柔道バカなガキンチョのその後・7
迎えた高校最後の公式試合、 インターハイ予選個人戦。 大会直前の稽古で、道場の先生から、 「ベスト8、狙えるんじゃねえの」 という、励ましの言葉をもらった。 ちょっとひっかかったのは「体重」である。 高校入学当初は88kgもあった体重も、 二年時の肉体改造計画により、72kgまで絞った。 しかも、ここしばらくの猛稽古?のせいで、さらに絞られ、 体重は67kgにまで落ちていた。 登録階級は73kg級。 しかし、これでは「66kg級」でもいけそうな体重である。 そんなこんなで迎えた個人戦が始まった。 一回戦は確か、不戦勝だったと思う。 この時点で、うちの高校から個人戦に出場して生き残ったのは、 オレを含め、わずか二人となった…。 二回戦。どこぞの高校の選手。 団体戦で対戦した、やりづらかった選手と同じようなタイプで、 なかなか技が決まらなかったが、 内またで「有効」を二つ奪い、優勢勝ち。 やはり初戦なため、だいぶ固くなっている。 迎えた三回戦。ここが山場だった。 「あいつはつえーぞ。」 そのとき60kg級で勝ち残っていた、I島の言葉だった。 どうやら、中学の時から県でも有名な選手だったらしい。 試合前、相手を確認する。 ガッチリ型。73kg級のわりには長身で、手足が長そうだ。 頭も五厘刈りで、顔つきも大分キレている。確かにこいつは強そうだ。 そしてついに、試合が始まった。 組んだ瞬間、こいつはヤバい、と思ってしまった。 何もかもが、オレより上の選手だ。 相手はオレの奥襟をつかみ、大外刈りを連発してくる。 「有効!」 かわしてはいたが、ついにかかってしまった。 どうする…このままでは何もできない…。 「待て」がかかり、再び試合再開。 かなりビビっていたが、気持ちで負けるわけにはいかない。 オレはありったけの気合を入れて、負けじと奥襟を取ろうと組みに行った。 ゴス! なんとオレの右腕が、相手の顔面にヒット! ちょうど「ラリアート」をかました形になってしまった。 顔を抑え、モゴモゴする相手。見れば大量の鼻血が出ている。 「待て」がかかり、試合中断。どうやら止血しているようだ。 止血が終わり、開始線に戻ってくる相手。 …オレを殺すと思っているような目つきで睨んでいる。 「うわ…やっべ…」 完全に気持ちで負けた。 もうそこからは一方的であった。 相手は大外刈りをこれでもかと連発。 オレは防戦一方。組み手も技も相手の方が上手いため、何もできない。 「技あり!」 とられてしまった。しかしどうすることもできない。 同じような展開が続き、ついに、 「一本!それまで!」 …完膚なきまでに畳に叩きつけられた。 しばらく起き上がれないでいた。 頭を打ったせいではない。 ただしばらく、畳の上に仰向けになり、茫然と照明を眺めていた。 「終わったな」 自分が思うよりもずっと短い時間だったと思うが、 ずいぶん長い時間、そのままの状態でいた感じがした。 礼をして、試合場を後にした。 見ると、あの超可愛いうちのマネージャーさんがいた。 オレの試合を見てくれていたようだ。 「お疲れ様でした」 オレは、マネージャーさんの顔をまともに見ることができなかった。 その言葉を聞いた瞬間、悔しさがこみあげてきて、涙があふれた。 マネージャーさんに何も言葉を返せず、その場を後にした。 一人、廊下のベンチに座り、泣いた。 大した練習もしてこなかった。 それほど勝つことに懸けてきたわけでもない。 オレには悔しがるほどの理由もないはず。 でも、泣いた。 こうしてオレの最後の試合は終わった。 続く。