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『犬の鼻先におなら』

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2008年06月10日
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携帯で惨状を撮る人々。これこそ解明すべき「心の闇」では。

 8日の秋葉原無差別大量殺人。驚かれた方も多かったと思います。各新聞も大きく取り扱っていますね。
 
 その中より朝日新聞。6月9日夕刊17面。全面を使って5枚のカラー写真を掲載しています。
 その中の一枚。「不安」という題でキャプションに「連続殺傷事件が起きた現場では多くの人たちが不安そうに見守った」とあります。

 しかし、なんですよ。
 大勢の人が携帯等で写真を撮っている姿が写っているんです。

 (「妙」じゃないんでしょうか)

 何しろ「アサヒる」などという言葉の元になった新聞の事、わざと奇妙な写真を掲載したのか、と勘ぐって(これは少し可哀想かな)、幾つかの動画サイトを観たのですが、やっぱり大勢の人たちが携帯等で写真を撮っているのです。


 中には何と、ニヤニヤ笑いながら撮影している人までいる。
 流石に腹に据えかねた人がいたので、こうして「晒された」訳なのでしょう。

 私も「その腹立ち、御尤も」と思います。


 ただそれ以上に、「写真撮影する」という、その行為が“理解”できないんですね。

 どういう理由、動機で撮っているのか。

 
 まさか待ち受け画面に使うとも思えず、知人友人に送れば人格を疑われ、プリントアウトしてアルバムに張るとも思えず、意味が判らない


 「写真を撮る」行為は当然、後に撮った「写真を見る」行為とセットだと思うのですが、一体どういう状況、どういう心境で惨劇写真を眺めるのか。
 何回も観たいのか。
 さらに、その写真はずっと取って置くのか、それとも数日たったら消すのか。

 “記念”なんでしょうか。写真撮影者にとって、何の、どういう“記念”の意味を持つのか。

 皆目、見当が付かない。

 物凄く、奇妙な気がします。
 

 マスコミはそろって決まり文句の思考停止語、「容疑者の『心の闇』」を連発していますが、こちらの方がよっぽど謎だと思うのです。

 誰も奇妙に思わない、その事も奇妙だと、私には思えます。



 「写真を撮る」という行為自体に、何か、自己と他者を隔てる(他人事にしてしまう)、そういう契機が含まれているのかも知れません。
 「撮影された人」というのは、「被写体」という、ただの“物体”になってしまうんですね。撮影者に所有されてしまう“物体”。



 怪我人を必死に介抱している方が、一段落した後、携帯で写真を撮るとは思えません。また、携帯で写真を撮った者が撮り終えた後、怪我人の介抱に向かうとも思えません。

 無論、何もしようとしない傍観者だからこそ、「写真を撮ろう」と思い立った訳ですが、カメラを構えた瞬間から「自己と他者との分断は決定的になる」とは言えそうです。


 
 そういえば、容疑者(「容疑」も何も大勢の前で犯行を行っていますから、妙な気がしますが)は「友人が出来ない」苦悩を度々携帯サイトに書き込んでいたとの事です。他者から分断された状態に落ち込んだ者の絶望感。容疑者が自暴自棄になった大きな要因でしょうね。
 
 とすると、この容疑者と、惨状の写真撮影を熱心に行う人々はちょうどパラレルの関係になると思います。


 殺人は全く最悪の「他者との関係」ですが、もしかすると容疑者は、そうした最悪の形であっても、「他者との関係」を取り結びたかったのかも知れません(全く自己中心的で、且つ、救いがたい“愚かさ”ですが)。
 自殺ではなく、怨恨による特定個人の殺害でもなく、無差別大量殺人を狙ったとはそういう事なのだと思います。
 しかし・・・。

 無差別大量殺人を行っても、やっぱり人々は所詮他人事と、写真撮影に精を出すと知っていたら、この容疑者はそれでも無差別大量殺人を行っていたでしょうか。

 そう、何も変わらなかったのです。


 何ともやりきれない話です。 


 謹んで亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。また負傷された方の一日も早いご快復も合わせてお祈りいたします。


 なんだか一寸人恋しくなっちゃったな。





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最終更新日  2008年06月11日 05時30分04秒
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