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山崎元のホンネの投資教室

2006年10月06日
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■ベンチマークの役割

 前回、ポートフォリオ運用を具体的に考えるためのフレームワークとして「効用関数」を考えたが、このフレームワークを実際に使う際に、最も重要なのが、「リスクをどのように測るか」という点であり、これは「リスクを何に対して測るか」という問題だ。その、「何に」がベンチマークだ、ということになる。

 気の早い人のために、あらかじめ補足しておくと、「私は、絶対リターンを求めて運用しているので、ベンチマークなど関係ない」と言う運用者も、より大きなリターンを求め、且つ、より小さなリスクを求めている限り、実は、「現金」あるいは「リスク・フリー資産のポートフォリオ」をベンチマークにして運用している、という具合に解釈できる。あらゆる運用についていえることだが、ベンチマークを定義できないとしたら、単にその人は、運用の内容を理解していないということに過ぎない。

 先ず、典型的な機関投資家の運用を例に、ベンチマークがどのような役割を果たしているかを見てみよう。ベンチマークには、大きく分けて、三つの機能がある。

 先ず、ベンチマークは、運用の計画段階では、例えば株式に対する資産配分(アセットアロケーション)の比率を考えるために、株式市場全体のリターンに関する性質をベンチマークのリターンに関する分析に集約させる「情報集約機能」を持っている。分散投資された国内株式のポートフォリオが、どのくらいの大きさのリスクを持っているか、とか、国内債券や、外国株式など、他の資産分類(「アセット・クラス」と呼ぶ)とどのようなリターン上の相関関係を持っているか、ということを、分析するためには、例えばTOPIX(東証株価指数)のようなベンチマークのリターンデータを使って分析する。

 この場合に、実際に運用者が持つ株式ポートフォリオと分析対象になるベンチマークとが、内容的にあまりに異なっていると、分析として役に立たないことが分かるだろう。したがって、ベンチマークは、実際に行われる運用からあまりかけ離れたものであっては用をなさない。また、たとえば、年金基金と年金の運用を任されるファンドマネジャーの関係であれば、ベンチマークは、両者が株式ポートフォリオについて、だいたいこんな感じだと理解しコミュニケートする上での情報の仲介機能も持っている。

 投資信託にしても、年金の運用にしても、運用の内容を具体的に説明するためには、ベンチマークが必要だし、また、運用としてあるべき内容がきちんと分かっていれば、これを適切に表すベンチマークを作ることができる。

 次に、運用の実行段階では、ベンチマークは、これに対してリスクを測ることによって、ポートフォリオを制御する、「リスク測定の基準点」の機能を持っている。この機能のおかげで、運用計画が有効に現実の運用に反映するし、また運用評価の際に、運用者のスキルとそれ以外の要因を分離するためにも役立つ。もちろん、運用評価の際には、ベンチマークと比較することが「フェア」であるといえる。

 ファンドマネジャーの立場では、ベンチマークのパフォーマンスを上回ることができると思える何らかの情報なり判断を持っていなければ、自分が運用するポートフォリオをベンチマークに近づけることになる。

 現実の年金運用の世界でも、大きな機関投資家どうしのポートフォリオは、アクティブ運用であっても、お互いにベンチマークに近づいており、運用の委託者が何をベンチマークに指定するかは、現実の運用に大きな影響を与えている。例えば、日記平均がベンチマークであれば、ファンドマネジャーは、アドバンテストや京セラのような株価が高くて日経平均に対する影響力の大きな株式を持ちたいと思うだろうし、TOPIXがベンチマークであれば、トヨタ自動車や三菱東京UFJホールディングスのような時価総額の大きな銘柄を自分が運用するポートフォリオに持たないことには、かなりの勇気がいる。

 そして、ベンチマークは、運用パフォーマンスを測る際に、現実に運用されているポートフォリオの比較相手になる、「パフォーマンス評価の基準」の機能を持つ。例えば、株式で運用すると決められたポートフォリオを評価する際に、同じパフォーマンスを達成したのなら、株価全体が下がった時のパフォーマンスの方を、株価全体が上昇した時よりも高く評価することが自然だが、この際の比較の相手を、事前に決めておく方が、運用者にとってフェアだし、その比較の相手の決定によって、運用の委託者は、ファンドマネジャーにどのように運用して欲しいか、意図を伝えることができる。

 パフォーマンスをあるベンチマークに対して測る、ということは、ベンチマークを選択し、与えた側と、ベンチマークを与えられた側で、運用の意思決定のどの部分について責任を負うか、運用に対する責任の線引きを行うということでもある。

 例えば、資産配分レベルの責任を負う人は、資産クラス別のベンチマークをあらかじめウェイト付けした基準となるポートフォリオの配分に対して勝ち負けの責任を負えばいいし、そのポートフォリオの中で、国内株式を運用する人は、ベンチマークとして指定された、たとえばTOPIXに対する勝ち負けに関して責任を負う。或いは、国内株式の運用を複数のファンドマネジャーによって行う場合には、大型株・小型株、あるいはバリュー運用・グロース運用でベンチマークを変えて、資金を分割して、運用する、といった形で、責任を分けて分担することが可能だ。

 運用会社や年金基金のような大きな資金を複数の人間・チームで運用する組織の場合、ベンチマークの使い方は、運用プロセスの設計・管理の上で決定的に重要だ。

■ベンチマークの三条件

 ベンチマークは、具体的なポートフォリオとして定義することが必要だが、以下の三つの性質を備えていなければならない。三つの性質は、いずれも、ファンドマネジャーの立場で考えると分かりやすい。

 まず、ベンチマークは、どんな銘柄がどんなウェイトで保有されたポートフォリオなのかということが明らかな「透明性」が必要だ。採用銘柄が正確に分からなかったり、銘柄のウェイト付けが分からなかったりするようなベンチマークでは、ファンドマネジャーがこれを運用の基準にすることができない。

 次に、ベンチマークのリターンを実際にほぼ再現できる「再現性」、が必要だ。たとえば、毎日構成銘柄が変わるようなものがベンチマークになると、現実のポートフォリオがこれを正確に追いかけることは不可能だ。また、現実には投資できない銘柄が含まれる場合も不都合である。

 更に、リスク測定の基準点となって運用に大きな影響を及ぼすわけなので、ベンチマークは、それ自体がポートフォリオとして望ましい物である必要があり、いわば「規範性」を備えている必要もある。

 こうした観点から、現実に用いられているベンチマークについて評価した場合、完全に条件を満たすベンチマークはなかなか無い。

 なお、投資理論を中途半端にかじった、と思われるケースでは、「ベンチマーク」=「市場ポートフォリオ」≒「TOPIX」(日本では)といった決め方が「理論的である」、と信ずる向きがあるようだが、これは二重の間違いを犯している。

 理論としてのCAPM(資本資産価格モデル)の前提条件が現実に全くあてはまっていない以上、市場ポートフォリオが望ましいポートフォリオとしての基準になる訳ではないし、また、CAPM理論が要求する市場ポートフォリオは、投資可能な全てのリスク資産を時価総額ウェイトで保有するものなので、単に東証一部上場の株式だけをリスク資産として包含するTOPIXはこれに該当しない。






最終更新日  2006年10月10日 09時07分18秒
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