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石冢雄人のナイチンゲール・カンパニー

[機-NOTE] カテゴリの記事

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復活

生きていた(^_^;)　５年ぶりに日記を書く。大病もせずまんまと2012年の大台もくぐって「復活」した。空白の期間は何をしていたか。いろいろと続編のことなどもアレコレと取り沙汰しつつ世知辛いシャバを観察していた。この５年でネットを巡る環境は大きく拡大した。何よりも311が有った。あの911をきっかけに書きはじめたこのブログだったが、放置しているうちに「時」は勝手に疾走し、そしてあの東日本大震災が、そして福島第一原子力発電所の大爆発がこの国を襲った。政権もまた変わった。2009年８月の総選挙で鳩山民主党が大勝し、鳩山政権が誕生した。しかし新政権は守旧派のメディアと官僚たちと、何よりも米国という背後の力によって発足から翻弄され、ついには小沢一郎という稀にみる傑出した政治家を無実の罪名で圧殺し、戦後はじめてといっていい本格的な民衆の選択による政権交代は、一敗地にまみれ、昨年12月16日の総選挙で政権は罵声と怒号の中、恥辱にまみれて息絶えた。これらの経緯と問題点についてはいずれ稿を改めて検証するつもりだが、恰も土葬の鎮魂の沈黙の巡回のごとくに、きな臭さ漂う世界情勢のなかにほとんどファシズムといっていい、奇妙な古顔の政権が、民衆を置いてけぼりにしてこの311後の北半球の、北東アジアの、その一角の、震えるような獣たちの嬌声までも響いてきそうな、放射能と底なしのデフレの島に、屹立している。この政治状況こそが、じつに「ナイチンゲール・カンパニー」の予知した世界だった。そして、「なぜもどったか？」と問われれば、そのことの傍証を記すために戻ってきた。

2013.05.08

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８８８　夏のざわめき

できたての青い空にチョークで引いたような雲が架かっている。徹夜のまま朝を迎えた。夏の朝。山に来て満五年の朝。ブログをはじめてまる四年目の朝、すなわち1460日目の朝。ほぼ一年半ぶりにブログを開いてみた朝。。。いろんなふうに表現できるが、ここは「一部に中止の噂も流れた北京オリンピック開幕の朝」とでもしておこうか。ここまで書いて、また窓の外を見る。チョークの雲は流れて、高圧送電鉄塔のひとつに衝突した。ここ数日、気温はほぼ連日34度Cを突破、積乱雲が盛り上がり午後には雷が鳴りひびく。一昨日とその前日には、烈しい雷雨で電車が止まった、広範囲に停電もあった。さて、ブログを再開して、いったい何を書こう？　じつのところ何も浮かばない。かたわらには手書きで書き殴った原稿用紙の幾枚かが散乱していて、これは、目下執筆途上の浮気な中編小説である。書き出してもうまもなく三ヶ月目になる。書き上がったら、コイツもまた押し入れに寝かせて、もうひとつ別の物語をはじめるか、などとこれを綴りながらもうひとつのジブンがつぶやく。とにもかくにも、再開したわけだから、いずれ何かを書き始めることになるはずだ。皆様ごぶさたいたしました、「ナイチンゲール・カンパニー」続編はいまだ未完成ですが、多少のお知らせはアリマス（いずれ）。さて。。。せっかくだから、時・分も「ハチ公」にあわせてしまえ♪

2008.08.08

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会話

あいかわらず苦労してるなあ♪夜明け前がもっとも暗いなるほどところで、ぷろっと　って知ってるか？あのなおやじ、おれもう三十一だぜ、知ってるよ、こうがいだろすとーりーとぷろっとはちがうどうちがんだ？すとーりーは、はなしのすじだ。ぷろっとは　ちゃううーん彼は家を出た、妻も家を出た　…これはすとーりーうん彼は家を出た、さびしくてたまらず　彼女も家を出た　…これはぷろっと　だつまり、ぷろっととは　因果律なのだよそうかあ！そうだ　きみもがんばれ　しかしくれぐれも　そうか　には気をつけろよ　じゃあな

2006.12.30

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水はみずから道をつくる

がらがらと引き戸を上げれば、雨だ。昼を廻って頭をめぐらし鼻先のなにやらふわふわぐちゃぐちゃを撫でまわす手が、なんかおかしいでっせオヤブンと訴える。朝方に寝たとき紛れ込んだ野良猫のハナコである。こいつはやたらと馴れ馴れしく必ずべたりとからだを寄せて舐めてくる。おそらくはまどろみのあいだじゅう顔中を舐め廻ったのだろう、それで洗面所に立って顔を洗ってようやく正気がもどれば日曜日の午後の雨であったわけだ。どしゃぶりというほどでもなくシトシトぴっちゃんでもなく秋雨の瀟々と眼路の遙かまで水の垂れ幕がけぶっている。午後二時をもうずいぶん針は滑って過ぎてがらんとした家中は「おーい秋」てな感じでひっそり静まりかえっていた。たしか七時過ぎに朝刊をとってそのまま寝た。熟睡したのか。闇鍋のようにゴッタ煮の夢の中にはカマキリや蛇も登場し、考えようでは秋らしい夢であったか。うつつがそれほど変化に乏しいと夢のほうは却ってハリキルらしく、言葉までのそのそと出て来て、それが川辺をあるきながら「水はみずから道をつくる」などと吐く。目覚めて、復唱するうちに至言なりと感動して、おもわず半紙に毛筆に墨汁を浸して一気呵成にしたためてみる。窓の外では育った桑の木の花札歌留多の桐の絵札の如き妖しさが曇天のけぶる秋空をバックに妙にいきいきとすがすがしくさえあった。あらためて味噌の中に、　溜まった水は腐るだけだが、流れる水はみずから道をつくると書いて、いましばらく呆然としてゐる。

2006.10.01

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核兵器の絶対性

このところの半島情勢については、一方的に危機を煽る記事などばかりが目立った。そうしたなかで、読むに値する小論をみつけた。韓国の中央日報紙（2006.07.10）が載せた「いっそ金正日氏に学べ」と題された、同紙主筆・文昌克（ムン・チャングク）によるつぎのような文章である。長いが全文を引用させてもらう。【北朝鮮外務省のスポークスマンはミサイルを発射した後、立場を表明した。自衛的な国防力の強化に向けたもので正常な軍事演習だった、とのこと。続いて、力のバランスに触れた。「力のバランスが壊れる場合、不安定と危機が作られ戦争まで起きる。ミサイルの開発は力のバランスを保障し平和と安定を保障する」とした▼力で北朝鮮の体制を守るべきであり、そのためミサイルを開発する、との要旨だった。北朝鮮が核を開発した論理も全く同じだ。これは「北朝鮮が経済的な破たんに陥り、武力でもって挑発する能力がない」とする人々の言葉とは全く異なる。北朝鮮は通常兵力では力のバランスを取れないから、核とミサイルを作ったのだ。また「同じ民族だから」と主張する北朝鮮だから戦争はないはず、とする人々の考えとも異なる▼北朝鮮は、「民族優先」ではなく「力」が優先だ。つまり「先軍政治」、「剛性大国」がそれだ。北朝鮮は「経済はメチャクチャでも、核兵器とミサイルでもって国を守りたい」という徹底した力の論理を信奉している。北朝鮮としては当然の主張だ。自国を力で守りたい、というそれらを叱れない。それなら、それらが守ろうとしているものは何か。金正日（キム・ジョンイル）政権の維持だ▼ひいては、北朝鮮の方式で統一を実現したい、とのことだ。朝鮮労働党の規約には、共産主義による統一が明文化されてある。それが、それらが考える北朝鮮の国益だ。米紙ニューヨークタイムズは社説で、ミサイル事態を分析する際、中国と韓国を北朝鮮の友好国家に、米日をその反対側、に表現した（６月２０日付）▼それを確認してくれるかのように、北朝鮮スポークスマンの発表は、韓国については一切触れていない。米国と日本だけを非難している。何故そうだろうか。自国にとって韓国が必要だからだろうか、それとも韓国の軍事力をバカにしているからだろうか。両方とも念頭に置いているのだろう。核を保有する国と通常兵力だけを持っている国の間では、軍事力のバランスを維持することができない▼核兵器の絶対性のためだ。北朝鮮は、韓国の経済力が自国の体制を維持するうえで必す、と信じている。米日が経済的な圧迫を加えても、韓国が北朝鮮を助ければ耐えられる、と判断しているもようだ。現在、北朝鮮にとってほぼ唯一の支援者は韓国だからだ。力の政治を追求する北朝鮮は軍事力を優先する。米国との直接対話を望んでいても、対話だけを掲げたりはしない。今回もそうだった▼力をアピールし対話に誘っている。南北（韓国・北朝鮮）関係でも、それは明確にあらわれている。金大中（キム・テジュン）前大統領の訪朝のために、南北鉄道の連結に合意したが、北朝鮮の軍が拒否した。こうした点が南北関係の盲点だ。韓国は経済協力を通じて北朝鮮を動かせるとの計算だが、北朝鮮にとって経済協力は、軍事の下位概念だ▼太陽（包容）政策の成果がない理由がそこにある。韓国がいくら「与えるいっぽう」の支援を行っても、軍事力では譲歩がない。それらは、力の秩序を信じるからだ。だから、経済協力では核とミサイル問題を解けない。北朝鮮はこのように徹底した力の論理で進みつつあるのに、韓国の身の振り方はあい昧だ。一方は力を語っているのに、もう一方は対話と協力だけを強調している▼南北共同宣言を記念するとして、光州（クァンジュ）で平和と統一を叫んだ。１カ月も経たないうちに、北朝鮮はミサイルを打ち上げた。大統領はこうした状況について、説明をしなければならない。だが「戦略的沈黙」で一貫している。大統領が強硬姿勢を示せば国民が不安がるからだとしている。現在、国民は大統領の沈黙にさらに不安がっている▼北朝鮮が力の論理で進む状況で、韓国はどうすべきかについて、国民は説明を聞きたがっている。北朝鮮が力を誇示すれば、韓国も力に基づいて取り組まなければならない。韓国の力の根源は韓米同盟だ。韓米同盟は最悪の状態にしておき、北朝鮮と対話・交渉を語ろうとしても、北朝鮮は応じない。北朝鮮の核とミサイルは、韓国だけが目をつぶるからといって済むものではない▼だから、国連で安保理が開かれるのだ。北朝鮮の核とミサイルを解決するためには、国際社会の連携に誠実に加わるべきだ。経済的圧迫が必要ならば経済協力も中断しなければならない。それらは、それらの国益に充実している。韓国は韓国の国益を守るべきだ。それが大統領としての義務である。力で体制を守ろうとする金正日氏にいっそ習うように、と注文したい。】http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=77675&servcode=100§code=120このなかに、「核兵器の絶対性」ということばが出てくる。注目していいことばだ。とりわけて、米国によって人類史上唯一の「被爆国」になったこの国にとって、本当はもっともこだわらなければならないキーワードだ。核を持つべきだと主張するつもりはない（むしろ逆だ）。ただ、「核兵器の絶対性」というものが、現実の国際政治のなかで二十世紀後半から現在までの半世紀余、もっともリアルなものでありつづけてきたこと。にもかかわらずその事実から目をそらし、遁走しつつやってきたこの國の戦後。このような核に対する特殊な態度が、世界の真実の構造からわれらの目をたくみに覆い隠してきたこと等々…。「いっそ金正日氏に学べ」と皮肉いっぱいな文昌克コラムは、あらためて「核」というものについて真正面から深く考え議論することの重要性を、北東アジアの一角の、被爆列島に生きるわれらにも気づかせてくれるようにおもう。

2006.07.11

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審判

最高にかっこいいアルゼンチンサッカーが、ドイツにPK負け。うーん、残念だ。

2006.07.01

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「列車は行ってしまったのだ」

アジアの出場四カ国そろって一次リーグ敗退で、日本のW杯はおわった。なにか書こうかとおもったが、べつだんサッカーに詳しくもない人間が書く言葉もないか。それで、ネットのなかを渉猟。つぎの言葉に出会った。ことわざにもあるが、こぼれたミルクは元には戻らない。ウチは勝ち点を失ってきているから仕方がない。全員、自分たちの力を信じ切れなかったわけで、それは終わったことだ。列車は行ってしまったのだ。ただ、こういった経験を覚えておき、ミスを繰り返さないことが大事。逆に、同じミスを繰り返すようなら次のシーズンは難しいだろう。（中略）…優勝うんぬんではなく、やれることを全力でやるだけだ。列車は行ってしまった。私たちは駅に着いたのが遅かった。（ジェフ市原サイトのオシム監督語録より　http://www.so-net.ne.jp/JEFUNITED/index.html）2005年11月23日浦和戦後のオシム監督のことば。「列車は行ってしまったのだ」…日本風に言えば「覆水盆に返らず」だろうが、解体した旧ユーゴスラビア出身の彼が言うと、まるで映画の中の台詞のように、ひびく。さすが名将というべきか。

2006.06.24

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大きい英吉利語の辞書

彼は絶え間ない潮風の中に大きい英吉利語の辞書をひろげ、指先に言葉を探してゐた。　Talaria　　翼の生えた靴、或はサンダアル。　Tale　　話。　Talipot　　東印度に産する椰子。幹は五十呎より百呎の高さに至り、葉は傘、扇、帽等に用ひらる。七十年に一度花を開く。……　彼の想像ははつきりとこの椰子の花を描き出した。すると彼は喉もとに今までに知らない痒さを感じ、思はず辞書の上へ啖を落した。啖を？――しかしそれは啖ではなかつた。彼は短い命を思ひ、もう一度この椰子の花を想像した。この遠い海の向うに高だかと聳えてゐる椰子の花を。「…これは芥川龍之介の遺稿『或阿呆の一生』の有名なくだりだがね」未明の浅い眠りのなかで、どうやらわたしらしい男がいう。「芥川が使っていた大きい英吉利語の辞書って、いったいどんな辞書なんだろうね」そこで目を覚ました。読み返していた文庫本が胸から滑り落ちた。ソファに横になったまま眠ってしまったらしい。Talipotについて、〈七十年に一度花を開く〉などという、素敵な注釈が書き込まれた辞書だ…。わたしの手元にある研究社の「新英和大辞典（第五版）」に、そんな字句はなかった。もしも〈七十年に一度花を開く〉というフレーズをみつけなかったら、〈彼〉の想像力は果たして、この遠い海の向うに高だかと聳えてゐる椰子の花をということばまで飛翔できたろうか。いや、芥川の想像力が、辞書にこのフレーズを付け加えさせたんじゃあないのか…。さがしてみたいもんだ、夢から覚めてふとそうおもった。どんよりとした梅雨空がひろがる。外はまたも雨だ。※　※　※■芥川龍之介が「ぼんやりした不安」を理由に服毒自殺して、まもなく79年目の命日（７月24日）がめぐりくる。彼が『或阿呆の一生』を書いたのは、死の１ヶ月前、1927（昭和二）年６月20日、ちょうどいまくらいの季節だった。ついでに気づいたが、研究社「新英和大辞典（岡倉英和）」の創刊は、奇しくも、昭和二年、芥川の死んだ年であった。編者の岡倉由三郎は岡倉天心の実弟で、夏目漱石の友人でもあった英語学者。芥川の作品中の「大きい英吉利語の辞書」が、あるいは、その年に創刊されたばかりの「岡倉英和」であった可能性も、あるか。そしてわたしはおもった、遠い海の向こうに、七十年ごとに咲くというあの椰子の花は、あるいはいま、高だかと聳えるように開花しているのだろうか、と。

2006.06.15

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ニノミヤソントク

損得でしかモノゴトを考えない人間が増えている。東京地検に逮捕されたセショーこと村上世彰が、東京証券取引所で事前に記者会見を開き、「罪を認めた」のも、そうしたほうが「トク」と判断したからにすぎないのだろう。しかし、IT企業にあつまる人々を眺めわたすとき、その人相の貧相と損得のみにケモノの如き嗅覚を発揮する習性をみる。以前にも少し書いたが、村上とは彼が通産省を辞めた直後の1999年に、某所ですれ違っている。印象に残らないくらいだからたいした人物でもなかったのだろう。わたしをその場へ連れて行った男もIT企業家だった。ほんの短い期間その男のそばにいて観察してきたが、損得のみが人生の最優先事項であるが如き生き方がみごとにホリエモンやセショーそっくりであった。三カ所に「家庭」を持ち愛人を役員に置く男の口癖が、「起きて半畳、寝て一畳云々」であったことを、苦笑しつつ、いまおもいだした。

2006.06.06

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補陀落渡海

補陀落へ夢の底往く鯰かな■セルビア・モンテネグロのモンテネグロ共和国議会は3日夜、独立を宣言した、というプラハからの外電をききながら、なぜか、映画「アンダーグラウンド」のラストシーンを憶った。これでチトーの旧ユーゴは完全に解体し、独立した「モンテネグロ共和国」は、EU（欧州連合）とNATO（北大西洋条約機構）加盟を目指す。少し先の未来には、「自由世界」の基軸通貨がドルからユーロへと転換し、やがてキャッシュレス社会へむかう構図がほの見える。そうして、やがてネグリ＆ハートの〈帝国〉が謳うところの「あやしの未来＝新世界秩序」が、地球規模でそのすがたを見せはじめるのであろうか…。

2006.06.04

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書くこと

「書く」ことが「考える」ことであり、「考える」ことがすなわち「生きる」ことである、ということをもっとも能く（かつ、もっともシンプルに純粋に）実践したのが、ウィトゲンシュタインだった。このことは、彼の生涯ただ一冊の著書『論理哲学論考』（原書の題名は、TRACTATUS LOGICO-PHILOSOPHICUS）の（隠された）主要なテーマでもあるわけだが、つい最近邦訳が出された『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記』（1993年に発見されMS183と分類された日記帳の全訳　鬼界彰夫訳　2005.11講談社刊）を読むといっそう明らかだ。■同日記のたとえば1930年11月９日には、　愛国心とは、一つの観念に対する愛だ。と、まことに本質をつく一行だけが記されている（笑）。はみだし参考→いかなる愛もそれを強制する事はできない、ことを考えれば、たとえば、「愛国心」なるものを（教育の現場などで）政治的に強制することの滑稽（ナンセンス）もよくわかるわけだ。

2006.03.22

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驟雨

時代がうしなったものを取り戻す精神作業のなかから、物語は生まれる。　結婚六回絵一本宇野マサシ　雑巾春のハシリ雨が駆け抜ける。大衆酒場でチューハイ飲んでオモテに出た。光る舗道をヒトが歩く。くづれる人影。東京墨田中川堤防。運河の中に事件が起こる。そんな書き出しの物語。売れない役者と売れない絵描き、売れない作家、某三月某日三人でつくった「売れない会」。

2006.03.18

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物語化

さてさて。珈琲を数杯飲んで、かつ梅田の旧友に電話をし、ブログに書いたことを知らせてようやく肝心を書く。白状すれば、さきに書いた日記（つまりこの直下に書かれた2006.03.09の「梅田花月な春の夜」）は、（追記をふくめて）じつはひとつの「わたし」（じつさいのわたしでなく、じっさいのわたしが選択的につくりあげた物語の中の「わたし」）のオハナシに過ぎない。わたしは、このようにして梅田の旧知の記者との再会をひとつの物語に仕立てたわけだ。それがどの程度のモノであろうと、物語であることには変わりない。この事実は大切だ。なぜなら、すべての、どのような報告文もフイクシヨンもノンフイクシヨンも、無数にある出来事とそれに絡まつた無数の「わたし」のなかから、いつでも選択的に抽出されて「物語化」されたものにすぎないだろうから。大阪梅田で2006.03.03夕刻から深夜にかけてあった出来事は、こうして、「梅田花月の春の夜」というまずしいささやかな（また旧知の彼から見ればあるいは事実わい曲に満ちた？）「物語」に仕立て上げられたというわけだ。いかがでしょう。そしてまた、こうして書き手（下手人）のわたくしとしては、願わくば、そこに多少の歪曲や事実誤認や誤解がまぢっていても、なんらかの「真実」のカケラでもあることばかりを願うことしかないわけである（笑）。ことばをもつて語るということ、いやわれわれの物語製造能力とは、じつは「生きる」ことそのものが先見的に含む業のようなものなのでしょうか。すなわち「生きる」とは、「無数の物語を紡ぎだすこと」なのかもしれない、とおもうのだ。むろん、ここに書かれた、いや世界中でいま現在書かれつつあるモノすべてが、いやいや書かれざるモノも含めて（なぜなら、わたしが「わたし」を動かすことは頭の中でいつでも行なつていることだから！＝註参照＝）それぞれの「物語」であり、また「物語化」されたカケラなのである。世界の六十億人が、「ひとりの例外もなく」時々刻々、無数の物語を吐きだしている、というわけですね！　すごいなあ。註＝『おくの細道』の序文「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」などを読むと、300年前、松尾芭蕉はすでにこのことに気づいていた、とおもわれる。

2006.03.09

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諂曲模様（てんごくもよう）

「諂曲」は、こびへつらいだ、したがって「諂曲模様」は、そうしたこびへつらいの横行するさま、その景色といった謂いであろう（そしてまた、そのようなモノの表象）。じつは宮沢賢治の代表的な詩集『春と修羅』に収録される「春と修羅（mental sketch modified）」という詩の冒頭近くに、このことばが登場する。　　　心象のはいいろはがねから　　　あけびのつるはくもにからまり　　　のばらのやぶや腐植の湿地　　　いちめんのいちめんの諂曲模様詩の中ではすぐあとにつづく「いかりのにがさまた青さ／四月の気層のひかりの底を／唾しはぎしりゆききする／おれはひとりの修羅なのだ」という作者の感情のよってきたるひとつの素因が、すなわちこの「諂曲模様」なのであろう。きょうもそらはどんよりと曇ったままだ。ふとおもいついて賢治の「春と修羅」をのぞいてみた。そうしてなるほどな娑婆のこのありように、80年余後のただいま現在の世相もちっとも変わらないとあらためておもうのだった。もっとも、賢治はこの詩でなにも俗世間のそうした苦い景色を嘆いたわけではなく、心象風景のその奥にそうした諂曲を喝破しつつも、またそれらを山河の細密画のなかへそっとさりげなく配置している。いや、大自然のもろもろの営みそれ自身の中に、そのような風景を見通しているわけだろう。それはすなわち、「修羅」（天空）が見る風景でもあるわけだ。「まことのことばはうしなはれ／雲はちぎれてそらをとぶ／ああかがやきの四月の底を／はぎしり燃えてゆききする／おれはひとりの修羅なのだ」（同「春と修羅」中半より）。賢治の詩の言葉は、交響楽のように自然の景観の中で輻輳し、合奏し、また幾重にも屈折してその主体である「修羅であるわたくし」のなかへと還流する。その視線は複眼であるばかりでなく、さまざまな厚みの凹凸のレンズを組み合わせた光学機器のようでもある、まことにみごとだ。…などと大都会の羊羹色の溶けかかった空をみあげながら、つめたい風に吹きさらされ、黒い塵のごとく離散し集合する群衆のひとりとしてゐる、2006年２月なかばの「わたくし」であった。

2006.02.17

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あいだ

２月14日から15日の「あいだ」の、宙ぶらりんな時間帯にこれを書いている。あらためて念を押せば15日の午前２時すぎ。これは「14日の深夜」のつづきだが、「14日」の「深夜」ではない。午前零時を境に「15日の深夜」のほうに属する。ややこしいものだ。むかし、週刊誌の記者をしている時代に、こうした時間帯に起きた事件や事故を記事として書くときに、うっかりするとミスをするのがこの時間の表記であつた。つまり、たんに「14日深夜」と書くと、「14日の未明」のことなのかそれとも、「14日夜遅くから午前０時前まで」のことなのかがはっきりしない、というわけである。いずれをとるかで、時間にして10時間から12時間の「時差」が生じるから、あだおろそかにはできない。まあ、そんなことはどーでもいいことで、なぜこの時間帯に書きだしたかといえば、きょうがあまりにあたたかくぼーっとして、陽気のままに何もせずに過ぎてしまつたということを云いたいだけのためである。しつれいしました。そのかわり、ダイスケの兄弟の一匹、ハーチヤンの、なかなか艶っぽい（？）写真が撮れたので、貼りつけておきます。背景の襖から飛びだしてきたような、和風猫ぶりでしょ。左下かどの紙袋がちょいと余計ですが。にゃーご。　恋猫の恋する猫で押し通す　　耕衣ばれんたいん。チヨコレートはロツテだって？…意味不明。しかし、永田耕衣のこの一句がなぜか好きだ。

2006.02.15

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どうでもいい話

ダイスケが午後にもどつてきてタタミに上がるや体中をなめ回している。まあ、猫というモノは身ひとつである。服も要らない、靴も履かない、トイレツトペーパーも要らない、なめちゃうんだから。電話も使わないし風呂にも入らない。それでもいつみても清潔そうだ。自分の唾液で体中を始終舐めまくるからであろう。まったくうらやましい。わたしも夏のあいだは、山でひとりでいるときはほとんどハダカだが、さすがに冬は辛い。それに体中を舐めようとしてもからだがそんなに柔らかくない。唾液というモノはしかし人間のモノもじつにふしぎな成分で出来ているとおもう。輪島塗の職人だつたか、漆の塗りの作業でもたしか唾液をつかう工程があつた。むかしの木版画の刷り師も唾液を和紙に塗りつけた。棟方志功も板画を刷るのに唾液をどこかで使つていたなあ。先日切手を貼るので唾液を使いながら、そんなことを途中まで考えたつけ、といまおもいおこして、ダイスケの仕草をながめている。うらやましい。夕食のおかずを買いに寒い外へ出るのが億劫になり、家中を捜したが見事に何もない。それで冷凍庫を開けたら四角のタツパーになにやら茶色のハンバーグようの物体がかたまって見つかつた。記憶では山に来たばかりのころ猟師からイノシシの臓物か何かを釜茹でして煮込んだものを頂戴した、その残りではないかとおもうが溶かしてみないと分からない。それでストーブの上にホーローの鍋を置いて内容物をぱこっと落とし込んで温めた。15分ほどすると、どろどろのひどく強い匂いの液体ができあがった。ニオイをかいでみるがわからない。この近在の猟師の頂き物にはわけのわからないものがタマに入つている、大麻なんかだつて入つていたりするから♪気をつけたほうがいいですよと隣人も云つていたのが焼きついている。うっかりたべて中毒にでもなったら小説が書けなくなるから、そばで鼻提灯を出しながら寝ていたダイスケを起こして、すこし舐めさせてみた。50CCくらいざらついた舌でいっきに舐めあげた。さらに小一時間様子を見たが、本人に変わつた様子は見られなかつた。それでこれから酒のつまみというか肴というか、スープとして食べてみようとおもう。どうなるか。うん、ゼンゼン美味い！　猫にあげるんじやなかつた。キノコとイノシシ肉をじつくりにこんだモノであつた。やや味が濃いが、日本酒のつまみにはちようどいい。嗚呼、まもなくカウンターが「111111」になります！！この数字踏んだ人は、ことし一年つきまくります＼（＠∨＠）／>ひめちゃん7777さんでした。おめでとう。つぎは、「222222」のカウンターになるが、ここまでちょうど18カ月かかっているから、こんどは2007年夏あたりでしょうか。ところで、いまのぞいたら、ライブドアのホリエモンの日記が消えちやつたね。塀のむこうへ落ちたとたんに、「社長日記」から「堀江貴文日記」に勝手に変えられ、とうとう「削除」か。「クサイモノニハフタ」かい。新生、といってよけいあやしいらいぶどあ。諸行無常（by 堀江）…どうでもいいけど、なんだかヤナ気分である。

2006.02.08

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目●そ鼻く●な話

先日、新聞の整理をしながらテレビをみていたら、耳垢の研究をしている新川とかいう先生が登場して、なかなか愉快なことをはなしていた。ご存じのように耳垢は濡れてべとつくタイプ（ウエツト型）とかさかさタイプ（ドライ型）に大別されるが、ベトつくタイプは黒人と欧米人に圧倒的に多く、いっぽう乾燥タイプは日本人など黄色人種に多いのだそうだ。日本人のおよそ八割がこの乾燥型耳垢の持ち主らしい。さらにこのふたつのタイプについて新川教授は、ウエット型はより近代人にちかく日本では征服民族で農耕を持ち込んだ弥生人がそうであるという。またウエツト型は、未開人というか古い起源に属し、日本では縄文人がこのべたべたな耳垢の持ち主だつたという。列島の北寄りには縄文人が追われて残り、いまも縄文遺跡は青森あたりから多数出土する。なるほど、合つてるなあ、とわが身をふり返り納得した。たしかに、血液型も耳垢も過去の生き方、性格とぴたりつじつまが合つている。典型的な縄文人型である。それはともかく、こうした研究はなかなかユニークだとおもう。われわれの生体にはさまざまな遺伝情報がはるかな過去から運ばれてきている。目くそ鼻くそにはじまって細胞のひとつひとつから吐く息の成分や体温の変動具合、声帯の形状、欲望の特性とか、たかだか200年ほどの歴史しかない近代医学の視点から見直すとき、おそらくは生体情報にはまだ未解明の部分が数多くあるのだろう。番組によれば、この教授の研究成果はいまや世界の遺伝学者のあいだで注目を集めているそうだ。征服民族の天皇家はきっと弥生人だろうから、カサカサか。陽気がよかつたのでまったくひさしぶりに小さな画帖と携帯の水彩セツトに筆一本と水筒を持つて裏山にのぼり、ちかくの山をスケツチした。最後まで仕上げようとおもつたが、日が翳ると風が冷たく指先がかじかんであっさり15分ほどであきらめてかえってきてしまった。

2006.02.08

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第三の男

いまNHKBS2で映画「第三の男」をやっているのを、左の目でみながら、ふとおもった。そうか！　ホリエモンは現代のハリー・ライムなのかもしれないな、と。いかがでしょう？オーソン・ウエルズのほうがずっとカッコイイって？　むしろホリエモンの背後に隠れた「第三の男」がいるか。それがハリーだろうってか。もしもそいつが一部でうわさにのぼっているKなら、一二度会っているが、なるほど風貌もハリーそっくりだ（ヒルズの墓場掘り返せ！=笑=）。いずれにしろ…グリーンとキャロル・リードはきわめて現代的な一人間の典型を57年前に創造していたのでありますね。しかしこの映画、もう50回くらいは観ていますが、何度観てもいいですね、かならずあたらしい発見がある！白黒のかがやくような映像美、アントン・カラスの奏でる、ときにせつなくときにもの哀しく、そしてときにはげしいチターのメロディ。生の混沌がまるごとみごとに映画の時間の中に定着されていますネ。そして、上質のユーモアとエスプリと切れのいいミステリーのみごとな融合…うーん、日本酒はやめて、赤ワインにしよう！！

2006.02.07

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三十三夜

.　ホリエモン寝て目覚めたる三畳間　ホリエモンいま目覚めたる三畳間　ホリエモン寝ても覚めても三畳間

2006.01.26

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塔

寒い朝だ。近所の赤城神社を散歩する。石碑の建つ眺望のいいところから急な石段を降りる。神社の建つ場所というのはあきらかに他の場所とは異なっていて、たいていは強い磁場のあるところである。そういう場所をわざわざ選んで建てるのだろう。不思議な異空間なのである。あるくごとに大地が立ち上がる。まるで生き物のように。そのことを人に言ってもたいていは笑われるだけで、頷くヒトはまずいないのだが、そうなのだから仕方がない。六本木ヒルズは建設中からずっと毎日見てきた。奇妙な建物だなあと、新世紀にはいったある朝、その全容が姿を現したときにおもった。青山霊園から乃木坂のソニーのできたばかりのスタジオへ向かうトンネルの手前にかかる橋の欄干から全体を遠望できた。曲面で構成されたその形は、巨大な蟻塚を連想させた。目をこらして見つめていると、周囲の空間が歪んで見える。非常に強い磁場が光と空間をへし曲げているのだろうか。晩年のセザンヌが、くり返し挑戦するように描いた故郷の聖ヴィクトワールという名の岩山、あるいは宮沢賢治が「そらの散乱反射のなかに／古ぼけて黒くえぐるもの／ひかりの微塵系列の底に／きたなくしろく澱むもの」（註参照）と描写してみせた岩手山もおなじだ。大気を散乱させ、ふたたび集約させる…そこには烈しい運動があり、何物かの意志が働いているようにさえおもえる。六本木ヒルズの周囲にただようのは、あれはきっと、妖気なのであろう。21世紀のとばくちに、まるで時空間のメルクマールのごとくに建造され、そびえ立つ結界、そこから先は…。註＝引用したものは草稿詩。定本では、「ひかりの微塵系列の底に」の部分は、「ひしめく微塵の深みの底に、」と変わった。

2006.01.18

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見者

見えるものを信じるな、見えないものにこそ　注意を払え。ほんとうの「もの」や「こと」は、ひっそりとかくれている。注意深い精神だけが、それらを見つけることができる。リンゴが木から落ちるさまはだれもが見ることができるけれど、そこから万有引力を見つけ出すことは、たったひとりの人物にしかできなかった。おもえばふしぎなことである。

2006.01.18

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欠如と解体

雨降りだったきのうから一転、朝から快晴。陽春の日が都会のビルの谷間にかがやいている。雨が降った翌日のこういう日こそ闇もふかく、鋭角に突き出た建物が落とす影も濃いのだった。新日曜美術館で須田国太郎の特集をやっていた。作家の古井由吉がゲスト出演していて、須田の『黒』について語った。それは（闇から）ひかりが生まれ出るその一瞬の色彩だ、と。言葉の世界、文学のほうではそれはおそらく『沈黙』でしょう、沈黙が書けたらすごいね、と。国太郎と由吉。ともに寡黙だがその表現へのこだわり方のいたるところで、共感できる数少ない絵描きと作家である。…さて、そこから何を掘り出すか。

2006.01.15

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翌日にかかれた26日の日記

いまこの日記を書き出した12月27日午前三時は、26日からつづいている思考のながれのなかにある。数時間時計の針を逆行させ26日午後十時の時間のなかにおいた。机の傍らにある厚さが七センチほどの原稿の束をながめている。それをそっと押し入れにしまいついでにネツト上から収拾したさまざまな文献の山を整理しはじめているところだ。右側には自作の世界史年表のノートがあり、そのある項目に目を留めている。1905年（明治38年）の世界である。この年、27歳のスイスの特許局職員アルバートはのちに「特殊相対性理論」として知られることになる光電効果を量子的に説明する最初の論文（Zur Elektrodynamik beweigter Korper＝動いている物体の電気力学）をドイツの学術誌『 Annalen der Physik』第17巻に発表した。ちようど100年前の出来事だ。その欄外に追記のメモが下手くそな字で書き込まれている。「ヤマ本参照」と読めた。1991年の冬だつたとおもう、すこし前まで朝日ジヤーナルという雑誌の副編をしていた年長の畏友は、山本義隆が自宅の一室にこもつたまま１ケ月も出てこなかつたといつた話をした。山本の夫人が知人に洩らしたという。さいしょは大学闘争時代のアジビラの類をごっそりと自室に集めてその前で黙考しつづけているらしいという話であつた。山本が「アインシユタインの相対論などに代表される西洋近代科学がなぜ世界の主流になりえたか」についてかんがえているらしいという話が洩れ伝わつてきたのはそれから程なくしてからで、どうやらそれが、後に（2003年5月）みすず書房から三巻本の著作にまとまつた彼の労作『磁力と重力の発見』に結実する思考の端緒だつたらしい…。と、ここまでが26日午後十時にわたしがぼんやりとかんがえていた事柄の始終である。こうしていまあらためて書棚から同書をとりだして斜め読みしてみる。三巻目のあとがきで著者は出版にいたるいきさつに触れて書いている。すでに何度も読み返しているので線が引かれているが、百年前を振りかえると云うきつかけがあるにしても、冬の夜のいま、どうしてこうしたことに注意がむいているのかが面白くて、自分のためにこうして日記に記録を残すことにした。いや、ただそれだけのことである。

2005.12.26

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ゐヴの夜に

W杯サッカー雨上がりの道ばたには　あちこち　空がこぼれている路地の奥に　ぽっかりと　地球がむきだしの場所があったりして生温かい土と水が溶け合った　そこはアナログ世界の　ミラーサイト　あるいは精神世界の　とり散らかった鏡の国か映り込んだ秩序が　光を撥ねかえし　なめらかに　ただ　「現在」を　奔流させるそのときだった　くるくるくると回転しながら飛んできた　サッカーボールがひとつ水たまりを直撃し　世界は一瞬　かき消えた（ねるとん・ぐー詩集より） ┌|∵|┘

2005.12.24

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発てばメイニチ

　天上へ落下するなり十二月目覚めたのは午後おそくでそれでもまだ青春であった。よろめきつつ日がわらう、彼処の山陰へ幾つもの影が飛び立つ。ウサギのような三日月が描かれた暦の最終頁では夢で見た貌が刻印されている。まことにたいそうな御言葉がひしめきならび、うんざりするほどの平和が眠りこけていた。十二日の夕方からハハ瞑ル二十一日へむかう。夕暮れから雪が舞いはじめた。人生ハ片道切符 ┌|∵|┘

2005.12.12

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馬頭観音

寝て起きる、起きてまた寝て、いまようやく仕事を始める。ほんとうはもう寝なくちゃいけないのだけれど、珈琲とタバコを吸いすぎのみ過ぎでめずらしく頭の芯が燃えている。あと二本になった木箱詰めダビドフのショートの一本にいま火を付けた。これで午前零時までぷかぷかぼー♪しつつキーボードに向かうわけだ。玄関の壁には「大過狗年」から切り抜いたポスターをベタベタと貼りつけて福がいっぱいだ。ドアの向こうは漆黒が冷たい風に鳴っているが、内側は赤や黄色の原色の嵐が光の中に乱舞する。仕事をこなしつつ、これから向こう15日間をかけて大掃除をしてゆく。狗（イヌ）、鹿（ウシ）、ときたからここは是非とも馬（午）でしめくくるつもりで書き出したが、はたしてウマく馬に行き着けるだろうか？ひひひーん。じつをいえば、わたしは馬が苦手である。いや馬は嫌いじゃないのだが、苦手なのだ。10歳ころの出来事だったとおもう。父に連れられて水浴びに出かけた川で、馬に蹴られていらいのことだ。川から上がってくる馬の機嫌をなにかの調子で損じたらしい、自分ではまったく覚えていないのだが、水泳パンツになって川縁に駆けだしたところを後ろ脚で思い切り蹴られ、数メートル空中を飛んでそのまま気絶したらしい。気がついたのは自宅の八畳間の布団の中だった。かかりつけのタカハシセンセイというお医者さんが飛んできて、患部を見たところ肩と首のあいだに蹄のあとがくっきりと在り、「もう一寸ほど右なら首の骨が折れていました」と両親に打ち明けたという。頑丈でシブトクできていたために数日で元気になったけれども、蹄鉄のあとはしばらく消えなかった。いらい馬を見ると近づけなくなって、そのトラウマは現在までつづいている、というオチで如何でしょうか？…それでも馬頭観音はなぜだかいつもの散歩コースにあって、これは宝暦年間から近在の空間を守ってきたのだそうで、そのまえを通るときはほんのすこしだけ歩調が速くなってしまうのである、嗚呼ひひーんぱかぱか子どもの時代からつくづく♪バカだなあ！！　…それにしても、酉年に鳥インフルエンザって出来すぎていないか諸君？ ┌|∵|┘

2005.12.08

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みぞれ降る

　みぞれ降る紅葉山をわたりけり雨から霙に変わり、一瞬、大粒の雪になってふたたび霙に。このまま夜に入ればまた雪に変わるだろうか。みなさん、天皇陛下はどこに居られますか、と新任の女教師は子どもたちに問いかける。後ろの席の声の大きい男の子が「押し入れのなかぞなもし」と元気よく答える。微笑んで彼女はたしなめる。「たしかに学校にある陛下のお写真は大切に押し入れにしまってありますね、でも先生が皆さんにきいているのはお写真ではなくて、どこに住んでいますかということよ」。先日（2日夜）NHK-BSで、映画『二十四の瞳』をはじめて観た。瀬戸内海小豆島の小さな分教場に赴任した女学校出たての女教師が、はじめて受け持つ12人の島の子どもたちとのひきこもごもが、太平洋戦争を挟んでていねいに描かれる。午後七時半から十時過ぎまで二時間半余の、美しいモノクロームの画面をなんだかすこしなつかしい気分でみつめた。大石先生（高峰秀子）も子どもたちも若く、日本という国家も若かった。映画が公開されたのは昭和29年（1954）。監督の木下恵介も壮年（42歳）だった。そして、なによりも映画を背後でささえる文化に、いきいきとした活気とかがやくような青春が感じられた、ふしぎな時間であった。映画を見終えてしばらく、いまという時代のことをかんがえた。小一女児が下校途中で殺害され、分譲高層マンションやホテルが偽造設計され、畑から大量の林檎や米などの食料品が盗まれ、異論を唱える国会議員が党を追い出され、テロ攻撃の犯人と事件の真相が4年経っても依然あいまいなままにテロとの戦いだけが声高に叫ばれ（註）、スポーツ選手が数十億円を稼ぎ出すというすばらしいこの現代社会のことを。■註＝9.11に関しては、英文サイトながら、ここで発生前から、現在（2005年）にいたる様々な関連事項をみることができる。9.11が本当は何であったかをかんがえさせる。なかでも、 PRE2001 という頁には、1962年当時すでに、「9.11」のような米国本土への攻撃を自作自演することで、市民を欺こうとする謀略（Operation Northwoods）が高級軍人たちによって計画されていたことが暴露されている ┌|∵|┘

2005.12.04

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けい声そして柄のこと

小泉政治のなにがいちばん悪いか。じつはそれまでの自民党政治のウラやシタでごにょごにょとやりながらのテーブルアンダーな談合政治をみるとき、小泉純一郎の明快はいっけんたいへんにわかりやすい。ああ、ナルホドこれが民主主義かと。かくてこうして、自民党をぶっこわした。痛快ではないか、自衛隊だって、はっきりと軍隊なんだから軍隊と正直に云おうじゃあないか、というので「自衛軍」となる。それでも小泉純一郎はわるいのか。そう、わるい。まずなにが悪い。柄が悪い、というのがじつはわたしの論点の急所である。柄とは殻に由来し、これはまた「茎の本字」（けい）でありここでいう「ケイ」とは織機の縦糸を指す。すなわち「けい声」は立ちたる声である。柄もまた近い。柄とは人の柄であり國の柄である。その外見であると同時に、またその有り様でもある。そうして、小泉政治のなにがいちばん悪いか、といえば、じつにこの「柄」がわるい、すなわちわがニッポンの国柄もどんどんと悪くなっているということだ。竹中というあたらしい総務相のコドモ顔などにもその風情は如実である。郵政民営化をめぐる騒動にみるように、異論は排除されて金魚の糞のような取り巻きオセジの輩が集まってしまう。かくて「けい声」は途絶え、「國の柄」もわるくなるいっぽうである。委細はここで絶えず語ってきた。え、ガラッパチ？　まあ、そういう粗雑はカワイイ ┌|∵|┘ 註＝なさけないことに、「?」は表記されないようだ。茎の元の字で「一」の下に「くくく」と置き、そのしたに「工」と書く。パソコンで「けい」と打てば表示されるはずだ。ただこうしたブログでは旧字もしくは、機種依存文字ということになるのか、表記されない。

2005.11.18

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容喙

粋な黒塀見越の松に徒な姿の洗い髪…エサオーオ玄治店。「お富さん」というアップテンポの歌謡曲がさかんに町中にながれたころ巷には貸本屋というのがあらわれた。昭和何年頃だろう。「ご新造さんへ、おかみさんへ、お富さんへ、いやさ、お富、久しぶりだなあ～」という台詞をわけもわからずマネしてみたり、レコード盤は落とせばバリンと割れるSP盤でプレイヤーはチクオンキ（蓄音機）と呼んだ。ふつうの家庭にはまだ蓄音機は贅沢品で、しかしその大型のものがどーんと居間に置かれていた伯母の家では、朝から父親たちはそのお富さんのメロディがながれるなか、一日中、麻雀をしていたことをおもいだす。嗚呼おとなになると学校に行かずにこうして毎日遊んでいられるんだ、いいなあというのが、当時のわたしのオトナ像であった。まもなくしてそうしたオトナは少数で、ほとんどのおとなたちは毎日せっせと会社に出かけたり商いをしたりしていることがさすがの阿呆なわたしにもわかってきたのだが、幼児体験というのはおそろしいもので半世紀たってなお、ふっと虚空の彼方に浮かぶのは、このような情景なのである。おまけにかなり広い都内の敷地の伯母のその家は、泥棒避けのシノビガエシがついた黒塀に囲まれていたから、子供ごころに、黒塀という歌謡曲のそのくだりでは、伯母の家の高い塀があらわれ、つづいて麻雀卓を囲む伯父伯母父親たちの光景が連鎖反応の如くに浮かんでくるのである。ここまで書いたところで、ふと炬燵の置かれた部屋のほうを見ると薄汚くてでっかい図体のがつったっている、ヤクザ猫のグレであった。ひさしぶりだなおとみ、生きていたのかという台詞がまたもつつっとわが口から飛びだしてしまった。洗い髪のおとみ、いやさ、野良猫グレは、朝方奔った通り雨のような雨にすこしからだを濡らして、四つ足で立っている（あたりまえだ）。その脇を見れば、炬燵の布団に潜り込んでダイアナが目と鼻面だけだしておそるおそるグレをながめている。無理もない、これがあんたのとーちゃんだよ、といったってダイアナにはわからないだろう。亡くなったコテツの2.5倍ほどはありそうな図体は白に黒、ほとんど黒でそれもやや灰色がかった黒で正面から見る貌は、仮面舞踏会の仮面を被った盗賊といった面構えなのだ。腰にサーベルを差していたっておかしくない。そう言えば怪傑ゾロという連続テレビ活劇があったな。「おい、コテツがしんじゃったぜ」といちおうは伝えてみたが、無視であった。それよりメシだというかんじで、シカタガナイからさきほど炒めた豚肉とオカブの豚の脂身のところをごそっとあげた。その一瞬の隙をついて、ダイアナが脱兎のごとく（白いからホントに似ている）庭先へはしって逃げ出した。午後五時をまわってすとんと夕暮れが今日もやってきた。地上が闇に包まれだすと山の獣たちの時間である。本日から禁猟が解除されるというので、鉄砲撃ちたちがあつまって飲み会をおっぱじめる。隣人もその集まりに出かけたろう。これから数ヶ月、山ではヒトとケモノの壮絶なゲリラ戦がはじまる。半世紀前のおとみさんの唄がながれる伯母の家では、ラッパを鳴らして豆腐売りがとおり、たそがれた都心の青い空に夕月がかかる。ぱらぱらとアスファルトの路地のホコリっぽい迷路を人が駆け抜け、ときにはどたぐつで盗人たちが新開地のマーケットの書き割りへと姿を消した。毎日のように麻雀卓を囲んでいたそのころはじつははるか後になって知ったのだけれど伯父の経営する会社が倒産して、その会社整理などをめぐってあれこれともめていた時期だったらしい。麻雀をしながら、おとなたちはさあてこれからどうすんべぇかなどと協議していたのか。逆算すればわたしが五歳から七歳くらいのころだとおもう。押しかけてくるヤクザたちに対抗するためにヤクザを動員したのがわたしの父親で、家屋敷などの不動産は差し押さえを逃がれ当時、跳梁跋扈した会社整理屋たちの毒牙から守るために、名義を書き換えたりしていはば偽装工作もしたらしい。その後しばらくして所有していた工場空き地には印刷会社がはいり、また住宅不足を当て込んだ長屋を建ててアパートにしたようだから、資産の大半はまんまと守りきったのだろう。一体どれほどの謝礼を支払ったか知らないが、銀座新橋だけでなく新宿渋谷六本木あたりまでまだ新興ヤクザ組織がのさばっていた時代だった。ヤクザにはヤクザをさし向けるというのはいらい今日まで経済の裏街道の常道である。

2005.11.15

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禿山の一夜

展覧会の絵もいいけど、やっぱり禿山の一夜は度し難くいいなあ。横浜湾岸倉庫で開催中の現代美術展「横浜トリエンナーレ2005」に都心の巨大高層ビルで真夜中まで働くアッパッパーな息子でもさそい出かけようとかんがえて、家を出たのはきのうの早朝だったのだが、とちゅうで気が変わりお日さまがこんなにニコニコしてるんだ、もうすこしましな休日の過ごし方があるだろうと頭のどこかでプロザックな妄想が囁いて、気がついたら温泉の中でひとり日本酒を飲んでいた。見渡すかぎりのワインの広野にはとバス数台がどどっとやってきて混浴いや大根と丸太と大福餅などと芋などがまぢりあっての阿鼻叫喚。ふらふらになって帰宅すれば、断水だ。ま、風呂はたっぷり入ったが、洗濯が出来ない。しかたがないから読書をはじめたら、気がつけば深夜だ。それでそろそろ水は出ただろうかと浴室をのぞけば、開けっ放しの蛇口からプロパンで沸かした熱湯がじゃぶじゃぶ出ていて浴槽は満杯、のみならず湯気で家中が温泉になってしまった。被害はかなり甚大で、風呂場の窓際に読み差しの買ったばかりの大型豪華本があったが、そのせっかくの豪華本が二倍に膨れて、禿げたでぶのおっさんみたいなブカッコウになっていた。手造りらしい高価な皮の表紙が剥がれそうになっている。そうして一夜干ししたが、梅干しみたいになって装丁は無惨。水蒸気に毒物でも混じっていたのか。ついには、ばりばりっと音がして背表紙ごと裂けてしまった。「カミよさらば」は使ってしまったし…ほかのオチをかんがえる余裕がないため、このまま放置。シカタガナイ、神も仏もない世の中である ┌|∵|┘

2005.11.14

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死の意匠

ひととはおかしなものだ。牛豚猪馬肉はうまいうまいと喰らいながら、そのいっぽうで、自らのペットの死にはナミダする。これは悲劇なのか喜劇なのか。死は個別具体的であり個別具体的であるときはじめて｢死｣という一種社会的意匠をまとうのだろうか。イラクで息子を無くした母親は息子の死をかけがえの無い喪失であると訴え、訴えることで世論を動かすことにもなる。イラク人の抵抗勢力の兵士の死はそのとき、ようやく国家や宗教やイデオロギーや文化などの違いを自ら乗り越えて同じようにかけがえの無い一個の具体的な死という意匠を獲得する。そうした死は何者とも比較対照させることを拒否するだろう。一個の死は、百万の戦死に対峙しうるであろうし、権力者のいかなる方便をも駆逐しうるものとして、はっきりとそのイノチというものの本源を照射するのだろう。いやしかしこのようなことを、まるでいまはじめて承知しえたごとくに書き連ねながら、むしゃむしゃと肴をつつき喰らいはしなくもこのおんぼろろな自らのどんよりとした生の鈍い神経系を蛍光灯の下でなびかせるのだから、いい気なものだ。それでも別に恥ともおもわない。あるがままであるということでは、なるほど野良猫一匹の死は、吹けば飛ぶようなものである。やがて記憶はさあとながれ揮発し明日にはまたこの五体が新しい光の中で生物としての生を営むに違いなく、そのとおりにそれでいいはずだろう。なにが悲しいのだろうか。悲しいのではなく哀しいのか。一匹のイノチが絶えたことが哀しいのか。それとももっとなにかべつの要素が働いて哀しいと言う感情をつくりだすのか。これもまた確かにひとつの小さな物語であるに違いは無くて、物語に囲まれてわれらは日々を生きるのだろう。だらだらとこうして書きなぐり、書き記すことの外側に広がってゆく何かを追いかけようとする。まるでそれは小石を水面に向かって水平に投げつけるような、そのような気分をともなうものであるようだ。さて…。コテツという一匹の生命体の消失にコメントを寄せてくだすった人々のこころのぬくもりをありがたく頂戴しながら、二束三文の屁理屈を述べつつ喪主代理としては勝手ながらこのあたりで、とりあえず失礼します。コテツのささやかな物語も、オシマイにいたします。拝謝 ┌|∵|┘

2005.11.09

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空が青い

空が青い。きのうよりもいっそう青い気がする。空気が乾燥しているからだろうか。がらがらと鎧戸をあげて、朝の光を部屋にながしこむ。珈琲をたて逆立ちをし、書きまぐれてどこへ飛ぶか分からなくなってしまった短篇のひとつを眺めながら、クリーニングからもどってきてふかふか新品になった上質羽毛布団にダイアナがつくったオシッコの黄色いシミをみつめた。鼻をちかづけると謀略のMI6のきつい匂いがする。モナコ王妃だったグレース・ケリーの事故死も謀殺の疑いがいまだに晴れていないが、ダイアナ殺害事件を国連が再捜査するなどと云うことは未来永劫無いだろう。オシッコのシミを熱いお湯を含ませたタオルで拭き取り、庭先に干した。とこみんさんの日記「われ映画を発見せり」を見たら、北野武が団塊世代を「産業廃棄物」と喝破したと書かれてあった。ナルヘソ！わたしもたしかに産業廃棄物にちがいない。この産業廃棄物の塊が地上から消え去るまでもうすこし時間がかかりそうだけれども、廃棄物としては、最後の脱糞ぐらいは盛大にしておこうともかんがえる。それにしても、嗚呼！！空が青いなあ ┌|∵|┘

2005.11.02

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近頃山中評判雑事

写真の左からサテツにぴんちょん、手前がハーチャン。ダイアナをくわえてこの夏に生まれた四匹。おなじ母猫から生まれたとは。サテツはコテツそっくり。ハーチャンは母親と縞までうりふたつ。父親はヤクザ猫のグレなのだろうか？　もしかしてコテツではないのか。隣人もわたしも、さいきんまで連中の父親はヤクザ猫のグレだとばかりおもっていた。だが、どうもコテツではないかという疑いが出てきた。ヤツの振るまいがどうもオカシイ。母猫ミーチャンと子猫四匹が揃って餌を食べているとき、なぜか彼はじっとそれを眺めているだけなのだ。コテツが父親なら近親相姦である。それならペルシャ絨毯のごとき新種の猫が誕生してもふしぎではあるまい。写真を見て欲しい、風貌は猫と云うよりレッサーパンダである。からだも他の三匹より一回り大きい。あるいは父親はアライグマ、あるいは狸…？？？または、母親はあんまり男出入りが烈しくて子宮のほうが混乱してしまったのだろうか？！(^◇^;)いろいろかんがえるのだが、近親相姦による突然変異説がなんだかいちばん納得がいきそうだ。とにかく、ちかごろ隣人とはこの話で盛り上がっている ┌|∵|┘

2005.10.30

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鏡の国＆おべっか国会

この秋イラクの暫定政府が憲法草案を国民投票にかけることと、極東の島国が、６０年間維持してきた憲法の改正草案を政権政党が公表するのは偶然とはいえ、合わせ鏡の如く。国民投票法案の話までが出ている。ルイス・キャロル『鏡の国…』をおもいだす。その数学教師は、たしかに英国諜報部員たちにもっとも愛された作家のひとりであった。国会はあいかわらずの喜劇がまだまだつづく。かつて郵政六法案に強硬に反対を唱えた元郵政大臣の女性議員がポスト小泉の主要閣僚もしくは次期総理候補に急浮上して、彼女はさっさとさきの衆院国会では賛成の白票を投じる。参院審議を今朝からやっているけれども登場する議員たちの骨抜きおべっか言辞には、そろりと明後日の晩を照らすはずの十三夜の月も出にくかろう、そうしていよいよ国内でクローズして流通する独自の国民資産340兆円が、まもなく胡散霧消する。利休の青磁の耳の話ではないけれど、十三夜な不完全が好きといっても、割れてしまったカガミをもとに戻すのは困難である。政治が正義であるために必要欠くべからざる根底の一事は、ただ、各人の自由の確立ということだけだ…自らのみの絶対を信じる政治は自由を裏切るものであり、進化に反逆するものだ（坂口安吾『暗い青春』より）脅かされているのは、郵政でもゼニカネでも文字になった憲法というシロモノでさえもない。人々各位のオノレが保持すべきところの「自由なる個人」である。自由が危機に瀕していると云うことである。すなわちこの10年になされてきたことは、いずれ国家という権力装置をより強力にするための、「小さな政府」という名のマジックである ┌|∵|┘

2005.10.13

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座

午後五時のチャイムで目を覚ます。そとは釣瓶落としたきり上がってこないままにとっぷり暮れている。闇の中に雨音が連弾する。灯りを付ければガラスにぼわっと室内の風景が映しあがって闇は部屋の四方へ流れ出す。まるで改行するように。さて、2005年10月の５番目の一日が（世間では）終わり、ここでははじまる。たったひとりでも世間がはじまることにおどろいてはいられない。くわしく記せば、猫七匹と人間一匹の世間である。もっとほかにもある、寿命が来た点滅する蛍光灯と使用しないでも勝手に拡大しつづける大型虫眼鏡と積み上がっては崩れ、崩れながらなお読まれないままに自己主張する数十冊の本の山それから…使わないかぎり自分がナニモノであるかを表現しない無数の道具たち。箸袋に記されたメモの変色した断片、子猫が囓っているダンボール箱の耳。たとえ一発の爆弾で滅びるとしても滅びる前の日常という空間。この一日。ただいま現在という時間。熟睡しているあいだに抜け落ちた記憶、部屋のあちこちにころがる未加工の言葉ども。しきりにふり返ろうとするこの生きた首と脳味噌と五感たち。開けられていないいくつかのドア。そのひとつの鋼板でできた白いドアを開く。それは冷蔵庫と呼ばれ台所の一角に特別でもない席を占める。モノも物事もデキゴコロのようにはかなくせつなくだらしなく存在し彼ら自身ではいかんともしがたい。固有名詞の洪水の中を往復しながら固有でない品物を探しまわる。顔も洗わなければいけないがシャワーを浴びる前にとりあえずこうしてキーボードに向かう自分がいる。都合がつかなければ、改行しよう。すこしだけ世界が離れる。午後６時19分18秒のイマが過ぎてゆく嗚呼オマルハイヤーム！じつはオマルという名前はイスラム世界には溢れている。ここで叫んだオマル・ハイヤームがかの暗殺教団（アサシン）ならば、現代の中東にしっかりそれらは生き延びてかの9.11以降の世界を揺り動かしているわけだ。21世紀がテロの世紀であるなどとは誰もおもわなかったろうしかしこの日常のなかに持ち込まれた非日常は確実にわれわれの世界を変えている。自爆テロの世界は刹那主義の世界を孕む、刹那が梃子のように世界を激変させるのか。いま読んでいる本（ベルナール＝アンリ・レヴィ著『誰がダニエル・パールを殺したか』　NHK出版刊　上下２巻）がまさにそうしたイスラム世界の闇の一端を描き出す。わたしはこれを読みながらアサシンの由来をおもいだした。ここでの主人公もまたオマルである。そしてかのムシャラクのパキスタンでありその最大の都市人口1400万人のカラチの闇がひとつの舞台となる（補注＝ダニエル・パール事件は9.11直後の2002年１月31日に実際に起きた悲劇であり首謀者として当局に逮捕されているオマル・シェイクも英国の裕福な家庭に生まれ高等教育を受けたインテリのテロリストでむろん実在する）。しかしながらこれはドキュメンタリーであると同時に小説だ、と著者は冒頭で宣言する（事実が空白である部分は想像力で埋めた＝序文より＝）、サルトルと同じく高等師範を出てデリダやアルチュセール門下の思想家でもある著者レヴィ一流の言い方を借りれば、「ロマンケート（小説+調査を合わせた造語=調査報告小説）」ということになる。なるほどこれもまた、いまの世界の中で新しい物語を作り出すひとつの方法であろう、思い入れ過剰に見える文体は乾いた米国流のドキュメンタリーに慣れた目にはやや異質にうつるかも知れないが錯綜した事実と虚構と嘘と真実がそのままに著者の周囲を流れ渦巻くさまはむしろこちらのほうこそが世界のありようをよりリアルに描写しているのではないかとおもえてくるのであったダダダダダアア！！！たとえば、「久しぶりだな」と彼は言った。以前から何食わぬ顔で皮肉を言っていたが、今回の私の電話にもさほど驚いたようすはなく、まるで昨夜別れたばかりのように言葉を継いできた。「…あれから何年も経つが、お前はどんなふうだ？　俺か？髪の毛が、まあ見ればわかるさ…二日くれ…そっちに行くから…」ひとりで、手持ち無沙汰になった私は、時間をつぶすため、この混沌として不安に満ちた街、カラチを散歩することにした。秋の空にはかすみがかかり、陽はかげり、じめじめとして、今にも雨が降りだしそうだ。（中略）街の北にあるリー・マーケットという市場へ足を延ばしたあと、ジアウル・ハク・コロニーにある、”ミニ・バングラデシュ”と呼ばれる人身売買の市場へ行ってみる。ここではバングラデシュの娘が七万ルピー〔訳注2002年当時で、約12万円〕で売られている。利益の一割は警察の懐に入っているようだ。それからザイナブ・バザールに足を延ばした。大規模な綿市場だ。ここに来てわかったのだが、カラチに起きていること、話題になっていることが知りたければ、この市場こそ最高の情報源である。まるでニュースの共鳴箱といった感じだ。昨晩インド経由で連れてこられた生娘三百人が、ドバイに売られていく…。夜になると”ガンマン”たちの気まぐれが始まる…（山本和子訳　同書上巻217-8頁より）ランダムに選んで一部を引用してみた。やや湿り気を帯びたレヴィの文体は湾岸の海洋都市カラチの湿気を帯びた風と混沌を巧みに描き出していく。オマルの犯罪計画の足取りを這うように追いながら、やがて著者は米英の諜報機関とともに暗躍するパキスタン軍統合情報部（ISI）というムシャラク軍事政権国家の造りあげる巨大な闇（＝「国家規模の恐るべき陰謀」同書下巻帯より）に突き当たるわけだ。驚くべき話がふんだんに出てくるが、それらはここでばらすことではないだろう。さて、午前零時になるしごとに戻ろう ┌|∵|┘

2005.10.05

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夜長に朝まで秋の中

　目覚むれば空気の一粒秋となり濃い珈琲を飲んで深夜の朝を起きる。猫クサイ部屋をなんとかするために換気扇を付けっぱなしにして仕事を始めよう。うーん、オープンオフィスと『国家の罠』（新潮社刊）か。面白いぞ。鈴木宗男。→　http://iiyu.asablo.jp/blog/2005/09/12/71856#tb85632オープンオフィス・ドット・オルグについては、→　http://ja.openoffice.org/intro/intro_01.html蛇足だけれど、そーいえば佐藤優も宗男もご近所だった(^_^;)そして、いまさらではあるけれどもフィリップ・ド・ブロカ監督の『陽だまりの庭で』（1995年）をいまBS2で放映中だ。こういう作品をこの時期にきちんと放映してくれるのは有難い（肩すかしのようなこの映画の決着のケジメの付け方には、じつは新しい物語の萌芽があるのです、物語は物語それ自身を裏切らなくてダメなのです！） ┌|∵|┘ 　がばがばとプールを歩く秋深し物語つくってはこわし神無月、と書いては消しゴムで消してしまえ！ごしごし夜が明ける。

2005.10.04

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ビジター

とんとん。だれ？とん。*******We？Me！ ┌|∵|┘

2005.08.13

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深夜も行燈

　黒猫の尻尾が描く「？」無月の夏の丑三つ時の、オシッコ。なぜかコテツもいっしょにトイレに。渓流に昼の猛暑のなごりがながれる。わが便器もゴォーっとささやかに洪水をみせた。嗚呼午前三時か、もう。客がいてもいなくても頭の中はあんどんのまんま。鼠の替わりにトカゲや飛蝗を捕まえてむしゃむしゃ食うコテツ。クエスチョンな一日がけふもおわった、やれやれ。

2005.08.03

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セピアな感慨

憶えていることを確かめる。記憶は揮発する実体のなかに生きるからだ。手がかりはおぼつかないあやふやなそれでいて奇妙にリアルな画像の断片である。それらは破片だ、時間と空間のどこかに挟まっていて、うっかりすると上書きもされかねない。きまぐれで罪深い放浪生活の結果、まとまったアルバムも散逸してしまい手元にあるものといえば味噌に刻まれているところの自分しか確信し得ない記憶の映像の幾つかで、これらが自分にとってどのような価値を持つのかあるいはまったく無価値なものかさえも不明である。「時代」というものはたしかにあったろう、60年代、70年代、80年代、90年代という洋式化した認識により定着された「時代」とそこにかろうじて刻印された自分というものの記憶の断片。それらは他者を必要としながらも自身で身勝手にオノレを主張もしてくる厄介な存在だ。古い友人から連絡があった。すっかり忘れていたころのことをいきなり話しかけられた。まだコピーライターのようなことをやっていた時代のころの出来事だ。そうとういい加減な仕事で高額な報酬をもらっていい気になっていた。名前さえ忘れていたその男はそのころに一緒に組んで仕事をしていた。その後どうしていたかとお互いにはなしながら、すっかり記憶の彼方に遠ざかっていたさまざまな映像が洪水のように押し寄せて、しばらくは仕事が手に着かないほどになってしまう。まったく破れかぶれを生きていたなあ、とおもう。いまなにしてるのさ？最後のころになってヤツが訊いてくる、さあなあ、それよりこの番号どこで訊いた？相手は笑いながら共通の知人の名前をあげた。ああ、それすら忘れていたか！日常から離れてしまった記憶は不連続な領域に隠されてしまうらしい。そこへたどり着くには、えいや！！と何かいま生きるこの日常を飛び越えなくてはならないらしい。みんなそうなのだろうか？…古い手帖をのぞいて、そこにおびただしく並ぶ８桁や９桁の数字をあらためていま眺めている。かなりはずかしいがそのころの写真を載せておく、自分でも信じられないが本人らしい（爆）撮影場所は都内某所の職場だが、撮影者は不明。35ミリフィルムから直に焼いたいわゆるベタ焼きの写真である ┌|∵|┘

2005.07.28

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隣人との会話

　ひどいな。無実の人に5発も撃ち込むなんて！　俺だったら一発で仕留められたゾ。（東京で地震に遭う。やまにもどれず。宙ぶらりんのなかで夜が明けた）

2005.07.23

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機

霧が濃い。伽藍がみえる。…どうやら山頂にいるらしい。ときおり入ってくる、こうした幻覚の時間のあとは意識というものについて強くかんがえざるを得なくなる。それらはたいがいのばあい、ある種の直覚をもたらしてくれるが、すべてあとからわかることである。こうした意識の尻尾のような奇妙なものについて記された文献はあるのだろうか。これは個人的なものにすぎないのか。山ではこうしたことが非常にしばしば起こる ┌|∵|┘

2005.07.15

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続々・プレーンなラヴ番外地

netekarakakuka kaitekaraneruka.こちらもあさやけ。　七月の蛍光灯とあたまかな　直哉描きし昼の白月　こあむ　神様ももののふもゐる山の青　くにやぶれたる　のちのかわかぜ　　こあむ　月ひとつ川ひとすじを照らしけり　いずこの闇をなが舟はゆく　こあむ　絶叫亭蝋人形の目玉剥く　ゆらゆるスカーツこよいのうたげ　こあむ黒猫コテツが闇に向かって身構えている。何かが彼方にいるらしいが、わたしにはわからない。猫の言葉がようやくだいたい解るようになり、ちかごろは指示を与えるとたいていは伝わり納得して行動に移してくれるのだが、こうした気配においてはこちらの五感のらち外にあるようだ。室内の薄暗い闇に居て戸外の数メートル先の漆黒に近い闇の奧を見とおす。ときどき奧の和室の押入付近に出現する落ち武者もコテツは敏感に察知するのだ。いまバックミュージックはモーニング娘。の「原宿駅前六時集合」だ。そして数時間後には米国の宇宙ロケットが日本人飛行士を乗せひさびさに打ち上がる、そんな夜だ ┌|∵|┘ nenaide shigoto sho!

2005.07.13

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花のちから

いつのまにか雨があがって青空がひろがりはじめた。六月最後の木曜日の正午前。Macminiが壊れたという知らせが入り、トーストに焼酎の朝食の卓上にはコテツ。そういえば、石牟礼道子『苦海浄土』三部作を買わなくてはならない。全17巻別巻１の藤原書店。「春風萌すといえども　われら人類の劫塵いまや累なりて　三界いわん方なく昏し　まなこを沈めてわずかに日々を忍ぶに　なに誘なわるるにや　虚空はるかに一連の花　まさに咲かんとするを聴く　ひとひらの花弁　彼方に身じろぐを　まぼろしの如くに視れば　常世なる仄明りを　花その懐に抱けり　常世の仄明りとは　この界にあけしことなき闇の謂にして　われら世々の悲願をあらわせり　かの一輪を拝受して今日の仏に奉らんとす」（石牟礼道子「花を奉るの辞」より冒頭部のみ引用）。花はまたうたであり、ひとであり、いのちのひかりである。　ひかりあれ！紫陽花の色はげし　雑巾ひさしぶりの夕景が空をうすくあかく染めた。山河の豊饒はもっぱらひとを介さない。それらはそれら自身の裡においてすでに豊饒である。春先に膝ほどしかなかった桑の痩せた一本はいまや数メートルの高さまで枝を伸ばし繁った葉の一葉ごとにいのちを日に晒す。われわれはそれを光合成などと知識を持って理解するが、どうであろうか。まったき自然における智慧の豊饒のまえで人間如きのわずかにここ数百年に満たぬ科学が対抗しうるものなのか。驕りのしっぺがえしはいつだって人間の知恵を圧倒するだろう。そんなことをついついかんがえる。六が七に、時刻という人工が六時のところで二つの針を重ねる、といって何ほどのことが分かるだろう。ぞくりとする寂寥が豊饒の中からこちらを覗いている ┌|∵|┘

2005.06.30

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客観ということ

きょうの朝日の天声人語が先日の事件に触れている、きのうの日経春秋も「浅い緑の葉を透した日光で…」という志賀直哉の紀行文を枕に振っておなじように親殺し事件に触れる。しかし、いずれも表層さえもとらえられていない。新聞記事の欠点というか新聞記者というものの生業の果ての文章の愚かさがみえるばかりである。客観を常に装わなくてはならない宿命を甘んじてかそうでないかはともかくも受け容れてしまった精神と目には、親殺しの少年のこころは映らない。出来事という、ものではない厄介をどのようにみつめるかにおいて、客観なるものは言葉を散在いや散財させるだけだ。永遠にたどり着けない地平線のむこうへ往く旅の乗り物があるとすれば、それは物語という乗り物を措いてないだろう。ノンフィクションなどという外面ばかりの形式では（少数の例外はあるが）接近できない ┌|∵|┘

2005.06.25

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親殺し

20日夕方に板橋で起きた両親刺殺事件が気になっている。失踪した15歳の高一生は草津温泉の旅館に投宿しているところをようやくきょう警察に保護された。少年がどのような理由から両親を刺したのか動機もいまのところまったく不明である。いずれマスメディアは少年の犯行にいたる経緯を報じることになるだろう。しかしそこには他の多くの犯罪報道がそうであったように、肝心なことはたぶん、なにひとつ語られはしないだろう。遠景から見る景色はまとまっているが、木々や大気の香りをけして教えてくれない ┌|∵|┘ 父親は重さ約８キロの鉄アレイで殴られ頭がい骨が陥没、母親は胸などに約４０カ所の傷を負っていた。捜査本部は根深い恨みがあったとみている。（新聞から）

2005.06.22

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10センチ先の未来へ

夜がやってきた。午前二時の夜であるが、きのうの夜とはちがう夜である。どう違うかは、違うとおもったとたんにわからなくなる。置いてきた夜はいまここに在る夜とはいつでも違うだろうから。こうしてキーボードを叩きながら突入する今夜の夜は、いまだ未体験なものだから。日記には出来事が記されるわけだが、本当にそうか？じつはしるされるものは出来事などではなくて通過した時間の残り滓のようなものであるだろう。過ぎ去ったものがいつでも未来を見せるように偽装するそうしたたくらみを背後に押しやって、いまここからはじまるはずのきょうを覗こうと努力しよう。…それで、すこしはみえてきたか、10センチ先にある未来 ┌|∵|┘

2005.06.21

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さりげなく「と」をつかう

深夜に目を覚ますと、とがひとつよけいだ。「と」か。むかしはもうすこしとをつかったものである。ちかごろはひかえて使う。たてつけが悪くなったわけでもない。建造物としては、まあまあの部類だとはおもう。しかしたとえば、ここの「と」のように、「とは」おもうという「と」は「は」と一体になってものごとを取り出し引き出して、サア見たまえ諸君！とばかりに強調する。この目立たせぐあいもときに応じないとくどくなってしまうわけだ。…そうか、「と」か。「といった」「と」か、うーんなるほど。日本語は愉しい。深夜に目を覚ます。でいい。「と」はつけない。つけたとたん、つぎをつい期待してしまう。つぎになにが出てくるのか、と。出すものがあるうちは、いい。いずれ品物も尽きてきたらどうするんだね？そうさなあ、まあ、そのときはそのときさ♪　やはりなにかが起きそうだったり、物陰からふっと、（ほっと、でもいいが）貌を覗かせるそういうドキドキは面白い。深夜でなくて真昼間であれば尚面白い。ここでは「なお」がいいのか「いっそう」がいいのか。またかんがえこむ。…かんがえちゅう…つまりはこれも、一秒の数分の一の刹那の、その刹那を生きてゐるわけだ。「と」いうことで。深夜にお邪魔しました（笑） ┌|∵|┘

2005.06.19

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くとんくとん

和紙に薄墨を投げつけたような空が暴れている。まったくそのとおりに描きたくなるような景色が緑のグラデーションの全体をおおって中景は濃緑が帯状に横にスクロールする。それで近景のわが足元にはけさもコテツと母ネコのミーチャンと三歩離れて山猫ラズロが呻ってゐる。ラズロはニューフェイスともいうべきか。ホンモノの山猫に近い貌つきで人を極度に懼れる。数週間前からときどき遊びに来るのだがなつかない、そのなつかないところが気に入っている。近景のいちばん真下にはわが裸足があるわけだが、今朝は天からいきなり振りおろされた巨大な足が平原を駆ける夢で目を覚ましたためか、おもわず天を仰いでしまった、嗚呼クトンクトン。こぬかな雨は無音で降る。明け放った窓からは渓流の音がながれこむ。雨があがっていれば、桑の新葉を天麩羅にしてみるかとおもっていたが。白い空を鉄塔が往く。連山の中腹に鈍く白く光っているのは滝かとおもえば単眼鏡でのぞけば送電線を支える鉄塔である。見なれた風景だが毎日のように発見がある。ほぼ父親の世代にあたる大正から昭和初期のことをすこし調べていて、その時代の風俗資料がなかなか地元一帯にはないため東京の図書館にも行かなくてはならず、しかしプロパンガスの業者が午後に来るというので、立ち寄るのも難しくなってきた。そして雨ばかりが降る。これだけまとまって降れば農家は一安心だろう。渓流はとうとう濁流になりつつある。タイトルの「くとんくとん」は『カムイユーカラ（アイヌ神謡集）』にでてくる擬音（kutunkutunと表記、なんの擬音か意味は不明）である。アイヌのことばにはどこかひょうひょうとした可笑し味もあり、また天地をそっくりつつみこむような雄大な響きもある。そして、kutunkutunは、なんとなく今朝の気分と天候にもあっている、そしてまたきょうは童謡『野菊』の作詞者で『コタンの口笛』の石森延男の生まれた日（1897年）でもあるという。嗚呼クトンクトン！どうやらゆうべシャワーを出しっぱなしのまま寝てしまい、そのために安全装置が働いてガスがストップしたらしい。レンジが壊れたかとおもった。手動で回復するらしいが、業者を派遣するという。やれやれ。電動マイコン沸騰ポットのお湯で珈琲を煎れるか。おお、98度Cにしてボタンを押せばくとんくとんとお湯が出た！ ┌|∵|┘

2005.06.16

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雨霽

濡れ縁のむこう木立の高みに不如帰が啼く。正午になって雨があがった。空はあいかわらずレフ板のような鈍い光をはなったままだ。いつのまにかグレたちもいなくなり、かわって近所のおじさんがどんどんと玄関を叩く。紫陽花くれねえかな、と。雨に濡れたままの髪に日焼けの顔が笑う。いいよ、しかしいいころ加減に咲き始めるところだ遠慮しろよ、と追っ払った。自然はダレのモノでもないのだから持って行こうが自由だが、いまここで咲こうとする花をなにもわざわざ他所へ運ぶことはないだろう。一喝するとそうだなあと納得したらしくすごすごと帰った。また留守にでも来て掘り返す気なのだろうが、まあ好きにしろ。己の欲だけで動くのは都会も田舎も変わらない。野生動物の凶暴のほうがまだマシか。　雨霽の雲に副ひてほととぎす春日を指してこゆ鳴き渡る　万葉集数日でかける、山にもどるころには見事な紫陽花が咲いているはずだ。あるいはそれが、さっききた男の庭に移っていようが見える場所ならばまあ同じである（笑）。…支度をはじめていたらふたたび雨がはげしくなった。そうか降ったり止んだりか。出かけるのは空模様と相談しながら決めようと食事の支度をはじめることに変更した。支度もいくつかオプションがあるから愉しい。心のチャイムがきこえてきて、ありゃ？五時と打ったのに心だって、こころにもない誤字。とまれ五時で雨はあがったもののこころのほうもあがってしまった。緑はゆるやかに横たわり、あらあ？　紐は解きませんか？　緑陰は人ではないチャウチャウネコだろほら。しかしあんたんとこはよくネコが登場するんだね、一匹分けてよ。あげてもいいがなつかないぞ、都会のネコのようにかわいくないぞ。躯も汚れてきたないぞ。それでもいいか。しとしとと雨だ。どたばたと猫の目のようにくるくる変わる空だ。ようやく黄昏れてきて、夕方だがぼうっとあかるみが増す。とんころりんな野道を行けばぼたぼたと水が漏れる空から軽業師まで降ってきそうな妖しさだ。どーした？沙悟浄。いえ悟空の兄貴が、悟空かたしかあいつは堺正章だったか、夏目の姐さん。駱駝に乗っていえ馬にまたがってあの子も月へいっちまったね！夫がいるだろまだ、あああの酔っぱらい作家か。にやけた野郎だ。一瞬、時代の扉がぎいと開いて、ふたたびギイッと閉じた。　雨霽や蝶一頭ののぼりゆく　雑巾暮れ始めたころようやく霽れた空間を白い蝶が一頭ひらひらと谷のほうへ落ちるように飛んでいった。あえて「のぼる」と詠んでみる（2005.06.16午後６時すぎ） ┌|∵|┘

2005.06.15

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展開する現在

目を覚ますと世界が変わっていた…というのはバイロンいらいしばしば使われてきた手だが、深夜の午前０時過ぎに目を覚ましても堕胎な夢とラヂオのＦＭなスモールトークは相変わらずで、足元でばさっとおおきな物音がする。ベッドの上の寝具のうえで寝ていたコテツかグレがどさっとガタイごと50センチ下の畳に落下したのだろう。積み上げた本がくづれるようにひとつの世界がその抱えこんでいた夢の世界もろともに崩落してゆく光景には9.11のあの光景がかさなるわけだが、あの日にN.Y.で誕生した子どもは無論そのことを知らない。それでまもなく満四歳になるわけだ。われわれの意識というもののなかで厄介なのが未生の記憶へとへその緒でつながる前世の記憶だ、「いまここ」が現在という認識で屹立し身体の前方を未来へ投げ出すいっぽうで、おなじ身体の後方すなわち背中のというべきか背後の背負う闇のほうは過去時間へと累積されてゆく。その分裂と結合の連続したなかで生が生み出されてゆく。生はそのかぎりにあってつねに現在である。まるごとの現在はいつだってとらえどころがなく、われわれはそうした現在を食って生きる。すなわちそれは意識であるのだろう。奇妙な風景でもあるがジャコメッティなどはそうした生の生な存在の有り様を空間のなかで捉えようと試みた。移動するごとにわれわれの身体は前後に圧縮され絶えず縮まりかつ展開する。あたかも躯全体をそのようにして前進する毛虫の如くである。人類は毛虫なのかもしれない ┌|∵|┘

2005.06.13

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