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2010/10/21(木)00:12

危うきこと累卵の如し   韓非子

韓非子(6)

「危うきこと累卵の如し」 きわめて不安定で危険な状態であることを意味する。 積み重ねた卵はいつ崩れるかわからず、非常に不安定であることのたとえ。 「累卵」は積み重ねた卵のこと。 時は春秋戦国時代。 晋の公子、重耳(ちょうじ・後に晋の文公として中国を制した)は、晋の内紛を避けるために諸国を放浪していた。 曹という小国が晋と楚の間に挟まれてどうにか独立を保っていた。 重耳が曹の国に立ち寄ったときのことである。 曹公はかねてより重耳の肋骨はつながっていて、あたかも一枚の骨のようだとの噂を聞いていた。 それを知りたい欲望にかられて、公子重耳の入浴姿をのぞき見たのでした。 曹公の近臣である釐負羈(きふき)と叔瞻(しゅくせん)は、その様子を見ていたのである。 叔瞻(しゅくせん)が曹君に言った。 「重耳様は晋の公子たるお方です。見るからに容貌は只者ではありません。もし公子が晋に帰国して王位に付いたとしたらどうでしょう。恥をかかされたことを怨みに思いわが国に攻めてくることにはなりませんか。禍根を断つために重耳様を殺してしまいましょう」 「なんだと、そんなことをしたら諸侯からの信頼を失ってしまう。捨て置けばいい。」 曹公はこう言ったものの一抹の不安を感じたのであった。 曹公と叔瞻のやりとりを聞いていた釐負羈は、さえない顔をして帰宅したのでした。 顔色がわるい釐負羈をみて妻が言った。 「どうなされたのです。お顔の色がすぐれませんが?」 「良い事があっても自分までは及ばないのに悪い事はすぐふりかかるということわざがあるが、今日はそんな出来事が宮中であったのだよ」 釐負羈(きふき)は妻に、曹公が晋の公子、重耳に無礼なふるまいをしたことの一部始終を語ったのであった。 「わたしが拝聴したことから思いますに、重耳様は晋国の王にふさわしいお方と見受けられます。取り巻きの方も立派な方ばかりのようです。お国の争いが落ち着いたら帰国なされるでしょう。そのときは曹の国で受けた恥は必ず思い出されるでしょう。曹が攻められるのは必定のようです。迷うまでもなく重耳様とよしみを通じておかなければなりません。」 「おまえの言うとおりかもしれない。わたしもそう考えていたんだよ。」 釐負羈は、夜になると使者に黄金を持たせて重耳に会いに行かせ、昼間の非礼を謝罪したのであった。 公子、重耳は3年後、自分の亡き父の盟友であった秦の穆(ぼく)公の援助をうけて帰国して王位に就き文公と称したのである。 重耳が即位して3年が経過した頃、重耳は恥を注ぐべく曹国討伐の兵を挙げたのであった。 文公(重耳)は曹国へ進軍した晋国の兵士たちにいった。 「釐負羈の一族の家は攻撃するでないぞ。わたしが以前世話になったお方じゃ。使者をつかわして目印の旗を立てさせているのじゃ。」 こうして礼を尽くした釐負羈の一族だけが助かったのである。 曹国は小国であり、晋国と楚国という大国の間に挟まれており、その王たる者の地位は、積み上げられた卵の上に立っているようなものである。 まことに危なっかしいことこの上ない。 そうであるにもかかわらず軽々しく公子、重耳に非礼なふるまいをおこなったのです。 小国という危ない立場にありながら無礼を働き、なをも忠臣の諫言も聞けないと滅亡に通ずるということ。                          韓非子の「十過」より

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