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豊かな森のシンボル☆クマたちからのメッセージ♪

豊かな森のシンボル☆クマたちからのメッセージ♪

2004年12月6日掲載

プロローグ 逆 襲2 『北日本新聞 沈黙の森』2004年12月6日掲載
異  変

生活圏に“野生”迫る  緩衝帯の里山荒廃

 クマは人里に現れ、人を襲い続けた。九月二十二日、魚津市友道の住宅街で畑に行こうとした男性が襲撃され、頭や脇腹を切った。クマは散歩していた別の男性にもけがを負わせた後、駆け付けた猟友会員によって射殺された。

 平地が狭い魚津は海岸線から少し行くだけで山へと向かう傾斜が始まる。友道の現場は坂道に沿うように家々が連なり、富山湾が見渡せる市街地の外縁部。地区内を国道8号、すぐ山側に北陸自動車道が走る。

 「想像もできない」。友道一区区長で、果樹園を営む林寿男さん(58)は何度も繰り返した。「高速道路より海側にクマが出るなんて…」。しばらく、夜は外に出るのを控えた。

 富山市青柳や月岡西緑町、安養寺で十月十一日に三人が襲われた。同二十日に商店街で三人が重軽傷を負った上市町上中町など、いずれもクマが出るとは思いもしない平野部で、無防備の住民が襲われた。

猟友会員らとクマのパトロールをする山本さん(手前)。「里山の荒廃がクマ出没の背景だ」と訴える=富山市牧田

 百を超える赤と黒のシールが、富山県の白地図に張ってある。赤いシールは人が被害を被った地点、黒は目撃された場所だ。富山市ファミリーパークの机に広げた「クママップ」をにらみ、飼育課長の山本茂行さん(54)は考え込んだ。シールの数、張られた位置。「ちょっと異常だな」

 クママップには標高二百メートルに緑、百メートルに赤の等高線が引いてある。シールは赤と緑の間に集中。標高百メートル以下に張られた赤いシールも目立つ。

 山本さんはファミリーパークの仕事の傍ら、長年、タヌキやカモシカなど県内の野生動物の動態を調べ続けている。県内の野山を丹念に歩いてきたが、ここ数年、野生動物の生息範囲が変わり始めていることを感じていた。そして今年のクマ被害である。

 昭和六十年から平成六年まで、クマを含む野生動物との遭遇地点を調べたデータがある。当時、県内で人と野生動物が出合うのは、大半が標高二百メートル以上だった。今年のクマの出没地点は、それより百メートルは下っている。

 クマが市街地に出没する原因として複数の専門家が「ドングリの凶作など山の餌不足」と指摘した。ただ問題はそれほど単純ではない。「里山の荒廃が背景にある」と山本さんは強調する。

 かつて富山には豊かな里山があった。山際にある集落の人々は、狭い田畑を耕し、生活に必要な炭やまきを得るために広葉樹を植え、管理と伐採を繰り返してきた。里山は「いわば人とクマの緩衝帯だった」と言う。

 その里山が過疎と高齢化で荒れ、草木や動物の侵入が始まった。高度成長期からバブル期にかけて木を伐採し、山を切り崩した大規模開発も、今はほとんどない。いつの間にか、荒々しい野生の自然が人の生活圏に迫ってくる条件がそろっていたのだ。

 富山市南部地区でもクマが出没し、山本さんは何度もパトロールに出た。クママップ上では百メートルラインの下、市街地の近くだ。クマにとって人が住む平野部はいま、私たちが想像するほど遠くないのかもしれない。


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