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2007年08月03日
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 前回に続いて、投資の理論について、筆者の思うところを書く。内容的には、楽天証券八周年記念講演での筆者の話の大幅な補足といった位置づけということになる。今回は、CAPMとAPTという、モダンポートフォリオ理論の代表選手とも言える二つの理論について、書いてみたい。


■その5.「CAPM(資本資産価格モデル)」

 通称「CAPM」(日本では「キャップエム」と読む人が多い)、キャピタル・アセット・プライシング・モデル(Capital Asset Pricing Model)は、主として、ウィリアム・シャープの考案によるもので、彼は、この業績によって、ノーベル経済学賞を受賞している。

 既に立派な賞をもらっているので、気兼ねなく本音を言うと、筆者のこの理論に対する評価は高くない。

 理論の結論を言葉で説明すると、以下のようなものだ。「リスク資産の期待リターンは、リスクフリーレート(無リスク資産の利回り)と、そのリスク資産の『市場ポートフォリオ』に対する感応度(相関係数。これをβ値と呼ぶ)に比例した超過リターンの合計である」。ここで、市場ポートフォリオとは、全てのリスク資産を、そのリスク資産の時価総額のウェイトで保有するポートフォリオのことだ。

 たとえば、無リスク資産の金利が1%で、市場ポートフォリオの期待超過リターンが5%の場合、β値が1.2のリスク資産の期待リターンは7%になる(1%+1.2×5%=7%)。

 この結論を導く際の主な前提条件と道筋は次のようなものだ。市場参加者が平均分散アプローチの意味で合理的で、全てのリスク資産の期待リターンと相関関係について同じ情報を持っていて効率的なポートフォリオを作るとして、全てのリスク資産の需給が均衡するように取引が行われるとすると、分散投資で低下させることの可能なリスクに対しては超過リターンが与えられず、効率的なポートフォリオでも分散不可能なリスクに対して、個々のリスク資産が限界的に与えている影響に比例した超過リターンが与えられている場合に、全体の辻褄が合う。また、この際に、資金の借り入れと運用は同金利で行うことができて、レバレッジを自由に使うことができて、且つ、取引コストと税金は無視できるとする、といった、簡単化のための仮定もある。

 この理論の現実的な教訓は、リスクのより大きな資産にはより大きな期待リターンが必要だとしても、資産のリスクに対する評価は「ポートフォリオの一部として」行うべきであって、資産単独で行うべきではないと納得的に理解できる、啓蒙性だろう。

 たとえば、一銘柄として見た場合にリスク(リターンの年率標準偏差)が30%ある銘柄が100あって、これらを一銘柄1%のウェイトで持つと全体としてリスクが15%になり、これが最もリスクとリターンの効率のいいポートフォリオなら、これらの個々の銘柄は、それぞれ15%のリスクに見合う期待リターンがあれば十分だ、ということだ。但し、ここまでは、分散投資のメリットを、個々の銘柄レベルまで分け与えて考えよう、ということだけであって、通常言われるような「分散投資」のメリットの理解を超えるような実用性があるわけではない。

 この理論が本当に有効に現実を説明していると仮定すると、実用性は、一気に拡がる。たとえば、β値が1.5と推定することができた銘柄があれば、市場ポートフォリオの期待超過リターンを5%とすると、この銘柄の期待超過リターンは7.5%になるので、これにリスクフリーレートを加えた数字がこの銘柄の期待リターンとなって、たとえば、将来の利益・キャッシュフローを予想することができると、この期待リターンでこれを割引現在価値に直すことで、現在の株価を計算することができる。この点が、CAPMが「プライシング・モデル」と名乗る所以だ。

 そこで、アナリストが分析対象銘柄の適正株価を求めたい場合、あるいは、企業買収者が、買収対象企業の同じく適正株価を計算したい場合などに、この理論を使うことになり、こうした応用例は、実務の世界で少なくない。

 この理論そのものに対する批判の前に、現実に行われることが多い応用方法を説明しよう。先ず、日本株ならTOPIX(東証株価指数)、米国株ならS&P500あたりを「市場ポートフォリオ」であると仮定して、これらに対する分析対象銘柄のβ値を、たとえば過去60カ月(5年)のリターン・データによる回帰分析で求めて、β値を計算して、さらに適当な値を市場ポートフォリオの超過リターンとして仮定して、その銘柄の期待リターン、即ち割引率を決めて、将来の財務データを予測して、適正株価を求める、というものだ。但し、β値の計算の仕方には、何種類かの方法がある。

 適正株価は、将来の利益予想によって大きく変化するが、β値及び、市場ポートフォリオの期待超過リターンによって、大きく変化することは、割引現在価値を計算したことがあれば、実感としてお分かり頂けるだろう(なお、割引現在価値というものの意味がどうしても分からない、という方は、株価の高低が納得的には理解できないことになるので、株式投資はしない方がいい)。

 読者は、この「適正株価」を信じてみよう、という気持ちが起こるだろうか。

 ちなみに、こうやって求めた適正株価は、現実の株価と比較されて、投資判断に使われることがある。筆者は、このような投資判断のプロセスを、組織で分担して、現実の株式投資に使っていた運用会社を見たことがある(国際分散投資で高名な運用会社だ)。

 だが、冷静に考えると、これは、少し奇妙な風景だ。彼らは、銘柄毎の期待リターンを求めるために、CAPMを使って適正株価を計算しているわけだが、このCAPMの導出条件の中では、市場の参加者が個別銘柄(個別のリスク資産)のリターンとリターンの相関関係を知っていてポートフォリオを構成することが前提となっている。しかし、彼らは、個々の銘柄の期待リターンをこれから求めるのだ。これは、自らが使おうとしている理論の前提条件を、自らが否定している姿だ。市場や、理論に対して、謙虚になることはいいことだし、時に必要で有益なことだが、これでは、あまりに馬鹿馬鹿しい。

 「理論」で(たいてい「最新の理論」とか「最先端の理論」と来るが)儲けるという話の中には、理論自体が不完全であるか(特定の誰かが儲けられる余地がある、という状態は理論として多くの場合不完全だ)、理論(の論理)は完全であるが使い方が間違っている話が多く、このケースは後者だ。

 筆者の結論を言うと、CAPMは、前提から結論に至る論理は完全なのだが、前提が現実とかけ離れていて、使いようがない理論だ。しかし、いったんは認められたために、これが、誤用されつつも、完全には否定されずに、「とりあえず」使える理論のような顔をして実務の世界に残っている。

 たとえば、S&P500が「市場ポートフォリオ」であると仮定して、これに対する個別の銘柄のβ値を求めるとして、理論が要求するのは、過去のβ値ではなくて、あくまでも「これからのβ値」だが、これに対する上手い求め方がないのが現状だ。

 β値の求め方で、当初一番多かったのは、過去60カ月(5年)のリターンの回帰分析で求めた値を使うものだったが、端的に言って、β値は時間の経過に対して安定していない。理論が指すβ値は、あくまでも「これから」のものであり、過去のβ値ではない。過去のβ値を将来のβ値とする方法は、役に立たないことが、分かった。60カ月以外の期間を使ったり、統計的な処理を工夫したりしてみても、大同小異であり、役に立たなかった。

 すると、たとえば、証券会社の株式のβ値は、証券会社の業績が株式市場の繁閑に大いに連動することもあって高いとか、あるいは、概して言えばPBRの高い株のβ値は高いといった、銘柄の属する業種や、一般的属性(「ファクター」と称することが多い)などを、β値の予測に役立てようとするようなアプローチが出てきた。数十のファクターで株式ポートフォリオのリスクを推定する「マルチファクター・モデル」と呼ばれるようなソフトウェアを使って、β 値を求めるアプローチも登場した。このような方法で求めたβ値を「ファンダメンタルβ」などと称することもあるが、過去のデータからの単純な推計よりも、推定精度が改善することは多かったのだが、それでも、個々の銘柄単位で、正確なβ値が求められるわけではなかった。

 但し、こうしたマルチファクター・モデルと呼ばれるソフトウェアは、株式ポートフォリオのリスクの大きさと、その性質を具体的に推定することができる道具であり、機関投資家の場合、ポートフォリオの管理及び顧客向けの報告を行う上で、ほとんど必須のツールになっている。こうしたツールを自分で使えないファンドマネジャーは、ほとんど「もぐり」と言っていいくらいのものだ。

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その5.「CAPM(資本資産価格モデル)」(2)  >>





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最終更新日  2007年08月06日 16時09分23秒
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