバスチャンも再び追われる身になったはずです。
映画の中では、そのあたりの説明はありませんでしたが、その背景も考えると、この映画のエンディングにも複雑なものを感じます。

ウカマウ映画には、毎度ボリビア音楽がふんだんに使われます。今回は、塹壕の中で奏でられるコンセルティーナに敵も聞きほれ、上官に秘密で敵味方が密会するシーンは印象的でした。敵国同士とはいえボリビアもパラグアイもスペイン語圏ですから、意思疎通は比較的簡単で、史実としてもそのようなことは多々あったらしいです。お互いに訳も分からず動員され、敵とは誰かも明確には理解はできていなかったような兵士たちですから。

個人的評価としては、今回見た3本のウカママウの作品の中で一番面白かったです。





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最終更新日  2025.05.12 22:19:09
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