第二十一回 インドの自動車業界(その3)
2006年1月27日 インドの自動車業界(3) 今日のポイント1.金利上昇は自動車株にとってネガティブ 2.石油価格高騰はネガティブ 3.金利政策の変更回数が少ないので突然大きな調整を余儀なくされる場合がある 4.外国製品との競争が激化するリスクがある 5.原材料費の高騰のリスクがある 6.ストのリスクがある 7.雨季に十分な降雨が無いと需要が減退するリスクがある インドの自動車株に投資する際のリスク先ず最初に指摘すべきリスクは金利の上昇が自動車を購入するローンを組みにくくし、それが需要減退につながるリスクでしょう。インド準備銀行総裁は最近のコメントで現行の金利水準を維持していくつもりであることを示唆しています。しかし、インドのマクロ経済のファンダメンタルズは案外脆弱で、中央銀行の好むと好まざるにかかわらず金利が上昇してしまうリスクがあります。 石油価格についてその第一の理由は石油です。インドは石油輸入国(国内消費の約70%を輸入に頼っています)であり、しかも国内の石油製品の価格は消費者保護の為、世界の実勢水準より低く設定されてきました。つまり、政府が実質上の「補助金」を出している格好になっているわけです。従って、今のように国内の需要が急増し、しかも石油の国際価格が上昇している局面では国庫の負担は雪だるま式に大きくなります。 財政赤字と金利の関係もともとインドは財政赤字がGDPの4%を超えており、BRICs諸国の中では最も悪くなっています。また、インドの経済が中国のような「加工輸出型」でないことも貿易収支にとってハンデとなっていますから、国際資金フローが逆流すると慌てて金利を引き上げる必要が出ることが予測されます。石油高騰は一般にインフレを引き起こしますから、上に述べた不健全な財政の体質と併せて、ダブルで痛手を蒙ることも十分ありうるわけです。インドの場合、アメリカなどと違って、一年のうちに中央銀行が政策レートを変更する回数が少なく、小刻みな「ガス抜き」が出来にくい面があります。これまでのところ金利見通しが激変するような事態は起こっていませんが、それは今後の安定を保証するものではありません。 関税と外資からの競争次のリスクとして競争の激化を指摘したいと思います。前にも述べたようにインドの自動車業界はこれまで輸入関税によって保護されてきました。既にインド政府はこの関税を撤廃する方向で動き始めており、実際、完成品ならびに自動車部品に対する関税は今後WTOの規約に従って漸次下がってくることが予想されます。そのことは即ち国内メーカーが競争に晒されることを意味します。加えて、これまでは部品の殆どを国内から調達していた関係で、国内の下請けと特別親しい関係にある国内自動車メーカーは当然、その面で有利な立場にあったわけです。そういう非関税障壁が今後下がってくることが予想されます。 原材料費の変動次のリスクとしては、インドは人件費が安い分だけ、一台の自動車を製造するに当って、そのコストに占める原材料費が高いことがあげられます。2005年度の決算では原材料費がコストに81%を占めていました。その少なからぬ部分が鉄鋼価格ですから、鉄鋼価格が高騰するとインドの自動車会社のマージンは圧迫されることが予想されます。 ストのリスクタタ・モータースの場合、経営陣を除いた全ての従業員は労働組合に所属しています。同社の賃金契約は3年契約ですが、その一部は今年の夏から更新期に入ります。一般的にインドの労使交渉は他のBRICs諸国に比べて荒れやすいと言えるでしょう。これも頭の隅にいれておくべきファクターです。 モンスーン最後に毎年4~5月からインドは雨季を迎えますが、その時期の降雨の如何によっては農産物の作柄に大きく影響してきます。ここ数年はモンスーン期の降雨に問題が無かったので、投資家は良いニュースに慣れっこになっていますが、若し、雨がちゃんと雨を降ってくれないと農家の家計収入は大きく落ち込み、GDP成長に悪影響をあたえないとも限りません。その場合、自動車の購入は当然、手控えられるので自動車株も下落することが考えられます。