『犬の鼻先におなら』

天才！このままだと忘れ去られる。言語化できない“笑”撃力の悲劇。
　谷岡ヤスジ氏の名前は聞いた事がありましたが、意識して読んだ事はありませんでした。
　今回初めて読んで見て、一読驚嘆、絶句。
　こんな異様な漫画は空前絶後ではないでしょうか。
　漫画評論家呉智英氏も述べていましたが、手塚治虫型の天才（遺産を引き継ぐものがいる）と対極のタイプの天才です。

　ｐ455夏目房之介「ただの線が、形をなし意味をなす瞬間の根源的なオカシサ。常識破壊ではなくナンセンスとしてソコントコに立ち会えた事」確かに例えばコレ→(^o^)を顔に観てしまう人間の脳のオカシサというものが根底にありますね。

　ｐ469相原コージ「谷岡ヤスジのオーシロサっつーのはアニメにしただけでもう死んでしまう。いわば代替不可能なオーシロサとでも申しませうか」確かに手塚治虫氏や大友克洋の漫画は小説、映画化したとしても面白さは伝わると思いますが、谷岡ヤスジは無理でしょう。

　後、大変妙な言語感覚の持ち主のようですね。村を「ソン」と読ませたり。
　他、全編、妙な開放感があります（特にソンに）。それは季節は夏が多いという事とも関係しているような気がします。


　
　一寸、説明できない可笑しさ。

　縁側ネコの話がかろうじて言語化できるか。
　縁側でゴロゴロ日向ぼっこをしているネコがある日「いったんネコとして生まれたからには、この世でネコとしてやらなければならない事がある、きっとあるはずだ」と人？生の意義探求に目覚め、キッとなって、凛々しく、先ず縁側から飛び降ります。「ヌクヌクの縁側から一歩踏み出した。大成功だ」。
　しかし、「何事もあせっては失敗する」と結局、そこでごろ寝してしまううんですね(^O^) 。
　うーん、何と言うか、ある種の諦観というか、しかしそんなもんでも良いという、人生への肯定感というか。
　(=＾ェ＾;=)

　また、入道雲の空の下、馬の親子の会話が淡々と続くものも言語化できる良さがありました。
「トーチャン、人間どうして金、金つーの」
「お金があれば楽できるからさ」
「何故お金があれば楽できるの」
「そのようにお金に価値を持たしてるからさ」
「でもそのお金があるシトだって、なぜまたお金を欲しがるの」
「もっと楽したいからさ」
「でももっと楽するお金ができたシトでもなぜもっと欲しがるの。死ぬまでほしがってるじゃない」
「結局あわれな動物なのさ」
青空の下、延々と続く一本道の先、もう見えなくなった馬の親子。ただ親子の爽快な哄笑だけが蝉の声と共に響いています。

　何か、奇妙な終末観といった感さえあります。

　こうした静けさが感じられる漫画も描いていたんですね。

　結局、言語化できないために、誰も論じられず、従って忘却されてしまう、という、本質的に悲劇の漫画であったのではないでしょうか。

　


　つーか、そんなこと、どーでもよかったりして。

　ペタシ氏と釣り師、そしてタベールマン（←コレは何だろうね）が気に入ったキャラクターです。

　谷岡ヤスジ傑作選天才の証明

　追記。楽天でみたら谷岡ヤスジの漫画は「在庫なし」が多い。もってる方は将来値上がり確実(^o^)ですから、捨てちゃ駄目ですよ。