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山崎元のホンネの投資教室

2006年05月02日
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■確定拠出年金の損得

 日本の法律に、「401k」という言葉はどこにも出てこないのだが、確定拠出年金は「(日本版)401k」と言うと通りがいい。政治・経済・文化いずれについても、我が国はアメリカの影響を強く受けており、年金の世界も例外ではない。日本版401kの普及ペースを速いと見るか、遅いと見るかは、立場の違いで分かれるかも知れないが、それなりに普及が進み、加入者が拡大していることは事実だ。
 年金問題については、公的年金、企業年金両方について言いたいことは色々あるのだが、とりあえず、確定拠出年金に関する得失は、(1)これまでの確定給付の年金よりは損だが、(2)自分で貯蓄・投資するよりは得になっている(可能性が大きい)、というくらいに要約できるだろう。
 はっきり言ってしまうと、これまで確定給付の企業年金(厚生年金基金など)があって、これを廃止して、確定拠出年金に移行した企業に勤める人は、こと企業年金だけを見ると、損をした公算が大きい。なぜかというと、確定給付の年金は、かつては5.5%程度を想定運用利回りとして制度設計されていたので(この想定利回りを「予定利率」という)、最近の、長期金利でも2%に満たないような状況下で、加入者側はリスクを取らずに、有利な運用利回りを保証されていた。この条件を奪われて、確定拠出年金にラインナップされた確定利付きの商品で運用したのでは、将来の貯えは全く足りないし、さりとて、かつて並の高い運用利回りを目指すためには、かなりのリスクを自分で取らなければならない。
 幸か不幸か、日本の年金に関する制度は、アメリカの場合ほど既得権に対する意識が強くないので、これからの掛け金分だけでなく、過去の掛け金分、更に場合によっては、既に年金額を裁定された受給者の分に至るまで、100%の同意を得なくても、加入者にとって不利な方向に変更可能だ。また、労働組合の編成が主に企業単位なので、企業側は、組合を取り込みやすく(多くの企業で、組合幹部は出世コースの一つであり、経営者に協力的だ)、この組合と合意することで、形式上加入者との合意が出来たので、制度変更が容易だった。こと年金に関しては、組合などない方が、労働者の権利を守りやすかったケースが多々あったのではないかとも思える。
 ただし、組合も含めて、現役の加入者たちが、確定給付の企業年金の廃止や削減に応じたのは、年金だけを守っても、年金によって企業の費用が圧迫されると、将来の給与や賞与が圧迫されて、別の場所で損をすること(労働者の中でも、特に、若い世代が損をする)が理解されたからだろう。また、場合によっては、給与の伸びが抑えられるだけではなく、企業の存亡までもが危うくなる、という切迫感が存在した企業や時期もあった。法的、慣習的には、年金が、給与の後払いだと100%認識されているわけではないが、経済実態としては、年金と給与はつながっている。
 過去の確定給付の年金よりも損なのだと聞くと、確定拠出年金に対するやる気が削がれるかも知れないが、それでも、掛け金が課税所得から控除されて、運用益に対する課税が繰り延べされる形で、積み立て運用を行うことが出来る確定拠出年金での運用は、課税後の手取り所得の中から積み立てて、運用益に課税されながら行う運用よりも、圧倒的に有利だ。適用される税率によって有利さの程度は違うかも知れないが、制度を味方ににつけて将来の備えを作る方がはるかに得であり、全くの自助努力で将来に備えるのはなかなか大変だ、ということがいえる。
 また、見方を変えると、確定拠出年金も含めて、制度としての「年金」は、個人が将来のために積み立て運用を行うことを、「望ましいこと」と考えて、税金でサポートする仕組みだと言える。運用や引き出し方などに制限が付けられる根拠は、納税者のコストによって支えられているからだ、と考えられる。


■確定拠出年金の運用に関する最大のポイント
 ある意味では、旧来の確定給付年金の運用リスクやコストに関する負担を、個々の加入者が引き取ったといえる確定拠出年金だが、制度として十分なものであるかというと、必ずしもそうは言えない。来年度が制度導入後5年目になり、確定拠出年金法も見直しのタイミングとなるので、幾つかの問題点については、たぶん、今年の秋くらいから意見の集約が始まって、来年の通常国会での改正案通過を目指して、制度の改定が動き出すことが期待される。
 考えてみると、厚生年金基金などでの、確定給付年金の運用に関しては、年金基金全体のALM分析を行ったり、運用ガイドラインを定めたりするなど、各種の厳格な手続きが求められたが、老後資金の大切さも同じなら、運用の難しさも同じなのだから、本来なら、確定拠出年金の運用にも少なくとも同等程度の周到さが用意されていなければならないが、現状では、およそそのレベルに達していない。
 なお、運用ポリシー決定の難易度だけを考えるなら、資産サイドのアセット・アロケーション(資産配分)の難しさは年金基金と個人で同じだが、負債サイドに関しては、年金基金はある程度将来のキャッシュフローが読めて、定型化されているのに対して、個人の事情は個人とその家計の状況によって多様であるから、金額が小さいとはいえ、問題としての難しさは、個人の運用の方が上であると言って間違いない。
 さて、今回は、確定拠出年金の運用に関する、見落とされがちだが、最大のポイントを一点指摘しよう。それは、「確定拠出年金の運用を、個人の資産運用全体の一部として認識して、全体を最適化する」という考え方だ。
 もともと、日本の企業年金の多くは、退職金の一部を年金化したものであるし、現実問題として、老後の生活資金の全てを、確定拠出年金でカバーしようとするケースはほとんどないだろう。すると、個人は、自分の資産運用全体について考えなければならない。
 仮に、自分の運用資産について、債券・預金などの安全資産を50%、株式などのリスク資産を50%という資産配分計画が最適だと考えた個人がいるとして、この人は、自分の確定拠出年金の資産配分をどのようにするといいだろうか。
 この場合、よくありがちな誤りは、安全資産と危険資産に50%ずつ配分する選択である。なぜかというと、これでは、先に確定拠出年金のメリットとして挙げた、運用益に対する課税繰り延べのメリットが十分に生かされない。やや極端だが、仮に、安全資産、リスク資産の期待利回りがそれぞれ1%、10%とすると、確定拠出年金の外で運用するなら、課税が20%で共通の場合、前者に対して運用元本の0.2%、後者に対しては2%の税金がかかるから、リスク資産はできるだけ確定拠出年金に割り当てて、この税金を少しでも多く節約することが得なはずだ。現在、一時的に、株式や株式投信に対する課税が10%に軽減されているが、この場合でも、リスク資産部分の運用は、可能な限り確定拠出年金に割り当てるのが得なはずだ。
 この関係は、それぞれの運用対象資産の期待リターンと運用益に対する課税の条件で変化するが、制度のメリットを十分活かすためには、重要なポイントだ。
 しかし、現実の確定拠出年金の運用商品のラインナップを見ると、バランス型と呼ばれる、株式・債券・外貨建て資産などをミックスした商品を複数ラインナップするなど、加入者に確定拠出年金の中だけに意識を集中させて運用商品を選択させるようなケースが少なくない。これは、金融機関側の商品企画者が運用に関して正しく理解していなかったり、確定拠出年金の販売を簡単に行おうと意図したりすることによって発生している現象だと思われるが、好ましいことではない。
 確定拠出年金に付随する投資教育の内容を見た場合に、個人の運用計画全体と、確定拠出年金部分の運用の関わりについて、上記の点に触れていないものがあれば、これは全く不十分であり不出来だ。商品ラインナップが適切であるかどうかという点と共に、お勤めの会社などで、確定拠出年金が利用可能な読者は、この点をチェックしてみて欲しい。
 確定拠出年金で、どう運用すればいいかに関しては、また、別の機会に書いてみたいと思っているが、制度の趣旨と共に、まずは、上記のポイントについて、ご理解頂きたい。本来は、確定拠出年金の運用計画の検討が、個人の生活設計と資産運用全体を見直すきっかけになることが望まれる。






最終更新日  2006年05月02日 19時24分38秒

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