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山崎元のホンネの投資教室

2006年05月19日
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■ゼロサム・ゲームのリスク・リターン

 外国為替については、誤解が多い。プロでも、株式投資から投資の世界に入った人は、為替リスクや為替レートの決定について、誤った考え方を持っていることが少なくない。
 投資を考える上で、為替リスクに関する誤解で最大のものは、為替リスクに関して株式の場合などと同じような意味での「ハイリスク・ハイリターンの原則」が成立する、と考えるものだろう。投資の解説書などで、たとえばハイリスク・ハイリターンの原則を説明するグラフの中に、「ミドルリスク・ミドルリターン」くらいの位置に、「外債」や「外貨預金」が入っていることがしばしばある。
 為替レートの場合、年率の標準偏差で見て10%前後(円/米ドルの場合)、つまり株価指数のリスク(15%前後の数値を示すことが多い)よりも、やや小さいリスクが通常観測されるから、これを「ミドル・リスク」と称することは、そう間違っていないが、たとえば外貨預金の方が円預金よりも期待リターンが高いという意味で「ミドル・リターン」と考えることは間違いである。
 厳密には、累積経常収支の分だけ、世の中にはヘッジしきれない為替ポジション(たとえば、米国は大貿易赤字国なので、「米ドル・買い/円・売り」の為替ポジション)が存在するのだが、多くの為替取引にあっては、たとえば誰かが、百万ドルだけ米ドルを買って・円を売ると、為替市場の別の誰かが百万ドル相当の円買い・米ドル売りのポジションを持つような巨大なゼロサム・ゲームの構造になっている。
 為替取引全体、或いは資産選択全体に対して、累積経常収支はそれほど大きくないし、また、累積経常収支の赤字国通貨がプラスのリスク・プレミアムを持つとは限らない。つまり、為替リスクをとるだけで、為替リスクに見合った期待リターンがあるはずだ、という具合には仕組みが出来ていないのだ。これに対して、株式投資は、ビジネスのリスクを負担して、資本を提供する行為なので、株式の保有者の反対側に逆方向のリスクに賭けている人が居るわけではないので、投資する株価が正しければ、理屈上は、リスクに見合ったリターンが期待できる。
 別の観点で考えると、たとえば、日本から米ドル建て債券に投資している人にとって為替リスクがあるのと同様に、米国から日本円建て債券に投資している人にとっても為替リスクは存在する。「リスクに見合ったプラスのリターン」を、米ドルが円に対して持ち、同時に円が米ドルに対して持つことが不可能なことは、ちょっと考えるとお分かり頂けるだろう。円→米ドル、という投資の方向にだけプラスのリスク・プレミアムがあると考えることは、いわば天動説的な(自分中心の)錯誤と言える。
 もっとも、公的年金の運用計画などを見ると、「外国株」「外国債券」が、それぞれ「国内株」「国内債券」よりも0.5%ずつ期待リターンが高くなっている。検討プロセスに参加したある学者に理由を聞いたところ、「為替リスクがあるから、それを補う期待リターンが必要だ」という訳の分からない答えが返ってきた。彼も、多分、為替リスクの性質について誤解しているのだろうが、公的年金の運用計画のような重要な場所にまで、こうした誤解がはびこるほど、外国為替については、理解されにくいということだろう。


■フォワードの存在

 外国為替の売り買いは、売買する通貨と金額、それに受け渡しの期日で成り立っている。スポットよりも将来の時点で受け渡しが行われる契約を「フォワード(先渡し)」と呼び、この際の為替レートをフォワード・レートと呼ぶ。
 なお、スポットとは、取引日の翌々営業日の受け渡しのことを指す。通常、対円でフォワードの米ドルを買う契約は、スポットのドル買いと、スポット受け渡しのドルを売って、フォワード受け渡しのドルを買うことを同時に行う「スワップ」と呼ばれる契約の組み合わせで締結される。
 フォワード・レートとスポット・レートは、取引される二通貨のどちらで資金を借り入れて、相手通貨に交換して運用して、将来時点で元の通貨に戻して返済することで、儲けることが出来ないような関係で決定され、この関係を「金利裁定」と呼ぶ。通貨A、Bの借入金利と運用金利が共に等しいとすると、(スポット・レート)×(1+金利A×時間)=(フォワード・レート)×(1+金利B×時間)を成り立たせるように、スポット・レートとフォワード・レートの関係が決まる。たとえば、円(=通貨A)と米ドル(=通貨B)の場合、金利が1%と5%で、スポット・レートが110円であれば、1年先のフォワード・レートは約105.81円(=105.8095・・・)という具合に計算される。
 両者の関係が金利裁定で決まる水準から逸脱すると、借り入れ→通貨交換→運用→通貨交換という流れで借り入れ・運用の二つの金利と、時点が異なる通貨交換の二つのレートを同時に決めることによって、銀行は無限に儲けることができる。当然、その相手方は無限に損をすることになるから、このようなことは起こらず、金利裁定の関係が為替市場で実現する。
 たとえば、日本円の金利が1%で、米ドルの金利が5%の場合、スポット・レートが110円だと、1年後の為替レートが105.81円よりも円安になる「確率が高い」と判断すれば、円を売ってドルを買ってドルで運用すると、単純に円で運用したり、或いは円をドルに換えて運用するとしてもドルを円に戻すフォワード・レートを決めたりして運用するよりも、儲かる「確率が高い」と判断できるから、この場合には、110円というスポット・レート自体に買いが生じることになり、市場にそう判断する人が多ければ、スポット・レートがもっと円安の方向に変化することになる。逆に、将来の為替レートが105.81円よりも円高になる「確率が高い」と判断すれば、ドルを調達して、円転して、円で運用し、将来の為替レートでドルに戻すと、儲かる「確率が高い」と考えられる。
 要は、現実のスポット・レートは、このような形で、二国の金利水準を反映した形で決定されており、どちらの通貨で運用する方が有利だということが簡単には言えないような水準に為替レートは決まっている。
 大雑把に言えば、金利が高い通貨は、その分だけ将来の為替レートが低下するという期待値の下に取引されているのであって、外貨建ての金利が高いから、円換算で考えた期待リターンも高いはずだ、と考えることはできないのだ。たとえば、低金利の日本円で運用することと、高金利のニュージーランド・ドルで運用することのどちらが有利かは一概には決められないようになっているのだ。
 大袈裟に言うと、外貨預金は高金利だから、円預金以上に期待リターンが高い、と信じることは、為替市場全体に対する(いささか、無謀な)挑戦なのだ。もちろん、結果的に将来の為替レートは、フォワード・レートよりも円安にも円高にもなり得るのだが、原理原則はこういうことであり、外貨預金は、円預金と比較すると、「確実に相当程度リスクを増やすが、期待リターンが増えるとは言えない」運用対象なのである。


■外貨預金に要注意

 もちろん、通貨交換の際の手数料で、銀行が大いに儲かることは、言うまでもない。「外貨預金のオススメ」に簡単に引っ掛かってはもったいない。最近、ある機会に、金融機関の商品企画の担当者数名と意見交換したのだが、素人が買いやすいけれども最もばかばかしい商品として、外貨預金が上位に上がった(保険関係の商品を入れなければ、筆頭かも知れない)ことを申し添えておく。






最終更新日  2006年05月19日 20時01分36秒
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