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2006年01月03日
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2005年6月3日


■プロスペクト理論

 プロスペクト理論はノーベル経済学賞を取ったダニエル・カーネマンと共同研究者だったエイモス・トヴァスキー(残念ながら故人です)によって体系化された理論で、不確実な将来の意思決定に於いて、人間が必ずしも合理的に行動しないこと、特に参照点といわれる自分が意識している点(たとえば株式の取得価格がしばしばこれになります)の上下で行動が変わることなどを説明する、行動ファイナンスの代表的な研究成果です。

 プロスペクト理論のエッセンスを簡単にまとめると次の通りです。
(1) 結果に対する価値評価は参照点よりも得した状態でプラス、損した状態でマイナスに評価されるが、一単位の損得の増加に対する評価の絶対値は、損得の絶対値が大きくなるほど逓減する。
(ex.)ある人にとってある株の買値である1000円が「参照点」だとします。1000円で買った株が1010円になることの10円分の喜びの増加は、1100円が1110円になる時の10円分の喜びの増加よりも大きく、これはさらに1200円が1210円になる時の10円分の喜びよりも大きい・・・といった傾向があるということです。


(2) 参照点付近の価値評価の変化は、参照点よりもプラスの領域の1単位の得よりも、参照点よりもマイナスの領域の1単位の損の方がかなり大きい。
(ex.)1000円の株が1050円になる50円分の喜びよりも、950円になる悔しさの方がずっと大きい、といったことです。元本が参照点の場合、参照点よりもマイナスの領域では、元本の回復を強く願うということです。


 (1)と(2)をまとめると、次の図のような価値関数(Value Function)と呼ばれるグラフが描かれます。この歪んだS字のようなグラフは大変に有名です。

第八回 図1

(3) 将来の確率について、比較的小さな確率(たとえば0.1とか0.2)を過大評価し、大きな確率(たとえば0.7とか0.8)を過小評価する傾向があり、また、0と1の近辺で価値評価が急激に大きく変化する(「絶対」への過大なこだわりといえます)。
(ex1.)たとえば忘年会の抽選会のような場で、10人に1人しか賞品が当たらない高額景品のクジに確率以上の期待を掛ける一方、10人中9人は当たる低額商品のクジには外れの確率が気になって必要以上の不安を抱く傾向がある。
(ex2.)現実には銀行破綻の確率が小さくても、預金保険の上限額を超えた預金について元利が保証されないことに対する補償を破綻確率に見合う以上に大きく求めたい気分になる。つまり、絶対安全の「絶対」に強くこだわる傾向がある。

 プロスペクト理論で説明されるのは、たとえば投資家の投資元本へのこだわりです。
 たとえば、一般的な投資家は、1000円で買った株が950円に値下がりしたような状態では、客観的にその状態でその株式がそれほど有望と思えなくても、元本を回復する可能性に対する価値評価が高いため、「何とか1000円を回復して欲しい。そうしたら売りたい」といった気持ちになって売却が遅れがちです。いわゆる「損切り」が遅れがちな理由はこの理論で説明できます。
 また、参照点のプラス側とマイナス側でリスクに対する反応が異なることも重要です。たとえば自分の買値よりも持ち株の株価が値上がりしている場合には株価の変動リスクを嫌う傾向(これはノーマルなリスク回避です)がありますが、買値を割っている場合には「損を取り戻せる可能性があるとして」値動きの乏しい状態よりも、大きな値動きのある状態を投資家が好む傾向があります。これは、伝統的なファイナンス理論からすると、正しくないとされる心理です(少なくとも儲かっているときのリスク回避と一貫していません)。
 損をしているときと、儲かっているときで、投資態度を変えずに、その時々に合理的に行動するべきだ、というのが投資家の本来あるべき姿で、伝統理論は基本的に投資家がそのようなものであることを前提としてきました。
 ここで、行動ファイナンスは投資家の「反省」に役立ち、伝統的な理論の投資家行動がその修正の参考になる、ということがいえそうです。


■後悔回避、オーバーコンフィデンス、メンタルアカウンティング

 行動ファイナンスには、認知心理学の知見を使った投資家行動の研究が豊富にあります。いろいろな言葉があり、それらの中には意味が重複するものもあったりして、体系的にご紹介するのは大変なので、特に投資家の参考になると思われる概念を幾つかご紹介します。
 まず「後悔回避」といわれる現象があります。これは、人間が後悔することを非常に嫌い、将来後悔する可能性を小さくしようとすることに対して必要以上に(客観的な確率から考えられる必要以上に、という意味です)コストを掛ける現象です。後悔回避で説明される現象は数多くあります。
 たとえば「ドルコスト平均法」はこれで別段リスク・リターンが改善されるわけではなくとも、「最高値で買ったという後悔を将来しないで済む」あるいは「自分はルールに基づいて買ったので、将来損をしても、自分の判断を後悔するのではなく、このルールが悪かったということにできる」といった理由でしばしば採用され、同一商品を買い続けることのリスク集中効果が過小評価されることがあります。
 また、投資信託などのファンドマネジャーが必ずしも稼いでくれるという実績がないのに、ファンドマネジャーにお金を預けるのは、「じぶんがやっても同じくらい儲からないなら、他人を責めることが出来る方が気楽だ」という心理が働いているからだろう、などという研究もあります。
 「オーバーコンフィデンス(自信過剰)」も興味深い現象です。投資家についていうと、投資家は、自分の気持ちや判断と将来の株価などの動きを、実際にある以上の因果関係で結びつけがちだという現象です。これは投資家の過剰な売買(自分の売買で損益が改善する可能性を過大評価する)などを説明するのに使われています。
 また、オーバーコンフィデンスは、女性よりも男性、素人よりもその分野のプロの方が強いと言われています。たとえば、為替レートの予測は素人もプロも同じくらい当たりませんが、将来の予想をレンジ(範囲)で問うと、プロの方が素人よりも狭いレンジで答えがちです。しかし、レンジの中心の当たり具合を評価するとプロと素人で統計上有意な差がないことが多いといった現象がこの「オーバーコンフィデンス」で説明されます。投資信託などを選ぶ際に、平均よりも良いアクティブ・ファンドを「事前に」選ぶことが出来ると漠然と考え勝ちなのもオーバーコンフィデンスの好例です。
 「メンタルアカウンティング(心の会計)」という現象も有名です。これは、本来価値に差がないはずのお金の有難味が、収入の名目や使途などで別々に評価されがちな現象です。たとえば月給で高額なフランス料理を食べるのは贅沢だと判断しても、競馬で当てた払戻金で食べるのは「まあいいや」と思ってしまうような現象がこれに当たります。経済合理的には、稼いだ手段に関わりなく同額のお金の価値は同じの筈ですが、収入の名目などによって「心の中の会計科目」がちがうかのごとくに処理されることが頻繁にあります。
 投資の世界では、インカム・ゲインとキャピタル・ゲインに対してしばしば評価の差があることはメンタルアカウンティングの例でしょう。配当に対して(たとえば増配に対して)、時に過大とも思える評価があることや(メンタルアカウンティング以外の理由もありますが)、毎月分配型の投資信託に対して経済合理的に考えると異様なニーズがあることなどは、メンタルアカウンティングである程度説明できる現象でしょう。


■「行動ファイナンス」以後の研究方向

 筆者は、学界の動向を十分にフォローできているわけではありませんが、行動ファイナンス研究には今後三つくらいの発展の方向性がありそうに思えます。
 一つは、「理論モデル」としての数学的精緻化です。これはアメリカでのファイナンス論文の書かれ方を考えると自然に起こりそうな現象ですし、理論の前提条件や論理的構造が明確になるというプラスがあります。もっとも、数学的な精緻化は表現方法の改善であって、それ自体が事実の発見や説明そのものを前進させるもののようには思えません。
 もう一つは、認知心理学のさらに基礎となっている脳の研究との関わりです。たとえば人間の時間選好率(現在の価値と将来の価値を比較する際の利率のようなもの)に関する判断に一貫性がないことに関して、近い将来と、遠い将来について判断する脳の部位が違うらしいことや、意思決定には理性的な計算よりは感情が大きく関わることなどについて、あるいはギャンブルに嵌るメカニズムなどについて、ファイナンスを含む社会科学の脳の研究による基礎付けが海外ではもの凄い勢いで進んでいるようです。行動ファイナンスの基礎理論の相当部分が、今後、脳の研究によって裏付けられるようになりそうです。
 最後の一つは、経済の倫理的研究との関わりです。行動ファイナンスは、人間が、伝統ファイナンスのような意味で合理的に行動できないことを研究対象としていますが、こうした人間像が深く研究されるようになると、たとえば、これまで概ね合理的な投資家を前提としてきた、証券市場に関する規制の考え方なども書きかえられる可能性があります。政策提言に活かされる可能性があることもあって、人間にとって何がフェアかといった経済倫理の研究がホットなテーマになってきているように思えます。


以上





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最終更新日  2006年02月10日 01時06分04秒
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