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2006年01月04日
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2005年6月17日

■毎月分配型ファンドの行動ファイナンス的解釈

 「ほとんどいかなる想定下にあっても、毎月分配型のファンドを買うことは合理的ではない」と申し上げましたが、実は、ある外資系の投信会社の社長さんが、筆者のこうした意見を雑誌で読んで、「ヤマザキは間違っている。現に我々のファンドを含めて、毎月分配型のファンドはよく売れているのだから、これは、投資家のニーズに応えた良い商品なのだ。顧客こそが正しい」というようなことを言ったと知人から伝え聞いたことがあります。
 この社長さんが納得してくれるかどうかは分かりませんが「毎月分配型の外債ファンドは、ダメな商品ではあるが、よく売れることは不思議ではない」という理由について、以下に説明してみたいと思います。
 毎月分配型ファンドが売れているという現実を説明する、行動ファイナンス上の理由は筆者が思いつく限りで四つもあります。それぞれ専門用語を並べると(数式は無いのでご安心下さい!)以下のようになります。(1)メンタルアカウンティング(心の会計)、(2)代表性のヒューリスティックス(及び認知的不協和)、(3)プロスペクト理論、(4)時間選好率の歪み、です。

(1) メンタルアカウンティング(心の会計)
 「メンタルアカウンティング」とは、「心の会計」などと訳されますが、お金が入ってくる形(名目)や出て行く形によって、同じ金額の損得でも異なった価値であるかのように感じる心理的な判断の歪みのことです。
 たとえば、月々の給料を使って一人5万円の寿司を食べに行くのは高いと思って行かずにいても、宝くじや競馬の馬券が当たったというような収入であれば、この寿司屋に行って食べてもいいと思う、というような心理はメンタルアカウンティングの一例です。同じ寿司に対して5万円ですから、収入形態の如何によって判断が変わるのは、経済合理的にはおかしいということになりますが、この気持ちは筆者も良く分かります(ここのところ大当たりが無いのですが・・・)。
 毎月分配型のファンドにあっては、基準価額の増価ではなく「分配金」であることによって、(1)運用で稼いだお金のようなイメージがあり、(2)運用で増えたものだから使ってもいいと思いやすい、つまり(3)分配金での収入は気持ちよく使える有り難いお金だ、というイメージになっているのではないでしょうか。

(2) 代表性のヒューリスティックス(及び認知的不協和)
 次の心理はなかなか微妙ですが、安定的に分配金が入る運用は安定的な(低リスクの)運用だという、一種のステレオタイプなパターン認識があるのではないでしょうか。
 安定的に分配している投信、安定的に配当している会社、といったものが相対的に安定的だというのは代表的なサンプル(たとえば株式一般に対する電力株)から類推できることですが、毎月分配型ファンドの顧客は、毎月の分配金が安定していることで、運用も安定的なのだと錯覚しやすいということがあるでしょう。
 しかし、現実には、基準価額は(ほぼ必然的に下げ基調ですが、これに加えて)為替リスクを取っていることもあって、相当程度変動しており、決して安定した運用とは申せません。しかし、ここでは、いったん安定的だというイメージを持ったものに対して、それが不安定であるという事実を無視するような心理が働いているように思えます。相矛盾するように見える二つの事象に対して人間の認識が混乱することを「認知的不協和」と総称しますが、判断が歪んだり、非合理的な行動を取ったりすることがしばしばあるとされています。毎月分配型ファンドの場合は、その顧客が、「毎月安定に分配できる安定的な運用」という当初のイメージに相反する「基準価額の変動が示唆する運用リスク」という認知対象に対して、認知的不協和を起こした際に人間が取る典型的な反応である「無視」あるいは「軽視」をもって対処しているといえるのではないでしょうか。

(3) プロスペクト理論
 行動ファイナンスの代表的な理論的成果の一つであるプロスペクト理論によると、参照点(たとえば株式投資の場合は自分の買値が、参照点=こだわりのある価格、になることが多い)の近くでこれを下回った領域にあっては、人間がリスクを好むような判断を下す傾向があるとされています。
 たとえば、1000円で買った株が980円に値下がりした場合、980円近辺でじっとしているよりも、日々上下に20円、30円といった動きがある方が(買値を回復する可能性が大きくて)いい、と思うような感覚に共感される投資家はいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、これは原則的に価格に関係なくリスクを嫌わなければならないとする伝統的なファイナンス理論の前提とは相容れない感覚です。
 毎月分配型のファンドは、殆どが運用で期待できる自然な利回り以上の分配を行うために基準価額が元本割れしやすいわけですが(殆どのファンドでそうなっています)、この場合に、外債ファンドの場合主に為替リスクですが、リスクがあって基準価額が上下しているということが、むしろ顧客にとって気休めを提供している面があると思います。
 意図的にこのような商品設計をしたのではないと推測しますが、筆者は、この点に気づいた時、毎月分配型ファンドは実に投資家心理のツボを心得た商品だと感心した覚えがあります。

(4) 時間選好率の歪み
 時間選好率とはある時点と別の時点の経済価値を較べる際の価値判断を表す数字で、通常利回りの形で表現されます(同金額なら近い将来のお金の方が遠い将来のお金よりも価値が高い)。伝統的な経済理論では、これがほぼ一定で安定していると考えられることが多く、実際に、数日間のお金の前借りのために、2、3ヶ月分の金利を払う(数日の時間選好率が長期の時間選好率の何倍にもなる)というような取引を繰り返すと、あっという間に貧しくなってしまいます。しかも、通常は、市場での金利形成を表すイールドカーブは長期の利回りの方が高く、短期の方が低くなっているのです。
 しかし、最近の研究では、普通の人間は、短期の金銭的リターンと長期の金銭的なリターンについて、時間選好率に極端な開きがあり、端的に言って、目先のお金を得ることに対して非常に大きな価値を認める(対価を払う)一方で、将来の時点の差による金銭価値についてはイールドカーブ並みの冷静な判断をすることが指摘されています。ちなみに、この現象に関しては、人間の脳の働きによるものではないかという研究が最近発表されています(たとえば「サイエンス」の2004年10月15日号に“Separate neural systems value immediate and delayed monetary rewards”という論文が載っています)。
 毎月分配型のファンドは言うまでもなく、目先の金銭的報酬を提供する仕組みです。


■行動ファイナンスの体系的悪用?

 以上に見るように、毎月分配型の外債ファンドは、ファイナンスに関する人間の非合理的行動の原因を探る行動ファイナンスの研究成果を踏まえて見てみると、「売れても不思議のない商品だ」と考えられます。
 しかし、このファンドは、マーケティング上、人間の錯覚を複合的に、何ともあざとく利用しています。
 この種のファンドを売っている運用会社や金融機関は自分達が儲かるという意味において経済合理的ですが、これを買う人(あるいは消極的ではあっても勧める人)は、経済合理性の観点では相当に「恥ずかしい」と言っていいと思います。
 筆者の推測するに、毎月分配型ファンドを初期に作った人たちは、このような行動ファイナンスの知識を持って、これを利用したのではないと思うのですが、毎月分配型ファンドに限らず、最近の金融商品の開発とマーケティング活動は、行動ファイナンスをかなりの程度意識的に活用しているのではないかと思える節があります(たとえば、元本確保型やリスク限定型と称する投資信託はプロスペクト理論を利用し、成功報酬型のヘッジファンドはフレーミング効果を利用しているように思えます)。
 行動ファイナンスの(敢えて言えば)悪用は、マーケティングをする側から見ると人間心理の研究を利用した賢い行動ですが、金融商品の場合は、インプットがお金で、アウトプットもお金なので、誰がどれだけ儲けたか・損をしたかが、通常の商品よりも露骨に分かりますし(従って、後から気がつくと悔しい!)、何といっても金額的な影響が大きい傾向があります。
 マーケティングをする側の狙いと手口を知って、損な投資をしないように心掛けたいものです。個々の顧客や顧客に対するアドバイザーが賢くなることによって、毎月分配型ファンドのような下らない商品(取扱い者には不本意でしょうが、その説明は本稿で十分だと考えます)が減って、もっと投資家にとって良い商品で競争が行われるようになって欲しいものだと思います。


以上





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最終更新日  2006年02月10日 01時17分14秒
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