|
テーマ:ニュース(95563)
カテゴリ:戦争と平和
イスラエルとイラン 軍事衝突から1週間 鎮静化の見通し立たず
イスラエルがイランに対する先制攻撃を行い、双方の軍事衝突となってから20日で1週間となります。イスラエルはイラン国内の稼働していない原子炉を空爆するなど攻勢を強める一方、イラン側も断続的に報復攻撃を続けていて、事態が鎮静化する見通しは立っていません。 イスラエル軍は19日、イランが核兵器を手に入れることを防ぐためだとしてイラン西部のホンダブにある稼働していない原子炉を含む、数十の軍事目標やイラン中部のナタンズにある核施設を攻撃したと発表しました。 イラン側も断続的に報復攻撃を繰り返していて、イスラエルメディアは南部の病院などが被害を受け19日だけで140人以上がけがをしたなどと伝えています。 被害を受けた病院を訪れたイスラエルのネタニヤフ首相は「われわれは核施設やミサイルを正確に攻撃しているのに、イランは病院を攻撃している」などと主張し、イランに対する攻勢を強める姿勢を鮮明にしました。 これに対し、イランの国連代表部はSNSで病院を標的にしていないと反論しています。 双方は攻撃を続ける姿勢を鮮明にしていて、事態が鎮静化する見通しは立っていません。 イスラエルとイランによる攻撃の応酬が続く中、アメリカのトランプ大統領はこれまでイランへの対応について聞かれ「やるかもしれないし、やらないかもしれない」と述べるなど、軍事介入の選択肢を排除しない姿勢を示しています。 イランの首都テヘランでは16日夜、生放送中に国営放送局がイスラエル軍の攻撃を受け、職員1人が死亡しました。 被害を受けた国営放送局の建物の内部が19日、メディアに公開され、このうちAFP通信が撮影した映像からは、焼け焦げたテレビや撮影機材とみられるものが散乱している様子が確認できます。 双方の攻撃の応酬が続く中、イスラエルでは全土に非常事態宣言が出されたままとなっています。 ふだんは多くの観光客などでにぎわうエルサレム市内の繁華街に観光客の姿はほとんど見られません。 --- イランに様々な問題はあるにしても、一連の経緯を見れば、イスラエルが一方的にイランを空爆したことでこの戦争が始まっています。 更にさかのぼれば昨年2024年にもイスラエルとイランの空爆の応酬がありましたが、これもイスラエルがシリアのイラン大使館を空爆し、在館していたイスラム革命防衛隊の将官らを殺害したことが契機となっています。この時は、イラン側の報復、イスラエルの報復に対する報復はあったものの、お互いに衝突を拡大させないという自制がある程度働き、それ以上の拡大には至らずに終息ましたが、ともかく先に手を出したのがイスラエルであったことは明白です。 そして、今回も同様です。 もちろん、イスラエル側の認識では、ガザ地区のハマスやレバノンのヒズボラなど親イラン派の武装組織はイランの意を受けてイスラエルを攻撃しており、だからイスラエルは常時イランの先制攻撃を受けているのだ、ということになるのでしょう。 しかし、これまで散々明らかになった来たように、ガザ地区でのイスラエルの振る舞い、レバノンやシリアに散々侵攻を繰り返してきたイスラエルの振る舞いを見れば、ハマスやヒズボラの対イスラエル憎悪を「養ってきた」のは、間違いなくイスラエルの暴虐な振る舞いと言わざるを得ません。 そして、ハマスやヒズボラがイランの別動隊であったとしても、だから「親元」を攻撃してよい、などという理屈は、少なくとも国際法上は存在しません。 もちろん、イスラエルにとっては国際法などどーでもいい、のでしょう。しかし、それなら「われわれは核施設やミサイルを正確に攻撃しているのに、イランは病院を攻撃している」などと泣き言を言うな、と言うしかありません。病院を攻撃することは国際法違反ですが、攻撃対象が核施設だろうがミサイルだろうが、先制攻撃もまた国際法違反だからです。 「俺たちの国際法違反はよい違反、敵の国際法違反は悪い違反」なんて言い分は、なんら説得力を感じません。 だいたい、核兵器保有にしても、当のイスラエル自身は核兵器を保有しているのに、イランに保有するなと言える道理はありません。 さて、ともかくも現時点では戦争はイスラエル側が一方的に優位に立っています。 イランも中東地域では随一の大国であり軍事力も強大ですが、イラン革命以来米国との関係が悪いことから、欧米製の兵器の維持管理には相当の難があります。 近年は整備部品を国産化しそれら欧米製兵器もかなりの程度稼働率を回復しており、またロシア製兵器の導入や国産兵器も開発しています(戦闘機については米国製F-5戦闘機をベースにした改造)。もちろん大量に保有する弾道ミサイルも自国開発のものです。 とはいえ、ロシア製兵器については、ロシア自身がウクライナへの侵略でとうてい大量に供給できる状態ではないし、国産兵器についても、おそらく性能的には欧米製の兵国は及ばないものが多いと思われます。 一方のイスラエルは、いうまでもなく世界トップクラスの軍事強国です。 両者は国境を接しておらず、距離も離れているので、お互いの陸軍力は蚊帳の外ですが、現状はイスラエル側の圧倒的優勢です。 先制攻撃を行ったイスラエルは、スパイ組織モサドによる諜報もあって、あっという間にイランの防空能力を破壊し、首都テヘラン上空も含めて空軍機が自由自在に飛び回って、ほとんど迎撃らしい迎撃を受けずに、目標とする核施設などを次々と攻撃しています。 それに対してイランの唯一の反撃手段は弾道ミサイルですが、その多くは迎撃ミサイルに撃墜されています。 ただし、それでも全弾を防ぐことはできないので、少なからずイスラエルの市街地等に着弾していますし、おそらくですが、迎撃に失敗した対空ミサイルや、時には迎撃に成功したミサイルの破片の落下等によっても、少なからず被害が出ているのではないかと予想されます。 いずれにしても、純軍事的には現在のところイスラエルがイランを圧倒しており、ワンサイドゲームの様相を呈しています。しかし、この一方的展開が今後も続くのかというと、疑問を禁じえません。兵力や兵器の性能差による戦術的勝利が、戦争全体の戦略的勝利を保障するとは限らないからです。 イランの弾道ミサイルももちろん無限に数があるわけではありませんが、イスラエルの対空ミサイルだって有限です。いつまでも迎撃し続けることかできるわけではありません。 そして、イスラエルが掲げた攻撃理由は、イランの核兵器保有を阻止することですが、主要なウラン濃縮施設は地下深くに建設されており、空爆でも容易には破壊されないようになっているようです。また、前述のとおり、両国は国境を接しておらず、人口、兵員数にも大差があることから、イスラエルが陸路でイランに侵攻することは考えられません。 これらを総合して考えると、イスラエルが目標として掲げたイランの核開発阻止を、この攻撃で実現できるかどうかは極めて怪しいと考えざるを得ません。もちろん大きな打撃を受けたことは確かですが、核開発能力を完全に喪失したわけではなく、多少時価を稼いだだけ、と考えざるを得ません。 そして、重要なことは、イランが本気で核兵器を実用化しようと思えば、とっくに完成させる能力はあった、ということです。この攻撃の前、イランは濃縮ウランをどんどん製造していました。しかし、その濃縮率は60%であり、核兵器として使用する濃縮率90%以上には達していません。つまり、現段階では「いつでも核兵器は実用化できるんだぞ」とアピールすることが目的で、本当に核兵器をすぐに作る意図があったとは考え難いわけです。 しかし、今回の攻撃で一方的に敗北することは、むしろイランを今後は本気で核兵器を完成させることに駆り立てる可能性が高いのではないかと思います。 イスラエルが簡単にイラン本土を攻撃したのは、イランが核抑止力を持っていないからだ、ならば核兵器を持ってしまえばもう攻撃されないだろうーそのようにイランが考えてしまう可能性は高いからです。 実際には、核兵器には核兵器に対する抑止力はあっても、通常兵器に対する抑止力は、まったく期待できません。そのことは、今回や2024年にイラン自身が証明しています。核兵器保有国であるイスラエルに対してためらうことなく弾道ミサイルを撃ち込む続けているのですから(第四次中東戦争、マルビナス戦争など、核非保有国が核保有国を攻撃した事例は他にもあります)。 しかし、政策とはえてして理論ではなく感情で動かされることがあります。今回の敗戦を受けて、冷静な判断より過激な強硬論が幅を利かせることは、充分にあり得ます。 そして、以下に圧倒的な航空優勢を確保して好き放題に空爆を行っても、それだけでイランを全面降伏に追い込むことは困難だろうと考えられます。 米トランプ政権はイラン攻撃への参加を示唆しているものの、判断を迷っているようです。トランプのコアな支持層でも、イラン攻撃には賛否が分裂している(キリスト教右翼の福音派は賛成、草の根トランプ信者であるMAGA派は反対)と報じられています。 イランは人口9千万人、国土面積160万平方キロという大国であり、もちろん産油国で、食料自給率も7割以上という農業国でもあり、かつ、工業技術力もかなり優れたものを持っています。この国を軍事力で全面屈服させるというのは、まずもって不可能というしかありません。核開発能力に限っても、それを完全に破壊することはイスラエル単独では明らかに不可能だし、米国が参加しても極めて困難でしょう。 そしてもう一つ、米国がイラン攻撃に参加するということは、まわりまわって二つの影響が考えられます。 第一に、それはウクライナにとっての死刑判決になる可能性があります。ウクライナのロシアに対する脅威的な抵抗は驚嘆に値しますが、それは欧米の支援がなければ不可能でもあります。元々トランプとゼレンスキーは関係最悪ですが、ここで米国がイランに攻め込めば、ウクライナを支援する余力は完全になくなります。そのことは、ロシアとウクライナの戦争には、決定的な影響を及ぼすでしょう。 第二に、そのような全面戦争に至った場合、イランはあらゆる反撃を行う可能性があります。イランがもしペルシャ湾の封鎖を行ったり、イラン・イラク戦争当時のようなタンカー攻撃を行った場合、世界の石油供給は恐ろしいことになる可能性があります。日本とイランの関係は悪くありませんが、そのような事態に至った場合、イランは日本にも踏み絵を迫るかもしれません。 とりあえず、イスラエルのイラン空爆に対しては、日本政府はイスラエル非難の声明を発しており、最低限の理性は保たれていると考えます。しかし、もし米国がイランに侵攻となった場合はどうでしょうか。 1970年代末当時、自民党政権であっても、「反米」を旗印にするイラン新政権に対して「それはそれ、これはこれ」で、米国とは一線を画した友好関係を維持しました。しかし、現在の自民党政権だったら、そのような事態に至った時、果たしてどう対応するでしょうか。そして、その時、日本の生命線たる石油の供給は果たしてどういうことになるでしょうか。 どうにも恐ろしい未来図しか描けません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[戦争と平和] カテゴリの最新記事
|