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堀古英司の「米国株式の魅力」

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2020.11.02
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新自由の女神


(この原稿は大統領選挙前々日の11月1日に執筆したものです)
予想されたことではありますが、選挙が近付くにつれてメディア報道は大統領選挙一色となり、これによって市場も上下する展開となっています。とりわけ10月初めにはトランプ大統領自身が新型コロナウイルスに感染するというビッグ・サプライズが飛び出した事で、ますます注目度が高まっています。しかし市場への影響を考えた場合、恐らく現在、市場は大統領選挙の結果がもたらす影響を過大評価していて、実はもっともっと大きな市場のサポート材料を見過ごしているように見えます。

まず選挙戦についてですが、2016年同様、メディアの9割は民主党候補支持の姿勢を示しているほか、世論調査を見てもオッズを見てもバイデン氏が優勢であることは間違いありません。さらに2016年の選挙で、サプライズとなったトランプ氏の勝利を正確に予想していたいくつかの指標も、今回はバイデン氏の勝利を予想しています。しかし2016年大統領選挙の経験から、市場には「やはり結果は蓋を開けてみなければ分からない」という不安が台頭しているようです。

これはS&P500の変動率指数に表れていて、大統領選挙4日前の変動率指数は38という高水準を示しています。もちろん市場は選挙のような不透明要因を嫌がるものですが、金融危機と時期が重なっていた2008年以外では、大統領選挙4日前の変動率指数は概ね20前後に過ぎません。ちなみに2016年でも22.5で、今回は歴史的に見ても、如何に投資家の不安心理が高まっているかが分かります。感覚的には10%強程度のリスクプレミアムが織り込まれている形となり、要すれば大統領選挙が終了し、普通に結果が判明するだけで、(どちらが勝利したかにかかわらず)その後10%強程度のリターンは期待できる状態となっていると言えます。

次にそれぞれの候補の勝利となった場合、株式市場にはどの程度の影響があるのでしょうか。両候補は様々な公約を掲げていますが、仮にそれがそのまま実現されると考えた場合でも、株式市場に大きな影響を与えるのは法人税率とキャピタルゲイン税率の変更くらいではないかと考えています。ただ法人税率とキャピタルゲイン税率の変更はいずれも、企業が株式で資金を調達する際の資本コストに影響を与えるため、影響は小さくありません。

例えば税引き前利益が100円で、1,000円で取引されている株式があったとします。現行の税制では、法人税率は21%、キャピタルゲイン税率が23.8%ですから、法人レベルで21円の利益が差し引かれ、残った79円がそのままキャピタルゲインに結びついたとすると、キャピタルゲイン税19円(79円の23.8%)が差し引かれ、投資家には60円の利益が残る事になります。この結果、企業が投資家から資本を調達しているコストは10%(100円÷1,000円)、投資家が得ているリターンは6%(60円÷1,000円)という事になります。

もしバイデン候補が勝利すると共に、上下院で民主党が過半数を取り、バイデン候補の提唱する法人税率28%への引き上げ、及びキャピタルゲイン税率最高43.4%への引き上げが実現したらどうなるでしょうか。キャピタルゲイン税を引いた後に投資家の元に60円残るためには、企業は106円(60円÷(1-43.3%))の税引き後利益を上げなければなりません。これは税引き前利益として147円(106円÷(1-28%))上げなければならないことになります。この結果、企業が投資家から資本を調達しているコストは14.7%(147円÷1,000円)となります。

要するに、バイデン候補が勝利して公約通りの法人税率、キャピタルゲイン税率が適用されるようになると、企業の資本コストは10%から14.7%に上昇し、いわば企業にとっては資本の「利上げ」が行われるような状況になります。この5%近い資本コストの上昇は株式にとって小さな問題ではありません。公約通りの税制が実施されるのであれば、やはり中長期的にはトランプ大統領の方が株式市場に優しいと言えるでしょう。

ただそもそも、アメリカの株式市場には退職金など非課税の資金、年金、外国人の資金などが大半を占めており、キャピタルゲイン税率が上記の通り適用されるのはごく一部の投資家のみと見られます。またキャピタルゲイン税率の上昇を見込んで株式を売却したとしても、その資金は再び株式市場に流入してくる性質のものと見られることから、キャピタルゲイン税率上昇の影響はそれほど大きくないと見て良いと思います。

この結果、弊社では法人税率とキャピタルゲイン税率の変更による中長期的な株式市場への影響については、12%程度と試算しています。現在の市場は、いわゆるトリプルブルー(大統領-上院-下院の全てが民主党)を既に6割程度織り込んでいますから、トリプルブルーの場合は株式市場にとって4.8%(12%X40%)の下落要因、トランプ又は議会いずれか共和党勝利の場合は7.2%の上昇要因となります。これに先の、選挙が終わることによるリスクプレミアム低下分を加えると、トリプルブルーでも選挙後は5~10%の上昇が見込める計算になります。

要するに重要なことは、これだけ騒がれている大統領選挙ですが、株式市場に影響を与える要因を積み上げていっても、たかが数%に過ぎないということです。そして現在市場は、このたかが数%しか影響を与えない「木」を注目し過ぎているように見えます。それでは「森」とは何でしょうか。それは今年3月以降実施されている超低金利政策であり、空前の流動性供給です。「森」の影響は中長期的に少なくとも数十%、場合によっては100%以上の株価押し上げ要因だと考えていますが、こちらは選挙のような不透明要素はなく、今後数年続く事がほぼ確実です。たかが数%しか影響が無い不透明な「木」ばかり見て、それを大きく上回る確実な「森」を見失わないことが重要な段階と考えています。

(2020年11月1日記)

新自由の女神






最終更新日  2020.11.04 00:29:31


2020.07.27
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先週の楽天証券21周年セミナーでは、事前に非常に多くのご質問をいただきました。興味深かったのは、これらご質問のほぼ全てが大きく、下記5つのテーマに当てはまるという事でした。ですので今回は、これら5つのテーマについて私なりの考えをお示ししておきたいと思います。 

     経済と株式相場の乖離について

最も多かったのが、来週発表されるアメリカの第2四半期GDPはマイナス35%予想、失業率も10%を上回る状況が続いている中、何故株式相場はほぼ高値を回復しているのか、というご質問でした。簡単に申し上げれば、株式というのは永久証券なので、如何なる経済ショックであってもそれが比較的短期のものであれば、本来株価に大きな影響があってはならない、という事になります。歴史的に見てみますと、リセッション時に株価が大きく下がるのはその通りなのですが、アメリカの場合ほとんどのリセッションは、需要を先食いしてしまってその後回復に何年かかるか分からない、という状況を嫌気するパターンです。その点で今回の新型コロナウイルスは恐らく、少し長めの短期的ショックという珍しいパターンなので、経済と株式相場の乖離を疑問視されている方が多くいらっしゃるのかもしれません。ちなみにこの点について、私は3月に相場が大きく下落する前からずっと申し上げてきており、むしろ株式相場を短期的ショックと結びつける3月の方が異常な状態だったと考えています。 

     二番底はあるのか

現在、S&P500指数は3月の安値から45%以上高い水準にあります。①の疑問や高所恐怖症もあって、この水準ではなかなか手が出ない、二番底があるならそれまで待とう、と考える方が多いのも理解できます。もちろん相場の事なのであらゆる可能性に対してゼロとは断言できませんが、私は限りなくゼロに近いだろうと考えています。というのは、安値を付けた323日の状況を思い出してみて下さい。感染者が爆発的に増加し、それに対する医療のキャパシティーが足りない、有効な治療薬も無い、ワクチンの開発など着手されていない、そもそもコロナの正体も分からない。経済活動はストップされ、生活の補償も無ければスーパーで生活物資も売り切れ続出、という真っ暗闇の状況です。逆に言えばこの先二番底が来るとすれば、これらの条件が全て整わなくてはなりません。同日FRBが空前の流動性供給に乗り出し、327日には2兆ドル超の経済対策が成立して現在実行中である事等も勘案すると、例え今後コロナ第二波が訪れようとも、再びあの水準を見る事は無いと考えるべきだと思います。 

     どのような業種が狙い目か

私は大きく5つのグループに分けて考えるようにしています。

A.       ほぼ無借金で、コロナがむしろサポート材料になる(ハイテク等)

B.       ほぼ無借金だが、コロナによる打撃は受ける(広告等)

C.       借金があり、コロナによる打撃も受ける(半導体、住宅建設、金融等)

D.      借金が多く、コロナにより大打撃(航空、ホテル、クルーズ等)

E.       コロナ前から厳しい(エネルギー、商業不動産等)

現在はAからCが「投資適格」で、コロナ感染状況によってより積極的に(AよりBBよりC)、と考える状況かと思います。米国政府の積極的なサポートにより、早ければ年内にもワクチンが利用可能になる見通しですが、そうなれば負債の状況を精査した上で、D.にも着手して良いかと思います。E.は長期投資には向いていないでしょう。 

     為替の動向

株式相場と違い、為替は経済動向、とりわけ雇用情勢を反映していく可能性が高いと考えています。何故なら為替の大きな変動要因は金利であり、金利の大きな変動要因は雇用情勢であるからです。金融危機時に失われた雇用は800万人強ですが、現時点でかなり取り戻したとはいえ、ネットで約1300万人が雇用を失った状態です。FRB2022年末まで現状の金融政策を変更しないと見通している通り、超緩和政策はかなり長く続くでしょう。金融危機後、ドル円は70円台を目指すことになりましたが、本格的な円高の進行は、20093月にアメリカが金融危機のピークを付けた後からでした。その点では当面、円高に対する警戒は強めておいた方が良いかと思います。幸い日米金利差は殆ど無くなっているため、為替のヘッジコストは気にしなくてよくなりました。米国株投資による為替リスクが気になる方は、状況に応じて各自で為替ヘッジされることをおすすめします。 

     大統領選挙の株価への影響

ざっくりとした予想になりますが、現在優勢とされているバイデン候補が法人税減税の解消を提唱していることから、バイデン勝利の場合S&P500指数の2021年一株利益は150ドル、トランプ勝利の場合は170ドルと予想しています。現時点ではバイデン勝利の確率が約60%なので、市場は2021年一株利益158ドル((170-150)*0.4+150=158)を織り込んでいる事になります。ここから、バイデン勝利の場合、S&P500指数は5%下落(1-150÷158)、トランプ勝利の場合、7.5%上昇(170÷158-1)という影響が推測できます。ただ逆に言えば、株式相場への影響はたかが数%程度だという事になります。2016年の大統領選挙結果があまりにサプライズだったので警戒する向きが多いのは理解できますが、このように考えると大統領選挙の影響を過大視する必要は無いように思います。

 

2020724日記)

新自由の女神






最終更新日  2020.08.02 16:57:10
2020.04.09
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“We cannot let the cure be worse than the problem itself.”
(治療が問題よりも悪くなってはならない)

これはアメリカの株式相場が安値を付けた323日の前後、トランプ大統領がツイッターで複数回に渡って発信したメッセージです。どういう事かというと、新型コロナウイルスは大きな問題だが、ロックダウンによって経済にそれよりも大きな問題をもたらしてはならない、という意味です。私を含め、このメッセージに安堵した人は多かったのではないかと思いますし、実際、323日以降株式相場が大きく反発している大きな要因の一つだと思います。 

今、医療現場や薬の開発、必需品・サービスの供給に携わっている方々は英雄であり、尊敬の念しかありませんが、同様に政治に携わっている方々も大変だと思います。何故なら、新型コロナウイルスという未知の敵に対して、感染拡大阻止を優先すれば経済面の不安を感じた国民から批判が出るし、逆の立場を取れば人の命を犠牲にして経済を優先するのか、という批判が出て、さらに後になってから結果論で批判するのも簡単だからです。 

とりわけニューヨークは中国・武漢よりも酷い状況となり、何よりも人の命を最優先しなければならない状況に陥りました。災害で言えば、災害後72時間の、全資源を人命救助に向けなければならない状態が、今回の場合は数週間続く見込みです。しかし災害時と同様、いつまでも自粛をしていては、国民生活の基盤である経済の方がやられてしまいます。災害は非常に不幸な出来事ですが、その後の自粛によって経済活動がストップしてしまえば二次災害に発展してしまうのと同様、人命救助を最優先する期間が過ぎれば、出来るだけ早く経済活動を元に戻さなければなりません。トランプ大統領が「その点は十分認識している」と世間に知らしめたのが上記ツイッターでのメッセージでした。 

幸い、ニューヨークでの人命救助のための医療資源のピークは48日に過ぎたようです(米ワシントン大学IHME予想)。全米ベースでも411日がピークとなる見込みで、今後トランプ大統領は徐々に経済活動を意識した方向に政策を転換していくと見られます。恐らく今月のどこかで経済活動正常化への道筋は示されると見られますが、上記の通り「人の命を犠牲にして経済を優先するのか」という批判をするメディアは必ず出て来るでしょう。しかし経済は国民生活の根幹であり、こちらも人の命そのものであるという事を忘れてはなりません。 

私はもちろん感染症の専門家ではないので私見になりますが、このバランスを取るには、政府に頼ることなく、民間の力で高齢の方と慢性疾患のある方を徹底的に守る以外方法は無いのだと思います。日本でも緊急事態宣言が発令され、39兆円(大々的に「108兆円」と発表するのは粉飾決算に近い行為だと思いますが)の経済対策が発表されましたが、財政に制約のある日本がいつまでも経済の負担を負えるはずがありません。新型コロナウイルスについてはまだ分からない事が多くありますが、少なくとも予防策としては風邪やインフルエンザと同様であり、そもそも普段から、高齢者や慢性疾患のある方にこれらの病気を移さないように気を付けなければならないのですから、今回を機に、民間ベースでこれを徹底するしかないのだと思います。それが出来れば経済を犠牲にする必要など無いのです。そして現在のような緊急を要する時期が過ぎれば、新型コロナウイルス対策は徐々にその方向に向かっていく可能性が高いと考えています。 

さてそれを前提に、「新型コロナウイルス後」の市場を考えてみたいと思います。ここ数十年で、市場には様々な「ショック」と呼ばれるイベントがありました。その中で今回の新型コロナウイルスを位置付けるとすれば、「少し長めの一時的ショック」に他ならないと思います。何故ならリーマンショックを含め、歴史的にアメリカに約10年に1回に訪れるバランスシート調整のような、需要を先食いしてしまってその回復に数年かかるような性質のものではなく、需要は一時的に人工的に止められているだけであって、これは新型コロナウイルスの収束と共に必ず戻る性質のものであるからです。 

もちろん一時的に失業率は急上昇し、経済成長率は大きく落ち込みますが、これらも新型コロナウイルスの収束を先行指標として回復することはほぼ確実であり、バランスシート調整のような厄介な問題ではありません。リーマンショック時のようなモラルハザードが無い分、景気対策も2兆ドルというとんでもない金額で実施できますし(アメリカのこの数字に粉飾決算はありません)、連銀はほぼ無制限の流動性供給に乗り出すことが出来ます。1日にダウが1000ドル以上も上下する状況が続く中、短期的な動向を予想する事にあまり意味は無いと思いますが、少し先を見た場合、史上最大規模の財政・金融政策が実行される中、株式が再び高値を回復するのに1年もかかることは無いのではないかと考えています。 

むしろこれだけ無制限に流動性が供給され、財政政策が伴っている中、遂にインフレが起こる可能性が高まってきたと見るべきでしょう。インフレ懸念から長期金利が上昇しても短期金利は比較的長い間据え置かれる可能性が高く、イールドカーブの勾配が急になり、不良債権の増加が懸念される金融セクターはむしろ狙い目かと思います。また世界的に積極的な財政・金融政策が発動され、通貨の相対的価値が下がる中、ゴールド(金)は高値を目指すのではないでしょうか。まだまだ落ち着かない相場展開が続くと思いますが、このように市場が冷静さを失っている時こそ、色々な所に意外な投資機会が提供されている段階でもあると考えています。 

202049日記)


新自由の女神









最終更新日  2020.08.02 16:58:52
2019.12.18
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毎年この時期になると、翌年の相場見通しについての質問をよく受けます。中でも最も多い質問が、「翌年のリスクは何か?」というものです。ここでそもそも、リスクの定義を明確にしておきたいと思います。一般に、多くの人にとってリスクとは「不利な状況に置かれる可能性」であり、投資においては「元本を割れる可能性」と理解されることが多いと思います。これに対して金融理論におけるリスクとは価格変動の大きさを指します。即ち、価格が下落することもリスクである一方、上昇することもリスクなのです。価格変動が大きいと元本を割れる可能性も高まりますから、その場合は一般に言われるリスクと同じなのですが、逆に上昇率が大きくなる可能性も高まるのです。市場に影響を与える要因が果たして「リスク」なのか、それ以外の要因なのか、は正しく判断しておかなければなりません。何故なら昨今、これらを混同しているメディア報道が多く、それによって多くの人々が誤解し、せっかくの投資機会を逃しているケースが非常に多いと感じているからです。

 

適正株価の算出に当たっては大きく4つの要素が必要です。まず分子に来るのが1つで当期のキャッシュフロー、そして分母に来るのが金利、リスクプレミアム、成長率の3つです。当期のキャッシュフローは算出時点では一定ですから、分母の金利、リスクプレミアム、成長率が分かれば株価は算出できます。このうち、金利とリスクプレミアムは大きいほど株価のマイナス要因、成長率は高いほど株価のプラス要因です。

 

例えば、日本は2015年から人口減少が始まっています。人口動態は生産性と並んで経済成長率に影響を与える要因ですから、人口減少が始まったことは日本の経済や株式にとって「リスク」なのではなく、成長率を下げる致命的な要因です。一方のアメリカは先進国の中でも珍しく今後長期にわたって人口が増加していく国で、これはアメリカ経済や株式にとって成長率を上昇させる要因となります。

 

それでは米中貿易問題は、「リスク」なのか成長率を上下させる問題なのか、どちらでしょうか?もちろん長期に渡って米中が完全に貿易を止めるような事態になれば、非効率性という点で、少しは成長率に影響があるかもしれません。しかしアメリカは貿易赤字国で、中国との貿易によって経済成長率が毎年2.2%分足を引っ張られているわけですから、プラスの面も小さくありません。この結果恐らく、米中貿易問題がアメリカの経済成長率に与える悪影響など、そもそもたかが知れているか、ほぼゼロに近いでしょう。要するに、米中貿易問題はアメリカの成長率に与える問題ではなくて、「リスク」に影響を与える問題なのです。良い時も悪い時もあって上下変動に影響を与える、そういう問題です。私は米中貿易問題が騒がれ始めた頃から繰り返しこのように申し上げていますが、この区別が出来ていないと、今のようにアメリカの株価が史上最高値に向かう過程は理解できなかったでしょう。

 

その上で、私が2020年に向けて「リスク」と考える要因を以下の通り、3つ挙げておきたいと思います。

 

第一に、やはり米中貿易問題です。この原稿執筆中に米中貿易交渉が第一弾の合意に至ったとの報道がありました。もちろん1215日に発動予定だった追加関税が回避されたのは市場に安心感を与えたかもしれません。しかしこの先を考えた場合、歴史も文化も全く異なる両国が第二弾、第三弾と次々に合意していく可能性を期待するのは、かなり無理があると思います。そもそも第二弾、第三弾が合意できないから今回第一弾のみの合意にとどまったのであり、この第一弾でさえ、今後中国による履行が確認出来ない等の理由で意味の無いものになる可能性もありますし、第二弾、第三弾の交渉が上手く行かない事によって、一旦回避されていた追加関税が発動となる可能性もあります。その間地政学的リスクによって両国間の関係が交渉に影響を与える事もあるでしょう。前述の通り、米中貿易問題がアメリカの成長率に与える影響は殆ど無いと思いますが、恐らく市場は今後、超長期間に渡って米中貿易問題と付き合っていかなければならなくなるでしょう。しかしこれは「リスク」ですから、米中貿易問題を気にして投資できないでいると、ずっとアメリカ株の上昇には付いていけないという事になるでしょう。

 

第二に、大統領選挙です。政治が市場に与える影響は非常に大きい一方で、選挙というのは蓋を開けて見るまで分からないという、市場にとっては非常に厄介なイベントです。20166月のように、イギリスのEU離脱(いわゆるBrexit)の是非を問う国民投票で、離脱支持がまさかの過半数となったり、同年11月には大方のメディアがクリントン圧勝と見ていたのに、結果はトランプ勝利となったりという事が起り得ます。2020年の大統領選挙に向けては、歴史的に現職有利という要因に加えて、民主党のまとまりの無さがあまりに目立つため、現時点で民主党候補勝利のチャンスは無いように見えます。しかしやはり選挙の事、蓋を開けるまで何が起こるか分からないので、世論や可能性が上下するにつれて、株式相場も上下することになるでしょう。繰り返しになりますが、これも選挙が終わるまでの「リスク」であって、成長率に影響を与える要因ではありません。

 

第三に、これはこの10年ほど、私が毎年必ず挙げるリスクは、「リスクを取らないリスク」です。リスクというのは価格変動の事ですから、確かに短期で買ったり売ったりする人にとっては重要なのかもしれません。人間は基本的にリスクを回避したい生き物ですから、放っておくとリスクを感じる時間を短くするために、短期売買に向かっていく傾向があります。しかし市場が効率的であれば、リスクの裏にあるのがリターンです。市場を動かす要因には様々なものがありますが、それが「リスク」だと判断できれば、長期で投資する限り、恐れるべきものではないはずなのです。少なくとも、日本で起こっている人口減少という致命的な問題ではないのです。その要因が成長に与える要因ではなく、リスクに与える要因と判断出来れば、それに向かう勇気を持たない事がリスクというのは、これまでもそうであったように、2020年も不変だと思います。

 

20191213日記)

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最終更新日  2019.12.18 05:43:29
2019.08.27
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世界でマイナス利回りで取引されている債券の総額は、815日時点で16.7兆ドルと、過去最高を記録しています。マイナス利回りで取引されているのは主に、スイス、ドイツ、オランダ、フランス、スウェーデンとヨーロッパの国債、そして日本国債ですが、とりわけマイナス利回りの先輩であった日本がこの春以降、どんどんドイツに抜かれていくのは非常に象徴的な動きでした。

現在ドイツの指標10年物国債はクーポン0%で100の額面に対して107台で取引されています。そうです、これは10年間利息がもらえない上に、10年後には7%元本割れとなる事が確約されている金融商品です。そして多かれ少なかれ、このドイツ国債のような状況の債券に、世界の投資家が16.7兆ドルもの資金をつぎ込んでいるという状況なのです。マイナス利回りで債券を買う理由は色々言われますが、簡単な話、キャピタルゲイン狙い。これは教科書通りのバブルです。よく「バブルは弾けてみないと分からない」と言われますが、これは珍しく「弾けなくても分かるバブル」でしょう。

ただバブルがいつ弾けるか、というのを予見するのは極めて難しいものです。またバブルに付き物なのが、もっともっと大きなバブルが造成されてからしか弾けない、というパターンです。さらに債券のバブルは、株式のバブルよりもかなりしつこいものになる傾向があります。例えば去年の今頃、「マイナス金利で取引されている債券の総額が8兆ドルにも上った」というニュースで驚いていたのが、1年経った今その倍以上となり、アメリカのGDPに迫る数字に上っているのです。

このような状況では、1.5%も利回りがもらえるアメリカの国債は、世界の投資家にとって非常に魅力的に映るでしょう。近年、世界中の資本はより自由に動き回るようになりましたから、ヨーロッパの国債利回りが低下すると、利回りの高いアメリカ国債に資金が流れると共にドル高になるので、結局ヨーロッパのデフレがアメリカに輸出される結果になります。こうして現在の国際金融システムでは、ある地域にデフレ傾向が出れば、それは金利や為替を通じて瞬時に他国に輸出される構造になっているのです。現在のアメリカ長期金利低下要因の殆どは、アメリカ経済ではなく、このようなヨーロッパをはじめとする世界からの資金流入という、需給要因によるものでしょう。

一方でアメリカ株式の「利回り」はとても魅力的な水準にあります。この30年ほど、S&P500指数の益利回り(純利益を時価総額で割ったもの)は概ね4%から7%の間で推移していますが、現在2020年予想ベースでこのレンジの上に近い6.3%で取引されています。益利回りと10年物国債利回りの差が5%以上開いたのは金融危機とギリシャ危機の時のみでしたが、現在それに近い4.8%の差となっています。またS&P500指数の配当利回りが10年物国債利回りを上回ったのは金融危機、ギリシャ危機、そして大統領選挙を控えた2016年後半の3回のみでしたが、今回再び配当利回り2%に対して10年物国債利回り1.5%と逆転現象が起こっています。そしてこのいずれのケースでも、その後株式は大幅に上昇したことを忘れてはなりません。

とりわけ大手銀行に至っては、6月末に発表されたストレステストでも明らかになったように、史上最も健全と言える財務状態にもかかわらず、配当利回りで約3%、自社株買いで約8%、合計11%近くの利回りが取れる状況です。もちろん短期的に株価が下落すればその利回りも減ってしまうのですが、例えばこのペースの自社株買いが10年続いたとしたら、8割方の株式は市場から無くなってしまうという異常なハイペースです。そして程度の差はあれ、アメリカ株式が現在置かれているのはこのような状況だと言えます。

市場は米中貿易問題の行方に振り回されていますから、今後もニュースによって株式相場は大きく上がる事も下がる事もあるでしょう。しかし短期的に株式の上下があったとしても、マイナス利回りの債券を買う投資家か、それとも「高利回り」の株式を買う投資家か、長期的にどちらに軍配が上がるか、時間の経過がどちらの味方をするかを考えればその結果は明らかだと思います。長期で考える限り、むしろニュースを見ない方が正しい投資判断が出来るのではないでしょうか。

2019827日記)







最終更新日  2019.09.06 03:53:44
2019.04.26
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 ここ数年、日本に行くたびに感じることがあります。それは、米国のリセッション(景気後退)を予想する人が驚くほど多いことです。理由を聞くとそのほとんどが単に「金融危機から10年を超えたので」というものです。確かに米国では歴史的に、おおむね10年に1回の頻度でリセッションが訪れています。しかしこれは私に言わせると、チャートでXX日移動平均線を上回ったとか、RSI(相対力指数)がどうだとか、テクニカルで経済を予想しているのと同じです。本当にテクニカル分析が当たったり、ぴったり10年に1回リセッションが来たりするのであれば、分析という仕事は楽で良いのですが、残念ながらそのような楽な分析に資本主義がご褒美を与えることはないと思います。

 リセッション予想をよく聞くようになったのは、2015年後半くらいだったと思います。金融危機からある程度時間が経っていることに加えて、当時よく理由として挙げられたのが中国経済の減速です。実際、当時は講演させていただく前に来場者からいただいた質問の多くが、米国のリセッションに関するものでした。ダウ平均株価の水準は当時1万8,000ドル近辺でしたが、現在はその1.5倍の2万7,000ドル近辺で取引されています。

 米国はこれまで、海外の経済要因でリセッションに陥ったことはありません。もちろんこれからそのようなケースが出てくる可能性はあるでしょう。しかし、今までなかったことが起こるためのハードルはかなり高いはずで、米国経済に大打撃を与えるようなイベントでもない限り、今後も海外経済が要因で米国がリセッションに陥ることはないでしょう。少なくとも米中貿易問題やBrexit(ブレグジット:英国のEU[欧州連合]離脱)が、海外要因として初めて米国経済をリセッションに陥れるイベントとは思えません。なのになぜ、日本には海外要因を必要以上に気にする人が多いのでしょうか。

 それは日本がずっと貿易黒字国であって、海外の需要に左右される経済体質にあるからでしょう。金融危機がまさにそうであったように、金融危機など米国のイベントなのに、その半年後には日本経済に大打撃をもたらしました。しかし、忘れてはならないことは、米国が貿易赤字国だという事実です。貿易赤字国であることは海外にモノを売るよりも買う方が多く、海外の景気が悪くなったら、むしろモノが安く買えて有利な立場になります。米中貿易問題は、昔起こったような「世界貿易の減少→大恐慌」を想起させ、メディアが読者を怖がらせ、クリック数や視聴者、購読者を増やすのに格好のテーマなのかもしれません。しかし重要なのは、米国が中国にモノを売っている金額は年間たったの1,300億ドルであって、19兆ドルの米国経済が米中貿易問題からどれだけの影響を受けるか、など数字で考えればすぐに分かることです。

 私は米国で、これまで3回のリセッションを経験しています。そのいずれもが、資産価格の下落(一方で負債額は一定)に伴うバランスシート調整でした。最近は経験していませんが、米国経済がリセッションに陥るもう一つの要因はインフレです。1970年代の石油ショックがこの代表的な例です。もちろん将来、米国経済をリセッションに陥らせる他の要因が出てくるかもしれません。しかし、米国経済の7割は個人消費なわけですから、バランスシート調整やインフレと並んで、個人が財布のヒモをグッと締めようと思える要因でなくてはなりません。現在の状況を見てみると、米国の銀行のバランスシートはこれ以上考えられないほど健全で、インフレも海外経済が不調なおかげでFRB(米連邦準備制度理事会)の目標である2%を下回る状況がずっと続いているので、リセッションを起こそうと思っても困難な状態です。もちろんいつかリセッションは訪れるのでしょうが、リセッションをずっと予想し続けるのは、長生きしている老犬を見て「いつか死ぬ」と予想しているのと同じだと思います。

 私はいつも「リセッションを伴わない株価の下落は買い」と申し上げています。この機会が訪れる典型的なパターンは海外要因です。1997~1998年のアジア危機、ロシア危機がそうでしたし、前述のような2015~2016年の中国経済減速もそうでした。2015~2016年はFRBが金利を据え置いていただけなのでまだマシですが、1997~1998年はFRBが金利を下げたために、その後、株式相場は吹き上がる結果となりました。今年に入ってFRBは当面金利を据え置く方針を示しましたが、私はむしろ、FRBがまた海外要因にだまされて、バブルが発生してしまわないかの方が心配です。海外経済が不振なわけですから海外の株式に魅力はないし、相変わらず日本やドイツ、スイスの国債はマイナス金利でも買われるという超バブル状態ですから、世界の多くの投資家にとって、比較的景気が良いのにFRBが金利を据え置く中で、米国の株式は魅力的な投資対象に映るはずです。そのため、今後世界の超債券バブルが米国株式バブルに移行していく可能性は想定しておくべきだと考えています。

 自動車、航空、住宅建設、金融など、米国経済がリセッションに陥れば打撃を受けると見られるセクターが、軒並み5~10倍の低PER(株価収益率)という、あたかもリセッション真っ只中にいるようなバリュエーションで取引されています。市場のリセッション予想は既に「懸念」でなく「期待」になっていると言っても過言ではないでしょう。ここまで来てしまえばむしろ、リセッション期待が裏切られるリスクの方が大きいと考えるべきです。米国経済は変わらなくても、市場がしばらくリセッションはこないと認識し、バリュエーションが正常化するだけで大きな上昇率となるだろうからです。

(2019年4月24日記)







最終更新日  2019.04.26 19:56:01
2018.12.05
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 124日の市場では、ダウ平均株価は約800ドルの急落となりました。米国債3年物の利回りが高く、5年物の利回りが低くなるという、長短金利の逆転が11年ぶりに発生。これが将来のリセッション(景気後退)入りのシグナルととらえられ、ジョージ・HW・ブッシュ元大統領追悼で翌日の市場が休場だったこともダウ急落を後押ししました。リセッションによって貸し出しがこげ付いたり、長短金利差の縮小、逆転で金利収入が確保できなくなるとの懸念から、特に銀行株セクターは軒並み5%近く下落しました。しかし、そもそもこの長短金利逆転、本当にリセッション入りを占うにあたって正しいシグナルなのでしょうか。

 確かに過去50年を振り返ると、米国債2年物と10年物の利回りの逆転が起きると、しばらくしてリセッションが訪れるというパターンが繰り返されています。ただ私はこういうパターンが観測できるとき、単に「長短金利逆転=リセッション」と決め付けるのではなく、なぜ長短金利が逆転するとリセッションが訪れるのか、きちんと理解することの方が重要だと考えています。 それでは長短金利が逆転するとなぜリセッションが訪れるのか? それはズバリ「銀行が貸し出しをできなくなる=経済に血液が回らなくなる」からです。

 ご存じの通り銀行というのは基本的に、短期の資金を調達して長期で貸し出すビジネスをしています。通常、短期金利が長期金利よりも低いので、これが銀行の利益につながります。しかし、短期金利が上昇し長期金利との差が縮小すると、銀行は貸しても利益が出ないので、貸し出しを控えるようになります。前段に長短の利回りが逆転すると「しばらくして」リセッションが訪れると申し上げましたが、こうして銀行全体に貸し出しを控える動きが広がり、それが経済に影響を与えるようになるのに時間がかかるので、リセッションは「しばらくして」訪れるようになるというわけです。

 これを理解した上で、米国債3年物と5年物国債の利回りや2年物国債と10年物国債の利回りが本当にリセッション入りのシグナルとなるかを考えてみたいと思います。結論から申し上げると、私は「たまたまそうなっただけと言えなくもない」と考えています。というのは現在の経済状況で、本当に銀行が貸出しを控えていく可能性はあるのか?ということです。米大手銀行の直近の財務諸表を見ると、おおむね、調達金利は1%弱、貸出金利は4%弱というのが平均的な姿で、米国大手銀行は3%近い金利差を確保できています。そして景気が好調なため、金利上昇にもかかわらず貸し出しは順調に伸びています。

 この3年近くでFF(フェデラル・ファンド)金利は2.25%上昇しましたが、銀行の調達金利はせいぜい1%弱の上昇です。その一方で貸出金利はほぼ政策金利に連動して上昇してきましたから、現在、銀行にとっては近年まれに見る、理想的な収益環境なのです。 

 大手銀行の総資産利益率は金融危機以降着実に上昇してきて、直近の決算ではJPモルガンで3.3%、バンク・オブ・アメリカで2.9%といずれも金融危機後の最高水準となっています。実際、その辺の米国の銀行に行っても預金金利はせいぜい0.5%しか付きません。しかし貸出金利は着実に上昇しているのですから、今、銀行の経営者は笑いが止まらないのではないかと思います。貸し出しを控えるどころか、「借りたいならいくらでも貸してやるよ」という状況でしょう。このような状況の中で近々リセッションが訪れるとはとても思えません。

 要するに重要なのは、2.8%近辺の2年債利回りでも3年債利回りでもなく、現在銀行が調達できている短期の金利水準は0.8%近辺なのです。そして、3%割れで推移している10年債利回りではなく、貸し出しできている金利の水準は3.8%近辺だということです。 この先、数回の利上げが織り込まれて高い水準となっている2年債や3年債の利回りを見るのもミスリードなら、銀行に貸出先がなくなって10年物国債でしか運用できなくなっている状況を想定するのもミスリードだということなのです。そして過去、このような国債利回りの逆転からしばらくして、リセッションが訪れたのは「たまたま」その後も金利の動きが行き過ぎて、銀行の調達、貸出金利に影響を及ぼす水準にまで到達したから、と考えるのが自然だと思います。

 株式相場が下落すると、人々は下落している理由を必死に探し始めます。「自分が知らない悪材料を先に知っている投資家が売ってるのではないか」と不安になるからです。そしてその不安はメディアに対する情報提供の需要増加という形で表れます。視聴者も購読者もクリックも増えるでしょう。メディア業界が下落局面を優先的に取り上げるのはこのためです。そういう点では「11年ぶりの3年物と5年物国債の利回り逆転」はそのように不安になった人々の需要を満たすための格好の材料だったのでしょう。

 しかしこのような偽のシグナルにだまされていては、投資家として長期的にリターンを上げることはできません。むしろ注目すべきは今回の銀行株下落によって提供されているバーゲンセールの機会だと思います。JPモルガンの時価総額の6%近くに及ぶ自社株買いと3%近い配当、バンク・オブ・アメリカの8%近くの自社株買いと2.2%の配当などなど。長期的投資の観点から見れば、これらこそ本物のシグナルだと考えています。

201812月4日記)







最終更新日  2018.12.08 04:54:33
2018.09.08
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米国株は歴史的にパフォーマンスの悪い時期を迎えています。20019月には同時多発テロ、20089月にはリーマンブラザース破たんという歴史的なイベントもありましたし、そうでなくても2011年秋にはアメリカ国債デフォルトの懸念が高まったり、2015年秋には中国株安を発端とした世界的な株安がありました。もちろんこのような、メディア的に分かりやすい下落要因もあるのですが、この時期はアメリカの税制が理由で、市場で実際に売りが出やすい時期というのが、第一の理由です。

というのは、アメリカでは12月末が個人所得の決算期末となっていますが、それまでに配当の支払い等を完了させるため、投資信託の決算期末が10月末に集中しています。投資信託会社は個人の税金負担を軽減するために、ポートフォリオ内で損益通算のための取引(含み益と含み損の出ている銘柄を同時に売却)を、それまでに積極化させるのが大きな要因とされています。今年はS&P500指数はこれまでで約7.5%の上昇となっていますが、上昇が一部のセクター・銘柄に集中しているということもあり、このような損益通算による売りが出やすい状況と言えます。

第二の理由として、この時期は2年に1回選挙前ということになりますが、今年は中間選挙があるのでそれに該当します。今回の中間選挙では、下院で民主党が過半数を奪回する可能性が高いと見られています。そしてこれは正に今起こっている事ですが、これを巻き返そうと、共和党も様々な過激な策を打ち出しつつあります。これに対して民主党も、トランプ大統領に対してなりふり構わず攻撃の手を強めています。このように、政治的な不透明感が高まりやすい時期であり、これは株式投資にとってはマイナス要因となります。

第三に、今月後半に予定されている利上げです。アメリカ経済が好調であることは間違いないのですが、だからと言って特にインフレ率が上昇しているわけではありません。むしろ新興国市場の問題もあってドルは上昇しており、これによって私が見ている5年物期待インフレ率は春以降低下傾向にあり、足元ではFRBの目標である2%を下回ってきています。市場では利上げはほぼ確実視されているようですが、利上げを数カ月遅らせたからといって何のデメリットも無いような状況で行われるわけですから、株式市場は「余計な利上げ」と捉える可能性が高いと見ています。

第四に、これはヘッジファンドの成功報酬に関わる税制なのですが、今年から成功報酬に対する課税の繰り延べが認められなったため、納税のためにヘッジファンドが利益の出ている銘柄を現金化のために売却せざるを得なくなるというものです。今年は3月末と6月末に向けて米国株式相場は大きく下落していますが、この税制が少なからず影響していたものと考えられます。とすると、恐らく9月末に向けても同じような動きが出る可能性があると見ておくべきだと思います。

第五に、これらの悪材料を吸収するようなサポート材料が、特に9月は見当たらない事が挙げられます。現在、アメリカの株式相場を支えている大きな要因は企業業績ですが、次回本格的に決算発表が始まるのは10月半ばです。どのような悪材料が出ていようとも、株価評価の本質である業績が良ければそれによって株価は上昇するものですが、そのきっかけがこの先数週間は見当たらないという状況なのです。

このように見てくると、今年もこの時期、調整局面が訪れる可能性が高いと考えざるを得ません。しかし私は同時に、この調整局面が米国株投資にとって絶好のチャンスとなる可能性が高いとも考えています。

というのは上記に挙げた米国株の調整材料は全て、10月に入れば順次無くなっていくものだからです。投資信託による損益通算操作は決算期末のギリギリまでやっているとは思えませんし、選挙直前になれば殆どの材料は相場に織り込まれるでしょう。利上げは必要とは思いませんが、本当にそうであれば長期金利が低下することによって株式相場のサポート材料となるでしょう。ヘッジファンドによる納税のための現金化は9月末がピークと推測されますし、10月になれば恐らく、前年比で今年最高の増益率となる決算発表が始まります。そして何と言っても、来年はトランプ大統領が任期3年目に入ります。歴代の大統領は再選を目指し、任期3年目に経済や株式相場を持ち上げてくる傾向が顕著です。

前号で米国株式のリスクはむしろ「過剰な上昇」だと記しましたが、こう考えてみるとそれが始まるのはそれほど先の話では無いのではないか、そうだとするとこの時期の調整局面はむしろ絶好の投資機会と捉えるべき、と考えています。

201895日記)







最終更新日  2018.09.08 00:38:56
2018.08.08
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米国の第2四半期GDP成長率(国内総生産の成長率速報値)は年率換算で4.1%と、約4年ぶりの高い伸びを記録しました。ブレの大きい純輸出が成長率を1%強引き上げた一方、設備投資がやや足を引っ張る形となりました。

 これはおそらく、昨年末に成立した減税法案の中で、設備投資減税の適用について、企業側が税務当局の通達を待っているのが要因と考えられます。税務当局の通達があると思われる秋以降は、減税のメリットを受けようと、企業が駆け込み的に設備投資に踏み切ってくることが予想され、純輸出に代わる米国経済成長の担い手となってくることでしょう。

 さて、このような米国経済好調の一因は、言うまでもなく、昨年末に成立した30年ぶりの大税制改革にあります。個人所得減税は今年1月から始まっているため税引き後所得が増加し、月を追うごとに個人の懐が豊かになっています。第2四半期は、個人消費だけで2.7%と高い成長寄与となりましたが、明らかに個人所得減税の影響が出始めているということでしょう。

 しかし、昨年末に成立した1.5兆ドルに上る減税の、約9割を占めるのは法人税減税です。これまで先進国で最も高い法人税率であった米国が、英国に次いで2番目に低い法人税率にまで一気に法人税を引き下げたことで、これまで法人税率の高さを理由に、米国を避けていた企業は米国でのビジネスを検討するでしょうし、米国から出て行っていた企業は米国にビジネスを戻すようになるでしょう。中長期的に見れば、このような大きな構造的変化が米国の成長率を引き上げる結果になるでしょう。

 通常、景気を良くするために実行される政策として、このような財政政策はもちろん大きな柱の一つです。しかし、直近のトランプ政権の経済政策を見ていると、他にも次から次へと刺激策が打たれていることが分かります。

 第一に、トランプ大統領就任直後から実施されている規制緩和です。とりわけ就任直後に出された大統領令13771によって、各省庁が新たな規制を一つ設けるごとに、二つの既存規制を撤廃しなければならない事になりました。規制緩和によってパイプラインの建設が促進され、評判の悪いオバマケアの規制が一部緩和され、金融規制が実質的に緩和されつつあります。規制の数で言うと、オバマ政権のピークから既に4割削減されてきており、上記大統領令によって、今後もこの傾向は続く見込みです。

 第二に、今、世間を騒がせている通商問題です。もちろん通商問題は悪化しない方が望ましいのですが、米国は定常的に貿易赤字の国。関税等で圧力をかけたところで、経済に与える影響はほとんどないと見られます。むしろ過去三年間、赤字によって、経済成長率は2015年で0.8%、2016年と2017年にそれぞれ0.3%引き下げられており、貿易赤字が減少すれば、それはそのまま、米国の経済成長率を引き上げることになります。

 今は米中貿易戦争として、市場の不透明要因となっていますが、もし将来、何らかの形で決着がつけば、不透明要因の後退と米国の経済成長率上昇によって、ダブルで市場のサポート材料になりえるということです。

 第三に、つい先月、トランプ大統領がメディアとのインタビューで「金利の引き上げは望ましくない」「ドルの上昇は望ましくない」と発言したことです。とりわけ財政政策に力を入れているような時にドルが上昇すると、その効果が国外に逃げてしまうので、なるべく阻止したい、という気持ちは分かります。しかし、一般に他の条件が一定であれば、金利を低くしドルを安くすれば、これらは景気の押し上げ要因になります。

 要するに、トランプ政権としては、昨年末に大税制改革によって財政政策を打ち出したのみでなく、規制緩和によってさらに景気を刺激し、通商交渉を通じて赤字を減らして成長率引き上げを目指し、金利もドルも上げさせない、という、強烈な景気刺激策を打ってきている状況だということです。

 前述の通り、第2四半期の成長率は4.1%と高い数字になりましたが、これらいずれの政策もフルに成長率に反映されている状況ではありません。今後、時間を追って成長率に反映されてくるとすれば、とてつもない景気刺激になるのではないか、そしてリスクは下方サイドではなく、むしろこれから大きく上方サイドに行き過ぎるリスクなのではないか、と思えてくるのです。

 そして、行き過ぎが金利や為替に反映されないとすれば、株価に反映されるしかありません。2009年以降、景気の拡大が続き「次のリセッションはいつか」との声が日増しに増える中、S&P500指数の2019年予想ベース株価収益倍率は16倍と、むしろ割安感があるくらいで、近々メルトダウン(大きな下落)が起こるというのは非常に考え難い状況です。唯一、メルトダウンがあるとすれば、それはメルトアップ(大きな上昇)があった後のみでしょう。

 現在、多くの人が想定していないからこそ、この先、むしろメルトアップのリスクを念頭に置いておく必要があると考えています。


(2018年8月3日記)







最終更新日  2018.08.08 05:08:05
2018.06.25
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あと3カ月弱でいわゆる「リーマンショック」から10周年になります。米国では歴史的におおむね、景気が良くなると金融規制が緩くなり、景気が悪くなった後に金融規制が強化されるというサイクルが繰り返されてきました。本来逆であることが望ましいのですが、やはり問題が起こっていない時にはなかなか金融規制には手を付けられないものです。リセッションに入って不良債権が表面化し、初めてその融資が不適切であったり違法であったりというのが判明し、関係者が逮捕され、その後その失敗を二度と繰り返さないように規制を強化する、というのが過去のパターンです。

 しかし、この10年間は過去のパターンとやや異なります。逮捕者が出なかったこともそうですが、不良債権の規模が過去と比べて格段に大きかったこと、そしてそれによって格段に厳しい金融規制が導入され、その状態がずっと続いてきたことです。皆さんご存知のいわゆる「ボルカ―ルール」もそうですが、それ以上に金融規制下で監督役を命じられたFRB(米連邦準備制度理事会)による質的な規制は非常に厳しいものでした。トランプ政権が成立したことで、それまでFRBで非常に厳しい監督をリードしてきたタルーロ理事は2017年4月をもって辞任となりましたが、その後も目に見えて金融規制が緩和されるということはありませんでした。

 しかしその状況が、今週6月28日をもって変わろうとしています。これはトランプ政権下で金融規制のトップに就任したFRBのクォールズ理事のもとで、初めてストレステスト結果が発表される日だからです。

 すでに第一弾のストレステスト結果は6月21日に発表されました。それによると、経済成長率がマイナス8.9%、失業率が10%に上昇、ダウ平均が60%以上下落するという、10年前の金融危機を超える大リセッション入りするというシナリオの下でも、大手35行は全て健全性を維持できる、という結果となりました。これは逆に言えば、10年の金融規制が如何に厳しいものだったかを示すもので、端的に言うと、金融機関に無駄に余剰自己資本を積ませている状態がずっと続いてきたことを意味しています。

 6月28日に発表されるストレステスト結果では、各金融機関がFRBに提出した資本計画が承認されるかどうかが判明します。金融機関は軒並み過剰自己資本の状態ですので、承認されれば、少なくとも1年分の利益によって積み上がった自己資本は全て株主に還元されることが予想されます。現在、米国の大手行の株価収益倍率は10~12倍ですが、大手行の株主である限り、この逆数である8.3%から10%が今後毎年得られることになるというわけです。ちなみにこの8.3%から10%のうち、配当で得られるのが2.5%前後、残りが自社株買いによって還元されていくことになると見ています。

 6月22日時点でS&P500指数は年初来3%の上昇となっているのに対して、米国の金融セクターからなるETF(XLF)は逆に3%の下落となっています。前述の通り、米国の大手行の株価収益倍率は10~12倍と割安ですが、割安に据え置かれている理由の一つは、生まれた利益が本当に株主の手に渡るかどうかが投資家にとって不透明だからでしょう。

 しかし6月28日にストレステストの結果が発表された後にははっきりします。10年物国債の利回りが3%を割っている時に、8.3%から10%の利回りというのは、リスクを勘案しても魅力的に見えます。魅力的すぎるので恐らく、株価が上昇することによって適正な利回りに収束すると見るのが自然でしょう。

 金融機関をサポートするもう一つの材料は昨年末に成立した法人税減税の影響です。金融機関は法人税減税のメリットをより多く受ける可能性が高く、その分税引き後利益が増えて自己資本が増加、株主還元を実施しやすい状況になります。また法人税減税によって米国全体の企業の税引き後利益が増加しますので、金融機関の貸出先の自己資本増強にもつながり、与信リスクが低下するという側面もあります。

 一部には金融危機から10年、そろそろまた訪れるのではないか、という声も聞かれます。しかし、金融危機時の大手金融機関のレバレッジは30~40倍、現在は上記の通り、せいぜい10倍。今は金融危機を起こそうと思っても起こせない状態なのです。

(2018年6月22日記)







最終更新日  2018.06.25 22:52:16
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